呉教育隊茄子とひき肉のカレー
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さて今回は、呉海自カレーシリーズ『呉教育隊茄子とひき肉のカレー』です。それにしても教育隊のカレー
とは・・・前回の呉基地業務隊に続いて随分シブいところを突いてきましたね。艦艇のカレーは沢山あります
が、教育隊カレーの商品化はこれが初めてではないでしょうか。
ちなみに教育隊と言えば入隊したばかりの自衛官候補生の教育訓練を行っているイメージが強いですが、実
際は海曹候補生や海曹、准海尉、予備自衛官に対する各種教育も行っていて、隊員さんにとっては巨大な学校
みたいなものなのでしょう。
その全国に4つある教育隊の中でも、呉教育隊隊員食堂のカレーを再現したこの商品ですが、パッケージは
同シリーズ共通の青と濃紺地。護衛艦や潜水艦、シリーズ商品のマスコットキャラである一等海佐くん、空を
舞うカモメ、そして中央には呉教育隊の正門と隊舎の画像がレイアウトされています。
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箱裏面には海上自衛隊と呉の来歴と金曜カレーの成り立ち、商品化の経緯等が簡潔にまとめられ、呉教育隊
隊員食堂からレシピの提供を受けた呉市内の飲食店『丼&串揚げ たまや』さんの美味しそうなカレーの画像
が紹介されています。油通しした乱切り茄子とししとうの色合いが鮮やかで、たまらなく食欲をそそりますね。
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器の鑑賞はこれぐらいにして、さっそく試食に移ります。おお、このいかにも獰猛そうなダークブラウンが
挑戦的。たくさん入ってるゴロゴロしたものは、メインの具となる茄子ですね。20mm厚のイチョウ切りが
5つ、いや6つ入っていて、見た目のインパクトもなかなかです。
期待に胸を躍らせながら、まずは一口。ほほう、いかにも挽き肉を使ったキーマカレーらしい、僅かにザラ
ついた口当たり。まず最初に主張してくるのが牛肉由来の渋味のあるダシで、挽き肉ならではのアクも感じら
れますが、このアクが裏返って個性的な旨味になっているのがキーマカレーらしい曲者っぷりです。
塊の時よりも格段に表面積を増した挽肉が全体の旨味を支えていますが、この一口分のカレーを飲み込んだ
後に、口中にふわっと漂う独特の香り・・・なるほど、これは確かに茄子の個性。ふわふわした白いワタの部
分を噛んだ時の味ですね。ひき肉と茄子というアクの強い者同士が結構うまく付き合っている様子に、ホッと
安心させられる美味しさになっています。
このスプーンひとすくい分のカレーを、いつまでも舌の上で転がしていたい感じ・・・鼻に抜けていくスパ
イスの香りも心地よく、辛さも全体を軽く引き締める程度。今回主役を張る事となった茄子を皆で引き立てて
いる、食材達のチームワークの良さが光ります。
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しかしここで引っかかるのが、何ゆえ教育隊のカレーが茄子とひき肉のカレーなのか?という疑問です。海
自隊員としての基本のきの字を叩き込まれる教育隊。そこで出されるカレーはあくまでもスタンダードなカレ
ーに拘るべきではないでしょうか?
たとえ無個性と言われようと、教育隊のカレーは牛肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギによる王道一直線
なカレーであってほしかった気がするんですよね。美味しい事は間違いないのですが、教育隊に茄子とひき肉
というキャスティングかあ・・・果たしてこれでよかったのでしょうか。
しかしよくよく考えてみると、入隊したばかりのひよっこ達に食べさせるからこそあえてこのカレー、とも
解釈できます。自らの意思で入隊を決めたとは言え、二十歳そこそこの若者がこれまでとはまるで異なる環境
に放り込まれる教育隊の日常生活。厳しい班長の目はわずかな甘えも許してはくれず、分刻みでひたすら時間
に追われる毎日。外出も厳しく制限され、娑婆で気楽にやってる友達が心の底から羨ましく感じられる日々の
中で、ふと頭をもたげる
「俺の人生、本当にこれでよかったんだろうか・・・」
という迷い。そんな揺らぎがちな自衛官候補生にとって、毎週金曜昼に出てくる家庭の味に近いスタンダー
ドなカレーは、かえって余計な里心を刺激しかねない危険なメニューなのかもしれません。振りきって来た色
々なものを顧みさせない新しいカレーを用意してあげる事こそが、教育隊としての本当の親心。なるほど、教
育隊だからこそスタンダードなカレーはダメだったのか・・・。
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ただ、ここで唯一問題になってしまうのが、実家が茄子農家の候補生くんです。
「へー、ここのカレーって茄子がメインなんだ、美味しいなあ」
とワイワイ楽しそうに食べている同期の中で、一人俯いて茄子カレーを食べている候補生くん。小さい頃に
さんざん食べさせられて好きじゃなかった茄子カレーと教育隊で思わぬ再会を果たしてしまい、皮肉な事に猛
烈に家に帰りたくなってしまった模様です。
その様子をカウンターの向こうから眺めているベテラン給養員長。候補生達の為に良かれと思って作った茄
子カレーですが、こんな形で裏目に出てしまうとは。やれやれ、人の子を預かるというのは本当に難しい話で
あります。
今でこそ鬼のグランシェフとして調理室内に君臨し、若手幹部ではとても太刀打ちできない存在となったベ
テラン給養員長ですが、
「ああ、俺にもあったなあ・・・あんな時期が・・・」
と昔の自分を思い出し、そのつらさが理解できるだけに内心気が気ではない様子。鬼瓦の如き見た目の割に
非常に面倒見のいいところがある彼としては、候補生くんが一人になった時を見計らって話を聞いてやりたい
気がしますが、それはあくまで同じ部屋の同期の仲間がやるべき仕事。突き放す様な言い方ではありますが、
個人のピンチは全員で力を合わせて乗り越えないと、この先部隊に配属されてもやっていける訳がないのです。
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落ち込む候補生くんの事は気掛かりですが、今は自分の腕と部下を信じ、明日も明後日も候補生達の気力と
なる美味しい食事を作るのみ!そんな給養員長の心意気が、一皿のカレーから伝わってくる気がしました。
候補生達が教育隊にいるのは、ほんの3ヶ月ほど。その間調理室のトップである給養員長と言葉を交わす機
会は、殆ど無いと言ってもいいでしょう。今は上の人達の気持ちを理解する余裕などある訳ないと思いますが、
あの頃の自分は話す機会すらなかった人達の優しさに支えられていた事を、いつの日かきっと思い知る事にな
る・・・それこそが一人前の自衛官、一人前の海の男として成長できた瞬間に違いありません。
柄にもなくそんな事を考えさせられてしまったのは、やっぱり教育隊のカレーだからなんだろうなあ。ただ
美味しいだけではない・・・これこそが海軍自衛隊カレーの真骨頂だと改めて感じさせられた、『呉教育隊茄
子とひき肉のカレー』でありました。
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