潜水艦くろしおカレー


       さて今回は、リニューアルされた呉海自カレー第1弾『潜水艦くろしおカレー』です。SS596潜水艦く
      ろしお
はおやしお型潜水艦の7番艦。旧海軍の陽炎型駆逐艦くろしおから数えて4代目となる、由緒正しい名
      前を受け継いだ潜水艦であります。
       ちなみに今回からリニューアルされた呉海自カレーですが、海自らしいネイビーブルーが基調だった以前の
      ものとは違い、白とオレンジに彩られたパッケージがかなりお洒落で、思い切ったイメージチェンジですね。
      そのぶん軍港としての長い歴史を誇る呉の名を頂くにはいささか軽すぎる気もしますが、要所要所に硬質で重
      厚感のあるフォント
を使う事で、商品として手に取りやすいカッコよさといかにもミリタリーっぽいハードさ
      の程よいバランスを保っている感じ。
       中央にレイアウトされた水上航行中の潜水艦くろしおの写真は、日が昇り切る前に撮影された様なやや暗め
      の印象
ですが、これはこれで潜水艦独特の漆黒のカタマリ感がよく出ていて、雰囲気満点の写真になっていま
      す。

       箱裏面には海自と呉海自カレーの成り立ちが説明され、潜水艦くろしおからレシピの提供を受けた呉市内の
      飲食店で販売されているカレーの画像が載せてありました。以前のバージョンではお店のデータが地図ととも
      に掲載されていましたが、今回からはそれは省略されています。
       この辺りは地域と商品の一体感が薄まった様でやや寂しい気がしますが、呉海自カレー公式HPに詳細な情
      報が紹介されているので、現地で海自カレー巡りをする方はそちらをスマフォ等でご参照下さい。
       また完成したカレーは、実際にその艦の乗組員達による試食が行われ、これは確かにうちの艦のカレーの味
      だ!という艦長直々の認定証
も発行されるとの事。艦名を頂いたカレーとしての説得力とレシピを託された
      店の力量
を保証する、なかなか気のきいた箔づけですね。

       そして今回のリニューアルから、カレーの味覚が五角形のレーダーチャート方式で表示される様になりまし
      た。素性の分からない相手との初手合わせのドキドキ感を味わいたい私にとってはちょっと気の効きすぎなサ
      ービス
ですが、沢山並んだ海自カレーの中から最も自分の舌に合いそうな一品を探したい人にはとても親切な
      試み
ですね。このリニューアルに賭けた呉海自カレーの本気度が伝わってきます。
       因みに潜水艦くろしおカレーは、5段階評価で『辛味:2 甘味:5 酸味:1 コク:5 トロみ:5』
      との事。辛味や酸味をあえて抑え、甘味と旨味に全振りした重量級カレーな模様です。昭和のプロレスラーで
      例えると誰になるんだろう・・・
などと考えつつ、しっかり湯煎で温めます。
       という訳で、お皿にあけた潜水艦くろしおカレー。おおお、このいかにも狂暴そうなダークブラウン。しっ
      かり温めたにもかかわらず、この異様にもったりした重々しいトロみ・・・見るからに濃厚そうなカレーです。
      呼吸を整え、まずは一口いってみましょう。
       ほほう、これはこれは・・・まさにデータ通りの、怒濤の旨味攻撃に驚かされます。ひと口分のカレーにふ
      た口ぶんの旨味が凝縮されている
というか、オープニングの軽いジャブがフィニッシュブローの様に効いてく
      るこの感じ・・・さすがリニューアル第1弾を担うカレーですね。

       辛さはそれほどキツくなく、微かに主張する程度。手の付けようがない甘味と旨味の暴走を引き締めている
      のは、むしろほんの僅かな苦みですね。原材料表示を確認すると、コーヒーペーストがありました。なるほど、
      これが苦みの正体か。
       それにしても、この強烈に男臭いヘビー級のカレー・・・すごい存在感です。これを2倍ぐらいに薄めてち
      ょうどいい位の、カレーの原液みたいなカレーだなあ。・・・いや待てよ?原液だって・・・?と、ここで私
      が思い出したのが、プロレスラーのマサ斎藤(故人)です。
       無口不器用強烈極まる男臭さ。黙ってそこにいるだけで、周囲を圧倒する強烈な空気を作ってしまうマ
      サ斎藤。アメリカ修行時代に酒場の乱闘に巻き込まれて警官をぶん殴り、現地の刑務所で2年間服役する羽目
      になったマサ斎藤。その刑務所でも屈強な犯罪者達から恐れられ、監獄鬼として一枚も二枚も男を上げてリン
      グに戻って来たマサ斎藤。服役中に日本のプロレス関係者から大好物のカルピスを差し入れてもらい、
       「世の中にこんなに美味しいものはないなあ」
       と、妙に可愛らしい名言を残したマサ斎藤。そしてあのマサ斎藤なら5倍に薄めて飲むなんてしゃらくさい
      真似
はせず、ストレートをジョッキでグビグビやってるに違いないと噂されたマサ斎藤・・・以前別のカレー
      の試食レポでも書いた気がしますが、考えれば考えるほどマサ斎藤にそっくりではありませんか!この分厚く
      重く男臭い潜水艦くろしおカレーは。

