中国人民解放軍戦闘糧食
単兵自熱食品 A



         さて今回は、中国軍戦闘糧食『単兵自熱食品 A』です。随分前に試食した『06単兵即食食品』が軽量
        版の簡易食であったのに対して、こちらは封入された加熱剤を使ってレトルト食品を温める事が出来るタ
        イプ
で、『自熱』というのが加熱剤入りという意味なのでしょう。パッケージはややくすんだ感じのOD色で、
        この黄土色の組み合わせが如何にも中国風であります。
         この単兵自熱食品、メニューはABCの全3種と意外に少なく、今回試食するのはメニューA。それにし
        ても、中国群の戦闘糧食なのにSelf−Heating Individual Meal−ready−to−eatと書いてありますし、メ
        ニュー表記もアルファベットなんですね。何だか意外というか、これでいいのかという気がします。
         ちなみに製造元は海軍軍需特?食品?制部。?の所はちょっと漢字が見つからなかったのですが、ど
        うやら海軍が関わっている様ですね。これが海軍だけで採用されている戦闘糧食なのか、海軍が生産し
        て陸軍や空軍にも卸している
のかは定かではありませんが、この辺はどうなんだろう。


         パッケージの裏にはABC三種類のメニュー内容と加熱剤の使用方法、賞味期限、喫食の際の注意事
        項
などが印刷してあり、賞味期限は製造後30ヶ月。ちなみに入手したものは2011年10月製造のものな
        ので、まだ賞味期限は十分残っています(試食は2012年9月に行いました)。


         加熱剤の使用方法については、分かりやすいイラストで描かれているので大体の所は把握できました。
        レトルトパックと加熱剤の入った袋にを入れ、火傷に気をつけながら5分毎にひっくり返して15分加熱
        せよ、
でいいのかな?文章は所々分からない部分がありますが、中国語が全くできない私でも概ね理解
        できるのは漢字文化圏の便利なところですね。


         あとよく見ると、パッケージの上の方に小さな丸い穴が開いていました。キレイなパンチ穴なので事故
        で破損した訳ではないと思いますが、これはどういう意図で開けられた穴なんでしょう?普通に考えると、
        垂直な壁面から突き出た棒に引っかけて陳列する為の穴
に見えますが、中国軍ではそんなコンビニの
        おつまみコーナーみたいな保管方法なのかなあ。普通この手の戦闘糧食って、出来るだけ太陽光線や
        湿気が入らない様に、パッキングはしっかりしている
ものなんですが・・・。


         またパッケージの素材も実に簡素なもので、ペラペラと薄いビニール製です。とは言え、これは自衛隊
        の戦闘糧食U型
も似たようなものですね。よく考えたらシンガポール軍の糧食のパッケージも薄く頼りな
        いシロモノでしたし、アジアの戦闘糧食は総じて簡素な包装なのかなあ。欧米に比べると気温が高く湿度
        の高い気候
になりがちなので、むしろもっとしっかりしたパッキングにすべきだと思うのですが。
         パッケージを開封すると、中からは2つの大きな塊が出て来ました。ん?なんじゃこりゃ。パソコン部品
        の包装によく使用されている薄い樹脂製の衝撃吸収材
の中に、これまた樹脂製の袋が入っています。
        どうやら最初からこの中に加熱剤とレトルトが一緒に入ってあるみたいですね。となるとこのカバーは、
        衝撃吸収材というよりも、加熱時の保温のためのカバーの様です。


         内容物は、加熱剤とセットになったレトルト2つと、あとは香辣醤と書かれた小袋、スプーン紙ナプキ
        ン
、そして附件袋と書かれた小さなビニール袋。どうやらこの附件袋で加熱剤に水を注ぐらしく、注水線
        
が印刷されています。
         レトルトパックを包んだ袋を開封してみると、中からはやや大きめのギラギラ光るレトルトパック2枚
        の加熱剤
に挟まれて出て来ました。へー、一つのレトルトパックを2枚の加熱剤で温めるのか。1枚の加
        熱剤で2つのレトルトパックやコーヒー用のお湯を温める事もある米軍のMREに比べると、かなりの火
        力差
ですね。この辺りは、さすがに炎の中国料理ならではでしょうか。


