オランダ軍寒冷地用戦闘糧食
RANTSOEN ONDER EXTREME KOUDE VOOR 24UUR menu1



       さて今回は、オランダ軍寒冷地用戦闘糧食『ROEK24 menu1』です。オランダと言われてもチュー
      リップ
風車堤防少年、あとジョン・ブルミンぐらいしか思い当たるものがないのですが、よく考えてみる
      と江戸時代の鎖国期に唯一外交関係にあった国がオランダで、長崎の出島を通じて蘭学と呼ばれる
      西洋の学問や科学技術、文化、工芸品、宗教などがもたらされた・・・と学校で習った覚えがありますね。
       ちなみに私達が普段何気なく使っている言葉でオランダ語が語源になっているものは非常に多く、オルゴー
      ル、ガラス、コップ、ランドセル
等の他、『お転婆』もオランダ語のOntembaar(手に負えない)から来て
      いるとの事。しかしまた何ばーさんが転がるんだろう・・・。日本語って難しいですね。ザ・ローリング・
      バーサンズ
でしょうか。
       オランダの食文化に関しては、フランス料理の影響を受けながらもニシンタラ、ジャガイモ、チーズとい
      った比較的質素な食材が中心で、お祝いの日には御馳走よりもお菓子の類が充実するそうです。
       またお茶の本場大英帝国に負けない位にティータイムが市民の生活に浸透し、とにかく一日中何かを飲んで
      いるのが平均的なオランダ人像
との事。その辺りのオランダ食文化の特徴も、この糧食に反映されているか楽
      しみです。


       それにしてもこの戦闘糧食、一日三食分とは言え凄いサイズですね。みたいな大きさで、イタリア軍戦闘
      糧食に匹敵するデカさ
です。半透明の樹脂袋ごしに様々な食品が詰め込まれているのが確認できますが、この
      ベトナム風生春巻きみたいなシースルー加減に微妙なエロスを感じます。


       中からはこれまた樹脂袋で大まかに分類された食品類が出て来ました。とりあえず全部開封してみますが、
      ものすごい品数
に圧倒されます。オーストラリア軍の戦闘糧食も異様な品目数を誇っていましたが、オランダ
      軍も全く引けを取りません。


       一番目立っているのがギラギラと金属的な光を放つフリーズドライ食品で、やや小ぶりながら5袋も入って
      いるのが嬉しいなあ。
       それにしてもこのパッケージ、戦闘糧食であるにもかかわらずやけにカラフルで、大自然の中でキャンプし
      ているカップル
の写真が印刷されています。よく見るとオランダ語の他に英語、フランス語、ドイツ語で使用
      方法の説明書きがあり、恐らく市販されているアウトドア用のフリーズドライ食品を流用した様ですね。よく
      見ると『travel lunch』などと呑気な事が書いてあります。


       そして飲み物関係がすごい事になっています。ざっと見てコーヒー×4、紅茶×4、ココア×2、粉末ドリ
      ンク×2、発泡タブレット×2
、さらに粉末ブイヨンまでついています。これを一人の兵士が一日で飲むの?
      まあ全部を飲む必要はありませんが、これはいちいちお湯を沸かすだけで一手間ですね。もちろん水で作る事
      も出来ますが、この糧食はあくまで寒冷地用ですから、やはりお湯で作るのが前提なのでしょう。
       そういう意味では、固形燃料加熱剤が封入されていないのが気になります。フランス軍もロシア軍もイタ
      リア軍も、24時間分の糧食には固形燃料をつけていましたが、オランダ軍は個人レベルで小型ストーブを持
      ち歩くのかな?
またフォークやスプーンといったカトラリーも見当たらないので、これも各自で用意する模様
      です。
       とりあえず朝昼夕の3食分に、おおまかに分けておきましょう。







【Ontbijt(朝食)】
1:Instant habermout(インスタントオート
ミール)
2:Instant muesli(インスタントミュズリ)







【Warme maaltijd(温かい食事)】
1:Kip met Rijst en kerrie(チキンと
カレー風味クリームソース)
2:Appelvlokken(乾燥アップルフレーク)
3:Zweedse rundvlees(スウェーデン風ビーフ
シチュー)
4:Kerriesoep(カレースープ)




