さて、まずはСніданок(朝食)から。パッケージを開封すると、中からは大小2つの缶詰と小さなク
ッキーの袋が2つ、あと小物類が出てきました。殆どが市販品の流用らしくカラフルですが、中身が妙に汚い
なあ。
缶詰にはパン屑みたいなゴミがこびりつき、真っ白い紙ナプキンも何かを拭いたあとみたいに汚れています。
封入された食品に破損や漏れは見当たらないので、どうやら最初から汚れた状態でパッキングされた模様。
うーん、死ぬほど不味い糧食にあたっても割と平気!というよりむしろ喜んでしまう私ですが、こういうのは
ちょっと嫌・・・。『全く、日本人は細かい事にうるさいなあ・・・』と、ウクライナ製の缶詰が呆れている
様な気がしますが(笑)。
続いて内容物の検品を行いますが、あれ?昼に入っている筈の紅茶のティーバッグが、朝食パックに入って
ますけど・・・と思ったら、これがСалфетки гігієнічні вологі(ウェットティッシュ)であ
りました。なんだ紛らわしい(笑)。
ちなみにこのウクライナ製のウェットティッシュがなかなかのスグレモノで、嫌味にならない程度のとても
いい匂いがします。高めの飲食店に置いてある、高級そうなトイレットペーパーみたいな香り。
続いてはКава розчинна(コーヒー)の粉末をお湯に溶かして、Цукор(砂糖)のパックを半
分だけ入れます。うーん、これでも十分すぎる位に甘い・・・。ひと袋全部(15g!)入れたら、えらい事
になりそう。それが一食分に2袋も入っているんですから、そりゃ4000kcalを軽く越える訳です。
次はГалети 3 борошна пшеничного першого сорту(小麦粉のビスケット)。
30×25mmという記念切手サイズで、ビスケットというよりも乾パンっぽいですね。一つ口に入れてみる
と微妙に湿ったみっしりした口当たりで、乾パンらしい潔いカキカキ感はありません。なんだかおばあちゃん
家のブリキ缶の中に長い間入れっぱなしになっていた、湿気ったおかきみたいな食感。
とは言え、味は悪くないですよ。いい意味で没個性というか思考の邪魔をしない味なので、仕事しながら無
意識に口に運ぶにはぴったり。特にどうという味でもありませんが、30年位は飽きずに食べる事が出来そう
な、モビルスーツで言えば旧ザクに近い味わいがあります。
メインのКонсерви м´ ясо-рослинні Каша перлова яловиуиноюは、訳
してみると『穀物缶詰(牛肉と大麦、蕎麦の粥)』と出ました。フタをパッカンしてスプーンで突いてみると、
穀物の部分は意外と柔らかいですね。麦や蕎麦の実は、冷えても白米みたいにカチカチにはならないのか。
試しにそのまま食べてみると、ほほう、これはなかなか。しょっぱ美味いというか、普通にこのまま食べる
事が出来ます。
とは言え、この白く冷え固まった脂肪までそのまま食べる気にはなれず、中身を別皿にあけて電子レンジで
加熱。おお、やはりこれは温めた方が断然美味しいですよ!お粥ではなくはっきり言って脂煮ですが、ストレ
ートな塩味をまろやかな牛脂がやんわりと包み込んでいる感じ。
たっぷり入った大麦と蕎麦の実は独特のモチモチした触感で、牛肉のボリュームも相まって朝からかなりの
食べ応え。どっしりと重い旨味の中で、プチプチ弾ける甘皮つきの蕎麦の実がいいアクセントになってます。
それにしても、麦粥や蕎麦粥ってなんで日本では殆ど食べられないんだろう。どちらも古くから日本で栽培
されているのに。これはきっと、日本人の麺好きが原因かな?つい粉に挽いて、うどんやそばにしてしまうん
だろうなあ。
とても美味しい穀物粥ですが、半分ほど食べ進んだあたりからだんだんキツくなってきました。うーん、美
味しいんですけど、朝からこの脂っぽさと塩っぱさはなあ。さらに冷めるに従って脂のクセも気になり始め、
冷え固まっていく脂肪のねちょねちょ感もちょっと・・・。決してマズくはないのですが緩衝剤を欲しいとい
うか、熱々のこれをオカズにご飯を食べたいなあ。
気を取り直してКонсерви м´ясні(паштети печінкові)を開封。いわゆるレバーパテ
ですが、私、海外もののレバーパテって好きなんですよね。たまに前回のカザフスタン軍戦闘糧食みたいな非
常にエグいブツを引いてしまう事もありますが(笑)。
そのウクライナ軍戦闘糧食のレバーパテ。とろりとした口当たりのペースト状で、結構柔らかいんだなあ。
鶏レバーっぽい臭みが少し気になりますが、なかなかの美味ですよ。単品ではなく香味野菜と合わせれば、臭
みも気にならないと思います。
そしてこのレバーパテ、小さなビスケットとの相性が抜群ですね。甘めのコーヒーも臭み消しに一役買って、
ああ、この3品だけで十分満足のいく朝食になりそう。と、ここで気がつきましたが、このビスケットの幅が
レバーパテ缶の高さとほぼ同じなんですね。こうしてビスケットを缶の中に入れると、缶の隅にこびりついた
レバーパテを簡単にかき出す事が出来ます。なんという気の効いたサイズ!
