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        ちなみにパッケージに印刷された注意書きには、缶詰は固形燃料と折りたたみストーブでの加熱を推奨とあったので、今回は久々に野外試食を行います。
 まずはVistas gaļa ar rĩsiem(チキンライス)の缶詰から。EO方式のパッカンなので缶切りがなくてもラクチ
 ン・・・かと思いきや、大した力も入れていないのにフタの取っ手が簡単にモゲてしまいました(泣)。ラト
 ビアの製造業の衰退ぶりをいきなり見せつけられた気分です。なんという貧弱な作り・・・。
 
        仕方ないので缶切りでキコキコしますが、やはり現場の兵士達はこういう最低限の道具は持ち歩かないと駄目ですね。なんとか開けたチキンライス缶はこんな感じ。おお、結構美味しそうですよ。冷えた脂肪で全体が
 が固まっていますが、加熱で溶けたあとが楽しみ。
 
        ストーブを谷折りして組み上げたあとは、チャチなマッチに苦労しつつもなんとか固形燃料に着火。少ない固形燃料で効率よく温めたいので、すぐにフタを載せ直します。
 
        さてその間に、Šķĩstošã kafija(インスタントコーヒー)とTēja melnã(黒茶)を準備します。ちなみに日本では一般的に紅茶の名で親しまれているあのお茶ですが、海外では黒茶と呼ばれるのが普通との事。紅茶の
 方が字面的に美味しそうなので、日本に入ってきた時にこの名称になったのかな?
 しかし固形燃料ストーブは缶詰の加熱で使用中なので、同時にお湯が作れないな・・・という訳で、いささ
 か反則気味ではありますがガスストーブを使ってお湯を沸かしましょう(笑)。じゃあ缶詰も最初から湯煎で
 いいだろ!と突っ込まれそうですが、固形燃料による直火調理は他に代え難いロマンがありますから(笑)。
 私的にここは譲れません。
 
        続いてアルミぎらぎらパッケージに入ったŠokolãde Lukss(高級チョコレート)を開封すると、表面が斑に白っぽくなったチョコが出てきました。全体に微妙なネジリも入っていますし、一度溶けかけたあと再び固ま
 った様ですね。まあ戦闘糧食ではよくある事。品質に大きな問題はなさそうですし、一口頂いてみましょう。
 ほほう、これはなかなか。高級・・・はちょっと言い過ぎとしても(笑)、普通に美味しいチョコでありま
 す。十分なカロリーがあって消化吸収も早く、戦闘糧食に含まれる嗜好品としては上々の味わいと言えるでし
 ょう。
 
        そうこうしている間に、チキンライス缶のフチがぶくぶくと泡を立てて沸騰し始めました。表面はまだ固い感じですが、固形燃料の直火が固まった脂肪分をどんどん溶かしています。そして2本の固形燃料が燃焼終了。
 中心部まで余熱を行きわたらせる為に少し蒸らしの時間をおいて、スプーンを突っ込んでみます。
 
        おお、中まで柔らかくなってる!それにしても鶏肉の量が凄いですね。中身の7割近くが鶏肉の塊で、お米は周囲にまとわりついている程度。これはテンション上がるなあ。という訳で、冷めないうちに頂きましょう!
 ほほう、なるほど・・・これはイケる味ですよ。全体の味付けはやや薄めですが、ジューシーな鶏もも肉の
 旨味をお米がしっかりと吸いこんで、はっきり言ってめちゃくちゃ美味しい!例えるなら、減塩したケンタッ
 キーフライドチキンを丸ごと使った炊き込みご飯・・・という感じかな。
 香辛料やハーブの類はあまり感じられませんが鶏の臭みはまるでなく、鶏肉特有のあっさりと優しい味わい
 をきちんと生かしながら上手にクセだけを消している感じ。これはスパイスではなく、細かく刻まれたニンジ
 ンのお陰かな?独特の芳香で鶏臭さを消しつつ自身の甘味も際立たせる、いかにも香味野菜界屈指の実力者ニ
 ンジン君らしい非常にシブい仕事っぷりです。
 
        見た目は粗雑で乱暴な料理ですが、食べてみると非常に繊細で洗練された味わい。もしかしたらこれがラトビア料理の個性なのかもしれませんね。スーパーに並んでたら普通に買い込んでしまうだろうなあ、このチキ
 ンライス缶。それぐらい気に入ってしまいました。
 そしてこの、直火調理ならではの香ばしいお焦げがたまンない・・・。パリパリに焼かれた鶏肉と相まって、
 粗野でありながら実に風雅な味わい。なんというか、これひと缶だけで3皿ぐらいの料理を味わった様な満足
 感に浸れます。つらい任務の合間にこの缶詰を食べて、ほっこりしているラトビア軍兵士の穏やかな表情が思
 い浮かぶ様。
 
