護衛艦いせビーフカレー


       さて今回は、『護衛艦いせビーフカレー』です。これは2017年に佐世保地方隊にて行われたGC(護衛
      艦カレー)1グランプリ
にて、見事優勝に輝いたDDH182護衛艦いせのカレーを再現した一品で、入手し
      て以来試食が楽しみでした。
       まずはパッケージから鑑賞しますが、鮮やかなピンクの縁取りが目を引きますね。ネイビーブルーが基調に
      なりがちな海自のカレーでは珍しい、ポップな色使いがかなり挑戦的。従来の海自カレーの殻を打ち破りたか
      ったのか、商品として目を引きやすいインパクトを重視したのか、はたまたデザイナーがエロい事を考えなが
      ら仕事していたのか・・・謎が謎を呼ぶ煽情的な色彩センスと言えるでしょう。

       箱裏面にはGC1グランプリの説明や当日参加した7隻の艦艇の画像、あと栄養成分表示原材料名等が分
      かりやすくまとめられています。
       ちなみにこの護衛艦いせビーフカレーですが、中島智幸一等海曹以下調理員一同による監修というお墨付き。
      この『調理員一同』というのがいいですね。300名を超える乗組員の胃袋を預かる給養員達の、鋼の如き結
      束とチームワーク
が感じられます。

       前置きはこれ位にして、さっそくレトルトを温めて試食に移りましょう。色合いはやや明るめのブラウンで、
      大きな牛肉の塊が3つ4つゴロゴロしています。まずは一口味わってみると、ほほう、これはこれは・・・ま
      ず最初に感じられたのが甘み。それも濃厚で太い甘さではなく、ふわっと広がってスッと引く様な淡い甘さ
      す。しつこさをまるで感じさせないこの軽やかな甘さ・・・恐らく果実によるものでしょう。
       しっかりとしたがあるのに爽やかな、このトロピカルな甘さ・・・ライチやスターフルーツ系に近い気が
      しますが、それじゃちょっと軽いなあ。とは言えバナナではもっと重くなりそうですし、なんか違う気がしま
      す。

       また、果実由来の甘さをキリッと引き締めるスパイスの存在も感じられますね。なんだろうこれは。ありき
      たりですが、ショウガかな?
       という訳で箱裏面の原材料表示を確認すると、順番のかなり上の方にりんご濃縮果汁がありました。ああ、
      そうか、りんごか!あまりにありふれた材料だったので逆に思いつきませんでした。ぱきっと噛んだ瞬間にし
      ゅわっと広がる爽やかな甘味。確かにこれはりんごの個性です。
       ちなみにこのカレー、御覧の通り目に見える具は牛肉のみ。タマネギとニンジンも入っている様ですが、完
      全に煮溶けたのかその姿は確認できません。様々な具材で工夫を凝らしたカレーが集まったGC1グランプリ
      当日、護衛艦いせは牛肉一本のみで勝負をかけた模様。実に清々しい割り切り方であります。
       その一方で、目に見える具が牛肉だけであるが故に、科員食堂で大鍋から盛り付けた各自のカレーを一瞥す
      れば、その隊員さんが抱いている肉に対する執着心や我欲の張り方がモロに露呈してしまうという、非常に恐
      ろしいカレーとも言えますね。とかく他人の目を気にしすぎる日本人としては、あまり卑しい奴だと思われた
      くない・・・
と、ついつい牛肉を少なめに盛ってしまうのではないでしょうか。

       となると、配食始めの段階よりも中盤以降、それこそ大鍋いっぱいにあったカレーが残り半分、いや1/3
      位になった頃が、おたまひとすくいあたりの牛肉含有量が格段に高い状態になりそう。急がば回れ、いせカレ
      ーは遅いタイミングで食べに行く方が、お肉たっぷりで楽しめるんでしょう。
       もっともこれは、あまり露骨にやりすぎると逆に人格を疑われかねないというか、
       「Kの野郎、いつもメシの時間になると他の隊員を突き飛ばしてでも真っ先に食堂にやってくる癖に、カレ
      ーの時だけはやけにゆっくり後から来るんだな。なるほど、やっぱりそういう奴なのね・・・」

       とか言われてしまうんだろうなあ。艦内というストレスの溜まりやすい閉鎖空間で周囲と上手くやっていく
      には、ちょっとした振る舞い一つにも気をつけるべきなのかもしれません。
       ・・・と、例によって話が変な方向に転がってしまいましたが(笑)、この護衛艦いせカレーの味覚的な特
      徴としては、程よく均整の取れたバランスのよさが挙げられます。果実の甘さがベースですが決して出しゃば
      る事はなく、辛さも旨味も食べ応えもちょうどいい感じ。どれか一つが突出する事はなく、見事に調和のとれ
      た味わい
になっています。

       ある意味ほどほどに控えめとも言える収まりの良さですが、裏を返せば押しの弱さにも繋がるんですよね。
      護衛艦ひゅうがカレーやイージス艦こんごうカレー、あと護衛艦きりしまカレーもそうでしたが、大型艦のカ
      レーがどれも重量級らしいパワフルさを持ち味としてきた
だけに、基準排水量13950㌧に及ぶ護衛艦いせ
      カレーのこの大人しいまとまり方は、ちょっと意外・・・。
       ここで気がついたのが、ひゅうが型護衛艦の2番艦、いわば次男としての立ち位置です。海上自衛隊初の全
      通甲板型護衛艦
として、華々しくデビューした護衛艦ひゅうが。最新鋭の1番艦としての栄誉と引き換えに、
      何もかもが初めて尽くし。他の艦では味わう事のなかった試練、壁の連続だった事は想像に難くありません。
       設計から建造はおろか、進水から就役まで、まさに暗中模索試行錯誤の手探り状態。想像を絶する苦難を乗
      り越えての就役だったんでしょう。
       そのひゅうがの経験をそっくりそのまま受け継いだ2番艦のいせとしては、自分の為に大変な苦労を背負っ
      てくれた長兄ひゅうがを立てたくなるのも無理はない話。そんなつい控えめになってしまう性格が、このカレ
      ーにも反映されているのかもしれません。

       とは言え第2護衛隊群の大看板たる護衛艦いせ。何もかもが控えめな訳がないんですよね。普段から我を張
      る事はなく、常に全体を見渡す調整役に徹している様な穏やかな人が、ここ一番の勝負どころで見せる猛禽類
      の如き鋭い眼光
・・・想像するだけでゾクッときます。これこそが護衛艦いせの真骨頂なのでしょう。
       上には偉大な長兄ひゅうが、そして下にはさらに船体を大型化させて任務の多様性を高めた三男いずも、四
      男かが
。海上自衛隊DDH四兄弟の中では地味な立ち位置にある護衛艦いせですが、上を立てつつきちんと下
      にも目を配れる・・・こういう役割を果たせる人がいてこその、堅固な組織構造なのでしょう。
       海軍自衛隊レトルトカレーを愛してやまない私としては、出しゃばらない護衛艦いせがこうしてGC1グラ
      ンプリで大きな栄誉を掴むことが出来た事を、まるで我が事の様に嬉しく感じます。パッケージ正面の護衛艦
      いせが、
       「まったく、やれやれ・・・(笑)」
       と苦笑している様に見えた護衛艦いせビーフカレーでありました。




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