護衛艦じんつうポークカレー


       さて今回は、『護衛艦じんつうポークカレー』です。DE230護衛艦じんつうは、1990年2月に就役
      したあぶくま型護衛艦の2番艦。佐世保地方隊を定係港とする第13護衛隊の一翼を担う、沿岸用小型護衛艦
      であります。
       2018年に開催された佐世保GC(護衛艦カレー)1グランプリでの優勝を記念して作られたこのカレーで
      すが、事前告知された9隻のうち当日参加できたのは、予備艦の護衛艦ちょうかいを含めて4隻のみ。陸自か
      らは水陸機動団のゲスト参加がありましたが、前年の7隻に比べると寂しい顔ぶれとなりました。やっぱり通
      常の訓練以外に年次修理のドック入り海外派遣任務などが重なって、現場は艦艇のやりくりが大変なんでし
      ょうね。
       いまや大人気イベントになった佐世保GC1グランプリですが、そもそも海自は完全にボランティアでの参
      加
です。その上当日の人手はおろか、提供するカレーの原材料費まで全部海自が負担しているとの事。管轄が
      異なる部署への予算の融通等、現実的に難しい問題も多い様ですが、なんとか海自に無理がかからない形にし
      てもらいたいところです。

       そんな話はさておき、まずはパッケージから見て行きましょう。従来の佐世保GC1カレー同様に、素っ気
      ない白地
に護衛艦じんつうの画像が丸抜きでレイアウトされていますが、縁取りがOD色なのが何だか変な感
      じ。これで陸自の水陸機動団が優勝していればばっちりハマったと思いますが、海自のカレーなのになんでこ
      んな色にしたのやら

       とは言え、その前年に優勝した護衛艦いせのカレーの外箱がピンク色だった事を考えると、この色使いに
      に意味はない
のかもしれません。

       ちなみにこの護衛艦じんつうのカレーですが、海貝孝浩海曹長鮫島将太海士長調理員一同による協力と
      の事。へー、海曹長と海士長の二人が代表なのか。これは珍しいパターンです。通常はどちらか一人が代表で、
      プラス調理員一同という書き方になる事がほとんどなのですが。
       なんだかベテラン刑事新米刑事がコンビを組んだみたいで、親と子ほど歳が離れた二人の価値観の衝突
      含めて、このカレーが優勝するまでに映画のようなドラマがあったのかな・・・と、想像力をかき立てられま
      した(笑)。
       あと細かい事ですが、昨年のいせカレーまでは『監修』だったのに、このじんつうカレーは『協力』なんで
      すね。両者の間にどのような違いがあるのか分かりませんが、艦艇の金曜カレーを再現したという説得力で、
      私的には『監修』の方がお得感が増すな気がしました。

       前置きはこれぐらいにして、さっそく温めたレトルトをお皿にあけてみましょう。ほほう、なんだかやけに
      明るい色合いのカレー
ですよ。海自の金曜カレー定番のダークブラウンではなく、むしろオレンジ色に近い感
      じです。
       そして湯気とともにぷんと漂ってくる、ほんのり酸っぱそうな香り。色合いから察するに、トマトベースの
      カレーなのでしょうか。
       はやる心を抑えつつ、まずは一口。ほほう、なるほどなるほど。やはり独特の酸味と香りを伴った、不思議
      な味わいのカレー
ですね。見た目通りに軽くて食べやすいですが、豚肉らしいどっしりした旨味と野菜の優し
      い甘みもあって、打撃力と機動性のバランスがとれたあぶくま型らしいなあ。
       まず酸味が際立つカレーですが、じっくり味わってみると意外な塩っぱさもありました。これは潮風を表現
      しようとしたのかな?いや、むしろ醤油由来の塩っぱさの様な気がします。

       さらにじっくりと味わっていくと、一種独特の辛さも浮かび上がってきました。何なんだろうこの変わった
      風味を伴った辛さ
。シンプルに辛い唐辛子だけではなく、どこかスハスハした爽快感のある辛さ・・・なんと
      なく山椒っぽい気もしますね。
       それにしても、ここまで食べ進んでもこの不思議な個性の底がなかなか見えません。かなりステルス性の高
      いカレー
です。そういえばあぶくま型って、不完全ながらも船体設計にステルス性を盛り込んだ艦だったなあ。
       なかなか確信を持った答えが導き出せないのですが、この独特の味わいを私なりに分析してみると、トマト
      
ショウガ、あと白ワインバナナ、そしてほんのわずかの粉山椒・・・かな?滑らかなルーの中に微かにし
      ょりしょりシャキシャキした繊維感があるので、ほぼ液状になるまですりおろしたショウガは入っていると思
      いますが・・・と、ここで原材料表示を確認すると、タマネギニンジンセロリ・・・ああ!セロリだった
      のか!!

       恐らくミキサーで液状にすりつぶしたセロリを使ったと思いますが、それならこの一風変わった香りスハ
      スハ感
しょりしょり感シャキシャキ感にも納得がいきます。自分でカレーを作る時はまず入れない食材だ
      ったので、全く思い当たりませんでした。

       それにしても、ここまでクセのきつい食材を味を左右するレベルでカレーに入れるのは、かなりの勇気が必
      要だったはず。いくらアレンジの自由度が高く何でも受け入れる懐の深さを誇るカレーとは言え、セロリが苦
      手な人
は結構いますし、腕自慢のベテラン給養員でもつい二の足を踏んでしまう難しい食材です。
       そんな扱いの難しいセロリを取り入れたカレーで100名を超す乗組員の舌と胃袋を満足させ、さらに多数
      のお客さんが集まるGC1グランプリで優勝してのけたこのじんつうカレー。先述の二人をはじめとした給養
      員達の並々ならぬ努力と苦難、研鑽の賜物と言わざるを得ないでしょう。他の艦がセロリ入りカレーの大きな
      可能性
に気づいたとしても、今からでは容易に追いつける話ではありません。
       私自身セロリが嫌いな方ではありませんが、自分の味としてほぼ完成状態にあるカレーに今からセロリを入
      れるか?
と言われたら、ちょっと尻込みすると思うんですよね。セロリ自身の個性があまりに強烈すぎて、
      体の味の再構築
から始めないといけない訳ですから。

       今まで積み重ねてきた沢山のものをすべて捨て去り、全く新しい世界であるセロリ入りカレーに賭ける勇気
      
が自分にあるのか?
       「いや、ちょっと待ってくれ、美味しいのは分かったけど、少し考える時間をくれ・・・」
       
そんな腹の座っていない人間には、決して登ってはいけない山なのでしょう。
       何の躊躇もなく前に進むか、迷わずその場から立ち去るか。そのどちらかしか許されない山。生半可な気持
      ちでは近づいてはいけない、海の上に聳え立つ魔の山・・・。それが私にとってのじんつうカレーなのです。
       オンリーワンの中のオンリーワン。まさに孤高の美味と言っても過言ではない、『護衛艦じんつうポークカ
      レー』
でありました。




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