       また、前から見ても横から見てもほとんど変わらない筋肉の塊のようなマサ斎藤の体形は、まさに潜水艦そ
      っくり
。そうか、潜水艦ってマサ斎藤だったのか・・・!と甚だ合点がいった私ですが、近年自衛隊の各職種
      における女性自衛官の進出は目覚ましく、今やどの部隊に行ってもどの艦に乗っても女性自衛官がいるのは当
      たり前
。そしてその居住環境の過酷さから、海自最後の男の世界と言われた潜水艦勤務においてすらも女性自
      衛官の配置制限が撤廃
され、早ければ2023年を目途に海自初の女性サブマリナーが誕生する予定にあると
      の事。
       潜水艦に女性がいるのが当たり前になるであろう近い将来、この男度100%な潜水艦くろしおカレーも変
      化を余儀なくさせられるのでしょうか。ならば今のうちに味わっておくべきなのかもしれませんね、男が男の
      為に作った、男臭すぎるこの潜水艦くろしおカレー
を。

       十数年後、潜水艦初の女性給養員長を迎えた潜水艦くろしお。歴代給養員長達が作り続けた男臭さ溢れるく
      ろしおカレーにも、大きな変化の波が訪れるのでしょう。これも時代の流れって奴か・・・と女性給養員長が
      作ったくろしおカレーを一口食べた幹部一同は、絶句してスプーンを床に落とします。
       「ま、前よりも男臭くなっとる・・・」
       あの女性給養員長、物腰は柔らかだったのにこんな男度の高いカレーを作る人だったのか・・・。
       時を同じくして、生まれ変わったはずのくろしおカレーのあまりの男臭さに、言葉を失う先任海曹室の面々。
      誰もが日々のストレスでくたびれ切った胃腸を抱えた、年相応のおじさんばかりです。女性給養員長が来るっ
      て言うから、うちの濃厚すぎるカレーも少しはライトになるのかな?と正直ちょっとホッとしていたのですが、
      なんじゃこのマサ斎藤みたいな男度5割増しカレーは・・・。
       たまらず一人の先任海曹が
       「先任伍長、前よりキツくないですか、このカレー・・・」
       「・・・だな」

       別の先任海曹も
       「何とかなりませんかね、このカレー・・・(あんた先任伍長でしょ)」
       「・・・」

       場面は変わり、潜水艦内の狭い狭い調理室。先程から女性給養員長が額に汗を浮かべながら調理作業に没頭
      しています。そこにどことなく重い足取りで現れた先任伍長。どうやら先任海曹達からの突き上げを喰らい、
      給養員長にカレーの男度を下げてもらえるようお願いしにきた模様です。
       「えーと、給養員長」
       「はい、何か?(ギロリ)」
       「あ、いや、こないだのカレー美味かったぞ。でもな、あの、みんながな、実は、その・・・その・・・そ
      の調子で頑張ってくれ・・・」

       区画の向こうで一斉にずっこける先任海曹一同。そうです、艦内ではコワモテの鬼の先任伍長ですが、家で
      はいつも苦労を掛けている奥さんの尻に敷かれっぱなし。これまで艦のみんなには内緒にしていましたが、実
      は奥さんと同年代の女性が大の苦手だったのです!
       露骨に白い目を向けてくる先任海曹達と目を合わせない様にしながら、先任伍長はぽつりと
       「なんかやりづらくなっちゃったなあ、とほほ・・・」
       そんな光景がカレーを食べている私の脳裏に浮かび、なんだかとても面白くなってしまいました(笑)。

       私が自衛隊イベントを見て歩くようになったここ15年程の間だけでも、世の中も自衛隊もずいぶんと変り
      りました。人も社会も、そしてカレーもごんごんごんごん変わっていくのです。そしてとうとう女性にも開放
      されたサブマリナーへの道。やがて潜水艦に女性がいるのが普通の事になり、昔の潜水艦は男ばっかりだった
      んだぜ!
という笑い話になる日も来るのでしょう。
       その転換期と言える今、この男臭さの塊みたいなカレーに出会った事は、いちカレー好きとして運命であり
      必然だった
に違いない・・・と納得してしまった、旨味の暴走がとどまるところを知らない『潜水艦くろしお
      カレー』
でありました。




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