【Snackpack(軽食パック)】
1:Biscuits bruin(ブラウンビスケット)×2
2:Biscuits met fruit(フルーツビスケット)
3:Leverpastei(レバーペースト)
4:Mediteranee pate(地中海の果実ペースト)
5:Mexicaanse chili bean pate(メ
キシコ風チリビーンパテ)   6:エナジーバー
7:チョコレート    8:ビタミンタブレット
9:ヌガーバー×2


【Drankencomponent(飲み物セット)】
1:粉末スポーツドリンク(グレープフルーツ)
2:粉末スポーツドリンク(シトロン)   3:粉末ココア×2
4:粉末ブイヨン   5:紅茶   6:紅茶(イチゴ風味)
7:紅茶(シトロン風味)   8:紅茶(サクランボ風味)
9:スティックコーヒー×4   10:粉末ミルク×4
11:砂糖×10   12:発泡マルチビタミンタブレット×2




【Diversen(その他)】
1:ティッシュ   2:ハーブミックス×2   3:塩×2
4:ガム   5:胡椒×2   6:サンバルソース×2
7:チュアブルブラシ   8:マッチ   9:つまようじ×2












       まずは朝食から。全部で5袋あるフリーズドライ食品のうち、朝食分だけは何故か説明書に指定されていま
      した。
どうやらオートミールの類みたいです。
       と言う訳でInstant habermout(インスタントオートミール)から作ってみましょう。開
      封すると中には白い粉末にまみれたシリアル状のものが入っていて、これがオートミールってやつですね。


       パッケージの上部には簡単な作り方のイラストが描かれてあり、どうやら125〜150mlのお湯を注い
      でかき混ぜ、そのまま3〜5分待てとの事。とりあえず125mlの熱湯を注いでざっとかき混ぜ、開封口を
      折り畳んでしばらく待ちます。パッケージの底が立体加工なので、水平な場所ならそのまま置いておけるのが
      親切設計。
       続いてはもう一つのフリーズドライ、Instant muesli(インスタントミュズリ)。こちらは
      60〜90mlの熱湯で作ります。ちなみにミュズリとは、オートミールにドライフルーツやナッツ類を混ぜ
      たもの
との事。


       さて3分経ったので、さっそく食べてみましょう。先に作ったInstant habermoutを器に
      出してみるとどろんどろんのでろんでろんで、まあお粥と似た様なものですが、このやけに乳製品臭い香り
      脳に来るなあ。私はチーズも牛乳も平気ですが、このあからさまに乳臭い香りはちょっと・・・。
       とりあえず一口食べてみます。うーん、何だろうコレ。甘くない練乳に鳥の餌を混ぜた様な・・・。繊維質
      や栄養は非常に豊富そうですし味も悪くないですが、これがお茶椀に山盛り一杯ぐらいあるのはキツイです。
      ものすごくヘビーな離乳食みたい。
       そしてこの匂い・・・何と言うか、ガラの悪いおっぱいみたいな匂いなんですよね。決して不味くはないの
      ですが、うーん・・・。


       もう一方のInstant Muesliも器にあけてみます。うん?お湯の量が少なかったせいか、かな
      りボッテリと重い感触
です。そしてこちらもかなり乳臭く、甘ったるい香りもプンプン。一呼吸置いてから、
      一口頂きます。
       ううう、こちらは更にヘビーな口当り。食感としてはワサビ漬けに近く、舌の上にべったりと乗ったミュズ
      リが口腔内のあちこちにへばりつき、甘ったるい乳臭さを振りまいています。
       とは言え、ゆっくりと噛みしめるとレーズンやリンゴ、バナナ等のドライフルーツの香りが意外と軽やかで、
      最初は非常に重く感じた甘味を爽やかなものにしています。先に食べたInstant habermout
      よりも麦の粒が大きいお陰で噛み応えもありますね。溶けたバニラアイスを煮詰めた様な濃厚な味わいは評価
      の分かれるところですが、説明書きよりも多めのお湯で作ればもう少し食べ易くなったかも。


       飲み物はCacaodrankpoeder。所謂ココアですね。説明書きの通りに200mlのお湯を注
      ぎますが、ココアのつくり方の定石に則って、先ずは少量のお湯で粉末を練る様に溶かし、滑らかなペースト
      状になった所で残りのお湯でのばします。ああ、これは実に分かりやすいココア味。直線的ながらもふんわり
      柔らか
で、実にいい感じであります。
       母性的な甘さに蜘蛛の巣の様にからめ捕られてしまった先のオートミール2品とは違い、いかにもココアら
      しいはっきりとした味にはホッとさせられます。冬山で遭難して意識朦朧としていたところに救助犬が駆け付
      け、首に巻いた樽からブランデーを飲ませて貰った時の気分ってこんな感じなのかなあ。
       次はギラギラと黄緑色に輝くブラウンビスケット。あ、これってイギリス軍戦闘糧食に入っていたものと同
      じですね。ヨーロッパは殆どの国が陸続きな上に、EUという巨大な経済圏でまとまっているので、他国と共
      通の糧食を使っている事が多いみたいです。


