台湾軍戦闘糧食 軍用野戰口糧 A式・Ⅽ式



       さて今回は、台湾軍戦闘糧食『軍用野戰口糧 A式』であります。素っ気ないOD色のパッケージには沢山
      の漢字が印刷されていて、すごくストイックと言うかマッチョな雰囲気を醸し出しています。が、実際に手に
      取ってみると何だかやけに軽いのには拍子抜け。包装はどこかに引っかけると簡単に破れそうなほど薄っぺら
      く、振るとカサカサと音をたてる中身と相まって随分頼りなさそうな印象です。
       ここで台湾軍について簡単に説明です。軍事的な戦力は陸海空合わせて約30万人と、周辺国家に比べてさ
      ほど大規模なものではありませんが、米国から輸入された近代的な装備が多く、それなりの体裁は十分に整っ
      ている
模様です。中国軍による海岸線からの上陸と、弾道ミサイル攻撃への対処防衛が主な目的で、他国への
      侵略の意図が見られないと言う点からも、我が国の自衛隊と多くの共通点を見出す事が出来ますね。
       食文化に関しては、もともとの台湾土着の郷土料理に加えて中国福建料理の影響が大きく、そこに太平洋戦
      争当時の名残である日本料理のテイストも混じる・・・という、非常に洗練されたハイブリッドなスタイル
      特徴です。

       高級店から市場の屋台まで含めて料理人のレベルはかなり高く、台湾を訪れる外国人旅行者の食事に対する
      期待が非常に大きいことからも、そのスタンダードの高さが伺えます。
       また先の東日本大震災では、台湾の方々から莫大な義捐金が寄せられた事も記憶に新しいですね。領海や漁
      業権の問題で少々揉める事もありますが、それでも日本にとっては、何かあった時には親身になって心配して
      くれるとても有り難いお隣さん・・・
という位置づけであると言えます。


       しかしこの、軍用野戰口糧、という名前が実にカッコイイですね。不思議な制約があって軍を名乗れない日
      本としては、ちょっと羨ましい気がします。正面には『國防部聯合後勤司令部補給處 委製』『欣欣生技食品
      股份有限公司 承製』
と書いてありますが、台湾語が分からなくても何となく意味が分かるのが、漢字文化圏
      の便利な所です。
       しかしこの、きんきんなまわざしょくひんまたわけゆうげんこうしというのは製造元なのでしょうか。迂闊
      につぶやくと魔法少女に変身してしまいそうで注意が必要です。


       他には賞味期限や各食品の重量、栄養表示(ちなみにひとパックで1040kcal)、食べ方の説明、製造元
      の所在連絡先などがきちんと記載されていました。
       まずはパッケージを開封して中身を確認です。中からはやけにペラいプラスチックトレーに収められたビス
      ケットと、小さな袋が出て来ました。小袋はどれも赤や黄色、緑の原色が実にカラフルで、見ていると目がチ
      カチカしてきます。このあたりはイカニモな中国文化圏の製品ですね。民生品を寄せ集めたのかと思いました
      が、製造元は全部きんきんなまわざしょくひんまたわけゆうげんこうし。OD色のパッケージとは随分印象が
      違うなあ。



 




【内容】
1:乾餅(ビスケット)×14    2:營養即溶×2
3:子果醤    4:特選巧克力粉
5:牛肉乾    6:薑糖×4







 




       まずは特選巧克力粉から行ってみましょう。小袋にはコーヒーらしきイラストが描かれていますが、この巧
      克力というのがコーヒーのことなのかな?
開封して中の匂いを確認すると、粉末ココアの甘い香りが。ああ、
     
 巧克力ってチョコレートの事だったのか。なるほど、そう思って見ればそう読めますね。
       パッケージには請用温涼開水調和飲用毎包可沖泡150ccと書いてあり、恐らく150ccのお湯もしくは冷
      水で溶かせ、という意味なのでしょう。という訳で冷水で作ってみました。一口飲んでみると、なるほどチョ
      コレートドリンクです。
MREのココアの様な豊かな香りはありませんが、甘さ控えめでさっぱりと飲めます
      ね。チロルチョコを水に溶かした様な、駄菓子テイストが溢れる一品であります。


       次は乾餅(ビスケット)。カードよりも少し大きいサイズ(73×56×5mm)の薄いビスケットが14
      枚、一片も欠ける事なく入っていました。最初は随分粗末なパッケージだなと思いましたが、その役割は十分
      果たしているみたいですね。
       一口齧ってみると、うん、実に素朴な味わいでなかなかイケますね。マリービスケットからミルクっぽさを
      抜いた様な、上品なソバボウロの様な風味。
けっこう堅いですが、5mmという薄さが丁度よく、サクサクと
      美味しく頂けました。歯応えがあるので、食べた以上の満腹感がありそうです。


       子果醤の小袋には輪切りになったオレンジのイラストが描かれていて、どうやらジャムかスプレッドの類
      の模様です。食べてみると、おお、これはオレンジというよりもみかん味ですね。それも、日本が誇る温州み
      かん
そっくりの味。MREのジャムの様なしつこい甘さではなく、さっぱりとした優しい甘味がいい感じだな
      あ。ただ、マーマレードの様な果肉の口当たりは全くなく、どちらかと言えば粘度強めのみかんシロップです
      ね。
       そしてこの、口の中で妙に粘る食感が不思議だなあ。果実本来のペクチンによるものではなく、まるで片栗
      粉
を使って無理矢理つけたような、喉に残る変なトロミが気になります。


