タイ王国軍戦闘糧食
นืัอกระททียพริกไทย


       さて今回は久々の大物、タイ王国軍戦闘糧食『นืัอกระททียพริกไทยです。タイはインドシナ半
      島とマレー半島にまたがる立憲君主制国家で、豊富な天然資源高い工業力を生かし、近年著しい経済成長
      遂げている事で知られています。
       
台風や洪水等の大規模災害に度々襲われたり、政治的な混乱から頻発する反政府デモ等のマイナス要因もあ
      りますが、マイペンライ(気にするな、大丈夫)という言葉に代表される明るく楽天的で程良くいい加減な国
      民性
のお陰もあり、近年は農作物や海産物の輸出分野でも世界的に存在感を増している国でもあります。
       タイ王国軍に関しては陸海空合わせて30万人。徴兵制を敷いている事もありますが、我が国の自衛隊より
      も大規模なんですね。またタイ軍は自衛隊とも長年深い友好関係にあり、これまで何人ものタイ軍軍人留学
      生
として防衛大学校に受け入れたり、海自の遠洋航海ではバンコクに入港するたびに大歓迎してもらったりし
      ています。
       ちなみに2013年11月に行われた自衛隊音楽祭では、王国陸軍音楽隊がはるばるタイからやってきて、
      見事な演奏を披露してイベントに華を添えてくれたとの事。
       アジアンテイストの代表格ともいえるタイ料理に関しては世界中にファンが多く、中国料理の影響を受けた
      甘・辛・酸の刺激的で官能的な風味
が、日本でも高い人気を誇っています。かく言う私もタイ料理が大好きで、
      仕事場近くのタイ料理食材専門店に立ち寄っては色々と物色し、ガイ・パッ・バイカパオ(鶏肉のバジル炒め)
      や
ヤム・ウン・セン(タイ風春雨サラダ)、ゲーン・キョワーン(グリーンカレー)などを作っては、チャー
      ンビール
を飲んで悦に入ったりしています。
       そういう意味では、長年憧れ続けた末にようやく入手できたタイ王国軍戦闘糧食。試食にあたっての気合い
      
の入り様も、おのずと違ってくるというものです。


       まずはパッケージから見てみましょう。OD色・・・というより薄いモスグリーンの樹脂製パッケージは薄
      手ながらも頑丈な造りで、この辺りは高温多湿なタイでの長期保存に十分対応していると言えますね。
       表面にはたくさんのシャム文字がちりばめられ、英語表記は一つも無し。お陰で何が書いてあるのか何が入
      っているのかさっぱり見当がつきません
。近頃は中国軍戦闘糧食にまで英語表記が混じっているというご時世
      ですが、このあたりは王国としての長い歴史を持つタイのプライドが感じられます。
       とりあえずシャム文字一覧表翻訳サイトを駆使して、一行一行の説明書きを翻訳して行きますが、どうし
      ても意味が分からない所は件のタイ料理食材専門店に駆け込んで、タイ人の店員さんに泣きついて教えてもら
      いました。
       とは言えその女性も日本語はカタコトですし、戦闘糧食を見せても「なんじゃこりゃ?」という反応。まあ、
      普通はそうだろうなあ。このコンイープン(日本人)は一体何でこんなものを・・・という訝しげな眼差し
      曖昧な笑顔で受け流しつつ、どうにかこうにか下調べ終了。
       あと、メニュー名と思われるนืัอกระททียพริกไทยですが、直訳すると『牛肉・にんにく・コ
      ショウ』
となりました。コショウというのは、赤唐辛子の事かな?どちらも英語ではPepperなのですが、その
      辺の内容も気になりますね。