       ただこのブラウンビスケット、パッケージの上から触ってもはっきりと分かるほど中身がぐしゃぐしゃに潰
      れています。
同じパッケージに入っていた缶詰も思い切りひしゃげていたので、どうやら私の手元に届くまで
      の間にものすごい物理的な衝撃に襲われた模様。
       開封してみると正にその通りで、以前試食した時はキレイな長方形だったビスケットが、まるでスナック菓
      子みたいに砕け散っていました。
とりあえず6枚入りのうち3枚分と思われる、半分ほどの欠片を取り出しま
      す。
       うん、あいかわらず美味しいビスケットですね。穀物の風味が豊かで甘さもごくあっさり。主食としても十
      分通用する大人の味のビスケットであります。
       何枚でもいける飽きのこない味わいですが、この朴な風味がココアともよく合うなあ。噛めば噛むほどに
      食物繊維ビタミンが口の中にじわっと広がる感じ。最初のオートミール2連打でどうなる事かと思われたこ
      の朝食ですが、ここに来てようやく落ち着きを取り戻した様です。
       さてもう一品、Mediteranee pateです。直訳すると地中海の果実パテですが、ジャムみた
      いなものなのかな?地中海の果物ってなんだか美味しそうですが・・・と期待を膨らませつつ開封すると、
      ん〜?なんじゃこりゃ。
パッケージを開けた途端に醤油みたいな香りが漂い、地中海の果物のイメージとは似
      ても似つかなどろんと濁ったパテが入っていました。なんだか二日酔いで著しく顔色が悪い味噌みたいなんで
      すけど・・・。


       眉間にしわを寄せながら一口食べてみますが、うーん、何と言うか・・・チーズの味噌漬けにウスターソー
      スをかけた様な・・・?
ほのかにパプリカや香味野菜の香りがありますが、これの一体どこが地中海の果物な
      んだよう・・・。

       しかしこの異様なパテが、食べ進むにつれて不思議に美味しく感じます。確かに一口目は目を白黒させてし
      まいましたが、これはこれでなかなかイケますよ。エスニック風金山寺味噌というものがあれば、これに近い
      かな?
       これはちょっとクセになる味ですね。ぱっと見は普通の真面目そうな人なのに、少し話すととんでもないド
      変態だった事が分かってちょっとどうしよう・・・
という気分でしたが、しばらく話してみると意外と好人物
      だった・・・みたいな感じでしょうか。このパテ、市販されてたら欲しいなあ。
       締めは定番のコーヒー。市販の安物スティックコーヒーですが、苦味ほどほどで酸味の効いた味わいが、
      ったりと舌に乗った甘さ
変態チックな味わいに翻弄された舌をすっきりさせてくれました。砂糖と粉末クリ
      ームがありますが、ブラックで飲んで丁度いい具合でしたね。


       異様な味わいのオートミール2品で先制パンチを喰らわせた後にココア、ビスケットと安心できる味わいを
      重ねて油断させ、そこに強烈な果物パテという悲惨なオチで終わるかと思いきや、これが慣れるとヤミツキに
      なる味だった・・・
という、まるでジェットコースターの如き目まぐるしい朝食でありました。
       ネトネトのオートミールと固焼きビスケットのお陰で噛む回数がやけに多く、朝からすっきり目が覚める感
      じですね。
       前後の味の組み合わせ的には、ココアよりもスポーツドリンクでさっぱりさせた方が良かった気もしますが、
      朝一番から体温血糖値を上げるという意味では、ココアで正解でしょう。




       昼食の前に、まずは本日一回目のティータイムと行きましょう。THEEZAKJE KERSEN(サク
      ランボ風味のティーバッグ)は400mlのお湯で作ります。それにしても400mlって、普通にティーカ
      ップ2杯分
ですね。流石に一日中何かを飲んでいるオランダ人であります。
       いかにも香料でつけた様なわざとらしいサクランボテイストが鼻につきますが、それ以外はごく普通の紅茶
      でした。


       ちなみにオランダのティータイムでは、ビスケットを一枚添えるのが伝統だそうです。という訳でフルーツ
      ビスケット
を開封。これもイギリス軍戦闘糧食に入っていたものと同一品ですが、やっぱり美味しいなあ。
       キャラメルっぽい口当りのドライフルーツの香りが鮮やかで、あっさりした甘さもあって戦闘糧食とは思え
      ないとてもリッチな気分になります。
       それにしてもこの爽やかながらも深い果実の味わいは素晴らしいなあ。木イチゴの様なあんずの様な、レー
      ズン
の様なイチヂクの様な?


