空母いぶきカレー
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さて今回は、リニューアル版呉海自カレーシリーズ第192・・・弾『空母いぶきカレー』です。のっけか
ら変な笑いが出てしまいますが、言うまでもなくこれはかわぐちかいじ著『空母いぶき』に出て来る架空の空
母のカレーであり、実在する海上自衛隊の護衛艦ではありません。これを舞鶴航空基地の売店で見つけた時は、
「最近はこんなカレーまであるのかよ(笑)!でも実在しない艦だから買う価値はないか・・・」
と思いましたが、空母いぶきの漫画も映画も見た事がなく、作品の予備知識もほとんどない私がこのカレー
を食べた経験だけで『空母いぶき』を語ってみるというのも、それはそれで無謀過ぎて面白いかもと思い、購
入した訳であります。
通常の海自カレーの場合は、まずカレーのレシピ提供元となる艦艇なり部隊なりがあり、それらを紹介しつ
つ試食レポを行うのですが、私も一応マニアの端くれなので自然と好意的な書き方になるというか、いいとこ
ろを強調する内容になりがち。しかし今回試食するのは非実在二次元空母のカレーであり、例えその味をボロ
カスにこき下ろしても誰にも迷惑はかからないんですよね。
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パッとしない試合運びでこれまでほとんど目立たなかった前座のロートルレスラーが、ふとしたきっかけで
覆面を被った途端に極悪非道のヒールレスラーとして覚醒し、これまでとは別人のような邪知暴虐の限りを尽
くす・・・これは我ながらロマンを感じます(笑)。ここのところ何事にもマンネリ気味だった自分の殻をあ
えて破るというか、このカレーが私の新境地を拓いてくれるかも・・・そんな虫のいい期待感を膨らませつつ、
まずはパッケージを見ていきましょう。
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外箱正面には、洋上を突き進むDDV192空母いぶきのイラストが描かれています。その右隅でニヤつい
ているのが、艦長の秋津竜太一等海佐との事。見たところ随分とお若い一等海佐ですが、三十代後半ぐらいか
な?相当な切れ者であることは間違いなさそうですが、なんだかまことちゃんみたいな髪型なのがなあ(笑)。
今でこそ防衛記念章てんこもりの制服でかしこまっていますが、小さい頃はハナをたらしながら三輪車に乗っ
てグワシ!とかやっていたのかもしれません。
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箱裏面には空母いぶきを上空から描いたイラストもありますが、長方形のシンプルな飛行甲板にサイドエレ
ベーター、ヘリの発着スポットが縦に5箇所並んでいて、艦首側の甲板はスキージャンプ式にせり上がってい
ます。どうやらいずも型護衛艦をベースに、F35B戦闘機を運用できる様に改造したみたいですね。私は装
備品のメカニック的な事には疎い方なので、詳しい人が見ればもっと色々語れると思われます。
そしてその下には、秋津艦長によるいぶきカレーの認定証が(笑)。いいですね、こういう仕事で真剣に遊
んでいる姿勢って(笑)。本気の遊び心は個人的に大歓迎であります。
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前置きはこれ位にして、さっそく試食に移りましょう。開封したレトルトから出てきたのは、ものすごい粘
度を誇る褐色のカレー。十分に温めたにもかかわらず、もったりぽたぽたと落ちてくるこの重々しさは強烈の
一言です。一目見ただけで超濃厚派とわかる、スーパーヘビー級のカレーであります。
その強烈な粘度もよく見ると全体が均一ではなく、ところどころにカタマリ感が残っている不均一なゲル状。
カレーそのものを箸でつまめそうな濃厚さというか、組み合った瞬間に土俵の外まで一気に押し出されそうな
どすこい感がたまりません。これは手強そうだぞ・・・と怯みつつ、まずは一口いってみましょう。
おおおおお、まさに見た目通りの旨味の塊みたいな特濃カレーです。ずどんと骨太な甘さがベースになって
いますが、ほどよい苦みが土台をしっかりと引き締めている感じで、まるで山奥の巨大ダムのようなゆるぎな
さを感じます。
辛さは意外と大したことはなく・・・いや、大人が楽しむカレーとして必要十分な辛さがありますが、怒濤
の甘ウマに完全に飲み込まれている感じでしょうか。
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それにしても、この暴力的な甘ウマを巧みに引き締めている苦みの正体はなんなんだろう。これはもしかし
て、ビール・・・かな?いや、甘さとの相性の良さを考えるとコーヒーっぽい気もしますが、カカオ成分の高
いビターチョコの可能性もありますね。
という訳で原材料表示を確認すると、確かにコーヒーペーストは含まれていたものの、それよりずっと前の
