護衛艦うみぎり“じっくり煮込んだビーフカレー”


       さて今回は、リニューアル版呉海自カレー第4弾『護衛艦うみぎり“じっくり煮込んだビーフカレー”』であ
      ります。DD159護衛艦うみぎりはあさぎり型護衛艦の8番艦。DD229護衛艦あぶくまDD234護
      衛艦とね
とともに、呉基地にて護衛艦隊直轄第12護衛隊を構成しています。
       その護衛艦うみぎりですが、私個人的に妙に縁があるというか、これまで5~6回は乗艦させてもらってい
      なじみ深い艦なんですよね。そういう経緯もあって、入手して以来試食が非常に楽しみなカレーでした。
       まずはパッケージから見て行きましょう。白と黄緑を基調とした外箱正面には、凪いだ海面を静かに切り進
      む護衛艦うみぎりの画像があしらわれています。丸い煙突を挟んで配置された二基のレーダーマスト、腰高な
      後部格納庫・・・きり型も最近はご無沙汰してるなあ、としみじみ見入ってしまいます。

       箱の右上には商品番号のK-04、さらに護衛艦うみぎりの部隊章がレイアウトされていますが、ボタン電
      池みたいなサイズなのがちょっと残念。知性が高く獰猛なタイガーシャークをモチーフにしたかっこいいデザ
      インなだけに、もう少し大きいサイズでアピールしてほしいですね。
       箱裏面には海上自衛隊と呉海自カレーの説明や呉地方総監部庁舎の画像、味覚チャートと原材料表示がまと
      められています。その味覚チャートによると、うみぎりカレーはコクととろみに全振りしている模様。あえて
      甘辛酸を抑えてコク重視という事は、素材の旨味を前面に出しているのかな?果たしてどの様なお味なのかワ
      クワクしつつ、さっそく試食に移りましょう。

       おお、なるほど、こう来たか。まず最初に感じられるのは、どっしりかつ軽やかな甘ウマ風味。じんわりと
      舌に馴染むこの落ち着いた味わい・・・まさに定番の美味しさというか、久しぶりに返って来た実家のような
      安心感のある手堅いカレーです。
       個性の芯を成しているこの甘ウマですが、正体はなんなんだろう。特定の野菜やフルーツが突出している訳
      ではなく、それらと何かが組み合わさって初めて生まれるこの味わい。一見シンプルな甘ウマに見えてその実
      とても奥の深い
、明治期から始まった海軍カレーの風格すら感じさせるしっとり落ち着いた佇まいを感じます。
       その甘ウマの正体を探るべく箱裏面の原材料表示を確認しますが、甘味を構成する食材としてはタマネギ、
      ソテーオニオン、砂糖、はちみつ、りんごペースト・・・
と、特に変わったものを使っている訳ではないです
      ね。珍奇な材料に頼らず、小手先の小技にも逃げていない。それでいてこの味が出せるのですから、よほどベ
      ースとなる実力がしっかりしたカレー
なのでしょう。

       ちなみに辛さはほどほどで、上質な甘ウマを心地よく引き締める程度。全体の味わいは濃厚ながら決して重
      くなく、食べやすいのに物足りなさは微塵も感じさせない・・・非常にシンプルな個性なのに、味の分析をな
      かなか許してくれないこの感じ
。一対一の試食を行う対戦相手としては、なんとも手ごわいカレーです。
       ある意味これは、無駄なものや余計なものが全くない基本中の基本のカレーなんでしょうね。それ故に個性
      の表現のとっかかり
をなかなか見つけ出せない私としては、この複雑かつシンプルな甘ウマ風味の正体を探る
      のに四苦八苦させられます。くそう、なんてやりづらいんだ護衛艦うみぎりカレー(泣)。
       クセらしいクセが一つもないので次の一手が全く読めないというか、一口一口慎重に味わって食べている分
      こちらが後手後手に回らざるを得なくなり、気が付いたら相手のペースにはまり込んでいる状態。まるで近代
      的なトレーニングで鍛え上げられた最先端を行く総合格闘家が、聞いた事のない古流武術をやっているちっこ
      い爺さん
相手に手玉に取られているかの様です。