       もう一品のお茶受けはSports Nougat。所謂ヌガーバーというやつです。手っ取り早くカロリ
      ーを補給できるので各国の戦闘糧食によく封入されていますが、甘味の苦手な私は美味いと思った事が一度も
      ない
んですよねえ。それを見越して紅茶はストレートで飲んでいるのですが、早くもゲンナリしてきました。
       薄手のパッケージを破るだけで、一気に血糖値が上昇しそうな甘い香りが鼻粘膜に突き刺さります。ナッツ
      やドライフルーツが散りばめられてカラフルですが、やっぱりこれ、食べなきゃダメですか(泣)?


       覚悟を決めて端っこに齧りつきますが、うおおおおお、もう甘いとしか言いようがありません。口当たりは
      柔らかめの発泡ウレタンみたいですが、舌の上でとろける程に俺を殺す気かと怒鳴りたくなる甘さが広がり、
      正直もう勘弁してという気分に。1本で30gと書いてありますが、これを一つ作るために砂糖を1kg位使
      ってる
んじゃないでしょうか。
       1cmまで食べた所で有りもしない虫歯がズキズキと痛み始めたので、こりゃもうダメだとギブアップ。食
      べているだけでガムシロップの様な汗が顔を伝い、一口ごとに糖尿病で100日ずつ寿命が縮まりそうな、さ
      ながら甘味界の恐怖新聞の如き一品でありました。


       うーん、リラックスできる筈のティータイムでくたくたに疲れ切ってしまうとは・・・。甘味の好きな人に
      は御馳走でしょうけど、私的には口直しの醤油の焦げたお煎餅が欲しくて仕方ない午前の休憩でありました。




       さて、続いては昼食。フリーズドライ2品を中心に幾つかの食品をチョイスし、さっそく試食です。
       メインのKip met Rijst en kerrie(チキンとカレー風味クリームソース)ですが、
      英訳ではChicken Curry with Riceとなっています。えーと、つまりはチキンカレー
      ライスって事?

       オランダ軍の戦闘糧食にカレーが採用されている事も驚きですが、カレーライスを組み合わせるという事
      は、本場インド風ではなく日本式のカレーライスなのかな?
       まあフリーズドライですから、恐らくカレーリゾット風のものであろうと予想できますが、それにしてもこ
      れは面白くなってきたなあ。これこそが海外物の戦闘糧食を試食する醍醐味・・・とほくそ笑みつつパッケー
      ジを開封すると、んん〜、何じゃこりゃ。とてもカレーとは思えない、真っ白なフレーク状のものが入ってい
      ました。


       しかも漂ってくる香りはまるでプリンみたいで、これに350mlのお湯を注いで5〜10分待てば本当に
      カレーライスになるの?なんか滅茶苦茶怪しいんですけど・・・。
       早くも頭上に暗雲が立ち込める中、取り敢えず説明書きの通りにお湯を入れ、全体をかきまわしておきます。
      その間にもう一つのフリーズドライAppelvlokken(乾燥アップルフレーク)を開封。恐々中を覗
      き込むと、まるで鉛筆の削りカスのようなチップ状のものが入っていて、こちらはちゃんとリンゴの香りがす
      るので少し安心。100mlのお湯を注いでかき回し、3〜5分置いておきます。
       飲み物はBRUSISTABLET MULTVITAMINES(発泡性マルチビタミンタブレット)。
      パッケージからは500円玉サイズのタブレットが出て来ました。これを200mlの冷水で溶かします。


