鶏肉と大豆煮
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さて今回は、自衛隊非常用糧食『鶏肉と大豆煮』です。え?そんなメニューあったっけ?と驚いてしまった
のですが、いつの間にかU型改善版のメニュー改定が行われていた模様です。果たして何種類のメニューが増
えたのか、入替えで廃止になったメニューがあるのか等々、現時点では全く不明なのですが、今回入手できた
いくつかのメニューの納入年が2012年である事を考えると、遅くとも2012年の段階で調達が始まって
いた模様です。
重さもサイズも従来のU型改善版と殆ど変りませんが、よく見るとパッケージに印刷された表示にいくつか
の相違点が見られます。まず名称が従来の『戦闘糧食U型』から、『非常用糧食』に変更になっています。ま
あ非常用糧食でも全く問題ありませんが、なんで戦闘糧食じゃダメだったんだろう。今後発生が予想される大
規模災害で、被災者に配る事を考慮しての変更なのでしょうか。
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また従来のU型改善版では主食のごはん2パックと副食のおかず1〜2パック、あとスプーンで構成されて
いましたが、今回からはトレイが追加された模様。おそらく使い捨ての紙皿みたいなものと思われますが、必
要なのかなあ、トレイ。現場の隊員さんからのリクエストがあったのでしょうか。
更によく見ると、賞味期限も従来の納入(製造)後1年から3年へと大幅に延伸されています。という事は、
米軍の様に堅くて頑丈なレトルトを使用しているのかな?様々な謎をはらんだ新メニューですが、とりあえず
パッケージを開封して中身を確認してみましょう。
≪後日補足≫
この非常用糧食は包装材の改良で賞味期限が3年に伸びた事により、運用上はU型ではなくT型に
分類されている模様です。全20種類のメニューが設定されましたが、U型無印版以来の復帰メニューや
U型改善版から引き継がれたメニュー、そして今回から採用された新メニューが入り混じり、
1990年からスタートしたU型戦闘糧食の集大成とも言える非常用糧食が、従来のT型と統合した形に
なっている様です。今回詳しい情報を寄せて頂いた閲覧者の方、誠にありがとうございました!
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あれ?主食のごはんが、2世代前のU型無印版の様な平べったいパック式に戻っていますよ。えええええ?
何で?U型改善版から導入されたトレイ方式のお陰でご飯自体の食味が大幅に向上し、現場でもかなり評価が
高かったと聞いているのですが、何故いまさら元に戻してしまったんでしょう。あの特殊な包装樹脂臭と、べ
たべたとひっついて食べづらい事この上なかったU型無印版のパック白飯を思い出してしまいました。
あとこの、四角いのがトレイですね。200×170×30mmと、小ぶりのコンビニ弁当位の大きさです。
うーん、確かにあれば便利ですが、主食をパック方式に戻したせいで新たにトレイが必要になったのなら、な
んだか随分とちぐはぐな気がします。コスト的にこちらの方が安上がりだったのかな?
