潜水艦けんりゅうの「ソードドラゴンカレー」


       さて今回は、呉海自カレーシリーズ『潜水艦けんりゅうのソードドラゴンカレー』です。SS504潜水艦
      けんりゅう
はそうりゅう型潜水艦の4番艦。2012年3月に就役し、SS596くろしおSS600もち
      しお
とともに、呉基地において第1潜水隊群第3潜水隊を構成しています。
       まずはパッケージから見ていきましょう。シリーズ共通の濃紺地をバックに、浮上航行中の潜水艦けんりゅ
      う
の画像がレイアウトされていますが、同シリーズにラインナップされている潜水艦まきしおチキンカレーと
      撮影角度が全く同じ
なんですね。売り場の棚に並んでいたら間違えそうですが、一世代前のおやしお型と最新
      鋭のそうりゅう型の外観の細かな違い
を見比べる事が出来て、これはこれでなかなか面白い仕様。

       「ほら、なっ、こことここがおやしお型と違うんだよー」
       と聞かれてもいないのに店先でいきなり語り始め、周囲から煙たがられるマニアを量産していると思われます。
       箱裏面には海自と呉の成り立ち呉海自カレーについての説明が記載され、潜水艦そうりゅうから秘伝のレシ
      ピの提供を受けた呉市内の飲食店『りゅう』さんで出している、けんりゅうカレーの画像も掲載されています。
      鶏ガラ
香草のブイヨンがベースのシーフードカレーとの事ですが、なんだか美味しそうだなあ。ワクワクしな
      がらレトルトを湯煎で温め、さっそく試食に移ります。

       ほほう、なかなかの具沢山ですね。ダークブラウンのルーの中には飾り包丁が入ったイカアサリ、あとほ
      ろほろに煮崩れたイタヤ貝が散らばっていて、なるほどこれはシーフードカレー。まずは一口頂いてみましょ
      う。
       おお、なるほどなるほど。魚介類の旨味がたっぷりと乗った、エビミソ風味に頼らない系のシーフードカレ
      ー
です。私もカレーはよく自作しますが、普通のカレールーにシーフードの旨味を上手く融合させるのが難し
      いというか、なかなかこれだ!というシーフードカレーにならないんですよねえ。コストパフォーマンスの観
      点からもついつい豚コマとしめじ、大豆を使ったいつものカレーになりがちで、美味しいシーフードカレーを
      作れるのは凄いなあ・・・
と感動してしまいました。

       ドミグラスソースのまろやかな味わいも有効に使われていますが、それを引き締める塩味が印象的。3種の
      シーフードからの塩分もあると思いますが、刺激的なカレーをまろやかにすべく加えられたドミグラスソース
      を、さらにもう一度引き締めるこの塩味・・・2重3重の味の重なりが、何系統にも分けて設計された潜水艦
      内の配管やバルブ類
を彷彿とさせます。
       3種のシーフードの中で最も目立つのは拍子切りのイカですが、折角の潜水艦のカレーなんですから、どう
      せなら輪切りのイカにしてほしかったなあ。食べ物で遊ぶのはいけませんが、輪切りになった子イカをカレー
      の中で合体させて、皿の上に潜水艦建造ドックの様子を再現してみたかった気がします(笑)。

       原材料表示を確認すると、使われていたのはムラサキイカ。聞いた事のないイカだな…と思ったら、どうや
      らアカイカの別名だった模様です。肉厚で旨味が濃いため冷凍加工品でお馴染みのアカイカですが、なるほど
      食品保存に制限のある潜水艦に向いている食材なんですね。艦名を考えると剣繋がりケンサキイカが相応し
      かった気もしますが、身が薄くすっきり味のケンサキイカは、カレーにはちょっと合わなかったかも。
       とは言えイカは地方地方で名前がごっちゃになっているので、ものの本によれはケンサキイカをアカイカと
      呼ぶところもある
とか。分類学的には全く別の生き物なのですが、けんりゅう=アカイカでアカイカ=ケンサ
      キイカなら、けんりゅう=ケンサイキカという図式も十分成り立たない事もない・・・という強引な解釈を、
      当S.A.Sの公式見解としたいと思います(笑)。
       アサリイタヤ貝もけっこう沢山入っていますが、どちらも持てる旨味のすべてをカレーに捧げた満足感
      らか、もはや完全脱力状態でカレーの海に漂うのみ。その己を顧みない潔い献身に、思わず頭を垂れてしまい
      ました。

       そしてこの強めの塩味は、言うまでもなく海を意識した味付けでもありますね。航行中に甲板上に出る事も
      ある水上艦とは違い、いったん潜行してしまえば潮風など感じる訳もない潜水艦生活。潜望鏡深度について
      ュノーケルによる換気を行ったとしても、艦内の空気に潮気を感じる事はまずないでしょう。
       洞窟の様な艦内に押し込められ、昼夜の区別なく何日も続くシフト勤務。最初のうちは海中にいる非日常感
      や恐怖や感動、興奮を覚える事はあっても、何年もそれが続くと慣れてしまうというか、部署によってはいま
      海中にいるんだという感覚も薄れてしまう
かもしれません。いわば完璧に環境が整えられた宇宙船の中にいる
      様な毎日ですから。
       そんな中、週に一度金曜昼に出てくる塩味の効いたシーフードカレー。艦内にたちこめたディーゼル臭や体
      臭
に慣れ切った隊員さんにとっては、ある意味これが〝新鮮な潮風の香り〟になるのかも。
       ちなみにこれまで潜水艦につきものだったブロー臭ですが、そうりゅう型潜水艦からはブロー専用のポンプ
      
が採用され、めでたく乗組員はあのニオイから解放されたとの事。
       「ブロー臭?なにそれ?」
       という方もいらっしゃると思いますが、詳しくはトップページの自衛隊用語辞典をご参照ください。これで
      も一応食事のレポ
なので、この場での直接の説明は避けたいと思います(笑)。

       よりクリーンになった艦内で頂く潮風の味に満ちたこのソードドラゴンカレーは、ある意味そうりゅう型潜
      水艦から始まった新時代のサブマリナーの味
       「なに言ってやがる、あのエグい潜水艦スメルの中で食べてこそ、潜水艦乗りの金曜カレーってもんよ!」
       と笑い飛ばす古参の豪傑サブマリナーも、そのうち絶滅危惧種に指定されてしまうんだろうか・・・と遠い
      目をしつつ、美味しい潜水艦けんりゅうの「ソードドラゴンカレー」を堪能しました。




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