       おお、いきなりしゅわしゅわと泡を立てて溶けはじめました。その発泡加減はなかなかの勢いで、小さい頃
      に駄菓子屋で買ったインチキサイダーの素
を彷彿とさせます。そしてタブレットはあっという間に溶解し、
      レンジ色の液体
が出来上がりました。先ずは一口飲んでみましょう。
       うーん、この駄菓子屋っぽい子供騙しテイストが、今となっては妙に新鮮だなあ。チェリオオレンジから
      酸
とあと大事なものを抜いた様な味わいで、申し訳程度に残った微炭酸がいい感じ。


       単にビタミン補給を目的とした飲み物ならこんな中途半端な炭酸入れる意味はありませんが、これはオラン
      ダ軍が戦闘糧食に入れた遊び心の一つ
、と好意的に解釈すべきでしょう。
       もう一つの粉末ドリンクはSPORTS−ENERGYGRAPEHRUIT。グレープフルーツ味のスポ
      ーツドリンクですね。細かいパウダー状の粉末を250mlの冷水で溶かすと、真っ白な飲み物の出来上がり。
      見た目の濁った白さが、昔飲んだスコールにそっくり。このオランダ軍戦闘糧食、いちいちおっさんのノスタ
      ルジーに訴えかけて来るものがあってちょっと心憎い
なあ。
       一口飲んでみると、甘口のポカリスエットにカルピスっぽい乳酸菌飲料の香りを足した様な味で、普通に美
      味しいです。子供にも好かれそうな味わいですね。


       さらにBouillonpoeder(粉末ブイヨン)を開封し、250mlのお湯で溶かします。おお、
      これもイケますよ!おでんスープにちょっと塩を足した様な、ホッとする味わいです。今回は寒い時期に試食
      を行っているという事もあり、この胃袋にじわっと広がる温かさも美味しさの一つ。粉末スープは各国の戦闘
      糧食にしばしば封入されていますが、これはその中でもかなり美味しい部類に入ります。


       そろそろ10分経ちました。問題のKip met Rijst en kerrieを食べてみましょう。
      恐る恐る開封すると、んん〜?これがカレーなの?なんだかもの凄く甘ったるい香りなんですけど・・・。
       かなり警戒しつつ、先ずは一口。うーん、カレー・・・の様な気もしないではないですが、私達が普段食べ
      ているカレーとは味も香りも1万光年ぐらい隔たっています。リンゴ、パイナップル、桜桃の缶詰をシロップ
      ごとミキサーにかけて、そこにココナッツミルクを足して煮込み、最後にほんの申し訳程度のカレー粉を入れ
      ればこれに近い味になるのかなあ。敢えてこれをカレーと解釈するならば、激甘フルーツカレーかなあ。
       ライス自体はぱらりとした長粒種で、たっぷりのスープにからめ捕られてリゾット風になっています。具は
      小さくカットされた鶏肉レーズン。このレーズンが甘ったるい香りに拍車をかけていて、もうこれはどうす
      ればいいのやら。
こんなカレーを海自の艦艇で出したら、それこそ戦艦ポチョムキン状態になるのは間違いな
      しでしょう。一般の曹士よりも冷静沈着である筈の艦長や副長、先任海曹達が、真っ先にブチ切れて暴動を起
      こしそう


       しかしこれはキツいな・・・半泣きで食べますが、最初はこの悲惨な味に衝撃を受けたこのカレー、不思
      議な事に
食べ進んで行くと妙に美味しく感じます。いや、不味いどころかひょっとして美味しいんでは?こう
      
いうカレーがあってもいいじゃないかと認めさせる、正体不明の説得力がありますね。
       最後に至っては、ちょっとこれおかわり欲しいなあと言いたくなる位に気に入ってしまいました(笑)。い
      やあ何なんでしょうこの不思議な魅力。タイのグリーンカレーに通じるものがありますね。最初は絶句したも
      のの、食べているうちに
ヤミツキになるこの風味がたまりません。
       それにしても、オランダのカレーライスってこんな感じなの?そもそも何でオランダにカレーライスが?気
      になったので少し調べてみると、オランダは17世紀初頭からインド東部を植民地にしていたらしく、既にそ
      の頃からオランダ本国にカレー味の食文化が入っていた模様です。日本にカレーが入ったのが明治以降ですか
      ら、ことカレーに関してはオランダは日本の先輩格だったと言えるでしょう。
       いや、そもそも日本のカレーは同じくインドを植民地化していたイギリスを経由して入ってきたのですから、
      血縁で言えばオランダは大叔父上という間柄なのかな?いやあ、これは意外な接点ですね。
       インドを起点として香辛料、いやカレービッグバンが発生し、流れ着いた日本で別方向に極限の進化を遂げ
      て生まれたのが今のカレーライスですが、それよりも遥か先の時代に遠くオランダの地に於いて、こんな形で
      進化したカレーがあったんですねえ。
ニッポンのいちカレー好きとして、実に面白い体験をさせて貰いました。


