護衛艦くらまビーフカレー
さて今回は、2016年に佐世保地方隊にて行われたGC(護衛艦カレー)1グランプリで見事優勝に輝い
た、『護衛艦くらまビーフカレー』です。当日の一般参加者の投票により、地方隊在籍9隻と掃海隊(3隻合
同)の中からナンバーワンに選ばれたこのカレーですが、そのDDH144護衛艦くらまも2017年の3月
をもって堂々の退役。1981年の就役以来36年間にわたる歴史の最後に華々しい成果を挙げたのは、いち
艦艇ファンとして実に感慨深い話であります。
まずは外観から見ていきましょう。鮮やかな深紅に縁どられたパッケージ中央には、護衛艦くらまの雄姿が
配置されています。デザインはいまいち地味ですが、これは以前試食したさわぎりカレーやこんごうカレーと
共通。民間企業が作った商品にもかかわらず、まるで製造や流通から販売までの一切を商売ごとに縁のないく
らま乗組員達が手掛けた様な、絶妙な手作り感というか垢抜けなさを醸し出しているのがいいですね。変に小
洒落たデザインにするよりも、よっぽど海自らしさが出ている気がします。
箱裏面には2016GC1グランプリ優勝とくらま退役の報告、そして1979年の進水以降の護衛艦くら
まの足跡が分かりやすくまとめられ、くらまの最後を飾る商品としての存在価値も十分。
そして個人的にグッときたのが、パッケージ全体を縁どっている深紅の使い方です。2016年末に香川県
高松港で行われたくらまの最後の一般公開、その時に艦内通路に敷かれていた赤カーペットと同じ色ではあり
ませんか!
通常はエライさんが来た時か特別な行事の時にしか使わない赤カーペットを、最後の一般公開に訪れた人達
のために準備してくれたんですよね。乗組員達のくらまへの思いともうこれでくらまも見納めという寂しさが
複雑に入り混じった、12月の寒い日を思い出してしまいました。
さて、それではレトルトを温めて試食に移ります。懐かしさを感じさせる明るいブラウンの色合いもさる事
ながら、まず目につくのは入っている牛肉のデカさ(笑)。薄切り肉とは言え、70×40mmのものと60
×30mmの牛肉が一枚ずつ入っていて、かなりのインパクトを誇っています。地図に描かれたユーラシア大
陸とアフリカ大陸みたいで、ついカレーの上で合体させて超大陸パンゲアごっこなどをしたくなります。
脇に控えているのはダイスカットのジャガイモ。他にも色々と溶け込んだ野菜がありそうですが、まずは手
堅い役者陣を揃えてきた感じですね。それでは一口いってみましょう。
ほほう、なるほどこう来たか・・・最初に感じられるのはフルーティで瑞々しい甘味。5000㌧を超える
DDHらしく重量感で押してくると思いましたが、この果樹園を吹き渡る風の様な軽やかさにはちょっと意表
を突かれた気分です。
とかくボディの強い甘みが強調されがちな海自カレーにあって、このさらりと優しい味わいは独特の個性と
言えますが、それでいて物足りなさはまるで感じないのが素晴らしい。まるで花粉を求めて飛び回るミツバチ
になった気分です。
それにしても、この爽やかでフルーティーな味わい・・・マンゴーやパイン等の南国らしい押しの強い甘さ
ではなく、白桃や琵琶に近いあっさりした個性を感じます。どれどれと外箱の原材料表示を確認すると、あ、
やっぱりももピュレが入っていました。他にいちごジャムなんかも入っている様ですが、ここで目にとまった
のがキャベツの4文字。え?キャベツが入ってるの??
具としての存在感が皆無なところから察するに、煮込みの段階で溶けてしまったのかな?表示の前の方に記
載されているので、わりとまとまった量が使われている筈ですが、もしかしたらミキサーでジュース状にして
カレーに加えたのかもしれません。なるほど、他に類を見ないこのカレーの瑞々しさは、キャベツが担ってい
たんですね。
護衛艦くらまの調理室で行われた、くらま金曜カレーリニューアル会議。あれやこれやと意見が飛び交う中、
隠し味にキャベツを使うぞ!と唐突に言いだした給養員長。
「ええっ!?カレーにキャベツ?マジっすか?」
と懐疑的な反応を見せる給養員一同。しかし実際に給養員長が作ったキャベツ入りカレーを食べてみると、
「なるほど、これはこれでアリ・・・いや、むしろこれしか考えられませんよ!」
と目からウロコを落とされる給養員達。腕組みをしてしてやったり顔の給養員長。流石だぜ!うちの給養員
長ハンパねえ!
そんなS.A.S妄想劇場に浸りながらこのカレーを食べていると、実際キャベツ以外でこの味わいを出せ
る水気の多い野菜って、ちょっと思いつかないんですよね。タマネギでは甘みが出てしまいますし、トマトは
独特のクセと酸味が邪魔をします。キュウリはあの青臭さが合わない気がしますし。比較的安価で一年中手に
入る上に保存性が高くて歩留まりもよく、生野菜としての応用幅も広いキャベツこそが唯一無二の正解なので
しょう。
このカレーを一口食べてキャベツの存在に気付く人は、恐らくほとんどいないと思います。とは言え、キャ
ベツ抜きでこのカレーが成り立つかというと、それは大いに疑問。
「フフフ、儂とした事が、こいつは一本取られたわい・・・」
と、グルメ漫画によく出てくる嫌味で高慢ちきな料理評論家になった気分でほくそ笑んでしまいました。
ちなみにこの護衛艦くらまビーフカレー、商品化にあたっては榎本達也海曹長以下調理員一同の監修を受け
たとの事。上にあげたさわぎりカレーは篠原2曹、こんごうカレーは冨永2曹の監修によるものでしたが、こ
のくらまカレーだけは『調理員一同』とあるのが泣かせますね。くらま乗組員の胃袋を支え続けた給養員達に
とって最後の晴れがましい舞台だからこそ、全員でその喜びを分かち合いたかったんでしょう。
護衛艦くらまが最後に残したこのカレーは、給養員達からくらまへのはなむけであると同時に、くらまから
給養員達に贈られた勲章でもある・・・そんな思いにしみじみと浸りつつ、大満足の試食を終えました。
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