呉教育隊茄子とひき肉のカレー


       さて今回は、リニューアル版呉海自カレーシリーズ第7弾『呉教育隊茄子とひき肉のカレー』です。呉教育
      隊のカレーは以前リニューアル前のものを試食済みですが、商品名が同じという事は中身も全く同じカレー
      のかな?呉教育隊についての詳しい様であまり詳しくない説明は前回の試食レポをご参照頂くとして、まずは
      パッケージから見て行きましょう。
       白とオレンジ色が鮮やかな外箱正面には、海上自衛官候補生の入隊式の様子が大きな写真で紹介されていま
      す。以前のものは呉教育隊の建物の正面写真が使われていたので、こちらの方がぐっと教育隊らしいですね。
      レアっぽさというかマニアック度ではリニューアル前の方に軍配が上がりますが、自衛隊の施設ってどこも似
      たような殺風景な外観
なので、商品の顔としてはさすがに地味すぎました(笑)。教育隊というものを一枚の
      写真で分かりやすく説明してみせた点でも、断然リニューアル版のデザインの方がいいと思います。

       箱裏面には海上自衛隊と呉海自カレーの説明や味覚チャート、呉市内の飲食店で提供されている呉教育隊カ
      レーの写真、調理方法、原材料表示等が分かりやすくまとめられていますが、よく見るとカレー写真の脇に
      兵服姿の茄子くんのイラスト
が。呉教カレーのイメージキャラクターなのかな?左手で皿を三枚持ちしていま
      すが、入隊前にどこかのレストランで働いていたっぽいですね。

       前置きはこれ位にして、さっそく試食に移ります。しっかり温めたレトルトをお皿にあけると、ああ、そう
      そう、茄子の深い紺色がカレーに溶け出した、この独特のくすんだ焦げ茶色。一目で茄子入りカレーとわかる
      個性的な見た目
であります。
       一口食べると、おお、これこれ。茄子独特のアクがいい塩梅に個性になっていて、リニューアル前のカレー
      と同じ味
でした。このほろにがうまとでも言いたくなる独特の旨味・・・ちょっとクセになりますね(笑)。
      油とタッグを組んだ茄子の実力の高さ
を、改めて思い知らされた気分。ひき肉との相性の良さもあって、とて
      も味わい深いカレーになっています。
       自衛官候補生に海上勤務のイロハを叩き込む教育隊のカレーなのに、なぜスタンダードな形をとらずに茄子
      &ひき肉という奇策
に走ったのか?という疑問については、リニューアル前版の試食レポの中で私なりに推理
      してみましたが、やはりこのカレー全体を覆うくすんだ色合いは、色素が溶け出しやすい茄子を使う以上避け
      られない問題
なんだろうなあ。とても美味しいカレーですが、顔色の悪さで少し損をしています。

       ちなみに呉教育隊からレシピの提供を受けて商品化している呉市内の飲食店『丼&串揚げ たまや』さん
      は、色鮮やかに素揚げした茄子をトッピングしているのでカレーの色はきれいなダークブラウンのままですが、
      数百人分のカレーを一度に作る呉教育隊の食堂では、恐らく揚げた茄子を最初から混ぜ込んだカレーとして提
      供されていると思います。出来たてならともかく、候補生達が食べる頃にはどうして色移りしてしまうんだろ
      うなあ。
       となると、きれいな色合いを保った状態で提供されるお店の呉教育隊カレーよりも、レトルトの方が再現度
      が高い
のかな?だとすれば、長期保存形式ゆえのマイナスを逆手にとった形になるのが興味深い。
       そしてこの、茄子の色素の色移りゆえのこのくすんだ色合いは、カレー色というよりも土気色、大地をイメ
      ージさせる色合い
でもあります。海の男のカレーなのに大地の色がイメージされるのは矛盾を感じますが、海
      の上で生きる術をヒヨッコ達に叩き込みつつも、それでも帰るべき場所の色を決して忘れるな・・・と教え諭
      している様にも思えます。うーん、このあたりも教育隊らしさなんだろうなあ。

       それにしてもこの茄子とひき肉の相性の良さ!素晴らしいものがありますね。他に代表的な料理としては
      婆茄子
が挙げられますが、カレーにしてもたまンないものがあるなあ・・・と食べ進むうちにふと気が付きま
      した。あれれ?茄子のカットがリニューアル前のものと違う様な・・・?リニューアル前のものは輪切りを四
      等分したいちょう切りでしたが、今回の茄子は乱切りに変更されています。
       ここで原材料表示を確認すると、リニューアル前のものとほぼ同じながらも食材の記載順序が微妙に違って
      いました
。へー、同じ様で実は違うカレーなんですね。茄子&ひき肉という根源的なテーマはあくまで維持し
      つつも細かいマイナーチェンジを繰り返し、呉教育隊の給養員達は伝統の『茄子とひき肉のカレー』を極めよ
      うと、日々努力しているのでしょう。

       とは言えこの茄子&ひき肉縛り、新たに呉教育隊に転属となった給養員にとってはかなり理不尽な手枷足枷
      の様な気がします。これまで積み重ねて来た経験と工夫、自由な発想を生かそうと勇躍やってきた新たな職場
      なのに、転属初日に給養員長から言われた言葉は
       「うちのカレーは茄子とひき肉が絶対条件だからな。よーく覚えとけ。もし変なカレー作りやがったら承知
      しねえぞ」

       しかしこれは考えようによっては、あえて自らの手札や枠を狭める事で、全く別の技術や発想が爆発的に進
      化するチャンス
でもあります。例えるならパンチだけに限定したボクシングが、こと手技による打撃に関して
      は他の追随を許さないレベルにまで達した様なものというか、ただひたすらアホになる事だけを求められた坂
      田利夫が、日本一のアホになれた様なもの・・・だと思います。
       茄子とひき肉まみれの数年間を過ごし、再び異動となった給養員君。あえてメインの食材を絞り込んだ中で
      磨き抜いた技術を、新たな転属先でも遺憾なく発揮してくれるはず。
       「うぬぬ、この茄子の使い方・・・今日のカレーを担当したのは、さては呉教帰りだな・・・」
       と、海自のカレーを食べつくしたベテラン隊員から一目置かれる日が来るに違いありません。

       海上自衛官を志した若者達が厳しい教育を受ける呉教育隊ですが、そこで磨き抜かれるのは候補生達だけで
      はなく、候補生を支える全ての隊員さんでもあるんだろうなあ。人間幾つになっても何処へ行っても勉強だ!
      そんな事を教えられた気がした『呉教育隊 茄子とひき肉のカレー』でありました。




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