いやあなかなかの出来でしたよ、ウクライナ軍戦闘糧食の朝食。最初は美味しかったものの、冷めるに従っ
て徐々に本性を現してきた牛肉と穀物粥のエグさにはやられましたが、これは撮影にモタついたり、考え込ん
ではメモをとったりしながら食べていた私の方に問題がありました。温かいものは温かいうちに食べるのが基
本ですからね。なるほど、さすが煮込み料理についてはひとこと言いたいウクライナらしいなあ。
それにしても、最初はやけに小さいと思っていたビスケットのサイズにちゃんと意味があったのは驚きでし
た。何もかもお見通しの金田一耕助にまたしても出し抜かれた、県警の磯川警部みたいな気分です。よし!わ
かった!と言いながら、美味しかったけどかなりヘビーな朝食を食べ終わりました。
続いてはОбід(昼食)です。見た目も大きさも朝食と殆ど変らないパッケージを開封すると、大ぶりな缶
詰とビスケットを中心とした食品類が出てきました。ん?この白いのがЧай чорний натура
льний(ナチュラルティー)かな?ティーバッグむき出しというかなり乱暴な扱いなので、乾燥剤の類か
と思ってしまいました。それ以外は15gの砂糖パック×2と紙ナプキン、ウェットティッシュ。
まずは紅茶(翻訳では黒茶)のティーバッグにお湯を注ぎ、メイン缶であるКонсерви м´ясні
(сніданки м´ясні вищого гатунку)から。翻訳すると『肉缶詰(肉、朝食用ト
ップグレード)』と出ましたが、朝食なのに昼食パックに入っているの?っていうか、朝からこの量の肉を食
べるのかウクライナの人は。すごいなあ。
まずはそのままパッカンしてみると、ほほう、たっぷりスープに浮かんだ牛肉の塊が見えますね。見たとこ
ろほぼ水煮ですが、固まった脂肪分も少なく食べ易そう。
とりあえず室温のまま食べてみますが、ほうほう、これはなかなか。言ってしまえば『ホテイの焼鳥缶塩味』
味かな?ゼラチンっぽいヌルヌル感が強いものの脂肪臭さは意外と少ないので、このまま食べる事が出来ます
が、全体の味わいはやはり牛肉のそれなので、やっぱり温めて食べた方が美味しいかも。
という訳で中身を別皿にあけて温めます。スープを少し残して缶詰に戻してみると、こんな感じになりまし
た。器から移し替える途中でちょっと牛肉の塊が崩れてしまいましたが、それでも十分なボリュームがありま
すね。まずは一口です。
おおお、やっぱりこれは温めた方が美味しい!良くも悪くも塩味だけに頼りきった味ですが、肉!塩!脂!
というシンプルかつ正攻法な味わいを感じます。ベム!ベラ!ベロ!を彷彿とさせる収まりのよさもあって、
自信に満ちた押しの強さがたまらないなあ。
このプルプルしたゼラチン質が固まった部分は、スジのあたりかな?クニクニした触感もありますが、どう
やら内臓も一緒に煮込んだみたいですね。
そしてこの強い塩味と脂肪っぽさが、素朴なビスケットと相性抜群。口の中でみしりと砕ける無愛想なビス
ケットを、濃厚な脂でやさしく包み込んでいる様です。牛缶とビスケットだけという、一見して粗末と言えな
い事もない昼食ですが、チカラのカタマリを体内に詰め込んでいる感覚がたまらないなあ。一口ごとにドスン
と胃袋に効いてくる感じです。
この個性の強い塩脂肪味に対して、砂糖ひと袋全入れ紅茶が一歩も引いていないのがお見事です。正直死ぬ
ほど甘い(通常のスティックシュガーの3~5倍量)ですが、ド迫力な牛缶の味わいを真正面から受け止める
には、これ位の甘さが無いと耐えられないでしょう。正直ここまで甘いと茶葉の質なんてまるで分からなくな
りますが、まあ見るからに安もの然とした扱いでしたし・・・(笑)。
それにしてもこの牛缶、トップグレード・・・は流石に言い過ぎな気がしますね。粗野な魅力には満ち溢れ
ていましたが、これをもって最高級というのはなあ。ありのままでも十分美味しいのに、余計な看板を背負わ
されたばかりにちぐはぐな印象になってしまっている牛缶くんが、少し可哀想な気がしました。
ちなみにウクライナで肉と言えば、殆どの場合豚肉を差すそうです。あまり流通していない牛肉に対する評
価基準が曖昧なのが、この違和感の原因かもしれません。
とは言え、塩っぱい牛肉にかぶりついては固いビスケットを脂にひたして食べ、甘い紅茶で口の中を洗い流
