潜水艦「そうりゅう」カレー


       さて今回は、呉海自カレーシリーズ『潜水艦「そうりゅう」カレー』であります。SS501潜水艦そうり
      ゅう
は2009年3月に就役したそうりゅう型潜水艦の1番艦で、スターリング機関による非大気依存推進シ
      ステム
X舵の採用、船体設計の見直しにより従来のおやしお型潜水艦に比べて連続潜航時間低速域での運
      動性能
及び静粛性を大幅に向上させた、海自の誇る最新鋭潜水艦であります。
       その栄えある1番艦たる潜水艦そうりゅうのカレーですが、まずはパッケージから見て行きましょう。外洋
      の深いを連想させる色使いは全シリーズ共通で、中央には真っ白な航跡を引きつつ面舵を切る潜水艦そうり
      ゅう
の姿がレイアウトされています。艦尾の水しぶきの中には左右斜め上方向に突き出たX舵が見えています
      が、何度見ても不思議な形状というか曲がり方ですね。
       撮影当日の気象条件が悪かったのか小さな画像を引き延ばしたのか、画像がすこし荒い感じですが、これは
      これで最新鋭潜水艦らしいミステリアスな雰囲気になっているのが面白い。このカレーが発売された時点で既
      にマスコミへのお披露目は終わっていますが、なんだか大変な苦労の末に隠し撮りに成功した様なドキドキ感
      が伝わってきます(笑)。

       箱裏面には海自と呉の成り立ち呉海自カレーについての説明書き、あと潜水艦そうりゅうから秘伝のレシ
      ピの提供を受けた呉市内の飲食店『呉ハイカラ食堂』さんで出しているそうりゅうカレーの画像がありました。
      しかしこのお店のカレー、海自で使われている凸凹ステンレスのメストレーで出てくるんですね。他のお店が
      色とりどりのお皿を使って見た目の美しさを競い合っているだけに、より純粋度の高い海自カレーらしさが際
      立っています。丸く盛った白ご飯の上には可愛らしい自衛艦旗もあしらわれ、次に呉に行くときは是非食べに
      行きたいなあ。

       さて前置きはこれ位にして、さっそく試食に移ります。温めたレトルトを開封してお皿にあけると、おお、
      牛肉ニンジンジャガイモがごろごろ!見た瞬間におなかグー五割増しというか、実に食欲をそそる見た目であ
      ります。色も獰猛そうな焦げ茶色で、見るからに攻撃的。これは一筋縄ではいかないぞ・・・と強敵と相まみ
      えるニヤニヤ笑い
を噛み殺しつつ、まずは一口頂いてみましょう。
       ほほう・・・おおお、なるほどこう来たか。まず舌の上に感じられるのは重量感のある甘さスパイスの香
      り
、そして間髪入れずに襲い掛かってくるアグレッシブな辛さ。最初に分厚い甘味で圧倒しておいて、あとか
      らじわじわと辛さを効かせてくるのが海自カレーの定石ですが、このそうりゅうカレーの辛さはほとんどタイ
      ムラグなし
で襲い掛かってきます。野菜と果実の甘さを纏おうとは全く考えていないこの抜き身丸出しな辛さ
      
も、超攻撃的な潜水艦らしさの表現でしょうか。

       またこの予備動作なしでいきなりガツンとくる辛さは、そうりゅう型潜水艦の圧倒的な静粛性の高さとも重
      なって見えますね。そうりゅうが放ったアクティブソナーでその存在に気付いた時は既に手遅れ。既にこちら
      の方位も距離も深度もそうりゅうに完璧に把握され、あとは一直線に向かってくる魚雷のスクリュー音を聞か
      されるのみ・・・という手の施し様の無さを思い知らされた気分です。
       そしてこの、海自レトルトカレーの中でも恐らく5本の指に入るであろう辛さは、潜水艦乗組員には欠かせ
      ないもの
でもあります。スペースに余裕のある水上艦とは違い、艦内での運動などまず不可能な潜水艦。ひと
      汗かいて気分転換など望むべくもなく、昼夜の感覚が奪われた状態で延々続く座りっぱなしのシフト勤務。
      の代謝は下がる一方
です。

       そんな体に喝を入れるが如く、週に一度金曜昼に出てくる超刺激的な辛さのそうりゅうカレー。ひと口食べ
      た瞬間に心拍数は上昇し、拡張した毛細血管の隅々まで血液が轟々と流れ込みます。皮膚にうっすらと浮いた
      汗は蒸発する事で体表面を冷却して体温を一定に保ち、全身を駆け巡るリンパ液は体の抵抗力を増してストレ
      ス耐性を向上
。さらに栄養酸素が全身に行きわたり、緊張感の連続による疲労と倦怠感が蓄積した肉体が、
      一皿のカレーによって一気に目が覚めるこの感覚・・・。
       そしてこの全身の循環器系を駆け巡るカレーパワーは、まさに潜水艦そのものでもあります。網の目の如く
      艦全体に行きわたる配管やバルブ類を全て掌握し、その内部を流れる冷却水や蒸気、オイル、バラスト水を完
      璧にコントロールするベテラン先任海曹は、さながら体のコンディションの維持をつかさどる艦の自律神経
      言えるでしょう。
       私の体の中に小さな潜水艦乗りがいて、バルブ操作パネルをピアニストの様に操りながら、全身の循環器を
      完璧にコントロール
しているのが感じられます。そうか、潜水艦って水上艦以上に人体に酷似した構造だった
      んですね。これは面白い発見です。これまで数多くの水上艦のレトルトカレーを食べて来ましたが、そんな事
      は一度も思いつきませんでした。

       そんな潜水艦らしさに満ち溢れたそうりゅうカレー。大きな期待を背負った最新鋭潜水艦のネームシップを
      張るに相応しい、実に迫力に満ちた美味しさでした。もっと落ち着いて食べろ、しっかり味わえと自分に言い
      聞かせながらも、つい一気に食べきってしまったほど。辛さによるトリップ感、そして人体と潜水艦との一致
      という真理への到達の高揚感もあいまって、まさに神我一体カレー我一体鋼我一体の境地であります。こ
      んなの普通のカレーでは絶対に味わえません。
       かのゴータマ・シッタールダは菩提樹の下でこの世界の真理を悟ったそうですが、私は目の前のこの一皿に
      よって悟りを開いた
のかもしれない・・・。全くもってタダモノではない、潜水艦「そうりゅう」カレーであ
      りました。




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