鮭味付け
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さて今回は、自衛隊非常用糧食『鮭味付け』です。これは非常用糧食から採用された新メニューですが、レ
トルトパックに印刷されている原材料表示を見ると『しろざけ』以外は調味料のみ。文字通り鮭に味をつけた
だけという、非常にシンプルな料理の様ですが、要は鮭缶みたいなものなのかな?日本の食卓に欠かせない食
材である鮭だけに、白ご飯とのマッチングが期待できそうですね。
しかし封入されている2つの主食レトルトは、五目飯とカニチャーハン。えええええ、今回は白飯なしなの
か。U型改善版以降は主食と副食がワンパックに収められていますが、白飯がないメニューは一つも無かった
はず。しかも相性抜群の鮭にあえて白飯を外してくるとは・・・これってミスチョイスじゃないのかなあ。
食べる方の意表を突いたというかやけに挑戦的というか・・・この無謀さに若干の不安を覚えますが、とり
あえずレトルトを温めます。
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まずは五目飯から開封。レトルトパックからつるりと出て来るタイル状の四角い主食が、昔のU型無印版み
たいで懐かしいですね。色とりどりの具だくさんで、いかにも醤油で炊き込んだっぽいこの茶色。実に食欲を
そそります。
あれ?何だこりゃ。よく見ると肉っぽい小片が幾つも入っていますよ。T型の缶飯やU型のパック飯の五目
飯には、肉は入っていなかったはずですが。
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一つつまんで食べてみると、うん、肉・・・ですね。脂肪っぽさは殆ど無く、柔らかく戻したビーフジャー
キーみたいな食感。いや、これは肉というより大豆で作った畑の肉っぽいなあ。
原材料表示を確認してみると、うるち米ともち米の他に、具として入っているのはタケノコ、ゴボウ、ニン
ジン、シイタケ、あと油揚げ。え?もしかしてこれ、油揚げなのか?
改めてじっくり味わってみると、なるほど、確かに厚揚げの表面を削って干して、戻してから炊き込んだ様
な味わいです。まるで精進料理の如き手法には驚きを禁じ得ませんが、これが大豆加工食品とは。日本人より
も、むしろ海外の戦闘糧食マニアが喜びそうな一品です。
味付けはほのかにチキンエキスの効いたあっさり醤油味。松崎しげるを思わせる褐色の見た目ですが、意外
と味はあっさりなので主食の邪魔にはならないでしょう。
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もう一方の主食レトルトであるカニチャーハンを開封。こちらは淡いあっさりとした色合いですが、いかに
もチャーハンらしい熱した鉄鍋と油、香味野菜の風味が漂っていて、これも美味しそう。味はU型無印版のカ
ニチャーハンそっくりで、なんとも懐かしい美味しさです。
具はスクランブルエッグ、長ネギ、シイタケ、カニフレーク、カニカマ。ラードやチキンエキスのお陰で旨
味も十分ですし、ところどころにこびりついているおろしショウガみたいなカニフレークから染み出ているカ
ニのダシもなかなか。具としての食べごたえは無いに等しいですが、熱を通した甲殻類ならではの香りと旨味
はしっかりと保っていて、極めてステルス性の高い具だと言えますね。
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さて、いよいよメインの鮭味付けに取り掛かります。レトルトパックからは、とろみの強いタレに絡まった
鮭の切り身がゴロゴロと出て参りました。てっきりU型改善版の魚料理の様なフレーク状のものを想像してい
ましたが、意外と原形をしっかりと保っていますね。鮭の皮もついていますし、魚好きとしては非常に食欲を
そそられる見た目。ワクワクしつつ、まずは一口頂きます。
ほほう、鮭独特のみっしりと詰まった独特の身肉に、甘味の立った醤油だれがとろりと絡まって、これはイ
ケますね。中骨っぽい風味のダシも効いていますし、サケ科独特の淡白なエグミみたいなものも僅かに残って
いるのがいい感じ。脂の乗り切ったアトランティックサーモンとはまた違った、さっぱりと力強いシロザケな
らではの味わいです。スーパーのワゴンセールの鮭缶の様なチープさはありませんし、これは日本酒に合いそ
うだなあ。
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それにしても、この皮目の微かな脂の味がたまりません。でも、皮が苦手な隊員さんは外して棄ててしまう
のかな?私なら部隊を回って残らず回収したい味わいです。
骨はきれいに取り除いてありますし、魚臭さも殆ど無し。これなら魚が苦手な隊員さんでも美味しく頂けま
すね。近年は一般家庭での魚の消費量が減少し、基地駐屯地の食堂でも魚料理はあまり喜ばれない傾向にある
と聞きますが、このメニューをきっかけに魚料理が好きになる若い隊員さんが増えてくれたらいいなあ。
あ、今ふと思い出しましたが、これってU型無印版のまぐろステーキと同系統のメニューですね。U型改善
版からは味噌煮、かば焼き、ピリ辛煮、カレー煮、トマト煮とバリエーションを増やしてきた自衛隊戦闘糧食
の魚メニューですが、原点に戻ったかの様なこの味わいが嬉しいなあ。
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いやあ美味しかった!果たして鮭一品だけでメインを張れるのか?と、最初は若干の不安がありましたが、
白飯の代役を務めた五目飯とカニチャーハンが予想外に鮭味付けと好相性で、試食前の不安を一掃してくれま
した。ホームランとはいかないまでも、基本通り手堅くセンター前に弾き返した様な味わいですね。ニンジン
やタケノコと一緒に煮込むという手もあるでしょうけど、素材の持ち味を生かすには結局のところシンプルイ
ズベストが正解なのでしょう。
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その実力は誰もが認めるところですが、いかんせん自分の地味さを必要以上に意識しすぎて、今一つ大きく
羽ばたけないでいる鮭味付け。こういう役者には黙って全てを受け入れてくれる白飯の懐の深さより、あえて
自己主張の強い五目飯やカニチャーハンを控えにつける方がいいのかもしれません。成程、26万人もの隊員
を擁する巨大組織自衛隊ならではの、組織の在り方や人材活用術を垣間見た気がします。
私「・・・(なるほど、こういう事だったんですね!)」
自衛隊「・・・(ふふふ、分かってもらえました?)」
と、私と自衛隊との間に無言のアイコンタクトが成立したかのような、納得の一品でありました。
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