いなづまカレー


       さて今回は、呉海自カレーシリーズ『いなづまカレー』です。DD105護衛艦いなづまはむらさめ型汎用
      護衛艦の5番艦で、DDH184かがDD106さみだれDD113さざなみとともに呉地方隊にて第4
      護衛隊群第4護衛隊
を構成しています。
       シリーズ共通の群青色のパッケージには護衛艦いなづまの凛々しい姿がレイアウトされていますが、改めて
      見ても前甲板の67mm単装速射砲のこぢんまり感が気になります。誘導ミサイルやレーダーシステムが極度
      に発達した現代において、この手の艦船搭載火砲に要求される内容については諸説ありますが、やっぱり基準
      排水量4550㌧
を誇る艦にしては絵的に物足りない気がしますね。

       箱裏面には海自と呉の成り立ち、呉海自カレー商品化にあたっての説明が簡潔に紹介され、護衛艦いなづま
      からレシピの提供を受けた呉市内のレストラン『瀬戸内』さんの美味しそうなカレー画像が配置されています。
       ちなみにレストラン『瀬戸内』が入っているグリーンピアせとうちというホテルを検索してみると、住所は
      呉市安浦町三津口。なんか聞いた事あるなあと思ったら、現在は漁港の防波堤として余生を送っている旧海軍
      のコンクリート船武智丸
のすぐ近くなんですね。安浦漁港は美味しい養殖牡蠣で有名ですし、また行きたくな
      るなあ、呉江田島巡り。

       余談はこれ位にして、さっそくレトルトを温めて試食に移ります。開封したレトルトからは、ゴロゴロのジ
      ャガイモと沢山のキノコ
が出て来ました。ジャガイモはかなり大ぶりなカットで迫力満点。レトルトの具とし
      ては最大級
と言っていいサイズであります。
       キノコはヒラタケを使っていて、エリンギの様にまっ平らな頭頂部斜めに伸びた軸部が特徴的。ワクワク
      しつつさっそく一口頂いてみましょう。
       ほほう、なるほどなるほど・・・どっしりした濃厚さとさっぱりした軽やかさのバランスがとれた、なかな
      か美味しいカレーです。この異なる個性を矛盾させずに両立させた在り方は、確かに現代の汎用護衛艦らしく
      て面白い
なあ。ジャガイモのコクと粘度で優しい濃厚さを、ヒラタケの瑞々しさと歯ごたえの良さでさっぱり
      感を演出して見せたのはお見事の一言に尽きます。
       辛さも全体のバランスを壊さない程度の程よい刺激で、5段階の六角形パラメータで言えば全ての要素で評
      価4を確保
している様な、高いレベルでのバランスの良さを感じます。このあたりもむらさめ型以降の汎用護
      衛艦っぽい個性だなあ。

       それにしても、特筆すべきはこのヒラタケの存在感でしょう。十分に煮込まれているのに芯のところにはき
      ちんとキノコらしい香りと水気を残していて、カレーの強烈な個性に対して一歩も引いていないのが素晴らし
      い。ひと噛みごとに自身の味わいをアピールしてきます。
       個性も華もあるジャガイモやニンジン、タマネギ達が芯の芯まで簡単にカレー味に染まってしまうのに対し、
      一見非力で頼りなげに見えるヒラタケのなんと頑固な事!あれれ?ヒラタケってこんなに力強い食材だったっ
      け?と驚いてしまいました。一度決めたらテコでも動かない意思の強さ、カレーに飲み込まれてもなお自らの
      持ち味を失わない腹の座り方ヒラタケくん、いやヒラタケさんの意外な一面を垣間見た気がします。
       艦艇イベントを数多く回るようになると、同じタイプのフネでも驚くほど艦内の雰囲気や個性が違う事に気
      づかされます。それは艦が所属する母港の風土が反映されたり、乗組員の出身地構成による気風の違いだった
      りと様々な要因が挙げられますが、概ね初代乗組員として選ばれた隊員さん達の雰囲気がそのまま受け継がれ
      る事が多いと聞いた事があります。
       無口で地味、派手な振る舞いを控える一方で、時には驚くほどの忍耐力と芯の強さを発揮する・・・これは
      北陸や東北出身者のイメージと重なりますね。もしかして護衛艦いなづまの初代乗組員は、その辺り出身の人
      達が多かったのかなあ。
       いや、でも私がこのカレーから感じられるイメージとは、何かがちょっと違う様な・・・これは艦全体とい
      うよりももっと個人的なもの、指揮官である初代艦長の個性だったのではないでしょうか。

       三菱重工業長崎造船所にて建造中の護衛艦いなづま艦内。艤装員長として着任したのちの初代艦長に対して
       「頭でかいのに小柄で弱そうだし髪型平べったいし、おまけになんか傾いてるし・・・あんまりパッとしな
      い人が俺達の親分になるんだなあ・・・」

       と感じた初代乗組員達。しかし艦の立ち上げに奔走する慌ただしい日々を過ごすうち、初代艦長の内に秘め
      た指揮統率能力の高さ、燃えるような幹部自衛官魂に徐々に圧倒される乗組員達。
       「あ、違うわ、この人絶対ただのキノコ野郎なんかじゃない・・・ふふふ、このフネでの仕事は面白くなり
      そうだぞ・・・」

       その頃、給養室で一人思い悩む初代給養員長。厨房のトップ、護衛艦いなづまの胃袋を預かるグランシェフ
      として、これまで積み重ねて来た経験と自分の腕を全て注ぎ込んだいなづまカレーを作らねばなりません。今
      の気持ちを表現できる食材と言えば・・・と、テーブルに並んだ肉、野菜、魚介類、各種スパイスを見渡した
      給養員長。そしてその目に留まる、一塊のヒラタケ
       「そうだ、お前がいたな。あの艦長が指揮を執るこの護衛艦いなづまのカレーの主役を張れるのは、お前し
      かいない・・・!」

       そんな艦内ドラマの一幕が、試食中の私の脳内で繰り広げられてしまいました(笑)。きっと、いや、絶対
      にそんなドラマがあったはず!

       ちなみにウィキペディアで護衛艦いなづまの初代艦長を確認すると、防大20期卒の中村泰信2等海佐であ
      りました。若干、いやかなり失礼な妄想だった事をお詫びしますが、実際の中村泰信2等海佐は果たしてどん
      な方だったんでしょう。意外と見るからに屈強そうな武人タイプだったり、明るく気さくなひょうきん者だっ
      たりして。
       いやあ、ほんと海自カレーは私のイマジネーションを刺激してくれますね。実に興味深いミリタリーカルチ
      ャーであります。これだから海軍自衛隊レトルトカレーめぐりは止められないな・・・と納得しつつ、大満足
      の試食を終えました。




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