くろしお特製“広島風”柔らか牛すじカレー


       さて今回は、呉海自カレーシリーズ『くろしお特製“広島風”柔らか牛すじカレー』です。2004年3月に
      就役したSS596くろしおは、おやしお型潜水艦の7番艦。呉基地を母港とし、現在は第1潜水隊群第3潜
      水隊
を構成しています。
       それにしてものっけから主張が多いというか、やけに長い名前のカレーですね。素っ気ない艦だと艦名だけ
      
で終わってしまうカレーも多いのに、特製!広島風!柔らか!牛すじ!と、アピールポイント盛り盛りです。
       しかしこうして食べる前からとっかかりを沢山用意してくれるのは、私にとっては有難い話。手ごわいカレ
      ー達を相手に毎回異種格闘技戦を行うにあたり、相手がどんな技を得意としているのか、バックボーンは何な
      のか
を教えてくれるも同然で、攻略法も組み立てやすく有利に試合を進める事が出来るというものです。
       とは言え、今回の試合は海中での情報戦術駆け引きに長けた海自潜水艦が相手。与えられた情報をそう簡
      単に鵜呑みにしていいものかどうか。得られた情報は本当に正しいのか?こちらを攪乱する為のフェイクじゃ
      ないのか?と疑ってしまう時点で、既に相手の術中に嵌っている可能性もあります。今一度呼吸を整え気分を
      引き締めて、まずは外箱から見て行きましょう。

       シリーズ共通の濃紺地のパッケージ正面には、黒い海面を切り裂いて航行する潜水艦くろしおの画像がレイ
      アウトされています。箱裏面には海自と呉の成り立ち、あと呉海自カレーについての説明が印刷され、潜水艦
      くろしおから秘伝のレシピの提供を受けた呉市内の飲食店『港町珈琲店』さんで出しているくろしおカレー
      画像がありました。
       まるで金沢カレーの如きピカピカのステンレス皿、上品に盛り付けられた生野菜、そして一杯のコーヒー
      カレーのあとのコーヒーはことのほか美味しいと聞きますからね。この辺りのこだわりは流石コーヒー専門店
      です。

       それにしても、もりもりに盛られたインフォメーションの中で特に気になるのが『広島風』の部分。牡蠣
      お好み焼きソースでも入っているのかな・・・と勘ぐりつつ、さっそく試食に移ります。
       レトルトから出て来たのは見るからに狂暴獰猛そうな、もはや黒に近い焦げ茶色のカレー。具も結構なサ
      イズでゴロゴロ感があり、なんだかすごく強そうですよ。涙滴型の滑らかで女性的なボディラインを描いてい
      たはるしお型から一転し、マッチョで骨太な印象に様変わりしたおやしお型潜水艦らしい、見るからに男っぽ
      いカレー
ですね。ちょっとこいつとは事を構えたくないな・・・と思わせる、実に威圧感のある風貌です。
       いやいやいや、初っ端からビビってどうする。私も負けじとカレーを睨み返しながら(バカですね)あえて
      乱暴にスプーンを突っ込み、オープニングブローとなる一口目を頂きます。

       おおお・・・これはなんというか、見た目以上に重厚で強烈な味わいだなあ。濃厚どころではない、スーパ
      ーヘビー級のカレー
です。おやしお型潜水艦の基準排水量は2750㌧に過ぎませんが、4500㌧を超える
      むらさめ型護衛艦、いや7000㌧オーバーのこんごう型護衛艦並の重量感で圧倒してきます。
       そんな甘味、旨味、辛味の全てが特濃なくろしおカレーですが、それでもついつい口に運んでしまうこの
      べやすさ
は何なんだろう。濃すぎる旨味をさらりと食べさせている、不思議な苦みの様なものが感じられます。
       ほんの微かにスモーク臭が感じられるこの苦み・・・いやこれはスモーク臭というよりも、味噌系の苦み
      な?甜面醤を利かせた回鍋肉に近い感じですね。いや、これはもしかして八丁味噌・・・?それが一番近い気
      がしますが、それだと広島風ではなく名古屋風になるしなあ。

       怒濤の旨味攻撃を必死で捌きながら箱裏の原材料表示を確認すると、隠し味として特濃ソースというのがあ
      りました。ははあ、これはきっと地元ブランドのお好み焼きソースですね。それが故の“広島風”か。諸般の事
      情により商品名をダイレクトに書けなかったのでこんな表記になったのだと思われますが、メジャーなところ
      だとオタフクソースあたりでしょうか。
       あと意外な事に、ごま油まで入っている模様。へー、カレーにごま油って初めて見ました。正直ちょっと合
      わない気がしますが、この不思議な苦みとスモーク臭はごま油の個性だったのかも。あまりに個性が強烈過ぎ
      て隠し味には使いづらい食材でも、上手く使えばこんなにも味全体の厚みを増す事が出来るんですね。いやは
      や、これは大した業師っぷりです。

       一口ごとに舌を圧倒してくる強烈に濃い味わいばかりに目が行きがちですが、肉はボイル牛すじ以外に普通
      の牛肉
も入っている模様。クニクニした滑らかな口当たりは最初シマチョウかと思いましたが、全体の分厚い
      味わいを支えているゼラチンっぽい旨味は、紛れもなく牛すじのそれですね。なにもここまで・・・と言いた
      くなる怒濤の旨味ラッシュに追い込まれ、既に足が止まっている私。
       ここでふと気がついたのですが、銀ピカのステンレス皿、濃厚なソースを使った強烈に濃い味わい・・・こ
      れってゴーゴーカレーに代表される金沢カレーの血筋を引いている気がします。モロにそれ、ではありません
      が、普通のカレーと金沢カレーの中間点に位置する感じでしょうか。

       それにしてもこの、ガチで倒しにかかってくるような味の濃さ・・・人生半ばを過ぎてそれなりにくたびれ
      てきた私には、もはや弱音の一つも吐きたくなるレベルです。あ、そういえば以前にも、そんなカレーがあっ
      たなあ。そうそう、缶入りの護衛艦きりしまカレーです。あれも相当濃厚なスーパーヘビー級カレーでしたが、
      いかにもイージス艦らしい知性を感じる理系っぽい濃厚さだったのに対し、このくろしおカレーはモロに体育
      会系
。もはや暴力性、獣性すら感じさせる濃厚さです。同じ超濃厚派であっても、この点できりしまカレーの
      個性とははっきりと異なります。
       準備万端整えて上がったリング上で、身長2m体重130㎏の黒人ボクサーにボッコボコにやられたような
      気分。こんなの相手にどうしろっていうんだよう・・・。私があと15歳、いや20歳若ければやり様はあっ
      たかもしれませんが、流石に今回の試食は完敗です。

       味覚的評価については人それぞれですが、旨味の強さ、味の濃さ、重量感、満足度の高さ、個性の強さとい
      う点で、これまで食べて来た海自レトルトカレーの中でも確実に5本の指に入る事は間違いないでしょう。コ
      テンパンにやられながらも、まさに絶品!と言わざるを得ないこのスペシャルな味わい・・・。
       「今日のところはこれ位で許されといてやらあ!」
       と、最後は強気なのか情けないのかよく分からない捨て台詞を吐いてしまった『くろしお特製“広島風”柔ら
      か牛すじカレー』
でありました・・・。




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