砕氷艦しらせカレー


       さて今回は、『砕氷艦しらせカレー』であります。しらせのカレーは以前試食した缶入りシーフードカレー
      に続いてこれが2つ目ですが、今回は野菜がメインになっている模様。給養員長が代替わりしたか、別の給養
      員のレシピをもとに商品化したものと思われます。
       パッケージは横須賀海自カレーシリーズ共通のネイビーブルー。真っ白な氷原を突き進むしらせの鮮やかな
      カラーリング
がとても映えますね。同シリーズのカレーを一堂に集めると、最も目を引くのがこの砕氷艦しら
      せカレーだと思われます。
       ちなみにパッケージ画像のしらせ、よく見ると艦首から大量の水をまき散らしています。これは砕氷用の散
      水装置
で、海氷を砕きながら進む際の摩擦抵抗を軽減する為のもの。また氷の厚さが1.5mを超える海域で
      は機関最大速力で体当たりして氷の上に乗り上げ、12000㌧を超える自重を利用して分厚い氷を叩き割る
      豪快極まりない砕氷方式(チャージング)で前進するそうです。

       数百メートルバックしては助走をつけて、何度も何度も無理矢理氷原の上に乗り上げるその様子は、さなが
      ら大工さんのノコギリの様。画像のしらせの喫水線下部の塗料がすっかり剥げ落ちているところからも、その
      衝撃の凄さが伺えます。船底部の堅牢さもさることながら、燃費の悪さも凄いんだろうなあ(笑)。
       とまあケチな心配はいいとして、早速試食に移ります。しっかりと温めたレトルトを開封してお皿にあける
      と、まず目に入って来たのがレンコン。あとこの銀杏切りになったビラビラしたものは茄子かな?パッケージ
      裏の原材料表示を確認すると、タマネギ、レンコン、なす、じゃがいも、ニンジン、かぼちゃと6種類もの野
      菜を揃えてきた模様。どれも野菜界では屈指の実力を誇る猛者ぞろいですが、やはり常温もしくは冷凍での長
      期保存
が可能な食材が選ばれているところが、長期航海を余儀なくされる南極観測船(予算を出した文部省で
      はこう呼称されます。ちなみに運用を担当する防衛省では砕氷艦)らしさと言えますね。

       前置きはこれ位にして、まずは一口頂いてみましょう。ほほう、なるほど。まろやかな風味を持つ落ち着い
      た味わいのカレー
ですが、じっくり味わってみると缶入りしらせカレー同様に僅かに突出している塩味が感じ
      られます。メインの具材こそ異なりますが、海水中の真水が氷結することで他の海域よりも塩分が濃くなる南
      極海らしさ
の演出は、このカレーにも引き継がれている模様。
       続いて6名の南極観測隊員・・・もとい野菜達の点呼に取り掛かります。まず目につくのは個性的なルック
      スのレンコンですが、あとは茄子、この黒くて固い皮をみせているのはカボチャでしょう。しかしそれ以外の
      タマネギ、ニンジン、じゃがいもの3名は跡形もなく溶けてしまい、完全にルーと同化しています。せっかく
      野菜カレーとしてこれだけの役者を揃えたのですから、やはり具としての存在感は保っていて欲しかった気が
      しますが、
       「俺達は普段からカレーの表舞台に立たせてもらっているんだから、今回はレンコン君と茄子君、カボチャ
      君を引き立てる役割に徹しよう!」

