さばトマト煮
さて今回は、自衛隊非常用糧食『さばトマト煮』です。さんまピリカラやかつおカレー煮と同様に、これも
戦闘糧食U型改善版からの継続メニューですね。U型改善版で試食した際は、トマトの鮮やかな赤と甘酸っぱ
く煮込まれたサバの美味しさに驚いた覚えがあるのですが、果たして非常用糧食も同様の味わいなのでしょう
か?
今回さばトマト煮の相棒を務める主食は、五目チャーハンと白飯。U型改善版の時はドライカレー&白飯で
したが、ほほう、五目チャーハンと来たか。こうなるとメニュー全体としての印象も大きく変わって来ますね。
ちなみに今回の試食は、大阪北部を流れる淀川河川敷にて行いました。当日は早朝に自宅を出発し、30q
程自転車で走って掃海艇つのしま一般公開が行われる阪神基地隊に到着したものの、正門前には
『本日の一般公開は急遽中止となりました』
との無情な看板が・・・。思わずその場にへなへなと崩れ落ち、その後は重いペダルをこいで自転車を引き
ずる様にここまで来たので、精神的にも肉体的にも疲労感は十分。期せずして戦闘糧食の試食には絶好のコン
ディションになってしまいました(笑)。スカッと晴れた9月の空にやるせなさを覚えつつ、気を取り直して
試食開始です。
まずは五目チャーハンから。これは以前試食した事がありますが、あっさりした醤油味に動物性脂肪の旨味
がうまく絡まって、食べ応えのある美味しいチャーハンになっています。レトルトとは言え、これだけの味が
出せるなら立派なものですね。
U型無印版の主食にもチャーハンがありましたが、より一層美味しくなっている気がするのは、包装材の改
良のお陰なのか野外試食の開放感のお陰なのか。
ちなみに五目チャーハンと銘打ってある割には具は6品目もあり(ネギ・タケノコ・シイタケ・タマゴ・豚
肉・牛肉)、いい意味での看板に偽りありになっています。まあ、本来五目というのは具だくさんという意味
であり、数字的な縛りはないそうです。
白飯はいつも通りの白飯です。自己主張の無い極めて大人しい味わいですが、
「おかずがどんな奴でも、この俺が引き立ててやるぜ!」
というシブい名脇役っぷりが頼もしいなあ。
さて、メインのさばトマト煮のレトルトを開封します。おおう、さばの切り身がごろんごろんと、ジャガイ
モとニンジンを従えながら真っ赤なトマトソースを纏って出て参りました。鮮やかな色合いといい切り身の豪
快な存在感といい、見た目はU型改善版のものと同じです。
果たしてお味の方はどうなのかと一口食べてみると、さばの臭みもクセもまるでなく、トマトの甘酸っぱさ
と軽やかな力強さが前面に出ている見事な味わい。U型改善版のさばトマト煮と全く同じなんですね。後で原
材料表示を比べて確認したところ、内容も順番も全く変わっていなかったので、きっと現場の隊員さんからの
評価が高く、そのまんまスライド採用されたんでしょう。
爽やかな酸味で引き締めつつも、全体に漂う甘ウマな味付けが実にいい感じ。肉っ気こそありませんがもの
足りなさは全くなく、どっしりしているのにさっぱりしたこの味わい。絶妙な味付けだと言えます。
また、フレーク状になっていたさんまピリカラとは違い、さばの切り身がそのまんまの形で残っているので、
身肉のさっぱりした味わい、血合いの部分のワイルドな味わい、そして皮目のところの青魚らしい脂肪の味わ
いのそれぞれを、個別に舌の上で楽しむ事が出来ます。
さんまピリカラの全ての旨味が混沌となった個性も捨てがたいですが、まずは背中のみっしりさっぱりした
ところを、次は腹身の脂肪たっぷりな味わいを・・・と、各部分ごとに様々に表情を変える青魚の味わいを、
自分のペースで強弱緩急をつけつつ味わえるのがいいですねえ。
あとこの、さばの旨味が溶け込んだトマトソースを浴びた五目チャーハンが実に美味!うん、これはドライ
カレーよりも五目チャーハンの方が不思議に合うなあ。ミスマッチというか、あえて外したところにあるスト
ライクゾーンというか。
なるほど、メインの味わいが完成していても、相棒が変わるだけでこうも全体の印象が変わるとは。以前の
試食では「乾パンの方が合うんじゃないかな」と思いましたが、相性的には五目チャーハンの方が優れている
と納得させられました。
いやあ、なかなかのお味でしたね、さばトマト煮。
「ええっ、さばをトマトで煮たの?それにチャーハン?なんだよそれ・・・変なもん作りやがったなあ。最
近の若い奴らはこういうのを喜ぶのか・・・」
などとボヤいてしまう味覚的に超保守的なオジサン陸曹長あたりをも
「うーん・・・いや、これはこれでアリだ・・・」
と唸らせてしまいそうなこの味わい、お見事の一言に尽きます。派手に一本勝ちという訳ではありませんが、
技あり二本で手堅く主審に旗を上げさせた感じですね。
それにしても、T型の『ます野菜煮』や『鶏もつ野菜煮』に代表される野太いおっさん臭さと比べると、自
衛隊の戦闘糧食もずいぶん垢抜けてきました。若者向けといえばちょっと軽いですし、前衛的というのも大げ
さだなあ。どう言えばいいんだろうこういうのって・・・あ、そうそう、『モダンな味』。これがピッタリで
すね。そんな印象を強く残した一品でありました。
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