まきしおチキンカレー
さて今回は、呉海自カレーシリーズ『まきしおチキンカレー』です。SS593潜水艦まきしおはおやしお
型潜水艦の4番艦。同5番艦の潜水艦いそしおとともに、呉基地にて第一潜水隊群第一潜水隊を構成していま
す。
ネイビーブルー地のパッケージには浮上航行中の潜水艦まきしおの画像がレイアウトされ、甲板からまっす
ぐ立ち上がった艦橋や艦尾に一枚だけ見える垂直の舵が、一世代前のおやしお型らしいですね。最新のそうり
ゅう型との違いが一目でわかります。
箱裏面には海自と呉の成り立ちや呉海自カレーについての説明が記載され、潜水艦まきしおからレシピの提
供を受けた『八剣伝 呉市役所前店』さんで出しているまきしおカレーの画像が載っています。大胆なカット
のジャガイモとニンジンが迫力満点ですが、八剣伝ってあの居酒屋チェーンの八剣伝?いろんな飲食店が力を
合わせて、呉の海自カレーを盛り上げようと頑張ってるんですね。
さて前置きはこれぐらいにして、早速試食です。ほほう、色はやや明るめのダークブラウン。ゴロゴロカッ
トのジャガイモが目につきますが、肝心の鶏肉は繊維状にほぐれてしまっています。カレーの鶏肉がここまで
ほぐれているのは珍しい気がしますが、相当な煮込み時間をかけた模様ですね。まずは一口頂いてみます。
おお、鶏肉と野菜の柔らかな旨味がベースになった、実によく出来たカレーです。とかく濃厚派が幅を利か
せがちな海自カレーの中では比較的ライトな部類ですが、その分ストレートで爽やかな辛さが楽しめますね。
ただライト系とは言え旨味は十分。鶏肉の軽やかな個性もあり、さっぱり軽くしっかり美味しい夏向きのカレ
ーになっています。
しかしこの・・・なんというか、まるで米軍のMREのメインミールみたいな不思議な香りが気になります。
羊肉を使ったカレーがこんな香りですが、これはチキンカレーなんですよね。あと、食べているうちに感じら
れるのが、カツオみたいな不思議な味わい。カツオ出汁を隠し味に使っているのかと思いましたが、これは出
汁というよりもなまり節・・・いや、むしろツナ缶の風味に近いものがあるなあ。
すぐに箱裏の原材料表示を確認しますが、意外な事にツナ缶のツの字もなし。それどころか魚系の食材は全
く使われていない模様です。じゃあこのツナ缶っぽい風味はなんなんだろう。さらりと軽い口当たりの中にも、
しっかりとした旨味を感じさせるこのカレー。確かにツナ缶の個性ですが、記載されていない原材料が入って
いるとも思えないし・・・。
と、ここで原材料表示を見て気がつきましたが、ただの鶏肉ではなく『鶏ほぐし肉(鶏肉、植物油脂、チキ
ンブイヨン、蛋白加水分解物)』と書いてありますね。植物油脂で軽く炒めた鶏むね肉をチキンブイヨンで煮
込み、その後丁寧にほぐしてカレーに入れてあるのかな?ものすごい手の込み様ですが、わざわざほぐした鶏
むね肉を使っているのがまきしおカレーの特徴なんですね。
ちなみに鶏むね肉と言えば、高タンパク低脂肪食品の代表格。その分あっさり過ぎてジューシー感や旨味に
欠けるため、美味しく食べさせるのがけっこう難しい部位でもあります。体にいいのはわかっていますが、料
理人としてはちょっと敬遠したくなる手ごわい相手と言えるでしょう。
ならばいっそチキンカツカレーにして、むね肉特有のぱさぱさ感と脂肪分の無さを補う手もありますが、そ
ういう安易な方向に逃げていないのがまきしお給養員の攻めの姿勢というか、
「鶏むね肉は味気ないだって?おいおい、俺達のカレーを食べてもまだ同じ事を言えるかな?」
という自信に満ちた食べ手への挑発なのかも。いやはや、御見逸れしました。
また鶏むね肉は安価で手に入りやすいため、それ以外の部分にコストをかける事が出来るのも大きな利点で
す。潜水艦は水上艦に比べてやや多めの食費予算が組まれていると言われますが、それはあくまで特殊な環境
での長期保存にかかるコストを含めての話。潜水艦だけが特別贅沢な食事をしている訳ではないのです。
「あの食材を使えばもっともっと美味しくなるんだけど、予算の範囲に収まらない・・・よし、思い切って
メインを安いむね肉にしてみるか!牛肉や豚肉に比べると確かに旨味は弱いけど、なあに工夫次第でいくらで
もやり様はあるってもんよ!」
あえて自分を不利な状況に追い込む事で、もう一段階上へのステップアップにつなげる。これは口でいう程
簡単な事ではないでしょう。何かにつけてすぐ楽な方に逃げてしまいがちな私としては、まきしおカレーを前
に瞑目して頭を垂れざるを得ない気分。
三度の食事しか楽しみがない、つらく厳しい艦隊勤務。その中で週に一度の大きなお楽しみとなるのが金曜
カレーですが、そのカレーの味を磨くためにとことん自分を追い込んでいる人達がいる・・・。とかく忘れが
ちな事ですが、改めて日々のご飯を作ってくれる人に感謝せねばならないでしょう。
それにしてもこのツナ缶っぽい香り・・・全くもって謎であります。コンビニのツナマヨおにぎりのご飯だ
けを集めてカレーをかけたら、こんな味になりそう。シーチキンつながりで鶏肉というのも、安易すぎる解釈
ですし。
存在すれども姿は見えず・・・あ、ある意味これは、海上防衛における潜水艦の在り方とも重なっている気
がしますね。このカレーの中に、絶対にツナがいるはず!どこだ?なんとしてでも探し出せ!
・・・でもこれじゃあ、潜水艦というよりも対潜哨戒機、P-3CやP-1の部隊のカレーになってしまい
そう。うーん、このつかみどころのなさも、ある意味潜水艦らしいのか?
その美味しさは折り紙つきながら、なんとも謎とミステリーに満ちたまきしおチキンカレーでありました。
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