         ちなみに以前試食した軽量版の06単兵即食食品ですが、かなり微妙な味だった上に食後胃腸の調子
        を崩してしまい
、正直中国の戦闘糧食に関してはいい印象がないんですよね。今回のものを入手できた
        ことは嬉しかったのですが、いざ試食の段になってみると、あの何とも言えない胃の辺りの不快な感覚
        甦り、正直テンションがだだ下がりであります。
         『内臓とて人を恨むのだ』と若先生が仰っておられましたが、私の内臓も今回の試食に関しては色々と
        言いたい事
がありそう。とりあえず胃薬を用意して、いざ試食です。










【内容】
1:什錦炒飯    2:??炒飯
3:紙ナプキン&スプーン
4:香辣醤    5:附件袋











         さて、とにかく2つのレトルトを温めてみましょう。2枚の加熱剤でレトルトパックを挟みこんで袋に入れ直
        し
、それぞれに附件袋の注水線まで入れた水を注いで、すぐに袋を折り返して保温袋に突っ込みます。
         しかしこれ、わざわざ附件袋を入れなくても、MREみたいに外袋に注水線を印刷しておけばいい様な気
        がしますが・・・。


         水を注いだ直後は加熱剤は無言でしたが、しばらくするとジブジブジブと湿っぽい音を立てて反応開始。
        
内部で発生したガスですぐに外袋は膨れ上がり、使い古しの湿った雑巾の様な金属臭い様な、独特の匂
        い
が漂ってきました。この辺はMREと一緒ですね。ちなみにこの時に発生するガスは有毒なので、加熱
        の際は十分に換気してください。出来れば屋内ではやらない方がいいでしょう。
         5分たった時点で一度上下をひっくり返し、2つの加熱剤に十分水を行きわたらせます。そのまま待つ
        事もう10分、加熱剤の反応が収まった頃を見計らい、レトルトを取り出します。


         おお、先程まではカチンカチンのプラスチック状だったレトルト食品が、熱々になって柔らかくなっていま
        す。
製造後1年たってないので加熱剤のコンディションもよかったのでしょうが、流石に2枚の加熱剤を使
        うと温まり方が違いますね。
火傷に気をつけながら、先ずは什錦炒飯のレトルトを開封です。中からは
        っとりと湿った感じの、板状の炒飯が出て来ました。
         スプーンで丁寧にほぐすと、炒飯らしい見た目になってまいりました什錦というのが何なのかはよく分
        かりませんが、具はかなりゴロゴロとしていて美味しそう。さっそく一口。
         ほほう・・・成程、これは確かに炒飯そのもの。ややベタついた口当りですが、それほど油っぽい感じも
        無く、予想外に繊細で優しい味ですね。レトルトの長期保存食なので、お米自体はかなりふやけた食感で
        すが、最初から多くを望みさえしなければ、十分満足できると言えます。一般的なチャーハンを少量のス
        ープで煮込んで、それをレトルトに入れて固めたらこんな感じかな?


         具は豚肉、干し椎茸、ニンジン、グリーンピース。カットはどれも大きめで、見た目も食べ応えもなかなか
        
です。
         よく言えば優しく食べ易い味わいですが、一袋で280gもあるので、やっぱりもうちょっとパンチが欲しい
        
なあ・・・と思っていたら、香辣醤の小袋があった事を忘れいていました。開封して中身を少し舐めてみま
        すが、お?これ、結構イケますよ。豆板醤と甜麺醤、あとゴマ油を混ぜた様な味わいで、これは炒飯の味
        を引き締めるのにピッタリかもしれません。
         ワクワクしながら炒飯に混ぜてみると、おお、これは美味い!濃厚なうまみと強い辛味が、今ひとつ物
        足りないぼんやり風味の炒飯にビシッと喝を入れた感じ
です。握り寿司で言えばワサビに相当する、無く
        てはならない存在だと言えるでしょう。あまりやる気のないゆるゆる系の野球部に突如現れたOBの鬼コ
        ーチが、猛然と1000本ノックを始めたような感じ
であります。
         それにしてもこの香辣醤、材料さえあれば簡単にできる調味料ですし、色々と応用が効きそうだなあ。
        冷や奴や湯豆腐にちょっとのせても美味しい様な気がします。


         さて、次はもう一つのレトルトパック。??炒飯とありますが、これも日本語に相当する漢字がありませ
        んね。字面的には腸豚という風に見えない事も無いのですが、何だろうコレ。豚モツ入りの炒飯かな?