       続いては2つ入っていた營養即溶。分かる様な分からない様な字面ですが、パッケージにはミルクを注
      がれた果実入りシリアル
の写真が印刷されています。開封すると、マッシュポテトみたいな真っ白い粉末がさ
      らさらと出て来ました。よく見ると押し麦の様な小片も混じっていますが、うーん、写真と全然違う・・・。
       どうやらこれも冷水かお湯を加えるみたいですが、そのままちょっと舐めてみると、粉末状にした落雁
      コナッツパウダー
を混ぜた様な不思議な味でした。


       二袋合計で250ccの冷水で溶かしてみると、微妙な泡を吹いた白く濁った液体の出来上がりです。うーん、
      これ、コーンフレークのつもりなのかなあ。エイリアン2のラストで真っ二つにされた人造人間ビショップが、
      口からどばどば噴き出していた体液そっくり
なんですけど・・・。
       ちょっとゲンナリしつつ一口飲んでみますが、あれ?意外と悪くないですよ。粉っぽいココナッツミルク風
      味で、ほのかな甘さが結構イケます。タピオカなんかを入れると、夏向けの涼しげな美味しさに化けるんじゃ
      ないでしょうか。

       皿の底の方を掬うと、何だかモミガラくずのような物体がサルベージされましたが、どうやらこれがシリア
      ルの模様です。食べてみるとかなりふやけ切っていますが、確かに繊維っぽい口当たりがありました。


       最後は牛肉乾。何故かこれだけ迷彩柄のパッケージで、牛のシルエットが描かれていました。開封すると、
      サイコロよりも小さいサイズの茶色い粒がザラザラと出て来ました。ぱっと見は鰹節の欠片みたいで、ビーフ
      ジャーキーとインスタントコーヒーを混ぜた様な妙な香り
が漂います。これを奥歯で噛みつぶすと、おお、な
      るほどこれは牛肉の味
       たまり醤油っぽい甘辛味香辛料のスパイシーさが効いていて、これも結構美味しいですね。そして何故か
      鰹節の様な風味もあって、以前飼い猫のカリカリを一つ失敬して食べた時の記憶が甦りました。
       しかしこれ、ビールの乾きモノにピッタリですね。味付けがけっこうキツく、2つ3つ食べていると喉が渇
      いてきます。ここにほの甘いビスケットとシリアル入りココナッツミルクを合わせると、味のバランスが丁度
      いい具合。まるで牛肉乾營養即溶片、乾餅の三者が、6-4-3のダブルプレーを華麗に決めて見せたよ
      うな感じ
であります。全体的にほの甘い食品が多い中、この牛肉乾の強烈な存在感が丁度いいアクセントにな
      っていました。


       おっと、薑糖を忘れていました。一円玉大のキャンディが4つ入っていますが、どうやらこれがデザートの
      模様です。何味なのかさっぱり分からないままに口に入れてみると、強烈なショウガの辛味が舌を襲いました。
      甘さはある様なない様な、まるでショウガの絞り汁をそのまま飲んだような味覚です。うーん、これはちょっ
      と
日本人には無理な味ですね。黙って口から出して、ゴミ箱に仕舞っておきました。


       以上、台湾軍戦闘糧食『軍用野戰口糧 A式』の試食を終わります。全体としてはかなりお菓子っぽい糧食
      でしたね。老人会のバス旅行で配られるおやつの様なイメージで、私個人的には、一食分の食事をとった満足
      感には程遠い
印象でありました。基本的に島国である国土の防衛が第一、敵地で戦線を伸ばす必要がない国な
      ので、こんなもので十分なのでしょうか。
       とは言え、世界に誇れる食文化を持つ台湾なんですから、もうちょっとそれなりのイロイロを見せて貰いた
      かった気もしますね。

       ただ、ショウガ飴を除くとどれもこれもどこか懐かしい風味が多く、昔こんなお菓子を食べた様な気がする
      なあ・・・という不思議なノスタルジーを楽しめました。小さいころからの夢だった、駄菓子屋での豪遊をし
      た気分
というか(笑)。
       大事な大事な100円玉を握りしめて通った小さい頃とは違い、今はあれもこれも好きなだけ買える事がと
      ても楽しい反面、
微妙な虚しさも感じる・・・。そんな所も含めて、台湾軍戦闘糧食の醍醐味なのだと感じま
      した。





       <追記>

       あと、このA式と一緒に別メニューであるC式も入手出来たのですが、開封してみると両者の違いはジャム
      と粉末ドリンクだけで、それ以外は全く同じ内容
だったのが驚きでした。これ、現場の兵士達はかなりガッカ
      リ
な気がするんだけどなあ。
       基本的に炊事設備で作った温食が
配給されるのが当たり前で、この野戰口糧を使う事は稀なんでしょうか?
      別にレトルト糧食があるという話は聞いた事がありませんし、この辺は謎だなあ。


       ちなみにC式に入っていたのは草莓果醤(イチゴジャム)でした。かき氷のいちごシロップを片栗粉でまと
      めた様な味わい
で、まあ美味いでもなく不味いでもなく。
       粉末ドリンクは特選速溶珈琲(どちらも王へんではなく口へん)。コーヒー牛乳を薄めたような風味で、他
      国戦闘糧食の粉末コーヒーに比べるとかなり置いて行かれてるなあ。でも、糧食全体に漂うレトロ駄菓子屋テ
      イストに忠実な味
とも言えるので、これはこれでいいのかもしれません。
       いつの日か台湾軍の本気の戦闘糧食を試食できる事を祈りつつ、C式の試食を終えました。




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