とにかく主食と副食を温めて、さっそく試食に移りましょう。
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火傷に気をつけながら、熱々の白飯のレトルトを開封。あれ?意外にも白米がスムーズに出てきます。前の
樹脂包装のパック飯では白ご飯がパックの内側に強固にへばりつき、苦労して全部かき出した頃には熱々だっ
たご飯がとっくに冷めていて、非常にテンションが下がったものですが・・・。
よく見ると新しいレトルトパックの裏面は、まるでテフロンコーティングのフライパンの如きサラサラ加工
になっていました。それでもいくらかは白米がひっついていますが、以前のパック飯に比べると格段にかき出
しやすくなっています。なるほど、形状だけを元に戻した訳ではなく、ちゃんと欠点も克服しているんですね。
白飯の食味に関してはU型改善版のトレーご飯と遜色ない出来栄えです。
もう一方の主食は山菜飯でした。うん、こちらもスムーズに出てきますね。味はU型無印版や改善版の山菜
飯を踏襲したあっさり醤油味。入っている山菜はワラビ、タケノコ、ニンジン、シイタケですが、このワラビ
が細切れにした黒ビニテみたいな食感で、否が応にも陸自らしい味わいを醸し出しているのが面白い(笑)。
山菜らしい味わいは殆ど残っていませんが、僅かながらも繊維質は取れそう。
そしてこの、茶色く変色したセロハンテープみたいなのがタケノコでしょうか。向うがうっすらと透けて見
えそうなレベルで、こんなタケノコは初めて見ました(笑)。
主にもち米を使用している所為か、食べごたえはかなりのもので腹もちもよさそう。3年もつ保存食でこれ
だけの味が出せれば上等でしょうね。
さて、いよいよメインの鶏肉と大豆煮です。パッケージを開封すると、大量の鶏肉と大豆がどばっと出てき
ました。まずは一口。
おおお、これは美味い!見た目通りのあっさりした甘辛醤油味で、市販の煮豆の様なべったりした甘さでは
なくとても食べやすいなあ。さらりとしているのに物足りなさを感じさせない絶妙な味加減で、舌で押し潰せ
るほど柔らかく炊いた大豆と鶏肉の食べ応えも十分。これぞ正しいニッポンのお惣菜!という感じです。
他にも乱切りのニンジンやコンニャク、シイタケ、昆布など具材も豊富で、見た目も味わいも実に素晴らし
い一品。油揚げも入っている様ですが、ぱっと見では鶏肉に紛れ込んでしまって、ちょっと確認しづらいです
ね。
大ぶりのニンジンは鶏肉と昆布のダシを存分に吸い込みつつも、ほっくりと甘い自身の持ち味を十分に保っ
ていて、全体に漂うハイレベルな煮物力をがっしりと下支えしています。いやこれ、ほんと美味しいです。
白飯や山菜飯との相性もばっちりですし、こんな美味い煮豆を戦闘糧食で出されたら隊員さんの奥さんは大
変ですね(笑)。
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いやむしろ、手間がかかって面倒くさい割に地味な煮豆を職場で出してくれるのは、現代の忙しい奥さんに
とっては有難い話なのかもしれません。健康にいいのは分かっていても子供は喜ばないし、食卓のメインを張
れる華やかさに欠けるので結局もう一品用意しないといけないし、ダンナは作ってくれと言った癖に翌日には
もう食べなくなるし、家庭ではどうにも作りづらいメニューですからねえ。
あと、今回は折角トレイが封入されていたので、お洒落カフェのワンプレートランチっぽくしてみましたが、
正直微妙な見た目・・・だなあ。これをお洒落カフェ風ととるかコンビニ弁当風ととるか、路上生活者の方々
の残飯風ととるかは、ご覧になる方のセンスにお任せしたいと思います(笑)。
ただ、従来の様にレトルトに直接スプーンを突っ込んで食べる方式より、こちらの方が格段に美味しそうに
見える事は確かでしょう。過大な精神的負担を強いられる国防の現場にあって、唯一ひと息つけるのが食事時
です。そんな時ぐらい、ちょっとでも美味しそうに食べたっていいじゃないですか。そういう意味では、これ
まで隠し持っていた戦闘糧食のポテンシャルをさらに引き出した感のあるトレイ導入だと言えるでしょう。
試食前は正直不安な気もしないではなかった新メニューですが、それを見事に吹き飛ばしてくれた内容でし
た。鶏肉も大豆もボリュームたっぷりで、U型改善版の副食でしばしば見られた、水分だけがやたら多く具材
の少ない物足りなさも、まるで感じられませんでした。
良くも悪くもレトルト食品らしい風味のU型改善版に対して、今回の非常用糧食は地元の美味しいお惣菜屋
さんの人気メニューをそのまんまパッキングしたような味わいでしたね。
この鶏肉と大豆煮の他に、果たしてどのような新メニューが私を待ちかまえているのか。食欲と好奇心と想
像力をかき立てる、非常に優れた一品でありました。
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