イギリス軍戦闘糧食
『24HOUR RATION』 メニューC





       さて今回は、イギリス軍戦闘糧食『24HOUR RATION manuC』です。質実剛健のお国柄なの
      か、何の変哲もない小さな段ボール箱に一日三食分の糧食が入っています。箱の底面には簡単なメニュー表記
      が印刷されていますが、メインメニューだけで14種類と、なかなか豊富なラインナップですね。しかしよく
      見ると
『○○○と豆』と言った料理ばかりで、なんだか工夫に欠ける印象が。味覚面であまり期待できないと
      噂されるイギリス料理、果たしてどんな感じなのでしょうか。
       あと、箱の側面には直径10p程の同心円が印刷されてあり、『RANGECARD』と書いてありました。
      食べ終わった後の空箱を小銃射撃の標的にでもするんでしょうか。戦闘糧食でこういうのは珍しい気がします
      が、むしろこちらの方が戦闘糧食らしいというべきなのかもしれませんね(笑)。




 


【内容】
1:ソーセージ&ビーンズ   2:ラムとポテトのシチュー
3:フルーツダンプリング&カスタード   4:キャンディー
5:チキン&スイートコーンのスープ   6:チョコレートドリンク
7:アクセサリーパケット   8:フルーツビスケット
9:ブラウンビスケット   10:ティッシュ
11:オートミールクッキー    12:チョコレート×2
13:チキンハーブペースト



【アクセサリーパケット内容】
1:粉末コーヒー×4   2:粉末ミルク×2   
3:粉末ドリンク(オレンジ)   4:粉末紅茶×4
5:ベジタブルドリンク(スープ)   6:ガム
7:浄水剤   8:マッチ   9:砂糖×6











       さて、まずは朝食。メインのレトルト『ソーセージ&ビーンズ』を湯煎にかけます。カレーのレトルトパッ
      クをふた回りほど大きくしたサイズで、結構なボリュームがありますね。開封すると大量の白いんげん豆とソ
      ーセージ
がソースにまみれて出て来ました。
       ソーセージ5cmほどの長さのものが9本。かなり滑らかに挽いてありケーシングも無いので、何だか魚肉
      ソーセージっぽい口当りですね。ソースはもったりと重甘く、何だかエビチリのソースから辛味をすっぱりと
      切り落とした様な甘味
です。
       うーん、決して不味くはありませんが、美味しいとも言えない味だなあ。


       豆の量がすごいですが、甘味が意外に爽やかだったので結構すいすい頂けますね。途中でホットソースや黒
      胡椒の一振りでもあれば、また味がぐんと引き立つような気がするのですが、そういう気の効いたアイテム
      入っていない
のが残念。あと、食べ進んでいくうちに意外に塩気も感じました。まあこのあたりは戦闘糧食で
      すからね。発汗で失う塩分も十分に考慮すべきでしょう。
       メタリックグリーンの派手な包装に一枚だけ入っているのは『オートミールクッキー』。これが実に素朴な
      味わいで、ソバボウロと瓦せんべいを足して2で割って、ちょっと甘さを抜いた様な感じです。けっこう美味
      しいですが、それよりも繊維がたっぷり摂れそうなのがいいですね。


       今日は少々気温が高いので(試食は6月に行いました)、『チョコレートドリンク』はお湯で無く冷水で作
      ります。マグカップに入れた粉末を少量の水で練るようにして溶き、滑らかになった所で残りの水を注ぎます。
      うん、MREのココア程ではありませんが、なかなか美味しいなあ。香りよりも甘味がやや勝っていて、朝か
      ら血糖値が上昇して力が出そうな味です。
       食後は『コーヒー』。付属の砂糖がなんだかすごい量です。チョコレートドリンクが十分甘かったので、こ
      こはミルクだけで頂きましょう。お湯の量は書いてありませんでしたが、標準的なコーヒーカップ1杯分で丁
      度いい位。うん、インスタントにしてはいい香りですね。
       以上、朝食でした。少々甘味に偏ってしまいましたが、カロリーは十分で消化も良さそう。仕事に出かける
      準備は完了です。



       さて、続いては昼食です。メインのレトルトパックは『フルーツダンプリング&カスタード』。フルーツ?
      カスタード?どうやら料理と言うよりデザートの模様ですが、これ、温めて食べるのかな?よく分からないの
      で、取り敢えずそのまま開封してみます。