       ちなみに賞味期限は3年前に切れている模様ですが、これまで期限切れの得体の知れない海外の戦闘糧食
      幾つも幾つも食い散らかしてきた私です。体調を崩したのはせいぜい3回位だったので、今回もたぶん大丈夫
      でしょう!心配そうな顔をした店員さんに「マイペンライ!」と言い放ち(笑われました)、さあ試食です。
       ちなみに今回は、折角手に入れた念願のタイ王国軍戦闘糧食なのでできるだけ厳しい条件下で食べてみたい
      と阿呆な事を思いつき、12月末の大和川河川敷にて試食を行いました。お昼時にもかかわらず、当日の外気
      温はわずか5℃。だだっ広い河川敷には寒風が吹きすさび、風速が1m/秒増すごとに体感温度は1℃下がる
      と言われているので、これはどう見ても氷点下。コンディション的に悲惨すぎて言う事なしであります(笑)。





【内容】
1:ข้าวสวยหอมมะลิ (ジャスミン米)
2:เนื้อกระเทียมพริกไทย (牛肉とニンニクと唐辛子)
3:ナンプラー   4:チョコウエハース

5:荒挽き唐辛子   6:レンゲ







       パッケージの中からは、大小2つのレトルトパック調味料の小袋が2つ、あとデザートらしきお菓子
      らぺらの透明樹脂製レンゲ
が出てきました。まずはこの2つのレトルトを市販のモーリアンヒートパックで温
      めます。
       晴れてはいますが凍える様な寒空の下、水を注いだ加熱剤は一気に反応開始。派手に蒸気を吹き上げつつ沸
      騰している様子が頼もしいなあ。そして15分ほどで加熱は終了。先程までは冷え切っていたレトルトが、す
      っかり熱々になってます。


       まずは大きい方の、ข้าวสวยหอมมะล(カウ・ホ・マリ:タイのジャスミン米)を開封です。紙皿
      にあけると、真っ白な長粒米がどさっと出てきました。量は300g、市販のパックご飯1.5個ぶんですね。
      少し食べてみると、うーん・・・パサパサのポロポロ。我が国の誇るコシヒカリの様な粘りのある甘味を期待
      していた訳ではありませんが、なんか蝋で出来た食品サンプルみたい
       これはタイ米の質がどうこうというよりも、単にしっかり温まり切っていないだけかなあ。市販の加熱剤よ
      りも強力な、自衛隊のヒートパックを持って来るべきだったか・・・。


       続いては小さい方のレトルト、เนื้อกระเทียมพริกไทย (ヌァ・カティ・アム:牛肉とニンニクと
      唐辛子)
。どんなものが出て来るのかとワクワクしつつ開封すると、まるで倒れたフラスコから出て来たばか
      りの妖怪人間ベムみたいなドロドロした液体
が出て参りました。よく見るとその中には牛肉らしい破片がいく
      つか混じっています。そして液状成分の半分以上が脂肪分で、スープの表面を分厚いガラス板の如く覆ってい
      るのが確認できます。
       えー、これがメインのおかずなの?殆どスープなんですけど・・・。非常に残念な見た目のメインディッシ
      ュ
ですが、それでもこれぞタイ料理!としか言いようがない、なんとも美味しそうな香りが漂っていますね。
       さっそく一口食べてみると、おお、これは美味い!ナンプラー(タイの魚醤)とオイスターソースを混ぜた
      様な、実に東南アジアチックな味付け。どことなく醤油に似た香りもあり、日本人の舌にも馴染みやすい風味
      です。


       ニンニクはそれほどキツくなく、口の中でほのかに香る程度。胡椒の香りも唐辛子の辛さも殆ど感じられず、
      むしろ分厚く層を成している動物性脂肪のまろやかさが際立ちます。
       いやこれ、ほんと美味しいです。タイ料理贔屓な私ではありますが、これは殆どの日本人が「美味しい!」
      と感じる味
なんじゃないかなあ。正直誰かの食べ残しの汁を貰っておかずにしているみたいな、かなり貧相に
      見える食事ですが、これだけ脂肪分があれば当座の行動に必要なカロリーは十分賄えるでしょう。


       しかしこれ、食べていると口の周りがヌルヌルになりますね。けた外れの量の脂肪です。あ、そうだ!この
      脂肪ぬるぬるのヌァ・カティ・アムを、パサついたカウ・ホ・マリにぶっかけたら食べやすくなるのでは?