方にごま油が入っていました。ああ、そうか。言われてみれば微かなスモーキーフレーバーも感じられる気が
します。ごま油だったとはなあ。すっかり見落としていました。
ちなみに具は牛肉、タマネギ、ジャガイモ、人参という伝統的なラインナップで、牛肉はバラ肉とスジ肉の
二種類が使われている模様。なるほど、このカレー全体の濃厚さを演出している高い粘度は、牛スジ肉に含ま
れるゼラチン質のお陰だったのか。そりゃこれだけ旨味大爆発のカレーになる訳です。
またよく見ると、溶ける寸前まで煮込まれたみじん切りのタマネギが、ぴらぴらと漂っています。ああ、こ
の辛うじて具として残っているまっ茶色の柔らかタマネギがたまンないなあ。以前の試食レポでも書いたと思
いますが、私好きなんですよねえ、カレーに煮溶ける寸前で生き残っているタマネギって。
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ちなみに原材料表示を確認すると、具としてのタマネギ以外にソテーオニオンも入っていました。形ある具
としてのタマネギとは別に、全体の旨味を下支えするソテーオニオンも使っていたとは。これは私的にどスト
ライクの選択です。やってくれますね、いぶき給養員。
もしかしたらこのソテーオニオンは、市販のものではなく艦内で丁寧に炒められた手作りソテーオニオンな
のかなあ。だとすると、あえて焦げる寸前まで念入りに炒めて、甘さと同時に苦みをも引き出した可能性があ
ります。この極太な旨味を引き締める苦みは、ごま油とコーヒーだけではなかったのか・・・そりゃこれだけ
重層的な旨味になるのも当然ですね。
それにしても、この津波の如く押し寄せてくる強烈な旨味・・・まさに非の打ち所のないカレーと言っても
過言ではありません。架空のフネである空母いぶき。実在する海自艦艇で提供されているという付加価値がな
いぶん、これぐらい圧倒的な美味しさがないと他の商品と肩を並べられないのは分かりますが、それ故に私の
妄想の翼が広がらないのが困りもの。美味しかったです!なんてフツーの試食レポで終わらせる訳にはいかな
いんですよね、私の場合。
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美味しい事は間違いないのですが、その美味しさを言葉にして別のイメージに置き換える事ができないもど
かしさ。これは私が空母いぶきという作品について全く知識がないせいでしょうか。それとも単純に私の食べ
手としての力量不足か?どちらにしてもいささかショックな話であります。
基本的に私の試食レポの手法はプロレスに近く、あえて相手の攻撃を避けず派手に受け身を取る事で長所を
どんどん引き出し、相手をとことん光らせる事で自分も光らせ、最後は大逆転のフォール勝ちを狙う・・・と
いう流れなのですが、今回のいぶきカレーは悪く言えばただただ美味しいだけでこちらのプロレスに全くつき
あってくれず、どうにも上手く絡んでくれないもどかしさを感じます。なんというか、ショービジネスに徹し
たプロレスラーが、ガチしかやらない格闘家とちぐはぐな試合をさせられている気分というか・・・。
この空母いぶきカレーを一言で言い表すとすれば、その巨体に相応しい重厚で力強い怒濤の味わい・・・こ
んなつまらない感想しか浮かんでこないとは。
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ある意味、以前試食した護衛艦こんごうカレーの完璧そのものの超優等生ぶりもこのいぶきカレーに近い個
性でしたが、あちらは私自身が体験航海や一般公開で護衛艦こんごうに何度も乗艦させてもらって色んなもの
を肌で感じてきただけに、その優等生そのものの佇まいからこれまでこんごうが背負ってきたもの、成し遂げ
てきたものが容易に垣間見えました。
つまりこんごうカレーは王道一直線な味わいで私を圧倒しつつも、私のプロレスにきちんと付き合ってくれ
ていたんですよね。しかしいぶきカレーにはそれがない。こんごうカレーと同じくらい、いやもしかしたらそ
れ以上に美味しいかもしれないのに、こちらのプロレスに一切歯車を合わせてくれない・・・。
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予備知識なしのぶっつけ本番、体当たりでいぶきカレーに臨んでその真価を見極めるつもりでしたが、今回
は完敗であります。やはりある程度の下調べというか、試食に当たって漫画の単行本だけでも読んでおくべき
でしたね。試食レポ手法の違いとは言え、結果的にこのいぶきカレーが持つ本来の力を引き出せなかった訳で
すから、いぶきカレーにも申し訳ない事をしてしまったのかもしれません。
私の食べ手としての未熟さだけが残った試食となりましたが、意外な事から自分の試食レポのスタイルを改
めて見直すきっかけになりました。この負け試合を今後にどう生かすかは自分次第・・・そんな思ってもみな
かった事を考えさせられた『空母いぶきカレー』でありました。
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