よこすか海軍カレー(黒)



       さて今回は、『よこすか海軍カレー』です。しかしこの商品名、全く同じものが幾つもあるので、区別が難し
      いなあ。幸いそれぞれのパッケージの色使いに特徴があるので、今回のものは『よこすか海軍カレー(黒)』
      と、当S.A.Sでは独自に呼称する事にします。
       それにしてもこのカレー、パッケージのデザインが実にカッコイイ。黒を基調としたバックには軍港横須賀
      の象徴
とでも言うべき戦艦三笠が描かれ、はためく海軍旗とともに、よこすか海軍カレーの金文字があしら
      われています。
       黒字に金という配色は、ポイントを外すといとも簡単に下品っぽくなってしまうものですが、これは絶妙です
      ね。私が高校生の時、本屋で『MASTERキートン』の第一巻を見つけた時の衝撃と感動を思い出してしま
      いました(笑)。
       スーパー価格で500円台と、なかなか強気なお値段ではありますが、その価格設定に疑問を覚えない程
      の高級感を漂わせています。写実的な戦艦三笠の描き方といい斜め後方からのアングルといい、レトロ感
      と高級感、そして横須賀という地域性もしっかりと表現した、レトルト海軍カレー界屈指のパッケージデザイ
      ン
だと言えます。

       その一方で箱の裏側には横須賀周辺の大きなエリアマップが描かれ、三浦半島に散らばる名所旧跡
      類を可愛らしいイラストで紹介しています。よく見ると私の大好きなクラゲも描かれていて、また江ノ島水族
      館に行きたくなるなあ。横須賀地方総監部防衛大学校が無いのが不満ではありますが、そもそもレジャ
      ースポットではありませんので、これは仕方ないというか当然ですね(笑)。

       箱の側面には海軍とカレーの関係や、海軍カレーの成り立ち等が簡単に紹介されています。もう少し見易
      い場所に大きく書いて欲しかった気もしますが、海軍旗の描き方がカッコイイですし、これはこれで意欲的な
      デザイン手法だと受け取るべきですね。なんというかこう、飾っておきたくなるカレーの外箱って、久しぶりに
      見た気がするなあ。スーパーの一角に海軍カレーコーナーがあったら、真っ先に目を引く事間違いなしのカ
      ッコよさを漂わせています。

       それではレトルトを温めて、試食に移りましょう。ほほう、オレンジ色というか黄色っぽい色合いの、今時め
      ずらしい昔風の面構えのカレーです。やや小さめにカットされた牛肉ジャガイモニンジンが幾つも入って
      いて、なかなかバランスの良い見た目。まずは一口頂いてみましょう。
       ほほう、これは実に正統派なレトロカレー。まず最初に感じられるのが甘酸っぱさ、そして一呼吸置いてや
      ってくる程良い辛さが、全体をキリッと引き締めています。甘味はタマネギというよりもチャツネで強調した感
      じで、大地を感じさせるぶ厚く逞しい甘味ではなく、南国っぽい軽やかな甘味ですね。明治期の海軍を志した
      若者達に共通する、海の向こうの世界への憧れが感じられます。


       今風のカレーに比べると、当然垢抜けなさの様なものはありますが、この実に正統派な味わいというか、
      ひたすらじっくりと丁寧に作り上げた感じが素晴らしい。外箱のデザインに負けない高級感、ロイヤルな雰囲
      気がたまりません。ごくごく普通のカレーを極限まで洗練させると、こんな味になりました!という感じです。
       強いて他のカレーに例えるなら、『よこすか海軍カレー(黄)』をより一層上品にして深みを出した感じ。とは
      いえ両者の価格差は倍近くありますし、単純にどちらが上か下かという判断は避けたいところ。(黄)の方は、
      あの価格であれだけ具材を充実させている、実に立派なカレーなのですから。
       この上質な味わいには驚かされますが、とは言え外箱裏側の原材料表示を見ても、これといって特別な材
      料を使っている様には見えません。
わずかに特徴的なのは、リンゴバナナ蜂蜜といった甘味系の素材を
      巧みに取り込んでいる事ぐらいでしょうか。
       甘辛酸旨のバランスが見事なレベルで保たれていて、突出した味わいというか表現のとっかかりになる部
      分がないので、この均整のとれた味わいを文章で表現するのが非常に困難なのですが、このカレーを試食
      中の私の脳内に浮かんだイメージを描くとすると・・・。

       たまたま停泊中の戦艦三笠にアポ無しで遊びに来た明治帝が、
       「わしは三笠のカレーが食べたいのじゃあ~」
       と駄々をこね、侍従と艦長は大弱り。そこにふらりと現れた上陸中だった筈の烹炊長が、これは一世一代
      の腕の見せ所
とばかりに、艦内にある材料だけで全身全霊をかけて作り上げた珠玉のライスカレー。食べ
      た明治帝は大満足。
       その味の秘密を何とか盗もうと、洗い場にある鍋の底に残っていたカレーを、こっそり指ですくって食べて
      みた若手烹炊員が、
       「艦内に残っていた材料だけで、一体どうやればこんな味が出せるんだ・・・」
       と呆然としていると、いつの間にかそばに来ていた烹炊長がニヤリと笑いながら、太い二の腕に出来た力
      こぶ
をパンと叩いて見せた・・・。
       と、こんな感じでしょうか。毎度の事ながら、非常に回りくどい描写で申し訳ありません(笑)。

       とりあえず食べた印象のままに大絶賛してしまったこのカレーですが、ただ一つ気になった点を挙げるとす
      れば、これはレトルト海軍カレーをいくつも食い散らかしてきた私の立ち位置からの感想であり、海軍にも海
      自にもあまり興味のない人からすれば、それなりに美味しいんだけどやけに高いレトルトカレーだな・・・と捉
      えられても仕方ない気がします。
       シンプルに本物を突き詰めたが故に、一周回って原点に戻ってきた様なこの味わいを、単純に500円台
      という価格に見合った価値を求めるだけの消費者に、果たして理解してもらえるのかどうか・・・。
       そういう意味では、ある程度以上の海軍レトルトカレー経験を積んだ中級者向け商品なのかもしれません。
      この素晴らしくよくできた海軍カレーを、普通のスーパーに普通に並べて、果たして正統な評価を貰えるのか
      どうか・・・
という不安が個人的にはありますね。
       より多くの人に食べてもらいたい原点の味ではありますが、むしろ対象となる消費者を狭めるというか、絞
      り込んだ方が、その真価を理解してもらえる気がするんですよね。うーん、なんか微妙に偉そうな書き方に
      なってしまった・・・。

       これといって特別な材料を使った訳でもなく、価格の割には地味と言っても過言ではないこのよこすか海軍
      カレー(黒)
。しかし未来に向けての進化ではなく、原初へと遡りながら磨き抜かれたが故の、最強のシンプ
      ル
と言える味わいでした。そういう意味では、まさによこすか海軍カレーと銘打つに相応しい、実に見事な原
      点回帰の味わい
でありました。




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