掃海艦はちじょうポークカレー
さて今回は、『掃海艦はちじょうポークカレー』です。MSO303掃海艦はちじょうは、従来の掃海艇よ
りもさらに深々度での掃海作業を行うために建造されたやえやま型掃海艦の3番艦で、1994年の就役以来
日本の航路の安全を守り続け、2017年6月をもって除籍となった世界最大級の木造船であります。
その功績を称えられ、このたび横須賀海自カレーシリーズの一つとして商品化された訳ですが、華々しくデ
ビューする新鋭艦の陰に隠れる様にして表舞台から静かに姿を消す艦艇が多い中、こうして最後に名を残せた
のはとてもいい事ですね。このカレーシリーズの商品化にあたっては、各艦艇の給養員長のレシピをもとに地
元カレー店がその味を再現したそうですが、最後にとっておきのレシピを託す事が出来た給養員長も、さぞか
し感慨深かった事でしょう。
まずは外箱から見ていきます。ネイビーブルーを基調としたパッケージ正面には舫綱と錨の意匠があしらわ
れ、航跡と波頭を思わせる白から青へのグラデーションも実に鮮やか。一目で海自カレーとわかる見事な色彩
センスと言えるでしょう。箱下半分には航行中のMSO330掃海艦はちじょうの画像が配置され、双眼鏡を
手にしたカワイイ一等海佐と掃海艦はちじょうの簡単な要目が記載されています。
裏面には海自名物金曜カレーの説明と、この掃海艦はちじょうのレシピを受け継いだ横須賀市内の横須賀海
軍カレー本舗さんの地図・住所が記載され、鉄板に盛られたカレーが実に美味しそう。『乗員の為にコクと甘
さを出したポークカレー』という紹介文も、否が応にも期待を盛り上げます。
ちなみにこのカレー、一食分200gで259kcalと、なかなかの熱量。これはやはり、化物じみた体
力を要求される水中処分員の体を維持するためのハイカロリーなのでしょうか。その一方、艦内であまり体を
動かさない部署にいる隊員さんにとっては、究極の自己節制を要求される理不尽極まりない禁断の美味。久し
ぶりの新作カレー試食にワクワクしつつ、レトルトを湯煎で温めます。
お皿に盛られた掃海艦はちじょうポークカレーですが、世界最大級の木造船の名に恥じない実に濃厚そうな
見た目。早速一口頂いてみます。
おお、この一口目からズドンと効いてくる、ヘビーでボディの太い味わい・・・ひと口分のスプーンに4口
分ぐらいのカレーが載っている感じです。多種多様な旨味成分が複雑に折り重なっているので、その個性をひ
とことで言い表すのが難しいなあ。甘味、辛味、酸味、旨味のすべてが舌の上に広辞苑の如くのしかかってく
る感じです。
入っている具は豚肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ。至って伝統的な、基本中の基本と言える役者陣で
すね。いかにも海自カレーらしい重層的な太い甘みが基調になっていますが、よく味わって食べていると、そ
の甘みを微かに引き締める苦みの存在に気づかされます。
この手のカレーの複雑な甘みを引き立てるには酸味をぶつけるのが有効で、実際に果実やチャツネの酸味が
しばしば使われていますが、あえて苦みで引き締め効果を狙ったのは珍しい気がしますね。もしや艦の名を頂
いた八丈島の澄んだ海水から精製したにがりを原材料に加えてあるのでは?と思いましたが、さすがにそれは
ないか(笑)。
それにしてもこの微かな苦味、一体何を使ったんだろう・・・とパッケージ裏面の原材料表示を確認すると、
ははあ、これか。コーヒーが入っていますね。このコーヒーの苦みが、ともすれば収拾がつかなくなりがちな
甘味をひっそりと引き締めてくれていた模様です。
とは言えこのカレーを一口食べて、コーヒーそのものの存在を看破するのは容易ではありません。コーヒー
という隠し味をさらに引き立てている、『隠し味の隠し味』の存在を失念するところでした。という訳でさら
に原材料表示を読み込んでいくと、これがもうあるわあるわ、ワイン、ソテーオニオン、ウスターソース、は
ちみつ、しょうゆ、発酵調味料、にんにくーペースト、ケチャップ、ドミグラスソース、ミルポワパウダー、
コチュジャン、チーズフード・・・このカレーの陰の主役とも言うべきコーヒーの苦みを生かすために、これ
だけの食材が働いていた模様です。
豚肉、ジャガイモ、ニンジン、タマネギといったメインキャストを引き立てるコーヒーの為に集められた、
引き立て役の中の引き立て役。プロ中のプロとしての引き立て役集団。
これはある意味、掃海部隊の本質とも重なって見えます。食糧やエネルギー資源の多くを輸入に頼っている
この日本にあって、原材料の何から何まで純国産という品物を探す方が困難な話でしょう。そんな海外の製品
や原材料に囲まれて生きている私達ですが、日頃からその航路であるシーレーンを意識して過ごす人はほとん
どいないと思います。
その資源を運ぶタンカーや貨物船、そして領海の安全を守るための自衛艦が通過する航路の安全を、目立た
ないところで日夜下支えしている掃海部隊は、まさに裏方を守るための究極の裏方。
またその精神は、防衛省のマスコットキャラであるピクルス王子とパセリ姫の名前の由来そのものでもあり
ますね。大切な国民の生命と財産、そして平和な日常こそがメインディッシュであり、自衛隊はそのメインを
そっと支えるピクルスとパセリの様な存在でありたい・・・そんな気持ちを込めて2人は名付けられたと聞い
た事があります。
裏方を支える最強の裏方。これこそが、23年間の現役生活を終えて静かに表舞台から姿を消した掃海艦は
ちじょうが残した掃海屋魂であり、歴代乗組員達の生き様だったのでしょう。残念ながら乗艦する機会には恵
まれませんでしたが、乗ってみたかったなあ、掃海艦はちじょう。まさかレトルトカレーでそのよすがを偲ぶ
事になろうとは、思いもしませんでした(笑)。
幾柱もの尊い犠牲者を出しながら戦後一貫して航路の安全のために掃海作業を継続し、そして今も日夜厳し
い訓練に励んでいる掃海部隊に対して心の中で一礼を捧げつつ、試食を終えました。
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