潜水艦部隊カレー
さて今回は、海上自衛隊カレーシリーズ『潜水艦部隊カレー』です。黒をバックにしたパッケージにはそうりゅ
う型潜水艦を真正面から撮影した画像がレイアウトされ、『部隊』の文字を強調した明朝体フォントの効果もあ
って、かなり特徴的な外観です。
そもそも真っ黒い潜水艦の背景に黒を選択する事自体かなり冒険的で、普通はなかなか思いつかない組み
合わせだと思いますが、これはこれでいかにも潜水艦らしい深深度における隠密性や静粛性が上手く表現出
来ていて、意表と本質を同時に突いた優れたデザインだと言えるでしょう。恐らく様々な背景パターンを比べた
上で、最も潜水艦らしさを表現できたのがこの黒だったんだろうなあ。
また缶を横倒しにしてみると、なんだか建造中の潜水艦ドックにいるみたいなのも面白いですね(笑)。まさし
く潜水艦の輪切りといった風情です。
この缶入り海上自衛隊カレーシリーズ、他にも護衛艦ひゅうがやきりしま、砕氷船しらせがラインナップされ
ていますが、今回は艦名ではなく潜水艦部隊、と銘打っているのがシブイなあ。哨戒任務についている潜水艦
の名前を、決して明かせない機密度の高さをも表現している・・・というのは考えすぎかなあ(笑)。もしかしたら
個別の潜水艦ではなく、潜水艦隊司令部の食堂で出しているカレーを再現したのかもしれません。
ちなみにこの潜水艦部隊カレー、2014年に横須賀地方隊にて行われた第2回護衛艦カレーコンテストにて
『濃厚味わいカレー』の名で優勝に輝いた、栄えある一品でもあるそうです。そのコンテストには15隻もの自衛
艦が参加して自慢の味を競ったそうですが、うち4隻がなんとイージス艦(こんごう・ちょうかい・あたご・あしが
ら)。本当はきりしまも参加させたかった(したかった?)のですがどうしてもスケジュールの都合がつかず、や
むなく断念したとの事。
海自が6隻保有するイージス艦のうち、ローテーションの関係で常に1隻はドック入りの状態にあるので、た
かがカレーコンテストの為に現状で動かせるイージス艦の全てを横須賀に集結させようとしたとは・・・。そこま
でやるか海自(笑)。隊員さん達のカレーに対する執念や情念がひしひしと伝わってくるイイ話ですねえ(笑)。
当日は狭苦しい横須賀地方隊に1万人を越える人達が押し寄せ、大盛況のうちに終了したそうです。
前置きが長くなってしまいましたが、早速試食にうつりましょう。温めたカレーをお皿にあけると、ほほう、小さ
めにカットされた具が沢山入っていますね。お肉ゴロゴロ!野菜ゴロゴロ!という雰囲気ではありませんが、大
型発電機を搭載した水上艦とは違って、潜航中の動力の多くを蓄電池に頼らざるを得ない通常動力型潜水艦
の場合、調理に使える電力にも限りがあるのでしょう。したがって具のサイズを小さくして火の通りを早め、少
しでも消費電力を押さえようという工夫はまさに潜水艦ならでは。なるほどなるほどと納得しつつ、まずは一口
頂いてみます。
おおおおお、濃い!甘い!カレーらしいスパイスの辛さは控えめですが、ひと口で舌にズドンと乗ってくるこの
重量感のある旨味、甘味。今時のスマートな葉巻型ではなく、二世代前のグラマラスな涙滴型潜水艦を思わせ
ますね。
小さく切り揃えたとは言えたっぷり入っている牛肉は存在感十分ですし、10mm角にカットされたジャガイモ、
ニンジンもあちこちに顔をのぞかせて、その見た目は実に華やか。
いやはや、この濃厚な甘ウマ具合が素晴らしい!甘口とは言え子供っぽさは皆無で、大人の舌に相応しい
コクと深みのある甘さ。こんなカレーを缶詰で販売されたら、街中のカレー屋さんはたまったものではありませ
ん。カレーコンテスト当日はこの美味に言葉を失った人達が続出したんだろうなあ。
それにしても、この甘味の正体が気になります。白砂糖だともっとさっぱりした感じになりそうですし、チャツネ
やフルーツジャム特有の、華やかな甘味でもない気がします。黒糖や黒蜜の雑味も感じられませんし、一体何
を使った甘味なんだろう。
強いて言えば、ブドウ糖とか果糖に近い甘さかな・・・と思いつつラベルに印刷された原材料表示を見ると、そ
のものズバリ『砂糖類(砂糖・ぶどう糖果糖液糟)』と書いてあってびっくり。いやあ、適当に思いついた事でもな
んでも口に出してみるもんですね(笑)。
さらにソテードオニオン、はちみつで甘味を補強した上に、隠し味としてホワイトルウが入っている模様です。
へー、ホワイトシチューのルーとは思いもつきませんでした。ハヤシライスやビーフシチューのルウを少しだけ
加えるのは私もよくやりますが、ホワイトシチューは予想外。一度試してみたいものです。
この甘さを味わっていてふと思ったのですが、水上艦と違って殆ど体を動かせない上に、潜航中は相当な緊
張感に苛まれているであろう潜水艦乗り・・・そういう意味では脂質やたんぱく質よりも、脳細胞を活性化させス
トレスを軽減する甘味に走ってしまうのも当然かもしれません。
課業終了後は街に出て飲み食い出来たり、基地内にコンビニや隊員クラブがあるのが当たり前な基地駐屯
地とは違い、当直終了後は食事をして狭い寝台に潜り込むだけの生活が続く潜水艦乗りにとって、三度の食
事にかける期待の大きさは他の部隊の比ではないのは当然でしょう。
また、潜水艦という任務の特殊性から、他の部隊よりも等級の高い食材が納入される(主として保存性の関
係で)と聞いた事があります。乗組員からの熱い期待、他部隊よりも良質な食材。包丁一本で身を立てる料理
人としては、さぞかし腕の振るい甲斐のある環境だと言えますね。
その一方で、異様に狭い調理室、限られた人員と設備、そして火を一切使えない等、極端に制限が多い環
境下で、乗組員から寄せられる大きな期待に必死で応えようとする給養員にかかるプレッシャーも、並大抵の
ものではなさそう。そんな様々な要素が複雑に絡み合い、この驚きの美味を作り出しているんですね。この一
皿のカレーに込められたものは、とても一言では言い表せなさそう。
いやあ、ほんと美味しかったですよ。大満足の味わいでした。自衛隊レトルトカレーの中では頭一つ突き抜け
た存在である『航空自衛隊小松基地隊員給食カレー』に、勝るとも劣らない美味でありました。あちらがはるか
雲の上で格闘戦を繰り広げる戦闘機、こちらは光も届かぬ深海にて水圧に耐えながら孤独な戦いを続ける潜
水艦。全く正反対のカラーを持つ両者ですが、結果的にどちらも他の追随を許さない極上の味わいを誇ってい
るのが、なんだか興味深いなあ。
そしてこの両者、仕事のキツさに見合った高給取りという意味でも一致しているんですよね。戦闘機乗りと潜
水艦乗り、そして艦載ヘリパイロットが自衛隊三大高収入と言われてますし。
となると、艦載ヘリ部隊のカレーってどんな味なんだろう・・・という疑問がむくむくと沸き上がってきます。そも
そも艦載ヘリ部隊のカレーって、市販されているのかなあ。いつの日か、ヘリ部隊レトルトカレーに出会える事
を夢見つつ、大満足の試食を終えました。
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