さて、さっそく試食に移ります。まずはウェットティッシュで手を拭きますが、これがモロにアルコールの
ニオイがします。海外の戦闘糧食に封入されているウェットティッシュには、かなり強烈な香料が添加されて
いるものが少なくいので、この無愛想さは逆に新鮮だなあ。かなりビタビタに濡れているので、これなら負傷
時に傷口を消毒するのにも使えそうですね。
koncentrat napoju herbacianego instant o smaku malinowym(粉末ラズベリー飲料)という
異様に長たらしい名前のパッケージを開封すると、中からは明るい紫色の顆粒がザラザラと出て来ました。い
かにもラズベリーっぽいキツいニオイが漂いますが、見た目が何だか熱帯魚のエサっぽいなあ。
ポーランド語の説明書きの通りに500mlの冷水で溶かすと、赤紫色も鮮やかなドリンクの出来上がり。
一口飲んでみると、おお、あっさりと甘酸っぱくて美味しいなあ。戦闘糧食の粉末飲料としてはかなりイケる
部類です。説明書きには“温水でも冷水でもOK”とありますが、なるほどこれなら温めても美味しそう。ホッ
トワインに近い感じでしょうか。
続いて一つ目の缶詰。中身の見当が全くつかないのでドキドキしながらパッカンすると、何やら黄土色のパ
テみたいなのが詰まっていました。ナイフで削って食べてみると、おお、これは実に美味しいレバーペースト
ではありませんか!レバーペーストは大好物なので、たまに輸入食材店で缶詰を買って酒の肴にしたりしてい
るのですが、これは今まで食べた中で一番美味しいなあ。
舌触りは滑らか&クリーミー、レバーの野性的な味わいもたっぷりで、塩味の加減も見事な着地を決めてい
ます。いやー、これは感動的な美味さ。食べた瞬間から血となり肉となる・・・と言うか、体中に力が漲る気
がしますね。パプリカと一緒に、レタスで包んで食べたら最高だろうなあ。
もう一つの缶詰はポークパテ。うすピンク色の表面はじっとりと脂肪で濡れていて、これも期待できそう。
一口削って食べてみると、おお、これも美味い!控えめな塩味が豚肉の甘さと旨みをしっかりと引き出してい
て、どっしりと力強いのにどこか女性的な繊細な味わいになっています。滑らかで柔らかな中にも豚肉の繊維
が残る食感も素晴らしく、これもいきなり驚きの美味であります。
続いてSUCHARY SPECJALNE(スペシャルビスケット)。ほんの少し湿った様な、ほのかに甘いビスケッ
トです。生地には独特の香りがする植物種子が練り込んでありますが、ほの甘い中にもすっと胸がすく爽やか
な香りは、キャラウェイシードかな?ビスケットよりも原始的な、固焼きパンのようなこの味わい・・・悪く
ないですね。
このビスケットに先程のパテをのせて食べると、これが実にイイ感じです。キャラウェイシードの香りがパ
テの微妙な脂臭さやレバー臭さをきっちりと消していて、素朴かつ力強い風味になっているのが素晴らしい。
いや、これ、本当に美味いです。
次はMLEKO ZAGĖSZCZONE SŁODZONE(加糖練乳)ですが、これが歯磨き粉のチューブの如き堂々
たるボリューム。民生品の流用らしくお散歩中のネコちゃんのイラストが描かれているのですが、なんだか妖
怪人間ベムに出て来そうな目をしたネコちゃんが微妙に気になります。うーん、なんかコワイ・・・。
中身はイタリア軍戦闘糧食に入っていた様な、ちょっと茶色いコンデンスミルクでした。日本の真っ白練乳
とはかなり見た目が違いますが、日本人が白にこだわりすぎるだけで、よその国ではこんなもんなんでしょう
か。
試しに舐めてみると、何だかキャラメルっぽい味の練乳です。しかしビスケットとの相性はなかなかよろし
く、先程までの肉っ気から調子が一転し、これはこれで美味しいですね。私は甘味が苦手なので一本全部はと
ても食べきれそうにはありませんが、これをポケットに入れておいて任務中のちょっとした休憩時に口に含む
というのは、理にかなったカロリー補給なのかもしれません。
DŹEM TRUSKAWKOWY(イチゴのジャム)。こちらは至って普通の機内食で出てくるようなパック入り
ジャムですが、かなり固いのでビスケットに乗せやすくていいですね。
最後はEKSTRAKT KAWY(粉末コーヒー)。香りは程々ですが、このはっきりした苦味が口の中をさっぱ
りとさせてくれます。これだけ飲むとちょっと単調な味わいですが、美味しい肉料理のシメにはちょうどいい
塩梅ですね。ここでようやく先程のマドラー君が活躍してくれましたが、別にナイフやフォークでも十分代用
が効いた気がしました。
あと、食後のおやつです。
Dickiと書かれたキャンディは青リンゴ味。香料の風味が実にわざとらしく、糧食全体に漂う雰囲気を壊して
いるの一寸気になりました。
Coditosはエスプレッソ風味のキャンディで、こちらは程良い苦味とシナモンの香りがいい感じでした。
PLANETと印刷された板ガムはミント風味。こうして板ガムが一枚だけ入っているのは珍しいですね。
以上、ポーランド軍戦闘糧食の試食を終わります。主食であるビスケットに豊富なパテやジャム類を乗せて
食べるのが基本ですが、何と言うか非常に底力のある、男くさい戦闘糧食ですね。気の効いたジョークや甘い
言葉は言えないが、そこにドカッと座っていてくれるだけで心強い・・・そんな雰囲気のある、実に戦闘糧食
らしい戦闘糧食でした。
確かにフランス軍やイタリア軍、自衛隊の戦闘糧食は群を抜いて美味しいですが、戦闘糧食としての生き様
を背中で語っているのはこれだけの様な気がします。試食中にレバーペーストやビスケットが、
「あっしら戦闘糧食ってのは、本来こんなもんなんじゃあないんですかねぇ」
と、呟く様に語りかけてくる声が聞こえてきました。(←病気か?)
また、トイレットペーパー丸出しの紙ナプキンを入れているかと思えば、要るのか要らないのかよくわから
ないマドラーを入れている所なんかも、不器用な山男が精いっぱい私をもてなそうとしているみたいで、なん
だかそのトンチンカンな心づかいが、妙に微笑ましく嬉しい気分でした。
無骨だが粗暴ではなく、無口だが冷たくなく、媚びないけど偏屈でもない・・・これぞ戦闘糧食の王道!と
言いたくなる、私個人的にイチオシな戦闘糧食です。味覚的な評価については私の主観の域を出ませんが、世
界中に数多ある戦闘糧食の中で、あえて1つだけ本物を挙げよ!と言われれば、私は迷わずこの糧食を選ぶと
思いました。
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