していると、なんだかすごくワイルドな気分。なんて言うんでしょうねえ、パワーの源を体に取り込む行為の
原点を体験している気がします。
「なんだよ!またこの牛缶かよ!」
と悪態をつきつつ車座になって、故郷に残してきた恋人の話、家族の話、あからさまに盛りまくった過去の
武勇伝、嘘くさいモテ話、アホなエロ話等で盛り上がっているウクライナ軍兵士達の、束の間の休息の様子が
脳裏に浮かびます。次の休暇では、故郷に戻ってアレをしたいコレを食べたい・・・そんな事を考えつつ、ウ
クライナの若者達は今日も軍役についているのかもしれません。
はー、食った食った。正直もう飽きた味だけど、肉と脂と塩と砂糖でとりあえずエンジンに火が入った感じ。
タバコで一服した小隊長は、おもむろに立ちあがって尻についた土をパンパンと払い落し、
「よーしお前ら、休憩は終了だ」
「ウォース」
地続きの国境というものを知らない日本のいち糧食マニアの心象風景ではありますが、きっとそんな日常の
真ん中にいるのが、このウクライナ軍戦闘糧食なんでしょうね。
ウクライナに関しての知識は殆ど無かった私ですが、そんな私の想像力を強く刺激してくれた昼食パックで
ありました。
さて、最後はВечеря(夕食)です。まずはウェットティッシュで手を拭き清めますが、あれ?朝と昼の
ものとはパッケージが違いますね。『Fry UIA』という文字の他に、航空機の尾翼が描かれています。
どうやらウクライナ・インターナショナルエアラインという航空会社のものらしいのですが、数が足りず、急
遽これで間に合わせたのかな?それとも広告?まさかな・・・。
それにしてもいい加減というかおおらかというか、これがウクライナの国民性なのかなあ・・・と思いつつ
開封すると、んんん~?ウェットティッシュらしいアルコール臭以外に、なんだか妙な匂いがしますね。雑草
をすり潰した汁みたいな・・・。ウクライナで好まれるハーブか何かのエキスが入っているのでしょうか?
気を取り直して、Консерви м´ ясо-рослинні:“Каша рисова 3
яловичиною”(穀物缶詰 牛肉と米の粥)からいってみましょう。しかしこの缶詰もクッキーだか
パンだかの屑にまみれていて、なんだかげんなりしてしまいます。朝食パック同様にクッキーの袋に破損はな
いので、これは最初から汚れた状態でパッキングされたんだろうなあ。きっと係の人が、お菓子をぼりぼり食
べながら仕事していたんでしょう。
十分に温めた缶をパッカンすると、おお、いかにも肉料理らしいいい香りが漂います。表面を埋めた肉をほ
じくるとその下には白米がぎっちりと詰まっていて、脂っぽさも水っぽさも少ない見た目は、お粥というより
も陸自の缶飯を彷彿とさせます。
さっそくひと口食べてみると、ほほう、これはなかなか。沢山入った牛肉はほろほろの口当たりで、さっぱ
りした塩コショウ味とよく合っていますね。ご飯の中にも細かい牛肉が沢山入っていて、食べ応えもかなりの
もの。塩コショウ味の牛肉大和煮缶(それは既に大和煮ではないのでは・・・)をほぐして油炒めごはんに混ぜ
たらこんな感じかな?ウクライナ風牛丼の缶詰といっても過言ではなく、やや脂臭さはありますが日本人には
馴染みやすい味かもしれません。
お米はパラついた長粒種を半割りにした状態で、温めが足りなかった所為か半茹でパスタっぽい食感。日本
のもちもちご飯やさっぱりしたお粥とは随分違う印象ですが、もしかしたら日本の『炊いた』ごはんも、ウク
ライナではお粥に分類されるものなのかも。
沢山入っている牛肉の中には、微妙にゴムっぽいクニクニした白い部分も入っていて、これは小腸かな?口
当たりのアクセントとしては面白いなあ。やや単調な味つけではありますが、陸自の缶飯よりもひと回り小さ
いサイズなので、味に飽きる前に食べ終わってしまうのが丁度いい塩梅ですね。
昼食パック同様に、むき出しで入っていたЧай чорний натуральний(ナチュラルテ
ィー)のティーバッグにお湯を注ぎます。この紅茶にはЦукор(砂糖)ではなく、Мед натурал
ьний(天然はちみつ)を入れてみましょう。
気温が低いせいか重く粘るはちみつですが、紅茶に混ぜるとなかなかイケますよ。戦闘糧食なので等級の低