       もう一方のフリーズドライであるAppelvlokkenですが、開封してみると意外にもドロドロに溶
      け切っておりました。てっきり元のフレーク状のまま膨らむのかと思いきや、これは完全にすりおろしリンゴ
      です。
       一口食べてみると、口当たりはマッシュポテトみたいですが味はそのまんまのリンゴ味。片栗粉でまとめた
      様な変な粘りが少し気になりますが、お味はなかなかのもの。パキパキした歯応えのブラウンビスケットとの
      の相性もよく、リンゴの自然な甘酸っぱさブラウンビスケットの素朴な穀物の味わいが実にマッチしていま
      すね。
       続いてはすっかりひしゃげてしまったLeverpastei(レバーペースト)をパッカンします。それ
      にしても頑丈な缶詰がここまで凹むとは、一体どんなレベルの衝撃がかかったんでしょう。お陰でビスケット
      は粉々
ですが、他の食品はよく無事だったなあ。


       おお、これもイケますよ!やや塩味が強いですが、レバーの野性味が濃厚で甘酸っぱいフルーツカレーと好
      対照ですね。レバーらしいケモノ味もたっぷりで、これは食べる端から力が湧いてきそう。大地の力強さを感
      じさせるブラウンビスケットとも互角の勝負を繰り広げる地力があり、これはレバー好きには堪らないなあ。


       メインとなるフリーズドライ2品と飲み物が甘酸っぱい味わいだったので、これぐらい塩味の効いた食品が
      あるとメニュー全体が引き締まりますね。そういう意味では、持っている実力以上のものを出してくれたレバ
      ーペースト
だったと言えます。
       いやー、実に満足度の高い昼食でした。いずれも強い個性を持った役者ぞろいでしたが、それらがガッチリ
      と噛みあって見事なハーモニーを奏でてくれた感じです。


       中でも主役を張ったKip met Rijst en kerrieのインパクトは絶大で、最初はぎゃ
      ああ何じゃこりゃあああ
と思いましたが、食べ進むうちにその味の虜になっていく自分を止められない・・・
      といった感じでした。
       まるで女王様のムチやロウソク、言葉責めや○○○責めによって眠っていた被虐嗜好を目覚めさせられ、ヨ
      ダレを垂らして身悶えしている中年のおっさん
みたいで自分が薄気味悪くはありますが、SMクラブに通い詰
      める奴隷
の気持がちょっとだけ理解できた昼食でありました。




       さて、本日二度目のティータイム。とりあえずTHEEZAKLE AARDBEI(イチゴ風味のティー
      バッグ)を開封すると、これまたフルーツ消しゴムの様なわざとらしいイチゴの香りが漂って来ました。
       とは言え、400mlのお湯で作ると普通に飲める紅茶ですね。これなら変な香料なんてない方がいい気が
      しますが、一日に何度もティータイムがあるオランダですから、中にはこんなイロモノがあってもいいんだろ
      うなあ。


       午後のおやつはChocoladereep(チョコレート)。戦闘糧食らしく固めの口当りで、グッと噛
      みしめるとぱきんと割れる感じ。甘い事は甘いですが、少し焦げた様な香りもあって意外とイケますね。ちょ
      っと違うかもしれませんが、コーヒー味のチョコってこんな感じかな?大人っぽさを感じさせる、なかなかシ
      ブイ味わいでありました。




       では夕食です。まずはフリーズドライのZweedse rundvlees(スウェーデン風ビーフシチ
      ュー)を開封し、400mlのお湯を注いで撹拌。開封口を折り曲げて10分間置いておきます。
       続いてはKerriesoep(カレースープ)を作りますが、一日分の糧食に2品もカレー味が入るとは。
      オランダ食文化におけるカレーの地位は、意外と高いのかもしれません。