       レトルトの中からは、真っ黄色のカスタードクリームにまみれたお団子がボテボテと転がり出て来ました。
      何だか小茄子の辛子漬みたいだなあ。恐る恐るクリームを口に含んでみると、うーん、甘い甘いカスタードク
      リーム。シュークリームの中身を濃縮してボソボソにした様な、不思議な口当たりが気になります。
       しかしこのスイトンみたいなお団子がダンプリングという奴なのでしょうか。食べてみるとこれまた微妙な
      味わいで、甘栗と羊羹とフスマ団子を混ぜたみたいな、独特の食感。お団子自体の味はほとんどありませんが、
      レーズンらしきドライフルーツが所々に入っています。


       しかしこれ、ほんと甘いなあ。これが今日の昼食のメインになるのか(泣)。スイーツ好きな人にはたまら
      ない味でしょうけど、たっぷりすぎる量も含めて私にはちょっとキツイです。
       『ベジタブルドリンク』は、いわゆる野菜ジュースみたいな物でしょうか。小さなアルミ包装を開封すると、
      中からはべっとり湿気た真っ黒い物体
が出て来ました。何だか生乾きのカツオの血合いみたいで、ちょっと不
      気味。
パッケージには「170mlの熱湯でかき混ぜる事」とありますね。今日は暑いし、野菜ジュースなら
      冷水でいいやと思いましたが、これが全く溶けてくれません。
       やむなくマグカップごとレンジアップしてみると、実に美味しいコンソメスープになってびっくり。へー、
      ドリンクってスープも含むのか。テールスープの様な骨太のどっしりした味わいで、インスタントとは思えな
      い驚きの美味さでした。ここまで私を責め苛むかの様に甘味が続いたので、この塩っぽさが嬉しいなあ。


       メタリックなローズピンクの包装が異様な『フルーツビスケット』を開封します。詳しい表記がないので分
      かりませんが、どうやらドライフルーツが練り込まれている模様。やや甘いですがサクサクとした口当りが心
      地よく、なかなかの美味です。


       缶詰は『チキンハーブペースト』。蓋をパッカンしますが、これが見た目もニオイもネコ缶そっくり。味そ
      のものは悪くありませんが、このドロドロなのかボソボソなのかよく分からない食感がちょっと微妙。水気の
      多いマッシュポテト
というか、オカラみたいな口当たりです。ドイツ軍戦闘糧食のビアソーセージペーストの
      味わいと比べると、かなり落ちる印象
ですね。フルーツビスケットとの相性も今ひとつで最後はちょっと持て
      余してしまいましたが、まあ塩気が効いているのは有難かったかも。


       最後は『ミルクティー』ですが、これが粉末状のインスタントだったのが意外でした。米軍もオーストラリ
      ア軍も安物ながらもちゃんとティーバッグを用意していたのに、お茶の本場のイギリス軍が粉末インスタント
      とは。

       味も特に見るべきものはなく、何だか肩すかしをくらったような気分ですね。ただ、このミルクティーで先
      ほどのフルーツビスケットを食べると、これが実に豊かな味わいに変身したのが驚き。お茶とビスケットだけ
      で十分一食が賄える程の満足感
です。
       ここで英国式にビスケットを紅茶に浸して食べてみますが、サクサクの歯触りがスポイルされただけで、
      っぱり別々に食べる方が良さそう
。しかしイギリス人って、本当にこんな食べ方をしているのかなあ。日本で
      言えばお茶づけ感覚
なんでしょうけど。
       あと、一箱三食分にミルクティー×4、コーヒー×2も入っていて、毎食後に飲んでもちゃんとティータイ
      ムの分が残っているのはさすがだと思いました。
       『チョコレート』ネスレ社の普通の甘いミルクチョコですが、余所の戦闘糧食と違ってソフトタイプなの
      で、6月の室内気温で既に柔らかい状態でした。食べやすい事は食べやすいのですが、やっぱりハードチョコ
      にした方がいいのでは・・・。あのカキカキした食べにくいチョコも、戦闘糧食の味わいの一つですし。


       あと、このチョコレートのパッケージもギラギラのメタリックブルーなんですね。イギリス人って、ああ見
      えて
実は派手好みなのかなあ。ハンドバッグを持った女性が進入禁止の交通標識風のイラストで描かれていま
      したが、女人禁止の意味でしょうか。イギリスと言えば女王陛下の国であり、過去には女性の首相も何人もい
      た筈ですが、こういうのは怒られないのかなあ。
       クッキーとスープに関してはは素晴らしい味でしたが、やっぱりこのメインが甘ったるいのが、どうにもや
      りきれない昼食
でありました。




