砕氷艦しらせカレー
さて今回は、海上自衛隊缶入りカレーシリーズ『砕氷艦しらせカレー』です。言わずと知れた、AGB5003砕
氷艦しらせですね。2009年から就役した現在の2代目しらせは文部科学省の予算で建造され、それを海自
が預かる形で運用されていて、年に一回東京の晴海埠頭~南極の昭和基地までを往復し、人員や物資の輸
送、海洋及び気象調査などを行っています。
国防や災害派遣に直接関係のなさそうなこの船をなぜ自衛隊に預けているかというと、船に搭載されたヘリ
コプタ―による輸送業務や荒れた海域への長距離航海と言う点で、海上自衛隊以上のノウハウや経験を持
った組織が国内に存在しなかったのがその理由だそうです。いわば、その道のプロに任せたって訳ですね。
缶のラベルにはしらせのワイドボディがデザインされ、バックにはイメージカラーとでも言うべき明るいオレン
ジ色があしらわれています。艦番号5003のフォントの使い方も大胆で、缶詰独特の左右に大きく回り込んだ
形状を生かしたデザイン手法が面白いですね。
ラベルの隅の方には、『文部科学省ではしらせを南極観測船と呼んでいますが、防衛省では砕氷艦と呼ん
でいます』という説明書きがあり、ちょっとした小ネタを拾えたお得感。実際砕氷艦よりも南極観測船の方が、
その運用実態が伝わりやすいんだろうなあ。
ちなみにこの種の艦船は、英語では『ICE BREAKER』と表記される様です。うん、いいですねアイスブレ
カー。これが一番強そうでカッコイイかも。
この砕氷艦しらせカレーですが、先に試食した『護衛艦ひゅうがカレー』と同様に、『海上自衛隊のめちゃウ
マカレーレシピ48』というムックからレシピの提供を受けているとの事。ひゅうがカレーもかなりの美味だった
ので、こちらも期待できそうだなあ。早速中身を温めて、試食にうつります。
ご飯を盛ったお皿にかけると、こんな感じ。ほほう、しらせカレーはシーフードなのか。丸っこいエビが2つ、
あと小さな可愛らしいホタテが1つ入っています。そしてこの沢山入っている細長いのは、ベーコンかな?シー
フードに肉系を絡めて来るのはちょっと予想外でしたが、合うんでしょうか?しかしこの、如何にもカレーらしい
茶褐色が食欲をそそりますね。とりあえず一口いってみましょう。
ほほう、最初の一口目からハッキリわかる、塩味の強さが印象的。トマトの甘酸っぱさもほのかに感じられ
ますが、この塩気というか潮気が、いかにも海の上のカレー!という感じです。メインの具がシーフードなのも、
そのあたりを強く意識したのかな?海自のカレーは濃厚さを強調するあまり甘味に傾きがちなので、その中
にあってこれは個性を強調した異色の存在と言えるでしょう。
そう言えば、南極海では海水中の真水が氷になるので他の海域よりも塩分濃度が高くなる・・・と海洋関連
の書籍で読んだ覚えがありますね。なるほどこの塩味の強さは、作り手が意図した南極観測船らしさの表現
なのかも。
ニンジンとジャガイモは小さなサイコロ状にカットされていて、あくまでメインであるエビとホタテを引き立てて
います。また、最初はシーフードとの相性に疑問を覚えてしまった拍子切りベーコンですが、意外な事によくマ
ッチしていますね。特有のスモーク臭は控えめでカレーの邪魔をする事もなく、あくまでダシとしての役割に徹
して野菜同様にメインのシーフードを立てている様。このカレーを非常に満足度の高いものにしているベーコ
ン君のスマートな振る舞いが、キラリと光ります。
ただ、カレーソース自体がごくごく普通というか、ありきたりな感じなのがちょっと気になるなあ。せっかくエビ
やホタテを主役として採用して、さらにベーコンという実力者をあえて脇役に配置したのに。豪華な役者を揃
えた割に脚本が平凡というか、ちょっと勿体ない気がするんですよね。
『よこすか海軍シーフードカレー』に見られた様な、シーフードに一番合うカレーソースを用意しました!とい
うスペシャルな感じではなく、あくまで普段牛肉や豚肉をベースにしているカレーソースをシーフードに流用しま
した的な味わい。うーん、美味しい事は美味しいんですけど、乗組員達が週に一度のお楽しみにしている金曜
カレー、これで本当によかったのかな?
単純にシーフードカレーとしての出来を問うならば、先にあげた『よこすか海軍カレーシーフード』のシーフー
ドに特化した味わいに軍配が上がりますが、よくよく考えてみると、このカレーが食べられているのは約半年
にも及ぶ長期航海を強いられる砕氷艦しらせです。エビミソの香り高いシーフード専門のカレーよりも、多少
の違和感はあれどいかにもニッポンのカレーらしいトラディショナルなカレーの方が懐かしい我が家の食卓を
思い起こさせて、長期航海に疲れた乗組員の心と体を優しく癒してくれるのではないでしょうか。
「シーフードに特化したカレーソースの方が美味い?そんなのとっくに知ってるさ!でもな若造、日本から遥
か離れた南極海をゆくこの艦で食べるなら、日本の香りがする伝統的なカレー以外にはないんだよ!」
と百戦錬磨のベテラン調理員長に説き伏せられた様な説得力を感じますね。陸で食べて一番美味しいカレ
ーがベストとは限らない・・・それぞれの艦に合ったベストなカレーが、艦の数だけあるという事なのでしょう。
普通に食べてもとても美味しい海上自衛隊缶入りカレーシリーズですが、もう一歩踏み込んで異なる視点か
ら食べてみると、また違った色々なものが見えて来る・・・と、改めて一皿のカレーに教えられた気がします。シ
ーフードのスペシャリティではなく、砕氷艦しらせのスペシャリティを味わえるとても貴重なこのカレー。まさに一
食に値する味わいでありました。
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