護衛艦きりしまポークカレー


       さて今回は、横須賀海自カレーシリーズ『護衛艦きりしまポークカレー』です。DDG174護衛艦きりしま
      
はこんごう型護衛艦の2番艦。横須賀地方隊にて第2護衛隊群第6護衛隊を構成する、海上自衛隊が誇る2隻
      目のイージスシステム搭載護衛艦
であります。
       きりしまのカレーは以前試食した缶入りタイプのものに続いて今回が2つ目ですが、あの重厚かつ濃厚なう
      ま味
が思い出されますね。果たして今回はどのようなお味で護衛艦きりしまらしさを表現してくれるのか、ま
      ずは外箱から見て行きましょう。
       いかにも海自のカレーらしい濃紺地のパッケージには、港内をゆっくりと進む護衛艦きりしまの雄姿がレイ
      アウトされています。上空のヘリから撮影したのか、艦橋構造物のボリュームがあるイージス艦らしさが伺え
      る角度ですね。面構成の光のコントラストも効いてて、あたご型もいいけどやっぱりこんごう型はカッコいい
      なあ・・・と惚れ惚れしてしまいました。
       箱裏面には横須賀海自カレーの説明と、護衛艦きりしまから秘伝のレシピの提供を受けた横須賀市内の飲食
      店『ハングリーズ』さんのきりしまカレー画像があしらわれています。

       さて前置きはこれぐらいにして、さっそく温めたレトルトを開封して試食に移ります。ほほう、ジャガイモ、
      ニンジン、豚肉がごろごろ
で迫力ある見た目ですね。色は濃すぎず薄すぎず、実にクラシカル&トラディショ
      ナル
な外観です。
       という訳でまずは一口。おおう、これはまたなんというか・・・缶入りのきりしまカレーと同様に、気持ち
      いい位に王道一直線のカレーです。珍しい食材やヒネリのきいた工夫に走っていない、ど直球どストレートな
      味わい

       この分厚いのに重々しくない濃厚な旨味・・・正体は飴色タマネギと見た!と原材料表示を確認すると、か
      なり上の方にりんごがありました。ああそうか、りんごか。炒めタマネギの甘味をしっかりと引き締めるりん
      ごの甘酸っぱさ
。これが堂々たる味わいなのに重々しさを感じさせなかった理由の模様です。

       そしてこの、甘味の後に襲い掛かってくる遠慮のない辛味。激辛レベルではありませんが、食べていると額
      に汗が浮かびます。辛いものが苦手な人にはちょっとキツいかもしれませんが、それでもスプーンが止まらな
      い、いや止めさせてくれない実力
を誇るこのカレー。いやはや大したものです。
       あまりに正々堂々の横綱相撲すぎて最早何もいう事はありませんが、途中からかすかに気になったのが、素
      晴らしく整ったバランスの中に漂うほんの少しのレトロな野暮ったさ。殆ど気にならないレベルではあります
      が、なんなんだろうこの不思議に懐かしい味わいは。
       日本海軍創設期、明治時代にまで遡ったカレーは数多くありますが、それとはちょっと違う様な。なんてい
      うんでしょうねえ、1950~70年代にかけての高度成長期の、高級ホテルのルームサービスで出て来そう
      なカレー
。当時は最先端の味わいだったのに、今食べると流石に微妙に洗練され切っていない・・・そんなイ
      メージが一番近い気がします。
       そういう意味では今風のカレーに比べて若干古風な印象が残りますが、それでも物足りなさは微塵もなし。
      むしろこの味の分厚さと重量感は、日本経済の膨張が止まるところを知らなかったあの当時を思わせる味なの
      かもしれません。

       それにしても、護衛艦きりしまのカレーでなんで高度成長期をイメージしてしまったんだろう。そもそも私
      は高度成長期というものを肌で知らない世代ですし、きりしまの就役も1995年なので、高度成長期と全く
      リンクしていない
んですよねえ。
       例によって私の一方的かつ勝手なインプレッションですが、不思議な事もあるものだ・・・と考えていてふ
      と気がついたのですが、もしかして護衛艦きりしまの初代給養員長を務めたのは、高度成長期の日本のカレー
      をその舌で実際に味わった、ベテラン隊員
だったのではないでしょうか。
       1950年代生まれの隊員さんがベテラン給養員長として脂が乗り始めるのが40歳前後と考えると、ほぼ
      きりしま就役とタイミングが重なります。いつもながら強引なこじつけに自分でも呆れてしまいますが(笑)、
      今回ばかりはあながち間違いでもない気がするなあ。

       子供の頃に、なんらかの形で当時の日本最高レベルのカレーライスを味わったベテラン給養員長さん。今回
      抜擢された護衛艦きりしま初代給養員長のポストに身の引き締まる思いですが、まず自分が取り掛からないと
      いけないのは生まれたばかりの護衛艦きりしまの給養員を鍛え上げる事。そして自分の海上自衛官生活の集大
      成となるきりしまカレーの方向性を確立する事。
       そんな初代給養員長さんは、これまで味わってきた数々のカレーの中で、一番美味しかったカレーをシンプ
      ルに追い求めようとしたのではないでしょうか。
       残念ながら私が物心ついた時には既に高度成長期は過去の話でしたし、そもそも高級ホテルのルームサービ
      スのカレーなど食べた事もないのですが、あの時代に生まれてあの時代の空気を吸って育った人は、結局この
      きりしまカレーの路線に戻っていく
ような気がします。
       そういう意味では、実におっさんキラーなカレーと言えますね。その一方で、今の若い隊員さんにこの味が
      通じるのか?という不安もありますが、若さばかりがもてはやされるこの世の中、こんなおっさんの方だけを
      向いているカレー
がひとつぐらいあってもいいじゃないですか!

       かすかに古風な香りが漂うものの、その美味しさは間違いなく本物。時代が変わり人が変わっても、本物の
      中の本物は決して色褪せる事はないのです。まるでこの一皿のきりしまカレーに
       「迷うな!そのままで行け!」
       と、力強く背中を押された気分になりました。
       生きる中で何かに感動し、何かを追い求め、その途中で迷ったり疑問を抱いたりしている人にとってはまさ
      に金言にも等しいこの一皿・・・食べ終わって空になったお皿に深く一礼してしまった『護衛艦きりしまポー
      クカレー』
でありました。




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