       と、彼らなりに気を利かせたのかもしれません。

       野菜の旨味をたっぷりとたたえたカレーはとても美味しいのですが、それにしてもこの・・・事あるごとに
      スプーンの中に入り込んでくる豚肉君
には戸惑ってしまいます。もちろんお肉たっぷりなのは嬉しいですが、
      今回の主役はあくまでも野菜達。しかもタマネギ、ニンジン、じゃがいもの実力派3名が、仲間の野菜を引き
      たてるべく裏方に回っているのです。豚肉君もここはもう少し振舞い方を考えるべきでは・・・。
       ここでどうしても思い出してしまうのが、岩国レンコンをメインに据えた『岩国海軍飛行艇カレー』です。
      あのカレーに入っていたのは牛肉君でしたが、彼はきちんと空気を読んでレンコンの引き立て役に徹し、今回
      の豚肉君の様に出しゃばる真似はしなかったんですよね・・・。
       これは単純に豚肉君と牛肉君の個性の違いなのでしょうか。いや、私の知ってる豚肉君はそんな奴ではなか
      ったはず
。普段大人しいレンコン君をイラつかせているこの空気の読めない振る舞いの裏には、何らかの意図
      がある気がして仕方ありません。まるであえてヒール役として振舞っている様な、豚肉君らしからぬこの無神
      経さ・・・ん?待てよ、ヒール役・・・?

       そうか、豚肉君はあえてヒールに徹してみせる事で、彼なりに野菜達を引き立てようとしているんですね。
      牛肉君ほどのスター性はないものの、これまで真面目にコツコツ頑張って来た豚肉君の姿を見て来た私として
      は、
       「お前そんなキャラじゃないだろ(笑)!」
       と苦笑交じりのツッコミを禁じえない気分ではありますが、ミスターポーゴ然り蝶野正洋然り、実力のある
      ヒールほどリングの外では真面目で控えめな好人物である事が多いもの。なるほど・・・これは豚肉君にしか
      できない仕事だったんですね。

       またこれは、あえて憎まれ役を買って出る事により、レンコン君に野菜軍団を率いる者としてのリーダーシ
      ップ
を自覚させようという、豚肉君の粋な計らいなのかもしれません。
       海自カレーに陸自の例えを出すのはちょっと恐縮ですが、『岩国海軍飛行艇カレー』で立派に主役を務めた
      レンコン君が一人前の兵士として認められた曹士レンジャー課程修了者とするならば、今のレンコン君がぶつ
      かっている壁は指揮官としての鋼のリーダーシップを叩き込まれる幹部レンジャー教育課程
       そう考えると、目の前でレンコン君に不可解なプレッシャーを与え続けている豚肉君が、肉体と精神の限界
      に来ている学生になお容赦ない罵詈雑言を浴びせかけ、一切の甘えも許さないレンジャー教官に見えてきます。
      そうか、豚肉君はそんな事を考えていたのか・・・。
       突如として悪役に回った豚肉君に対し、怯えと戸惑いを隠せないでいる野菜達。しかし彼らの士気を奮い立
      たせ、FOLLOW ME!の精神で任務を完遂に導けるのは、レンコン君だけなのです。そして見事『砕氷
      艦しらせ野菜カレー』を完成に導いたレンコン君の胸元にレンジャー徽章をつける資格があるのは、豚肉君を
      おいて他にはいない・・・そうか、そういう事だったのか豚肉君!

       ちなみにこの砕氷艦しらせがレシピを提供したカレー、横須賀市内の『TUNAMI』というお店で頂く事
      ができますが、パッケージ裏面に掲載された画像には素揚げされた色とりどりの野菜がいっぱいにトッピング
      され、これが実に美味しそう。ニンジンやカボチャは油に通すことでカロチンの吸収率が高まりますし、茄子
      とタマネギはその色つやが一層鮮やかになります。そして油脂に豊富に含まれるビタミンは、長期航海のスト
      レス耐性
免疫力の活性化に不可欠な存在。味覚と見た目、そして栄養価にも気を配った実に理にかなった調
      理法
なんですね。

       あと唯一心配なのはカロリーの高さですが(笑)、酷寒の地においては体脂肪こそが命綱。南極大陸の昭和
      基地にて長期間の研究活動を行う越冬隊員が、いろんな意味でペンギンに例えられるのも無理のない話であり
      ます(笑)。
       とは言え、その油通しした野菜をレトルトカレーで表現するのは、流石にちょっと無理がありますね。うー
      ん、これはやはり一度横須賀まで赴いて、現地のカレー屋さんをはしごして実際に食べてみねばなるまいな。
      私の
イマジネーションをここまで爆発させたこの一皿・・・他に比類なき個性と実力を秘めた『氷砕艦しらせ
      野菜カレー』
でありました。




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