         ちょっとドキドキしつつ開封して皿にあけると、薄くスライスしたソーセージが入った炒飯でした。ああ、
        肉の腸詰
、という意味だったのかな?っていうか、これって中国料理で言う辣腸飯(ラーチャンファン)です
        ね!
         辣腸飯とは、炊きたてのご飯に中国ソーセージ(スパイスの効いたサラミみたいな固めのソーセージ)を
        ブスブスと突っ込んで蒸しあげた一品
で、私は本場物(戦闘糧食なんですけどね)を食べるのは初めてで
        あります。
         ちょっと興奮しつつ、先ずは香辣醤なしの状態で一口。ほほう、こちらはやや固めの炊き上がりで、先程
        の什錦炒飯よりもぐっと炒飯っぽいですね。味付けもこちらの方がしっかりしていて、これはソーセージか
        ら染みだした肉汁のお陰
かな?醤油っぽい味が軽くついているので、日本人にはこちらの方が馴染みや
        すいなあ。

         輪切りになったソーセージは厚さ1oとかなりペラいですが、味自体は濃厚なのでこれでも十分存在感
        を出しています。ちなみに直径は13o弱で、これってほぼ50口径弾(12.7o)と同じですね。M2重機関銃
        で撃たれると、これ位の穴がすぽすぽ空くのか・・・
と、変な事を考えてしまいました(笑)。


         具はソーセージの他に、ニンジン干し椎茸。先程の什錦炒飯とほぼ同じですが、味付けが違うので
        がっくり感はありません。
         そしてこの辣腸飯もどきの炒飯と香辣醤がじつによく合い、混ぜ込んで食べるとめちゃくちゃ美味い!
        
あー、なる程、この濃厚な味わいは和食にはないものですね。日本風にアレンジされた『中華料理』とは
        また一味違う、如何にも『中国料理』という感じです。うん、これは確かに美味いなあ。すっかり経済大国
        となってしまった中国、正直かなりやっかいで面倒くさく理解し難い隣国ではありますが、こと食文化に関
        しては流石に大したものであります。


         以上、中国軍戦闘糧食『単兵自熱食品 A』の試食を終わります。以前試食した後に体調を崩してしま
        った『06単兵即食食品』
とは違い、今回は食後の胃腸不良に悩まされる事も無く、味覚面でも十分に満
        足の出来る糧食でありました。
280gのレトルトチャーハン×2とボリュームもなかなかで、『06単兵即食
        食品』で被った汚名を一気に返上した感がありました。

         ただ、実質的に炒飯2つというメニュー構成なので、MREや自衛隊戦闘糧食U型と比べると、一食と
        しての満足度ではやや疑問が残る内容
でしたね。炒飯は一つにして、もう一つはおかずを入れてほしか
        ったなあ。
メニューが3種類だけというのも、豊かな食文化をバックにした中国軍の戦闘糧食としてはち
        ょっと物足りない
気がします。
         とは言え、自衛隊のU型のおかずを2つ入っている主食パックに混ぜ込んでしまえば、内容的にも量
        的にもかなり近いものが出来上がるのが興味深いところですね。


         それにしても、こうしてアジアと欧米の戦闘糧食を比較してみると、メインディッシュの他に2〜3品の食
        品がつき、更に粉末飲料や甘味類、ガムやマッチ、調味料、果てはティッシュペーパーまでがこれでもか
        とついてくる欧米の糧食
に比べ、アジアの戦闘糧食はかなり見劣りがします。自衛隊の戦闘糧食にして
        も味そのものはよく出来ているのですが、やっぱり一食分の品数が足りないと言うか、ぱっと見の豊かさ
        みたいなものが足りない
と言うか・・・。
         気候や風土、経済、歴史、軍事哲学からして大きく異なるので、単純な比較にはあまり意味は無いとは
        思いますが、まだまだ欧米とアジアの間の様々な格差が浮かび上がって来る様な気がした試食でありま
        した。




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