呉基地業務隊牛すじカレー
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さて今回は、呉海自カレーシリーズ『呉基地業務隊牛すじカレー』です。それにしても呉基地業務隊とは、
随分地味というか珍しい部隊のカレーですね。艦の名を頂いたカレーは数多くありますが、業務隊のカレーを
見たのは初めてです。
ちなみに業務隊とは、自衛隊の基地駐屯地で働く隊員さん達の福利厚生や給与計算、装備品の整備補給や施
設の維持管理等を一手に引き受ける縁の下的な存在で、珍しいどころかどこの基地駐屯地にも当たり前にある
部隊。ここがきちんと機能しないと鍛え抜いた精強部隊もあっというまに干上がってしまうという、文字通り
呉地方隊の生命線と言える非常に重要度の高い部署であります。
そこで働く隊員さん達の胃袋を支える隊員食堂で、毎週金曜のお昼に提供される牛すじカレー。果たしてど
の様なお味なのか、初対戦の心地よい緊張感を覚えながらまずはパッケージから見ていきます。
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箱全体は落ち着いた濃紺と鮮やかな青で彩られ、いかにも海自のカレー!という雰囲気。正面には呉地方総
監部の象徴である赤レンガ造りの第一庁舎が配置され、お互いの色合いを上手く際立たせています。
潜水艦の奥には双眼鏡を抱えた一等海佐がいますが、若々しい顔に似合わない昇進スピードですね(笑)。
出世コースの先頭をひた走る、一選抜というやつでしょうか。
箱裏面には旧海軍時代からの呉との成り立ちや呉海自カレーの説明が分かりやすくまとめられ、呉基地業務
隊から秘伝のレシピの提供を受けた呉市内の飲食店『多幸膳』さんのカレーも紹介されています。他の飲食店
でも各部隊の再現カレーが売り出されているらしく、ガイドマップ片手に呉市内カレー巡りも楽しめるとの事。
いいなあ、一度やってみたいなあ。
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ちなみにこのカレーを販売しているのは、呉市内にある橘研磨材工業㈱。研磨材メーカーがカレーを売って
いるのが驚きですが、それより製造元が大阪市内のベル食品工業㈱というのには笑ってしまいました。レシピ
通りに作ってあるなら製造工場がどこでも問題ありませんが、よりによってうちの近所とは(笑)。
前置きはこれ位にして、さっそく試食に移ります。十分に温めたレトルトを開封してお皿にあけて、まずは
一口。ほほう、このまろやかで太く濃い味わい・・・いかにも牛すじがベースとなった重量級のカレーです。
カレー全体に溶け出したゼラチンによる微妙なねっちり感があり、液体でありながら半固体に近い食べごたえ
を感じます。
牛すじは消しゴム大のものが3つ、十分に煮込まれてプルンプルンの口当たり。拍子切りのニンジンも触れ
れば崩れそうな柔らかさで、今にもカレーの海に溶けて飲み込まれそう。調理室の巨大な蒸気釜の前で仁王立
ちになり、額の汗をぬぐいながらひたすらカレーを煮込んでいる給養員の姿が瞼に浮かびます。
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ちなみに海自で何故金曜日の昼にカレーが出されるか?については諸説ありますが、土日の入港を前に調理
室の衛生作業や食材の棚卸し等に人手を割かれる中、釜ひとつ人ひとりで作れる上に比較的日持ちの効く食材
が多いカレーは、給養員の立場から見ればとてもありがたい存在。まさに週末の為のスペシャルメニューと言
えるでしょう。実際週休二日制が一般的になる前は、土曜の昼がカレーだったとも聞きますし。
それに多めに作っておけば艦に居残る隊員さんも喜びますし、わざわざ小人数分の食事をイチから全部作る
必要もなくなる為、一石二鳥どころか三鳥四鳥。いかにも海自らしい合理精神にあふれた伝統メニューです。
しかしその金曜カレーに寄せる隊員さん達の期待は大きく、給養員にとってはもはや自分達の看板に等しい
存在になっています。中には何日も前から肉を漬けこみ、蒸し、茹で、そして寝かせ・・・と、非常に手間暇
のかかったカレーもあると聞きます。
さらに近年は海自の金曜カレーが広く一般に知れ渡る事となり、地方隊で開催される金曜カレーグランプリ
は大盛況。合理性を追求して行きついたカレーなのに、いつの間にかとんでもなく手間のかかるメニューにな
ってしまった・・・というのが、皮肉というか面白い話ですね。
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閑話休題。話を目の前のカレーに戻します。辛さは結構しっかりしていて、食べ進むうちに額がうっすらと
汗ばむ程ですが、牛すじの濃厚な旨味とバランスの良い甘さのお陰で、辛いものが苦手な人でもスプーンが止
まらない感じ。辛い、でも美味しい、やっぱり辛い、でも美味しい、あああああもうやめられない・・・。こ
の呉基地業務隊牛すじカレー、薬物依存症の気持ちが分かってしまう極めて危険かつ恐ろしいカレーだった模
様です。
それにしても、これほど個性も実力も強烈な牛すじをメインに立ててなおこのバランスよ良さ。正直驚きを
禁じえません。ともすれば牛すじに圧倒されがちな野菜の旨味を補佐しつつ、両者の間の橋渡しをしている第
三の存在。強力な助っ人食材がいるはず。
その食材はなんだろう・・・と目をつぶって舌先に神経を集中させます。微かに泡立つような独特のあとく
ち、癖のあるまろやかなコク・・・これは乳製品っぽい気がするなあ。原材料表示を確認すると、あ、これで
すね、チーズ!どうやら隠し味としてチーズが使われている模様です。なるほど、言われてみれば確かにこれ
はチーズの個性ですね。
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チーズをトッピングしたカレーは食べた事がありますが、最初からカレーの中の隠し味として使うと、こん
なにも実力を発揮するのか、チーズって。乳製品嫌いな人の苦手意識を無くすのにも、非常に有効な一手だと
思います。
それにしても、牛肉と野菜の間を取り持つのがチーズとは。確かに納得する話です。牛さんが植物を食べて、
お肉と乳製品を作ってくれる・・・そんな完成された生命生産活動の輪の中にいるゆるぎなさ。海自のカレー
の筈なのに、なぜか晴れた牧場の真ん中にいるイメージが浮かんで来るのがとても不思議です。
また艦艇部隊ではない業務隊は、海自組織の中でも陸(おか)を舞台に活躍する部署。ある意味陸(おか)
で働く海の人という個性を表現するには、チーズこそがうってつけの食材と言えるでしょう。
うーん、合点がいったとはこの事か・・・と、一人静かにほくそ笑んでしまった試食でありました。
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