        ただ、敢えて言わせてもらえるなら、プラスチック製のへにょへにょスプーンが実に頼りないシロモノで、缶の底にこびりついたお焦げが上手く剥がせません。もっとも、この糧食を食べ慣れた兵士なら、アーミーナ
 イフの缶切りの先端でお焦げをきれいにこそげ落として、スプーンで集めて食べてしまうのかなあ。なんだか
 んだで現場では有用なんでしょうね、アーミーナイフ。
 いやあ、興奮のあまり一気に平らげてしまいましたよ、チキンライス缶。とは言え、ちょっと意地汚い食べ
 方ったかな・・・と反省しながら残ったŠokolãde Lukss(高級チョコレート)をŠķĩstošã kafija(インスタン
 トコーヒー)とTēja melnã(黒茶)で頂きますが、おっと、Indijas Rieksti(カシューナッツ)を忘れていま
 した。
 
        ごく普通の袋入りのカシューナッツですが、ん?あれれ?このカシューナッツをチョコとコーヒー、黒茶に合わせて食べるとなんかすごく美味しいですよ?一粒のカシューナッツを口に入れてはチョコをひと齧り、そ
 こにコーヒーや黒茶を含むと、何とも言えない充実感で口の中が満たされる気分。
 もしかして特別なナッツなのかな?と思いつつ試しに単品で食べてみますが、ん~、特にどうという事もな
 い、フツーのカシューナッツです。チョコもまあ普通のチョコですし、黒茶も安物ならインスタントコーヒー
 もどこにでもある廉価品・・・ですよねえ。
 しかしこの4者を一緒に食べると、なんとしみじみと美味しく感じられる事か・・・。これぞ組み合わせの
 妙ってやつですね。
 
        いやはや、思った以上に食べ応えがあり、十分に満足できる食事でした。中でもチキンライス缶の美味しさが光りましたが、カシューナッツとチョコ、黒茶、コーヒーの4人組の相性の良さが特に印象的でした。
 なんというか、勉強も運動も完璧で生徒会長まで務めてしまう圧倒的カースト上位のチキンライス君に対し
 て、優等生が一人もいない仲良し4人組を見ている気分。どいつもこいつも成績は下から数えた方が早いぐら
 い。特別スポーツが出来る奴もいなければ、女の子にモテる奴もいない。全くもってぱっとしない奴らですが、
 つるんでいる様子がいつ見ても楽しそうというか、10年経っても全然変わりそうもないいつもの4人にホッ
 とさせられる気分。進路指導の時期が迫ってきた担任の先生としては、
 「お前らもうちょっと将来とか考えて、しっかりせえよ・・・」
 と小言の一つも言いたくなりますが、いじめや悪さ、孤独とは全く縁のない朗らかなボンクラ4人組を見て
 いると、
 「・・・まあ、お前らはこのまんまでいいか(苦笑)」
 とため息をつきながら前向きに諦めてしまう感じ(笑)。なぜかそんな光景が脳裏に浮かんだ、前半の一食
 目でありました。
 
        続いて後半の2食目。まず1食目で使い忘れたMitrã salvete(ウェットティッシュ)で手を拭きますが、これが激安芳香剤の如き強烈なニオイで、まるで古いトイレにいる様なげんなり気分に浸れてしまいました。食
 事前から思い切り心を折られた気分ですが、ここまで猛烈に芳香剤臭いと殺菌効果は殆ど期待できそうにあり
 ませんね。不快な気分になっただけなので、これならない方がマシな気が・・・。
 それにしてもお手拭きが1つか・・・1日3食分の戦闘糧食の場合、普通は3つ入っているもんなんですけ
 どねえ。やっぱりこれ、1食分なのかな?でも飲み物はしっかり5つも入っているし・・・よくわかりません。
 
        釈然としない気分でRĩsu putra ar mellenēm(ブルーベリーと米の粥)を開封します。うーん、ブルーベリーの粥とは・・・。日本人には衝撃の組み合わせですね。開封すると細かいプラスチック片の様なお米とBB弾
 みたいなブルーベリーが出てきましたが、なんだかとてもいいニオイがしますよ。乳酸菌飲料系の駄菓子っぽ
 い優しく甘酸っぱい香りが、辺り一面にふわりと広がります。
 
        このフリーズドライをお湯で戻す訳ですが、パッケージ裏面には分かりやすいイラストで作り方が描かれ、非常に便利。器に移して100mlの熱湯を注いでかき混ぜ、フタをして5分待て・・・という事ですね。
 という訳で出来上がったのが、これ。どこから見ても紛う事なきお粥ですが、湯気とともにふんわり漂うヤ
 クルトミルミルみたいな香り・・・。米と醤油と味噌で育った生粋の日本人である私としては、視覚情報と嗅
 覚情報のギャップに頭が混乱しそう(笑)。
 しばしスプーンの先端でチョンチョンと小突いたりしたのちに、思い切って一口。・・・ん?あれ?これ、
 結構美味しいですよ?説明書きの通りに5分待ったのにやや固さの残る口当たりですが、爽やかな甘味がとて
 もいい感じ。フルーツっぽさのないフルーツ牛乳とカルピスを足して甘味あっさりにした風味で、ブルーベリ
 ーとの相性も抜群です。いやこれ、ほんと美味しいです。微妙に離乳食っぽくもあるので、変態の方々にとっ
 ては幼児プレイ前の栄養補給としてもバッチリかも。
 
