ポークカレー
さて今回は、自衛隊非常用糧食『ポークカレー』です。U型無印版のビーフカレーから始まって、U型改善
版ではウインナーカレーへと進化した自衛隊戦闘糧食カレーですが、最新の非常用糧食ではポークカレーが満
を持してのデビューとなりました。
ちなみに今回のポークカレー、わずか160gしかありません。U型無印のビーフカレーが270gという
大ボリュームで400gもの白飯を相手にしていた事を考えると、もの凄いダウンサイジングですね。今回の
主食は白飯&五目チャーハン。カレー一本で身を立てていたこれまでの方針を改め、メインのカレーをコンパ
クト化させてスーパーサブとでも言うべき五目チャーハンを迎え入れた様。小排気量化&高効率ターボの採用
という、近年のF1みたいな流れになっています。
メインのカレーをどかっと食べたい!という意見もあったと思いますが、限られた予算内で少しでも満足度
を高めたいという今回の選択、私は十分に評価したいなあ。さっそくレトルトを温めて試食と参りましょう。
まずは主食の五目チャーハン。いかにもチャーハンらしくお米の一粒一粒に旨味と脂肪分がまとわりつき、
程良い塩気と醤油の香りが実にいい塩梅。長期保存のレトルトのチャーハンでここまでやってくれれば文句な
しです。出しゃばった味付けではないので、他のおかずの邪魔をしないのも立派だなあ。ふと思ったのですが、
これを改めて中華鍋で炒め直したらどうなるんだろう。本末転倒の様な気がしますが(笑)、けっこうイケる
気がしますよ。一度試してみたいなあ。
白飯はいつもの白飯君です。お米の甘味旨味を味わえる・・・という訳ではありませんが、誰と組んでも相
手の持ち味を生かす役割を心得ているあたり、やはり最も頼りになる主食と言えますね。
そして肝心のポークカレーを開封。あれ?今回のカレーはこう来たか。カレーのルーと脂肪分がはっきりと
別れていて、表面を明るいオレンジ色の油がガラス板の如く覆っています。見たところ具は豚バラ肉、ジャガ
イモ、ニンジンかな?ぱっと見が本格的なインドカレーみたいなのがちょっと驚きです。U型無印版から数え
て3作目となる自衛隊非常用糧食のカレー、どうやら相当思い切ったモデルチェンジを断行した模様ですね。
先ずは一口。
ほほう、なるほどこう来たか・・・意外な事に、あまりカレーらしくありません。野菜の甘味(主としてト
マト)、そこにナツメグっぽい香りがほのかに絡み、カレーというよりもスパイスの効いたトマト煮込みみた
いな感じ。うん、確か随分前に、こんなカレーを専門店で食べた記憶があるなあ。ジャポニズム溢れるカレー
ライスではなく、源流であるカリーに近い印象。これは新鮮な驚きです。
辛さは大したことは無く、もう少し頑張ってもよかったんでは・・・とは思いますが、全体のバランスで言
えばかなり美味しいですよ。これは日本人より、むしろインドの人に食べさせて感想を聞いてみたい味です。
ただカレーらしい香辛料の刺激的な風味は控えめなので、若干のレトルト臭さが気になる様な・・・。そこ
にトマトとチャツネの酸味が加わり、何故かマトンカレーに近い風味を感じます。豚肉の脂肪独特の甘い香り
は確かにありますが、全体的に見るとマトンカレーっぽいのが面白いなあ。
わたしはマトンのカレーが好きなので、これはむしろ嬉しい誤算ですが、U型無印版から続いた正統派カレ
ーライスの継承を期待していると、ちょっと裏切られた気分になりそう。白飯との相性も悪くありませんが、
この思い切った自衛隊カレー革命に戸惑う隊員さんは少なくないのでは。
「うーん、美味しいけど、前のカレーの方がよかった・・・」
とこぼす隊員さんがいても仕方ない気がします。
とは言え、この新しい事に挑戦する意欲だけは買うべきだな・・・と何気なく五目チャーハンにカレーをか
けて食べると、あれ?何これ?滅茶苦茶美味しいんですけど!この今一つカレーライスらしくないカレーが、
五目チャーハンと素晴らしい相性の良さを見せています。ななななな、何だこりゃ?
ピラフにトマト味の豚肉シチューをかけた料理・・・というか、カレーとは全く違ったシロモノに変貌して
います。なんかトルコ料理あたりにこんなのがありそう。白飯食ってる場合じゃないぞこれは(笑)。
五目チャーハンの予想外の大活躍に驚かされたというか、まさかこんな組み合わせがあったとは思いません
でした。まさかまさかの大当りですよ、ポークカレー&五目チャーハン!
それだけに、カレーの女房役は自分しかいないと信じて疑わなかったであろう白飯君の落ち込みぶりには、
思わず目を覆いたくなるものがありますが、世の中あるんですよねえ・・・こういう思いもよらない展開が。
とりあえず今夜は、白飯君を飲みにでも連れ出してやろうかと思います。
いやあ、ほんと美味しかったですよ、ポークカレー&五目チャーハン。最初からこの組み合わせで食べれば
よかったなあ(白飯君に聞こえない様に)。
しかしこうなると、いかにも正統派なニッポンのカレーライスがメニューに欲しくなるなりますね。とは言
えそれでは、既にあるかつおカレー煮と合わせて全20メニューのうち3つがカレー味になってしまいます。
いくら人気の高いカレーとは言え、それはちょっとどうかなあ。
かつおカレー煮の変態キャラはもはや棄てるには惜しいレベルですし、ポークカレーのチャレンジ精神も大
いに評価したいところ。正統派カレーを入れる為にこの2つのうちどれかを削るのは、やっぱり反対ですね。
と、ここで気がついたのですが、近年早いペースでメニューの更新が進んでいる自衛隊の戦闘糧食。メニュ
ーの中の中華依存度が、更新される度にどんどん下がっている様な・・・。
改めてメニュー表を確認すると、全14種あったU型無印版では中華丼、中華風肉団子、酢豚と3品もあっ
た中華メニューが、全21種のU型改善版では野菜麻婆と中華風カルビの2品に削減され、最新の非常用糧食
では麻婆豆腐一品のみ、全20種中1品になっています。これの意味するところは一体・・・。
よくよく考えてみますと、最新の非常用糧食からは純和風の味わいを持つ食べ応えのあるメニューが増えま
したし、タコライスからは在日米軍基地の香りがプンプンします。さらに滅茶苦茶美味しいスタミナ丼は、ど
う考えてもタイ料理の鶏肉バジル炒めそっくり。そして言うまでもなく、軍事や領土、経済分野で中国と激し
く対立しているインド料理の比率が、ここにきて急上昇。
これまでのメニュー改定の流れを私なりに読み取ると、和食メニューの充実でしっかりと足元を固めながら
中国をメニューから外しにかかり、在日米軍とインドを中心とした東南アジア諸国との連携を、今後一層深め
て行く・・・というメッセージが、この非常用糧食に込められている気がします。
深読み・こじつけ・考えすぎの三拍子揃った私の戦闘糧食試食レポではありますが、今回のこの大発見はあ
ながち的外れとは言い難い気がします。T型の缶飯ばかり食べていた頃では考えられない程、世界情勢に柔軟
に対処する事が求められている自衛隊。こんなところにも一連の変化が表れているのか・・・と唸らされた試
食でありました。
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