魚藍亭 元祖よこすか海軍カレー(白子)



      さて今回は、『魚藍亭 よこすか海軍カレー』です。魚藍亭とは横須賀海軍カレーを語る上で必ず出て来る
     お店であり、なんでも海軍カレーで町興しを図った横須賀市から、明治41年当時の『海軍割烹術参考書』
     レシピをもとにしたカレーの試作を依頼された経緯があるそうです。言わば今日の横須賀海軍カレー復興の
     基礎を作り上げた立役者
と言えます。
      とは言えこの魚藍亭の本業は活け魚割烹だそうで、そもそもカレーとはあまり関係が無いんですね。しかし
     その辺りからも、逆に横須賀市のカレーにかけた熱意の様なものが感じられます。


      赤を基調としたパッケージはなかなかお洒落で、レンガ造りのレストランのテーブルクロスの様な高級感
     漂っています。レトロなフォントも雰囲気を出していて、さりげなくあしらわれた舫綱救命浮環のイラスト
     もいい感じ。これまで幾つか食べたレトルト海軍カレーのパッケージの中では、屈指のデザインです。


      箱裏のデザインもよく出来ていて、辛さの表示魚藍亭の地図などが見やすくキレイに収まっています。よ
     く見ると箱の底には魚藍亭と隣接するよこすか海軍カレー館の両方で使える100円割引クーポンもついてい
     て、お手軽レトルトカレーから本場横須賀に誘導する広告としての役割も、しっかりと果たしているんですね。
      ちなみにこのレトルトを作ったのは、株虫qKMという会社。魚藍亭の海軍カレーは他社からも販売されて
     いるので、混乱しない様にタイトルに(白子)と記入しておきます。







      期待に胸を膨らませつつ、温めたレトルトを開封してご飯にかけてまず一口。
      んん?洗練されたパッケージのデザインとは裏腹に、どこか野暮ったい味わいですね。美味しい事は美味
     しいのですが、この小麦粉溶けたジャガイモが突出している風味が独特だなあ。
      具はやや小さめにカットされた牛肉ジャガイモ、ニンジン、タマネギで、量は沢山入っているもののこのカ
     ットの小ささで見た目の損をしている気がします。
      しかし食べ進んでいて気がついたのですが、具のカットが小さいが故に、スプーンですくい上げた一口分の
     カレーに全ての具が入ります。
一口ごとの具の変化は楽しめませんが、艦内で大量のカレーを作って沢山の
     水兵さんに均一に行きわたらせる
事を考えると、この具のサイズは納得できる調理法ですね。隣のカレーは
     お肉ごろごろなのに、俺のはジャガイモばっかりだよ(泣)!
という悲劇は防げます。


      確かに大ぶりの具が堂々としているカレーは見た目も楽しいですが、大量生産大量消費という艦内事情
     考えると、このやや物足りなさを感じさせる具のサイズも、それはそれで理由あっての事なのでしょう。
      また、具のカットが小さい方が、火の通りが早く調理に必要な時間も短く済みます。限られた予算と時間、
     そして艦内という特殊な環境下でカレーを大量に作るとなると、おのずとお店で出す商品とは違ってくるのは
     当然でしょう。
      そういう意味では、海軍カレーとうたいながらもどこか他のレトルトカレーを過剰に意識したり、お店で出す
     カレーに対抗意識を燃やしたりしている他のカレーに比べると、格段に海軍再現度の高いカレーだと思いま
     す。
      この一口目に感じた野暮ったさや具の小ささも、様々な誘惑を断ち切った上で海軍カレーの本道を突き進
     もうとした勇気の産物
と言えるでしょう。


      そもそも明治期のカレーって、こんな感じだったのではないでしょうか。今風のカレーを食べ慣れた舌に野
     暮ったく感じるという事は、これこそが間違う事なきカレーの原点!と言えるのかもしれません。
      とは言えこの野暮ったいカレー、福神漬と組み合わせると不思議と一本芯の通った味になります。福神漬
     の甘辛さがこのぼんやり味のカレーと組み合わさり、まるでパズルの最後のピースがきっちり入った様な達
     成感があります。

      今どきの本格的なカレーでは軽視されがちな福神漬ですが、明治期のカレーではこんな重要な役割を果
     たしていたんですね。
最近タイのカレーだのマレーシアのカレーだのにうつつを抜かしている私としては、激
     動の時代を生き抜いた会った事もないひい爺さんに、大和魂注入棒でドツかれたような気分でありました。


      現代日本に咲き誇る様々なカレーをより一層美味しく頂くために、今一度日本のカレーの原点を確認すべ
     き
という考え方には頷かされるものがあります。海軍という枠をあえて作りながらも、結果的にその枠を大き
     く飛び越えているところが、この魚藍亭よこすか海軍カレーの真骨頂
でしょう。
      温故知新、まさにこの一言に尽きる、美味しいカレーでありました。




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