      いでに付属のナンプラー荒挽き唐辛子を足して、どんぶり風にしてみました。
       おおお、めちゃくちゃ美味しい!動物性脂肪の滑らかさがパラパラしたタイ米をぬるりと包み込み、ナンプ
      ラー独特の芳香と突き抜ける様な塩っぱさがいいアクセントになっています。そしてこの、少量でも強烈な辛
      味を誇る荒挽き唐辛子
。これはタイ料理最強と外国人旅行者から恐れられる、あのプリッキー・ヌゥですね!
       まずは様子見で半分だけ入れてみたのですが、辛いものには大概慣れている私でも息がとまるほどの辛さ。
      
これ、全部入れてたらえらい事になってたな・・・。体感温度0℃以下という過酷な状況での試食ですが、額
      の生え際にじわっと汗が浮く程であります。
       ちなみにこのプリッキー・ヌゥ、直訳すると“ネズミのう〇こ”。名前の通り小さな可愛らしい唐辛子ですが、
      その凶暴さは折り紙つきです(笑)。ハバネロとタメを張れるんじゃないかなあ。


       胃袋は熱く燃え上がり、額に浮いた汗を拭きながらハフハフとかき込んでいきますが、そうしている間にも
      お米に纏わりついた脂肪分が冷えて固まり始め、
まるでかき氷丼みたいになってきました。レンゲの凹んだ部
      分もあっという間に脂肪で埋まってしまい、食べづらい事この上なし。
       というか、途中からはさらに風が強くなり、この極限状況下でカロリーを摂取する事だけで精一杯・・・
      いう情けない状態になってしまい、正直味わって食べる余裕がありませんでした。うーん、せっかく手に入れ
      たタイ王国軍戦闘糧食なのに、これはちょっと勿体ない食べ方だったかなあ・・・。


       よく考えると、そもそもタイ軍はこんな寒冷な環境下で食べる事を想定していない気がします。出来るだけ
      過酷な状況でその実力の程を見極めたいと、朝から40㎞自転車で移動して(山間部含む)吹きっさらしの河
      川敷を試食の場に選んだ
のですが、むしろ真夏のジャングルの様な環境で試食した方が、タイ王国軍戦闘糧食
      の真価を発揮出来た気がするなあ・・・。
       最後は封入されていたお菓子を頂きます。パッケージを開封すると、チョコでコーティングされたウエハー
      ス
が2つ出てきましたが、賞味期限3年オーバーなのにきれいな状態で、ウエハースはぱりぱりの口当たり。
      マイルドなミルクチョコは甘さほどほどで、想像以上に日本人の舌に馴染む味わいでした。普段甘いのヤダ
      ー
とか言ってるくせに、ここまで状況的に追いつめられるとカロリーなら何でもいいというか、やっぱり甘い
      お菓子って美味しいなあ
とか思ってしまいます(笑)。


       最後はかじかんで感覚が無くなりつつある指先で後片付けを済ませ、震えながら荷物をまとめて大和川河川
      敷を撤収。さらに20㎞の道のりを走破して、ほうほうの体で自宅に帰りつきました。
       いやあ、期待を裏切らない素晴らしい美味しさでしたね、タイ王国軍戦闘糧食。しかし、普通に部屋で食べ
      たらもっと美味しかった気がするなあ・・・。その辺りはずいぶん勿体ない事をしましたが、今回はたまたま
      もう一つ別のメニューを入手できたので、こちらはもう少し気温が上がってから、タイ王国軍戦闘糧食に相応
      しい環境
を整えて試食したいと思いました。




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