さわぎりイカスミ&牛すじカレー


       さて今回は、『さわぎりイカスミ&牛スジカレー』であります。このカレーは佐世保地方隊させぼ四ヶ街商店
      街協同組合
がともに60周年を迎えた事を記念して行われた、2013年のGC1(護衛艦カレーNo.1)グラン
      プリ
にて見事優勝に輝いた一品で、当日は佐世保地方隊に在籍する自衛艦10隻がおのおの自慢のカレー
      を披露して、大いに盛り上がったそうです。
       その初代王者に輝いた護衛艦さわぎりのイカスミ&牛スジカレーが、このたび満を持して商品化。果たして
      どんなお味なのか、佐世保地方隊の金曜カレーのレベルを探るべく気合を入れて試食に臨みました。
       まずパッケージですが、大きな箔をつけての商品化の割に、随分と素っ気ないというか素人っぽいデザイン
      ですね。もうちょっと凝ってほしかった気がしますが、ある意味この素人臭さ親しみやすさに繋がっていると
      いうか、不器用な先任海曹がパソコン相手に苦戦しながらもなんとか作ってみました!という雰囲気。この垢
      抜けない手作りっぽさが、一周回って逆にいい味になってます

       これを最初から意図していたなら相当な腕をもったデザイナーの仕事と思われますが、多分違うんだろうな
      あ(笑)
。ちなみに箱裏面には当日GC1グランプリに参加した艦艇10隻の画像がありますが、箱裏の方が凝
      ったデザイン
というのはとても珍しい気がしました。

       ちなみにパッケージには、このカレーを監修したさわぎり給養員篠原卓也2曹の名前が書かれてありました。
      こういう気配りは嬉しいなあ。篠原2曹にすればただただ照れくさい話かもしれませんが、彼のご家族にとって
      はこの上なく嬉しく誇らしい事だと思うんですよね。これからも艦名を頂いたカレーは幾つも出てくると思います
      が、こういう現場の隊員さんとのリンクのやり方はどんどん進めてほしいなあ。

       それにしてもイカスミ入りのカレーは個人的に初めてです。イカスミパスタみたいに真っ黒なのかな?と、ち
      ょっと心配になりますが、佐世保地方隊ナンバーワンに選ばれたカレーが美味しくない訳がありません。レト
      ルトをしっかりと温めて、さっそく試食に移ります。
       んん~?さぞかしドス黒いのかと思いきや、意外にも普通に茶色いカレーです。よく見ると微かにくすんだ色
      合い
ではありますが、これがイカスミの痕跡かな?
       そしてこの強烈なとろみ加減。レトルトの開封口からもったりもったりと落ちてくる、非常に強い粘度が特徴
      的です。ゼラチン質が豊富なスジ肉を使うと確かにこうなりますが、十分に温めてなおかつこの粘度とは。も
      はや半固体というレベルですが、まずは一口食べてみましょう。

       おお、なるほど、見た目通りの非常に分厚く濃厚な旨味を誇るカレーです。普通のカレーをさらに濃縮させ
      た様な、このどっしり重量感のある旨味はスジ肉ならでは。おかげで辛さはあまり感じられませんが、だから
      と言って甘口でもなく・・・うま口、とでも言えばいいのかなあ
       その分、『ちょっとこれ濃すぎ・・・』という人もいるかもしれませんが、濃厚カレーが好きな人にはどストライク
      の味わい
でしょう。
       それより、イカスミらしい風味があまり感じられないのが腑に落ちません。原材料表示には確かにイカスミソ
      ース
とありますが、このカレーを食べてイカスミの存在に気づく人は何人いるんだろう。隠し味と言えばそうで
      すが、これだけ堂々と商品名に唱っているのですから、やはりイカスミの個性をもっと前面に押し出すべき
      ったんでは・・・。
       いっそメインの具をイカの切り身にした上で、イカスミの量を増やすのも一つの個性の表し方かも。単価的
      に牛スジよりも安くつくので、その分いい材料を使う事もできますし。これだけ美味しいカレーを作れるさわぎ
      りの給養員なら、そんなの訳ないでしょう。

       とは言え、200名近い乗員を抱えるあさぎり型護衛艦。イカスミの様な好き嫌いが大きく分かれる食材を全
      面に出したカレーは、いくら美味しくても出すのは難しいかも。見事な工夫を凝らしたカレーでも、一人でも多
      くの乗組員に美味しいと言わせなければ、それはただの給養員の自己満足で終わってしまいます。自分の
      だわり
最大公約数的な満足感のバランスをとってこそ、真のプロたる給養員なのですから。
       若くてやる気溢れる料理人ほど
       「いや、これほんと美味しいから!騙されたと思って一口食べてみてよ!ほら!」
       となりがちですが、最初から生理的に受け付けない食べ物はそうそう簡単に口に入りませんし、仮に食べた
      としても美味しいと感じるのは難しいと思います。本当はもっとイカスミを効かせたい・・・そんな思いを押しとど
      めながらあえてこの着地点にしているところが、いかにも艦齢を重ねたベテラン護衛艦さわぎりらしいというか、
      いぶし銀給養員の矜持の様なものが感じられます。ごく当たり前と思っている美味しさの陰には、作り手が積
      み重ねた思考錯誤気遣いが隠されているんですね。

       「イカスミ君にさわぎりカレーの看板を張るだけの実力がある事は、ここにいる誰もが知っている。しかしこ
      のカレーの中で君に求められているのは、あくまでも全体を引き立てる隠し味としての役割なんだ。金曜カレ
      ーは俺達給養員の腕自慢の道具ではなく、ひとえにこの艦の乗組員の為にあるものだ。わかってくれイカス
      ミ君・・・」

       このカレーを作った人は、まるで人を見るのと同じ目で材料の一つ一つと向き合っている気がします。作り
      手の
表情や仕事に対する姿勢、流した、そして料理人としての喜びが見える様なこのカレー。ただ美味し
      いだけじゃない
、それが伝わってくるが故に、当日佐世保に集まった人達はこのカレーを一番に推したのでし
      ょう。
       この珠玉の一皿を、ひっそりかつ強固に下支えしていたイカスミ君。国民の生命と財産を日々見えない所で
      守っている隊員さんが彼の献身ぶりにシンパシーを覚えてしまう
のは、ある意味当然な気がします。
       しかしこのカレーは自衛官ではない人達からも熱い支持を受け、佐世保ナンバーワンに輝いた堂々たるカ
      レー
です。その事実こそが、今回商品名として表に出ながらもあえて引き立て役に徹した実力者イカスミ君へ
      の、そしてそんなイカスミ君に自分達の在り方を重ねてしまう隊員さん達への最大の賛辞に違いない・・・そん
      な感想を抱きながら、美味しい美味しいカレーを食べ終えました。




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