輸送艦しもきた“甘口でコクのある牛肉カレー”
さて今回は、リニューアル版呉海自カレーの第5弾『輸送艦しもきた“甘口でコクのある牛肉カレー”』です。
LST4002輸送艦しもきたの説明については、以前試食したリニューアル前のしもきたカレーレポをご参
照頂くとして、まずはパッケージから見て行きましょう。
箱正面には出港作業中の輸送艦しもきたの雄姿がレイアウトされ、艦側面の微妙な曲線が暗灰色のグラデー
ションになっているのがかっこいいですね。さらに大型の防舷物を収容した艦橋後部のクレーンが立ち上がっ
ていたり、整列した隊員さん達のサイズから全通甲板の広大さが感じられたりと、輸送艦らしさが見事に表現
されています。
海自ならではのネイビーブルーをあえて廃し、リニューアル版からは白を基調に各商品ごとにカラフルな色
合いになったパッケージですが、この輸送艦しもきたのカレーは薄紫というか藤色なんですね。船体の暗灰色
との相性もよろしく、落ち着いた雰囲気が漂います。
箱裏面には海上自衛隊と呉海自カレーの成り立ち、味覚チャート、調理方法や原材料表示が分かりやすくま
とめられています。ほほう、輸送艦しもきたのカレーは辛味と酸味を抑え、トロミと甘味、コクに振って来た
模様ですね。外箱の色合いが示している通り、ちょっと大人っぽいイメージのカレーなのかな?と期待に胸を
膨らませつつ、レトルトを湯煎にかけて早速試食に移ります。
おお、なるほどなるほど。確かに甘ウマ系のカレーですね。爽やかな酸味もあって、ついついスプーンが進
む美味しさです。それにしてもこの甘さの正体はなんなんだろう。炒めタマネギよりも軽く、それでいてしつ
こさを感じさせない絶妙な甘さ加減・・・艦名から真っ先にりんごが思い浮かびましたが、それともちょっと
違う様な。どちらかというと梨に近い、あっさり瑞々しい甘さを感じるんですよね。
炒めタマネギの濃厚な甘さと梨の果汁の瑞々しさがこのカレーのキモと見た!と鼻息荒く原材料表示を確認
しますが、んん~、梨は書いてありませんねえ。特に変わった甘ウマ系食材の力を借りず、ごくありふれた食
材でこの上品な甘ウマ加減に仕上げてきたとは。やりますねしもきた給養員。
具は牛肉とタマネギ、ジャガイモ、ニンジンという伝統的なラインナップですが、このタマネギが原形を留
めているのが嬉しいなあ。深い旨味を追求するあまり、煮込み段階で溶かされてしまいがちなタマネギですが、
このまっ茶色に染まった滑らかなぴらぴら感が個人的に好きなので、煮溶かすタマネギと具としてのタマネギ
の両方を使い分けているのは個人的に高く評価したいところ。
辛さは甘口寄りの中辛という程よい刺激で、全体の上質な甘さを上手く引き立てています。甘過ぎず辛過ぎ
ず、まさにベストな着地点。美味しいカレーの高揚感と一口ごとにほっとさせられる安堵感が実にいい塩梅で
つりあっている、素晴らしい“丁度いい”加減と言えますね。
そして驚かされたのが、200gの白ご飯とのバランスの良さ。個性豊かな海自の金曜カレーをイコールコ
ンディションで見極めるべく、試食にあたっては白ご飯のボリュームを200gで統一しているのですが、旨
味が濃厚なカレーの場合、その量の白ご飯では全然足りなくなる事があるんですよね。
しかしこの輸送艦しもきたカレーは、何も考えずに食べていても最後までカレーと白ご飯のバランスが崩れ
ないというか、内容量200gのカレーに対して白ご飯200gできっちりと食べ終えてしまいました。なる
ほど、先程からの徹底した“丁度いい”加減。これが輸送艦しもきたカレーの真骨頂なのでしょう。
ここでふと気が付いたことがあります。陸自の輸送部隊には『定時定点』という大原則があり、これは決め
られた時間に決められた場所に、決められた量の物資を決められた通りに輸送する・・・という意味だそうで
す。
準備が整っていないところに早く物資を持ってきてもダメですし、不測の事態で到着が遅れてももちろんダ
メ。何があろうが全ては決められた通りに上手くできて当たり前、少しでも不備があれば大目玉・・・一見簡
単な様で、これほど難しい仕事もないと思います。
海と陸という舞台の違いはあれど、任務の内容は同じ輸送部隊と輸送艦。基本となる心構えも、自ずと共通
してくると思います。なるほど、だからこそのこの“丁度いい”加減なのか。『定時定点』を見事な形で表現し
て見せたカレーだったんですね。
ただそうなると一点、非常に困った問題が出てきます。過剰な旨味の暴走を敢えて抑制し、100点満点の
“丁度いい”着地を決めて見せた輸送艦しもきたカレーですが、このレトルトカレーはあくまでも市販を前提と
した商品。しかも一人前700円前後という、レトルトカレーの中でも結構な高価格帯に位置するカレーであ
ります。
海自輸送部隊の在り方から陸自との繋がりまで連想させてくれるこの“丁度いい”味わいですが、同じ価格帯
に居並ぶ旨味大暴れな他のカレーと競り合って、この“丁度いい”ところで止めてある輸送艦しもきたカレーは
正当に評価してもらえるのだろうか・・・最初から目指しているゴールが違うというか、ちょっと勝負してい
い土俵が違う気がするんですよねえ。
私の脳内で開催された、呉海自カレーコンテスト。大勢の参加者が試食を終え、採点の為の投票が始まりま
した。ずらりと勢ぞろいした旨味濃厚なカレーに次々と票が入る中、“丁度いい”個性を貫き通した輸送艦しも
きたカレーは、その控えめな性格ゆえに苦戦を余儀なくされています。
違うんだ!いや、確かに旨味満足度という点では他のカレーに一歩譲るかもしれませんが、それだけでしも
きたカレーを判断してはいけないんだ・・・。
純粋に一皿の満足度だけで勝負。美味しければ美味しいほどいい。確かにそれは、気持ちいい位に正しい評
価基準です。一食分の予算が設定されている以上、最もシンプルで公正な評価の形なのかもしれません。しか
しその評価基準が、輸送艦しもきたの乗組員達が追求する大命題に基づいた“丁度いい”カレーを否定する結果
になってしまうのは、果たしてどうなんだろう。驚くほど多彩で、驚くほど豊かな個性を誇る我が愛しの海自
の金曜カレー達が、たった一つの物差しだけで片付けられてしまっていいんだろうか・・・。
見事な“丁度いい”美味しさを誇りながら、人を、物事を、結果を、そしてカレーを評価する難しさについて
今更のように思い知らされた『輸送艦しもきた“甘口でコクのある牛肉カレー”』でありました。
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