補給艦とわだ“甘くコクのあるスパイシービーフカレー”
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さて今回は、リニューアル版呉海自カレーシリーズ第10弾『補給艦とわだ“甘くコクのあるスパイシービ
ーフカレー”』です。AOE422補給艦とわだの説明についてはリニューアル前のとわだカレーのレポをご
参照頂くとして、まずはパッケージから見て行きましょう。
正面には白波を蹴立てて航行する補給艦とわだの巨大な雄姿がレイアウトされていますが、左舷舷側に取
りつけられた防舷物を見るに、どうやら洋上補給作業の前後に撮影された模様です。
二隻の船が速度を合わせて真っすぐ航行すればいいだけに思えますが、流体の中を二つの物体が並行して
進むとお互いに引き寄せ合う力が発生する為、簡単な様に見えてこれはかなりの危険が伴う作業。相手との
距離を一定に保つために常に舵を微調整し、何時間にもわたる危険な補給作業をこなすには、相当な体力と
集中力が不可欠。現場にみなぎる緊張感が伝わってくるいい画像ですね。
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箱裏面には海上自衛隊と呉海自カレーの成り立ちや味覚チャート、調理方法、原材料表示がまとめられて
いますが、呉市内の飲食店で提供されているとわだカレーの画像がリニューアル前のものと一緒ですね。珍
しく和風の食器が使われていたので、とても印象に残っていました。
ちなみに箱表側の色使いですが、今回のとわだカレーは白地に黄緑色が採用されました。とわだが補給し
てくれる新鮮な生野菜を思わせる色合いで、なんだか安心感がありますね。もしかしてデザイナーさんはそ
の辺の特色も考慮したのかな?だとしたらかなりの腕前と言わざるを得ません。
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さて前置きはこれ位にして、十分に温めたレトルトを開封して試食に移ります。おや?見た目が随分黄色
っぽいカレーだなあ。以前のものはもっとダークブラウンがかっていた気がしますが、箱裏画像は同じでも
中身は前回と全く異なるカレーの様です。
一口食べてみると、ほほう、なるほどこう来たか・・・黄色っぽい見た目に相応しい、今時珍しい実にレ
トロなカレーです。これは少なくとも平成の味わいではありませんね。それこそ昭和後期、いや中期あたり
の昔懐かしい味わいでしょうか。
具は煮崩れたほろほろの牛肉と、乱切りのニンジンとジャガイモがごろころ。この伝統的な顔ぶれも、古
き良き時代を感じさせるこのカレーに相応しい役者陣と言えるでしょう。
それにしてもこの、小さい頃に食べたすごく美味しいカレーに数十年ぶりに出会えた様な嬉しさ・・・な
んだろう、どこでこの味に出会ったんだっけ・・・あ、そうそう!昔の国鉄時代の特急の食堂車で食べた、
やけに高かったカレー!あのイメージに近い気がします。今時の若い人には意味不明だと思いますが、私レ
ベルのおっさん世代なら、黙って静かにうなずいて頂けると思います(笑)。
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極端に辛い訳でもなく、濃厚すぎず薄すぎず。味わいの邪魔になる余計なとっかかりは何もなく、するす
ると喉の奥へと消えていく滑らかなこの味わい・・・まるで甲板のエレベーターからベルトコンベアーを経
由して、艦内へと流れる様に搬入される補給物資を思わせます。
一見して古風でありながら、一切の無駄のない流水の如きこの佇まい。これこそが究極の洋上補給システ
ムとして完成された補給艦とわだの真骨頂なんですね・・・と思いましたが、うーん、さすがにそれはちょ
っと安直すぎるこじつけな気がするなあ。
ここで一点気になったのが、リニューアルを経て新しく生まれ変わったはずのとわだカレーが、何故こう
もレトロテイストに走ってしまったかという問題です。リニューアル前の、あの第一海上補給隊を統べる司
令を彷彿とさせたカレーから方針転換を図るなら、むしろ若々しい曹士や若手幹部にスポットライトを当て
