護衛艦ひゅうがカレー
さて今回は、護衛艦ひゅうがカレーです。これまで試食してきた海軍及び自衛隊カレーは全てレトルトでした
が、今回入手したこれは缶入り。自衛隊戦闘糧食Ⅰ型の缶飯にありそうでなかったカレーなので、この商品化
に触発されてⅠ型缶飯のメニュー大改訂もあるのでは・・・と夢が膨らんでしまいます(笑)。
ちなみにこのカレーは『海上自衛隊のめちゃうまカレーレシピ48』というムックからレシピの提供を受けてい
て、ひゅうがカレー再現度はかなり高そう。入手して以来、試食が楽しみなカレーでした。
まずは茶道の礼法に則り、器から鑑賞します。ラベルには桟橋から見上げた巨大な護衛艦ひゅうがの威容
がデザインされ、微妙にずらして配置されたフォントも含めてなかなかよく出来ています。その側面には基準排
水量や速力、主要兵装といったひゅうがのスペックも紹介され、艦名を頂いたカレーとして押さえるべきところ
をきちんと押さえているのも好印象。
調理方法や注意点、原材料表示や賞味期限については、缶を横倒しにした向きで印刷されていますが、色
といい形といい護衛艦に搭載されている救命筏の樽みたいで、ちょっと面白い演出です。実物を見た事がある
人なら、思わずニヤッとしてしまうかも。
ちなみに内容量は230g。普通のレトルトカレーは概ね200gで揃えてある事が多いので、これも護衛艦ひゅ
うがに相応しいボリューム感と言えますね。
しかしこの缶詰、紙に印刷されたラベルを缶の周囲に貼り付けてあるので、このまま湯煎するとせっかくよく
出来たラベルが剥がれそうだなあ。残った空き缶も資料として保存したいので、今回は湯煎ではなく缶の中身
を別の容器にあけてレンジアップします。
お皿に盛ったご飯にかけて、まずは一口。ほほうなるほど、こう来たか・・・。最初に感じられたのは香辛料の
辛さや香りではなく、はっきりとした甘味。それも野菜や果実の甘味とは違った、いい意味で豊かな雑味を感じ
させるこの骨太な甘味は・・・黒糖かな?と思いましたが、原材料表示を確認すると、この甘さは砂糖によるも
のでした。うむむ、当たらずとも遠からず・・・といったところでしょうか。
最初にガツンと甘さがくるという予想外の展開にやや戸惑ってしまいましたが、すぐにカレーらしい刺激的な
辛さが舌を襲い、ああ、これはかなり美味しいカレーですよ。第一印象の黒糖っぽさには違和感を覚えました
が、お子様向けではない甘ウマの極みというか、なるほどこれは一筋縄ではいかない美味さだなあ・・・と、思
わずほくそ笑んでしまいました。
具はいかにも伝統的なニッポンのカレーライスらしく、牛肉、じゃがいも、ニンジン、タマネギ。どれもゴロゴロ
の大きなカットなので、実に存在感があります。じゃがいももニンジンもスプーンの上にドスンと載るサイズで、
まるで水平線の向こうにひゅうがの艦影が見えた時の様な頼もしさ。これも缶詰という保存形式がゆえに実現
できた、巨艦ひゅうがらしい演出と言えるでしょう。レトルトではどうしても具の大きさに制限がありますからね。
一方牛肉はやや薄めにカットされていますが、ボリュームは十分。使っているのはスネ肉かな?いや、脂肪
の旨味もしっかりあるのでバラ肉かもしれません。
あとこの、タマネギのぴらぴらした食感が嬉しいなあ。カレーに煮溶けて渾然一体となっている事が多いタマ
ネギですが、このカレーでは瑞々しい食感も楽しめる具の一員として、きちんとその姿を残しています。カレー
における野菜の旨味の代表格ともいえるタマネギ君、たまにはこうして表舞台でスポットライトを浴びさせてあ
げないと。
それにしてもこの護衛艦ひゅうがカレー、一発目の強い甘味が印象的ではありますが、食べ進んで行くうち
に強い辛味がボディーブローの様に効いてきます。ただでさえ旨味が濃厚なのに、その上辛さもしっかりして
いるので200gの白ご飯では太刀打ちできません。私としては300g、いや350gぐらいの白ご飯でようやくバ
ランスが取れる感じ。いやはやさすが基準排水量13500㌧!ひゅうがの名に恥じない、まさにド迫力の味わ
いであります。
最初のあからさまな甘味についてはちょっと評価が分かれそうですが、私としては十分アリな個性だと思いま
すね。いやはや、ほんと美味しかったです護衛艦ひゅうがカレー。
食べていてふと思ったのですが、晴れて護衛艦ひゅうがに配属となった新米海士が最初に感じるひゅうがの
凄さとは、もしかしたらこのカレーなのかもしれません。教育隊で一通りの事は教わったとは言え、現場の仕事
は覚えなきゃならない事ばかりだし、慣れない艦内生活は戸惑う事の連続。一般社会とはまるで違う日々を過
ごす事に精一杯で、最初のうちは護衛艦ひゅうがの全体像や、凄さといったものはなかなか見えてこないと思
うんですよね。そこで週に一度、金曜日の昼に出されるひゅうがカレーを初めて食べた新米海士くん。
「うわあ何これ!めちゃくちゃ美味いなひゅうがカレー!やっぱりこれって、凄い艦だったんだなあ・・・」
目を丸くして驚く新米海士くんを見て、科員居住区のヌシと化している古参海曹がニヤリと笑ったり・・・。そん
な護衛艦ひゅうがの艦内生活の一端が垣間見えた気がします。
また、これまで何隻もの艦を渡り歩いて来た中堅幹部にしても、これだけのレベルのカレーを出す護衛艦ひ
ゅうがは、やっぱり凄い艦なんだなあ・・・と、改めて気を引き締めさせられるのではないでしょうか。
「ふふふ、ウチではこれだけのカレーを出しているんですよ。このカレーを食べるに相応しい幹部として、下の
者はみんな期待していますからね・・・」
とでも言いたげな、ベテラン下士官達からの強烈なプレッシャーが込められている様。
美味い食事を出す部隊は強いというのは、和洋今昔を問わず常に語られる軍隊あるあるですが、そういう
意味では海上自衛隊ごはんの象徴とも言えるカレーライスには、その艦その部隊の士気や練度が大きく反映
されているのかもしれません。
「うーん、やっぱりひゅうがはスゴイな・・・」
ただこの一言に尽きる一皿でありました。
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