       ん?待てよ?武術を嗜むちっこい爺さん?これは試食中の私の脳内にふと浮かんだイメージですが、護衛艦
      うみぎりの印象としてはあながち間違ってもいない様な気がします。あさぎり型護衛艦全8隻の末っ子とは言
      え、既に艦齢30年近い老朽艦。他国海軍ではこれ位のベテラン艦が最前線にいるのは珍しくありませんが、
      現代の高度に発達した情報通信システム
に対応できる設備もなく、小さな船体には容積的な余裕もなく・・・
      さすがに今時の戦闘艦に比べると、見劣りしてしまう事は否めません。
       しかし、しかしですよ。例え古い艦であっても、やり様は必ずあるはず。このカレーが護衛艦うみぎりの個
      性を表しているとすれば、老練かつ老獪な古武術爺さんが、排水量が一回りも二回りも上の最新鋭艦を相手に
      一歩も引けを取っていない・・・
こんな感じになる気がしますね。そしてこのイメージこそがうみぎりカレー
      から伝わってくる護衛艦うみぎりの魅力であり、ロマンのような気がします。

       ちなみにDD158護衛艦うみぎりは、呉地方隊に所属する地方配備部隊の一員。状況に応じて弾力的に運
      用される機動運用部隊ではなく、四国と瀬戸内海を含めた太平洋側を防衛警備区とする固定的な沿岸防衛部隊
      の一員
であります。
       その広大な海域をDE229護衛艦あぶくま、DE234護衛艦とねの3隻でローテを組んで守っている訳
      ですが、整備補修のドック入りとその後の訓練、乗員の休養のスケジュールを考えると、3隻のうち常に海域
      の警備に出ているのはわずか1隻のみ
。僚艦と連携をとって動くのではなく、出港から入港までそれぞれが単
      艦で広大な太平洋側の安全を守っている、一匹狼的な存在だと言えるでしょう。
       たとえ体は小さく古くても、日本領海の平和を守るために今日も一人飄々と海を征く・・・これは最新最強
      の大型護衛艦がひしめき合う機動運用部隊にはない個性というか、地方配備部隊ならではの醍醐味でありファ
      ンタジー
なんだろうなあ。
       思えばこうして私が海上自衛隊のイベントに参加する様になり、かれこれもう15年が経ちました。最初は
      最新鋭艦が生まれるたびにワクワクしながらイベントで会える日を楽しみにしていたものですが、最近はこう
      いった古いベテラン艦や、海上防衛の第一線から静かに消えていく艦ばかりが気になる様になってしまいまし
      た。

       ものすごいスピードで移り変わっていく社会。速くなる一方の世間の流れから取り残されつつある自分を自
      覚する様になったからこそ、この一匹狼のベテラン爺さんみたいな護衛艦うみぎりのカレーに、憧れやシンパ
      シー
を感じてしまうのかもしれません。
       しかし、私の人生もまだまだこれから。やりたい事も沢山ありますし、まだまだ古く懐かしく居心地のいい
      場所に落ち着くには早すぎるに決まってます。ばっかやろう、人をジジイ扱いすんな!
       という訳で、結果的にうみぎりカレーに喝を入れられたというかケツをひっぱたかれた気分の私ですが、そ
      の第一歩としてそろそろガラケーやめてスマホにするか・・・。でも、それが現代社会に追いつく為の第一歩
      って、やっぱり相当ショボいんだろうな俺・・・。
       しかしなんでカレー食べながらこんなことを考えているんだ?と、少々複雑な気分になりながら、とても美
      味しい『護衛艦うみぎり“じっくり煮込んだビーフカレー”』を食べ終わりました。




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