       パッケージを開封すると、カシミヤイエローの粉末が出て来ました。昼食のKip met Rijst 
      en kerrie
に比べると随分とカレーらしい香りがあり、これは期待できそう。さっそく175ml
      お湯を注ぎ、しっかりとかき混ぜます。プンと漂うカレーの香りが美味しそうですよ。カレーらしからぬ鮮や
      かなレモンイエロー
がちょっと独特ではありますが、先ずは一口。
       ほほう、これはなかなか。思ったよりもミルキーな味わいですが、辛さは結構はっきりしていますね。日清
      カップヌードルカレー味をホットミルクで作ると、近い味になりそう。
うん、これはこれで十分アリなカレー
      スープだと思います。
       明るい黄色のスープには沢山のドライパセリニンジンが浮かび、随分と春めいた色合い。ん?このカリカ
      リした食感はクルトンかな?若干飛び道具っぽくはありますが、ちょっとした遊び心もあり、いい意味で戦闘
      糧食っぽくない一品
でした。


       お次はMexicaanse Chili Been Pate。メキシコ風のチリビーンズパテですね。
      チリビーンズは大好きなのでワクワクしつつ開封すると、おお、如何にもメキシカンな香りが漂ってまいりま
      した。一口掬って食べてみると、これもなかなかイケますよ。荒く潰したキドニービーンズの皮のプチプチし
      た食感
もよく、缶詰のチリビーンズそのまんまの味です。ああこれ、トマトやチーズと一緒にタコスでくるん
      で食べたいなあ。

       容器の隅に残ったパテがスプーンでは取り辛いのですが、割れたブラウンビスケットの欠片でこそげる様に
      して食べるとこれも驚きの美味!最初からビスケットに乗せて食べればよかったかも。


       さて、そろそろ10分経ちました。果たしてスウェーデン風ビーフシチューとはどんな物でしょう?ワクワ
      クしつつメストレーにあけると、おお、何だこりゃ。ぱっと見はリゾットみたいなものがどばっと出て来まし
      た。
       とりあえず一口食べてみますが、ほほう、これも美味しいなあ。このお米みたいなツブツブは細切れのジャ
      ガイモ
で、お米が無かったからジャガイモを刻んでなんちゃってリゾットを作ってみました!という感じです。
      しかもこのジャガイモ、ギリギリまで生っぽい食感を残した状態で、ジャガイモとは思えない歯応えが楽しめ
      ますね。ジャガイモとクワイの中間の様な、実に不思議な口当りが面白いなあ。


       味付けはシンプルなブラウンソースですが、バター醤油風の香りもあり、基本洋食の味付けながらどこか和
      風のテイスト
も感じられますね。
       原材料表示を見るとジャガイモ、牛肉、ニンジンの他にトマトマッシュルームも入っている様ですが、後
      の2つは目視では確認できず。牛肉はBB弾サイズのものが沢山散らばっていて、それだけ選んでじっくり噛
      みしめると、ちゃんと牛肉の味わいが舌の上広がります。この辺はフリーズドライの凄いところだなあ。さっ
      きまでカサカサの粉末状だったとは思えません。
       お湯を注いだ後しっかりとかき混ぜたのですが、それでも所々ダマになっていました。10分間お湯で戻す
      途中で、もう一度念入りにかき混ぜた方が良かった
かもしれません。


       口の中が塩っぱくなったので、SPORT−ENERGY CITROENLEMON(シトロンレモン風
      味のスポーツドリンク)を作ります。さらさらした粉末を250mlの冷水で溶かすと、甘さも酸味も程良い
      スポーツドリンク
の出来上がり。シトロンの自己主張は程々で、優しい味わいがいい塩梅ですね。塩味に疲れ
      た舌をさっぱりさせてくれますし、ブラウンビスケットとの相性もなかなか。


       あと、TREKKING−RIEGELと書かれたスポーツバー。開封すると、中からはタイルの様な平べ
      ったい物が出て来ました。よく見ると既に一口大にカットされていて、表面を薄いウエハース風の生地でコー
      ティングされているので、指を汚さず上品に頂く事が出来そう。
       さっそく一つつまんでみると、うーん、この風味はレーズン・・・いや、イチジクかな?自然で優しい果実
      の甘味が爽やかで、時折プチプチ潰れる種子の食感も心地いいなあ。これ一袋だけでも結構なボリュームがあ
      りますし、消化吸収も良さそう。戦闘糧食としてはかなり優秀ですね。甘味あっさりなので、普通に主食とし
      ても食べる事が出来そうです。


       最後はスティックコーヒーで締め括ります。いやー、夕食も美味かったなあ。どれも食べ応えのある個性の
      強い味わい
でしたが、さっぱりしたスポーツドリンクが上手にそれぞれを引き立てて、大人しい味わいのコー
      ヒーが無難に着地を決めてくれた感じです。昼に続いて、実に満足度の高いメニューでした。