        ただ・・・確かに美味しい事は美味しいのですが、それでもこれがお米料理か・・・という違和感が拭えません。これを素直に美味しいと言えるかどうかに、ある意味その人の包容力や器の大きさが表れる気がします。
 そんなもやもやした気分を味わいつつ、お湯を注いだŠķĩstošã kafija(インスタントコーヒー)を一口。あ
 あ、この安物ブラックコーヒーの味わいが、ブルーベリー粥を受け入れる事でいっぱいいっぱいになっている
 私にひとときの安らぎを与えてくれる様。ラウンド間のインターバルで口に水を含ませてくれる丹下段平の様
 な味わいです。戦闘糧食のスティックコーヒーをこんなに美味しいと思ったのは初めてかも(笑)。
 そして今気付いたのですが、砂糖はたっぷり(20g×2)あるのに、粉末ミルクはないんですね。ラトビ
 アでは基本ブラックで飲むのかな。
 
        続いてはRupjmaize(ライ麦パン)。いかにもみっちり固まってそうな重い黒パンが2切れ、樹脂製の真空パックに封入されています。いやあ、私好きなんですよね、黒パン。最初食べた時は固く酸っぱく変なにおい
 に仰天させられましたが、慣れてしまうとなんともいえない味わい深さがあって。
 爽やかに甘いブルーベリー粥から一転して大人の味わいとなりましたが、この酸っぱい靴下みたいな風味、
 いかにも文化の異なる異国の味覚!という気がします。きっと納豆やイカの塩辛にハマった外人さんも、似た
 様な感想になるんだろうなあ。
 
        そのライ麦パンは、Zemeņu ievãrĩjums džems(ストロベリージャム)とMedus(はちみつ)で頂きます。まずはストロベリージャムから。
 ほほう、なるほど・・・。かなりエグい甘さですが、この開き直った様な安物っぽさが意外とライ麦パンに
 合いますね。ライ麦パン独特のクセを上手く誤魔化しながら、隠し持った力強い味わいを引き出している感じ。
 目があっただけで喧嘩になりそうな不良同士が、意外と仲良くやっている様な安堵感を覚えます。
 
        続いてはちみつ。気温が低い時期なので半分固まったザラザラの口当たりですが、この雑味の強い育ちが悪そうなはちみつも、クセの強いライ麦パンとよく合うのが驚きだなあ。これは嬉しい誤算続き。最初はこいつ
 ら大丈夫かよ・・・と思いましたが、どうやら杞憂に終わった模様です。
 そしてこのはちみつを塗ったライ麦パンにコーヒーと合わせると、なぜかバナナみたいな香りになるのが実
 に不思議(笑)。いや、味そのものは全然バナナじゃないんですけど、口の中にバナナの香りが残るんですよ
 ね。プリンに醤油をかけたらウニの味がする!みたいな、思わず笑ってしまう意外さでした。
 
        いやあ、なんだかんだでかなり楽しめましたよ、ラトビア軍戦闘糧食。2食目の甘味連打は個人的にちょっと堪えましたが、これでも封入された40gものグラニュー糖には全く手をつけてないんですよね。チキンラ
 イス缶の満足度が非常に高かったので、まあぎりぎり3食分・・・と言えない内容でもない気はしましたが、
 エネルギー量よりも機動性や携帯性を重視する糧食思想なんでしょうか、ラトビア軍って。
 安価で手っ取り早くカロリーを摂れる砂糖類ですが、グラニュー糖40gで約160kcalとして、この試食
 で実際に摂取できたのは2130kcalか・・・。兵士の一日の行動を支えるエネルギーとしては、正直物足り
 ないボリュームです。
 ちなみにラトビア軍の国防費は総額3.7億ユーロ。日本円にして500億円程に過ぎません。海自のむら
 さめ型護衛艦一隻(609億円)すら買えない金額です。流石にこの予算で陸海空の軍備を整えて人件費を払
 い、十分な糧食を末端まで行きとどかせるのは無理があるのか・・・。
 大国ロシアと国境を接し、様々な国の利権と思惑が交錯するバルト海に面したこの国を、わずか500億円
 ぽっちで守らねばならない労苦が相当なものである事は、想像に難くありません。そういう意味では、やはり
 これはぎりぎり3食分の糧食だったのかもなあ・・・。
 
        なにぶん分からずじまいの事が多く釈然としない部分はありましたが、知らない国の戦闘糧食とガチでぶつかる面白さは十分に味わえましたよ、ラトビア軍戦闘糧食。安心できるのはメインのチキンライス缶だけで、
 あとはどいつもこいつもデコボコ揃い。全くもって手のかかる連中でしたが、それぞれにいいところも悪いと
 ころもキラリと光る個性もあって、それらを無事食べ終えた満足感。そして食べ終えてしまった後のほんの少
 しの寂しさ・・・。
 余計な苦労ばかりさせられたものの、なんだかんだで問題児ばかりのクラスを一人の脱落者も出さずに全員
 卒業させた担任の先生みたいな気分を味わえた、そんな不思議なラトビア軍戦闘糧食でありました。
 
 
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