麻婆豆腐


       さて今回は、自衛隊非常用糧食『麻婆豆腐』です。いやあ、とうとう戦闘糧食に豆腐が出て来たか・・・と、
      日本人としては感慨深いものがありますが、実は自衛隊よりもずっと早い段階で、ドイツ軍戦闘糧食がトマト
      シチューの具に豆腐を採用していた
んですよね。あれがちょっと驚きの美味だったので、ドイツ軍に先を行か
      れてしまった我が国の自衛隊としては、是非ともその上を行ってほしいところです。
       ちなみにU型改善版の方には『野菜麻婆』というメニューがあり、肝心の野菜と呼べる具が少なかったもの
      のあれはあれでけっこう美味しかったんですよね。その野菜麻婆と同軸上の味わいになるのか、それとも全く
      別のシロモノなのか。また今回は中華つながりを意識してか、白飯の他にカニチャーハンも封入されているの
      で、その辺りにも大いに期待を膨らませながらレトルトを温めます。

       まずはカニチャーハンから。既に別メニューで試食済みですが、本物のカニ肉(ごく少量)を使用している
      のと、その他の具材(カニかまぼこ・玉子・白ネギ・シイタケ)からの旨味のお陰で、レトルトとは思えない
      実に食べ応えのある味
になっています。さすがにパラパラの炒め上がり・・・と言う訳にはいかないものの
      度にもっちりした口当たり
なので、戦闘糧食としてはこちらの方が食べやすいでしょう。

       一方の白飯はあくまでもおかずの味わいを引き立てる役割に徹しているので、同じ主食同士ながら全く異な
      る個性が楽しめます。カニチャーハンの味わいが濃厚なので、カニチャーハンをおかずに白飯を食べる、とい
      う荒技
も可能ですね。

       そしてメインである麻婆豆腐を開封。ワクワクしつつ皿にあけると、いかにも片栗粉でとろみをつけたっぽ
      い麻婆ソースをまといながら、賽の目切りの豆腐がどばっと出て参りました。うーん、見るからに麻婆豆腐
      柔らかく頼りない食材の代表格とも言えるお豆腐ですが、予想外にきれいな形を保っていますね。もっとグズ
      グズに崩れているかも・・・と覚悟していましたが。とりあえず一口頂いてみましょう。
       おお、これはなかなかのお味ですよ。若干甘味が強いものの、甜麺醤オイスターソースのまろやかでどっ
      しりした風味があって、驚くほど真っ当な麻婆豆腐です。
       辛味らしい辛味は殆どありませんが、食べ進むうちにお腹の中がほんのり温まるというか、後からじんわり
      効いてくるほのかな辛さ
を感じます。何万人もの隊員さんを対象にしているのですから、最大公約数的にこれ
      位の辛さが適当なんでしょうね。

       使用している肉がなのは、単純にコストの関連かな。あっさり&さらりとした鶏胸肉の旨味が、穏やかな
      味わいの麻婆ソース
によく合っています。具材として入っている白ネギシイタケも、豆腐の前に出過ぎる事
      なく程々に自己主張を行っていて、主役の豆腐を上手く引き立てていますね。
       そしてこの、絹挽き鶏ミンチのくっつき具合が適度にバラバラなのが絶妙だなあ。大きさ1〜2oほどの粒
      子状の鶏ミンチ群
が持てる旨味を惜しげなく麻婆ソースに提供している一方で、ミンチ同士が固まって出来た
      10mm前後の塊
小型肉団子となり、豆腐に負けない食べ応えをアピールしています。
       宇宙空間を漂うチリやガス、小惑星等がぶつかり合いひっつき合い、原初の惑星が誕生する瞬間をまさにこ
      の一皿の中で表現している・・・というのは、流石に私の妄想力の先走りが過ぎていますね(笑)。
       沢山入っている豆腐は14o角の立方体で、口の中で柔らかく崩れます。とは言え思いのほかしっかりと角
      が立っていますし、これで賞味期間が3年というのだから全くもって驚きですね。

       そしてこの麻婆豆腐、白飯との相性も抜群です。程良い味の濃さとほんのり控えめな辛味が、あえて無個性
      に徹している安物レトルトパックご飯のいいところを上手く引き出している感じ。白飯君はいつも通りの引き
      立て役
になるつもりだったのに、主役の麻婆豆腐君との相性の良さが予想以上だったので、白飯君まで光って
      しまっています。戸惑いながらも少し嬉しそうな白飯君が微笑ましいなあ。
       それとは対照的だったのが、カニチャーハン君。駅前中華テイストの代表格同士という事もあり、満を持し
      てタッグを組んだ筈ですが、不思議な事にこのカニチャーハン君が麻婆豆腐君と今一つきれいに絡まりません
      カニチャーハン単体で食べていた時にはあまり気にならなかった甲殻類独特のニオイと言うか生臭さが、麻婆
      豆腐と組むとなぜかキツく感じられます。あれ?こんなはずじゃなかったのに・・・と、舞台の上で困惑して
      いる二人の姿が切ないなあ。

       また、お互いの化学調味料臭さも際立つような気がします。レトルト保存食やチープ中華の味わいを語る上
      で、化学調味料を持ち出すのは無粋の極みではありますが、単体なら大して気にもならない化学調味料のクセ
      がこんなに気になるのは何故なんだろう。負の相乗効果というか、不思議だなあ。
       これなら主食は白飯&山菜飯にした方がよかったかも。とは言え、最初からそうしたらそうしたで
       「なぜ味わいの統一感を無視して山菜飯にしたんだろう。カニチャーハンが正解だと思いますが・・・」
       とかなんとか分かった顔で言っちゃうんだろうなあ、私は(笑)。瞬間的なインプレッションのままに感想
      を書く事がもっともリアルな味の表現方法だと信じているのですが、同時に沢山の人の試行錯誤の上にひとつ
      のメニューが成り立っている
という事も忘れてはいけない・・・と思いました。
       とは言え、さんまピリ辛煮&コーンスープというあの組み合わせは、やはり個人の最大狂気が暴走してしま
      った結果
だと思うんですよねえ(笑)。うーん、質量ともに世界に誇れる自衛隊戦闘糧食、さすがに底知れぬ
      もの
があるようです。色んな意味で。

       カニチャーハンとのコンビネーションについてはやや難がありましたが、白飯との相性も含めて十分いい仕
      事をしていましたね、麻婆豆腐
。非常用糧食からデビューした新人としては上々の出来でした。
       それにしてもこの麻婆豆腐、一度中国人に食べさせてみたいなあ。こんなもん食えるか!と怒りだすか、
      にこれ美味い!
と驚くか、麻婆豆腐とは言い難いがこれはこれでイケるかも・・・と納得するか。
       私がドイツ軍戦闘糧食TYPVで豆腐のトマト煮込みを食べた時と同じ様な単純な驚き好奇心視点を変え
      て物事を見る事の面白さ
裏をかかれた様なしてやられた感・・・そして何よりも、食べる事の楽しさを感じ
      てくれたら嬉しいですね。




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