いコスト最優先のはちみつと思われますが、この粗雑な味わいが安もの紅茶のどこかやさぐれた風味とマッチ
して、これはこれで美味しいなあ。香り高い高級茶葉では決して出せない、いい意味でジャンク&チープな持
ち味ですね。
またこのはちみつが、Галети 3 борошна пшеничного першого сорту(小
麦粉のビスケット)ともなかなかの好相性。口の中に広がるビスケットの粉っぽさを、はちみつの粘りがおお
らかに受け止めている感じです。
とは言えなにぶん記念切手サイズ(30×25mm)の小さなビスケットなので、上に乗せたはちみつが垂
れやすくちょっと食べづらいなあ。きっと現場の兵隊さん達は、ビスケットを食べつつパッケージから直接は
ちみつをチューチュー吸っているのでしょう。私としてははちみつ入りの甘い紅茶で素のままのビスケットを
齧るのがお勧めですね。これだけで延々と食べ続けてしまいそうな、相性の良さが気に入りました。
夕食としてはやや量が控えめでしたが、本来は朝昼をしっかり摂って、夕食はこれぐらい軽めにした方がい
いんでしょうね。とは言え2袋ずつ入っていたビスケットは固く噛み応え十分なので、食べた量以上の満足感
を得る事が出来ました。
以上、朝昼夕の3食を食べ終えた印象としては、飾り気はなく素材重視、そしてシンプル&質素。しかし十
分力強く無骨な個性を持った、なかなかいい糧食だったと思います。ポーランド軍戦闘糧食に近い好ましい無
愛想さを感じました。
結構な肉気と脂っ気は、さすが4000kcalオーバーの重量級糧食という気がしましたが、結局砂糖パ
ックを3つ、あとはちみつは1つ残しました。概ねお金持ち先進国の戦闘糧食ほど品目が多くデザートの類も
充実し、お財布の厳しい国はストレートな脂肪分や砂糖でカロリーをかせぐ傾向にありますが、やはりウクラ
イナの厳しい経済状況ではこうせざるを得ないんだろうなあ。
そう考えてみると、自衛隊の糧食には砂糖もデザートも殆ど無いんですよねえ。そもそも粉末飲料が含まれ
ていない事や、一応お金持ちの先進国なのに防衛費が異様に厳しいという立ち位置の微妙さも考慮する必要が
ありますが、見方を変えればそれだけ白米のエネルギー効率がいいんだろうなあ。あ、いや、自衛隊には戦闘
プリンや戦闘ピ☆がありましたっけ(笑)。
資料として保管する為に、空になった缶や食品パッケージをキレイに洗おうとして気づいたのですが、ん?
なんだこりゃ?よく見ると缶内側の隅の方に、何か黒いものがひっついています。恐る恐る触ってみると妙に
ネトネトした気持ちの悪い粘液で、まるで脂で溶いた墨の様。これはどう見ても食材ではなさそうなんですけ
ど・・・。
そう言えば、粥の中に黒いつぶつぶが幾つも入っていましたね。てっきり粗引きの黒コショウかなにかと思
っていましたが、もしかしてコレだったの?えええええ、全部食べてしまいましたよ私(泣)。
途端に胃袋から湧き上がってくる、得体の知れない不快感。なんというか、喉が渇いていたので水筒の水を
一気飲みしたら、水と一緒に明らかに液体ではない物体が喉の奥を通って行った様な感じ。何を飲んでしまっ
たのか見当もつきませんが、なんだか細い脚が何本ももぞもぞと動いていた感触が喉の奥にはっきりと残って
いる様な・・・。うあああああ、こういうオチをつけるのはやめろよ(泣)!!←でもちょっと嬉しそう
後でお腹が痛くなったらどうしよう・・・と怯えつつしばらく過ごしましたが、幸い何事もなくこうしてネ
タとして糧食レポを上げております(笑)。全く食品クズまみれの缶詰といい汚れた紙ナプキンといい、ちょ
っと雑すぎやしませんかねウクライナの人・・・。
食文化とはその国に暮らす人達の個性を如実に表すものと言えますが、そこに戦闘糧食というひとつの枠を
設定する事により、その個性がより一層はっきりと見えてくる・・・というのが、これまで幾つかの国の戦闘
糧食を食べて来た私の見解でありますが、この良くも悪くも大ざっぱなところが、ウクライナの個性なのかな
あ。
こんな事を書いたらウクライナの人に怒られないだろうか・・・と大いに悩みつつ、スリルとサスペンスに
溢れた試食を終えました。
トップページに戻る
戦闘糧食試食レポート目次に戻る
|