       最後は夕食後のティータイム。THEEZAKJE CITROEN(シトロン風味のティーバッグ)を400mlのお
      湯に入れて紅茶を作ります。ごく普通のレモンティー風味のお茶ですね。ここまでイチゴ風味、サクランボ風
      味と飲んで来ましたが、このシトロン風味が一番違和感なく飲めました。フルーツビスケットとの相性も、こ
      れが一番良かったように思います。
       お茶受けはDextrose Tabletten。ビタミンCとデキストリンが添加されたタブレットキ
      ャンディーで、疲労回復と整腸効果が期待できそう。


       パッケージをむくと10円玉サイズのぶ厚いタブレットが出て来ましたが、中央部がへこんでるところが
      の開いていないパインアメみたい
。口の中で転がしているとじんわりほんのりと甘酸っぱさが溶けだし、噛む
      とラムネみたいなスカスカした粉っぽさもありました。ちょっとした小休止に一粒口に放り込むには丁度いい
      感じですね。米軍のMREにありがちなベタついた甘味ではないので、気分もスッキリです。



       あと、3度の食事とティータイムでは食べ切れなかったものを消化します。
       メントスの粒ガムですが、結構大きめのものが12粒も入っています。味はごく普通のミントフレーバー
      すが、パッケージのギラギラ加減がかっこいいなあ。
       Sanbalって・・・あのインドネシア料理等でよく使われるサンバルソースかな?甘辛酸っぱいチリソ
      ース風の調味料で、東南アジア各国ではこれとよく似たソースをありとあらゆる料理にかけるのですが、これ
      がオランダ軍の糧食に入っているとは思いませんでした。これも植民地時代の名残なんでしょうか。
       今回のメニューでは使いどころが見つからないままだったのですが、これだけ食べても仕方ないので、今度
      タイ料理を作った時にでも試してみる事にしましょう。
       Kruidenmix(ハーブミックス)も、サンバル同様に今回は出番がありませんでした。肉料理や魚
      料理に使えばいいのかな?これもいつか試してみます。
       THEEZAKJEは、香料の添加されていない普通のティーバッグでした。


       あと正体不明だったのが、KAUWBORSTEL。直訳するとチュアブルブラシとの事ですが、歯ブラシ
      みたいなものかな?パッケージを開けると小さなピンポン玉みたいなものが出て来て、中からは歯ブラシの頭
      の部分だけみたいなの
が転がり出て来ました。


       どうやらこれは口の中で噛んで転がして使う歯ブラシの一種らしく、よく見るとブラシの部分に歯磨き粉っ
      ぽいモノ
がこびりついていて、不自然な爽やかスメルを振りまいています。
       へー、こんなハブラシ初めて見た・・・と思いつつ口の中に放り込んでカミカミしてみます。最初は飲み込
      んでしまいそう
で使いづらかったのですが、慣れるとこれがなかなかよく出来たシロモノで、突起の部分を歯
      や唇に引っかけたり口の中で梃子の様に動かすことで、奥歯や歯の裏までこしこし磨く事が出来ます。


       いやー、こんなハブラシが世の中にあったとは!もしかして知らなかったのは私だけなんでしょうか?やっ
      り世界各国の戦闘糧食の試食って面白いなあ。



       以上、オランダ軍寒冷地用戦闘糧食REOK−01の試食を終わります。寒冷地用という事でフリーズドラ
      イ中心でしたが、それだけにどれも味は良かったですね。朝食のオートミールは私の普段の食生活にはないも
      のだったので少々面食らいましたが、昼食のチキンカレーライスは私の中のカレーの新たな地平線に気づかせ
      てくれました。最初はうげっと思いましたが、じっくり食べてみると結構美味しい・・・。国境を越えた人づ
      き合いも、こういうものなのかもしれませんね。また一つ戦闘糧食に教えられた気分です。
       飲み物を好む国民性ということもあり、充実した沢山のドリンク類はどれも美味しく、質の高いビスケット
      とともに初見の食品類を少しでも食べ易くなるようサポートしてくれた感じです。
       また、オランダの戦闘糧食でカレー味が2つも楽しめるとは思いませんでした。どちらも実にユニークな味
      わいで、これまであまり馴染みのなかったオランダの食文化に対して大いに興味を抱かせてくれた戦闘糧食で
      ありました。




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