       イギリスと言えばティータイム、おしゃれなお茶の時間です。まずは『オレンジドリンク』を説明書きの通
      りに1Lの水に溶かしますが、うーん、液体なのに粉っぽい味・・・。甘味よりも酸味がきつく、オレンジと
      言うより夏ミカンはっさくみたいです。決して不味くはありませんが、飲んだ後に喉の奥が妙にヒリヒリす
      るなあ。
少し薄めて飲んでみましたが、粉っぽさとヒリヒリ感は相変わらずでした。
       『ガム』は民生品のキシリトールの粒ガムです。あれ?このガム、ドイツ軍戦闘糧食typVにも入ってな
      かったっけ?EU圏では有名なメーカーなのでしょうか?味はごく普通のミントガムでした。
       『フルーツフレイバースイーツ』と言うのは何だろうと思って開封してみたら、色とりどりのキャンディー
      
が14粒、ざらざらと出て来ました。味はまあ、砂糖に色をつけただけのシロモノですね。それでもこれだけ
      量があれば任務中も常にカロリーを摂取できるので、なるほど質実剛健なお国柄です。


  



       ディナーのメインは、『ラムとポテトのシチュー』です。羊肉は大好きなのでこのメニューを最後に取って
      おいたのですが、果たしてどのようなお味でしょうか。


       湯煎したレトルトパックを開封すると、うーん・・・このMREっぽい見た目が気になりますが、ごろりと
      転がったラム肉の塊が食欲をそそるなあ。
てっきり一口大にカットした煮込み料理かと思っていたので、これ
      は嬉しい誤算です。野菜はジャガイモ、ニンジン、白いんげん豆。ソースにはトマトとセロリの風味が感じら
      れました。
       ラム肉自体はパサパサでジューシーさに欠けますが、独特のエグミはしっかり残っていて(いや、消せなか
      ったと言うべきか・・・)
、若干のレトルト臭もありますが、うん、そんなに悪くないな、という味です。
       一緒に煮込まれた野菜類もそこそこのお味ですが、どうもソースがそれらを一つにまとめてない感じ。なん
      かこう、食材それぞれがバラバラな印象なんですよね。ここに黒胡椒の一振りでもあれば、全体がぎゅっと締
      まった味になると思いますが、もう一仕事足りないというか、もう一捻り欲しいというか・・・。
       はあげられませんが決して×でもでもなく、そのあたりの微妙な地味さもイギリスの田舎の家庭料理っ
      ぽくて面白い
様な気がしました。


       あと食べてから気付きましたが、これって日本で言う“肉じゃが”みたいなものなのかなあ。そもそも肉じゃ
      がは、イギリス留学中に食べたビーフシチューに感動した東郷平八郎が帰国後日本にある材料で作らせてみた
      のが発祥ですから、この料理は割と近い親戚関係みたいなものなのかもしれません。
       『チキン&スイートコーンスープ』。説明書きの通りに500mlの熱湯で溶かしますが、この量はちょっ
      と多すぎ・・・。マグカップで軽く三杯分はありますよ。イギリス人って、一度にこんなにスープをゴクゴク
      飲むものなのかなあ。
       チキンのコクとコーンの甘さがなかなかの美味ですが、えらく塩っ辛いのが気になります。なんだろうこの
      味・・・あ、そうそう、液体になったポテトチップをゴクゴクと飲んでいるみたいな味ですね。


       『ブラウンビスケット』。おお、これは文句なしに美味い!穀物独特の淡い甘味が生きていて、実に自然な
      お味です。戦闘糧食のビスケットとしては出色の出来だと言えるでしょう。先程はしょっぱいと感じたスープ
      との相性も素晴らしく、あっという間に平らげてしまいました。


       以上、イギリス軍戦闘糧食メニューCの試食を終わります。それぞれの食品はそれなりに一定水準をクリア
      しているものの、全体的に見るとやはり地味というか、どれももう一工夫が足りない味でした。決して悪くは
      ないのですが、どこかしら
      「え?別にこんなもんでいいんじゃないの?」
       と言う様な、ある種の歯痒さを感じる思想を感じましたね。それはそれでイギリスらしいと言うか、食文化
      のお国柄
を色濃く反映している戦闘糧食だったと思いました。
       それにしても、『フルーツビスケット』『ブラウンビスケット』は特筆すべき味でした。これとスープ
      あと紅茶を三食分入れておけばそれで十分な気がしました。




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