るべきでは?そこをあえて高級幹部路線でいくとしても、さすがにこのレトロっぷりは遡り過ぎというか、
匙加減を間違えた感が否めません。
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それとももしかして、私はこのカレーが表現しようとしているもっと大きな何かを見落としているんだろ
うか。今一度目をつぶり舌先に神経を集中させながら、じっくりと一口分のカレーを舌の上で転がします。
そこに浮かんできたイメージの断片をかき集めていくと・・・。
定年での退官を間近に控えた第一海上補給隊司令の最後の航海。座乗艦として選ばれたのは、呉基地所属
の補給艦とわだです。明日の横須賀基地入港を前にして、金曜のお昼に提供された補給艦とわだカレー。給
養室の給養員一同は、司令の為に前日から気合を入れてカレー作りに臨みました。
司令のこれまで数十年間にわたった自衛官生活。苦い思いを抱きながら食べたカレーもあれば、心地よい
達成感とともに味わったカレーもありました。そんな海の上で食べるカレーも、今日がいよいよ最後です。
「とわだのカレーは隊でも群を抜いて美味しいからな。最後がこの艦でツイてたよ(笑)。さて、それで
は頂こうか」
そして一口食べた司令はある事に気づきます。
「あれ?いつものとわだの味と違う・・・?」
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同様に、一口食べてその違和感にざわつく幹部達。
「なんでいつものカレーじゃないんだ?」
「美味しい事は美味しいけど、司令の最後のカレーなのに、なんでこんな古臭い味に・・・?」
「あの腕利き給養員長が、こんな大一番でミスするなんてなぁ」
「司令、がっかりしちゃうんじゃ・・・」
心配そうな面持ちで、司令の顔色を伺う幹部達。しかし、このレトロで古臭いカレーは、司令にとって実
は特別なカレー。そう、司令が新米3等海尉として任官したころに海自で出されていた、原点中の原点とい
うべき当時のカレーだったのです!
給養員達の粋な計らいに気づき、思わず頬を緩める司令。一口噛み締めるごとに、忘れかけていた若き日
の思い出が次々と蘇ります。苦い思い出、つらい思い出、そして初めて一人前の幹部として認めてもらえた
時の思い出・・・。
そんな司令の最後の花道を飾るべく、恐らく給養員長以下給養員一同は貴重な上陸時間を割いて、当時の
レシピを再現しようとしたのでしょう。退官したOB給養員を訪ねて話を聞き、文献を漁り、全員で何度も
何度も試作を重ねてようやく辿り着いたこの味わい・・・。
「ありがとう、本当に美味しかったと伝えてくれ」
まさか、まさか最後の最後にこの味にまた出会えるとは!
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・・・とまあ、例によってこれは私の脳内で一方的に展開された妄想ではありますが、改めて艦艇乗組み
の給養員の仕事の大切さを思い知らされた気分です。よくよく考えてみれば、海上自衛隊で給養員ほど独自
の発想力と創造性で勝負できる職種もない気がします。
もちろん毎食ごとにたたき台となる栄養士監修のレシピはありますが、そもそも最初から正解などない世
界で限られた時間と素材をやりくりしてアドリブを効かせ、そこからどれだけ自分の個性を表現できるかは、
彼等一人一人の腕一本にかかっているのですから。
このとわだカレーの主役は、リニューアル前から引き続き補給隊の司令だと思っていましたが、どうやら
それは間違いだった模様。勇退する司令を最高のカレーで送り出そうとした給養員。彼等こそがこのカレー
の本当の主役だと言えるでしょう。
ミサイルを撃つ人、ヘリを飛ばす人、エンジンを動かす人、レーダーを扱う人・・・その他にも、海自艦
艇には驚くほど沢山の仕事を担当する隊員さんがいる訳ですが、今回は給養員という仕事の凄さ、素晴らし
さ、難しさ、厳しさ、そしてなによりもやり甲斐について改めて考えさせられた『補給艦とわだ“甘くコクの
あるスパイシービーフカレー”』でありました。
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