掃海母艦ぶんごカレー


       さて今回は、リニューアルされた呉海自カレー第3弾『掃海母艦ぶんごカレー』です。MST464掃海母
      艦ぶんご
はうらが型掃海母艦の2番艦。掃海部隊の支援機雷敷設任務を担う、日本近海の航路を守る働き者
      のフネであります。
       先代の掃海母艦はやせから大幅に排水量を増した船体は居住性が高く指揮通信機能も向上し、大型掃海ヘリ
      コプターへの支援機能
も併せ持つ事から、本来の掃海任務以外に国際的な救難訓練海外派遣任務、近年多発
      している大規模災害への派遣等でもその実力を発揮しています。

       そんな掃海母艦ぶんごの金曜カレーを再現したこの商品ですが、まずはパッケージから見て行きましょう。
      やや逆光気味で艦の真正面が黒つぶれしていますが、その分静かな迫力が増しているというか、なかなかシブ
      い写真になっています。背景のなだらかな山並みの後方からは夏らしい大きな雲が沸き上がり、背後の白いビ
      ルが揺らめいているのもいい感じ。リニューアル版からは海自らしいネイビーブルーをあえて外してきた呉海
      自カレーですが、すっきりした雰囲気の中にもメインの艦の存在感が際立つデザインですね。
       箱裏面には海上自衛隊とカレーについての説明、調理方法と原材料表示、あとぶんごカレーの味覚バランス
      チャート
が記載されています。辛味や酸味を抑えて甘味とコクを強調したらしく、結構な食べ応えが期待でき
      そう。早速試食に移りましょう。

       という訳で、お皿に盛った掃海母艦ぶんごカレー。目に見える具は牛肉らしき小片のみですが、カレー表面
      が妙に凸凹してるなあ。もしかしたら・・・あ、やっぱり。この細かい凸凹は挽き肉ですね。キーマカレーに
      塊の牛肉を重ねて来た模様
です。
       一口食べると、ほほう、なるほどなるほど。最初にガツンとくる甘ウマ、そしてワンテンポ置いて軽やかな
      辛味
が主張してきます。牛挽き肉スジ肉を使っているので、十分過ぎる程の旨味とボディの強さがあります
      が、それをしつこく感じさせないこの絶妙な辛味の引き締め方。きっちりと着地を決めて見せたのは、全くも
      って拍手ものです。
       とは言え、このカレーをまとめ上げているのは辛味だけではない気がします。挽き肉特有の雑味を伴ったコ
      ク
スジ肉ならではのゼラチンっぽいうま味の分厚さを、辛味とともに繋いでいる第三の存在・・・一体なん
      なんでしょう。

       濃厚な甘みはビンビンに感じますが、何かが突出した個性の強い甘さではないので、どうもその正体が分か
      りません。タマネギの様なりんごの様な、桃缶の様なはちみつの様な・・・。
       ダメだ、私の舌ではわかりません。ギブアップして原材料表示を確認すると、ソテーオニオンりんごペー
      スト
チャツネといった甘味系食材以外に、米発酵調味料というのが入っていました。
       米発酵調味料・・・と言われてまず思いつくのが米酢ですが、確かに爽やかな酸味は感じるものの、それが
      米酢によるものとは思えません。となると・・・もしかしてみりんかな?カレーの甘味出しにみりんを使うと
      いう発想が全くなかったので、虚を突かれたというかちょっと驚いてしまいましたが、なるほどなあ。意外と
      アリ
かもしれないなあ、カレーにみりんって。
       でもそれなら、最初からみりんと書けばいい気がしますが、これは監修を担当した給養員の遊び心に満ちた
      謎かけというか、
       「素直にバラすのもつまらないので、あえて隠しちゃえ(笑)。うちのカレーの隠し味、わかるかな~?」
       そんな感じだったのかもしれませんね(笑)。

       それにしても、どうにも腑に落ちないのがキーマカレーにスジ肉を重ねてくるこの手法です。実際とても満
      足度の高い美味しいカレーになっていますが、キーマ単品でもスジ肉単品でも十分成り立つだけの力量は感じ
      るので、メインの主役級を二人も使ってしまったこのカレー・・・ちょっともったいない気がするんですよね。
      分かりやすいお得感を追求した結果、子供じみた満足度になってしまったというか・・・。そんな事を考えな
      がら食べていて、ふと気づいた事がありました。
       この牛スジ肉が浮かぶキーマカレー・・・もしかしてこれは、機雷処理を行う海域をイメージしているので
      はないでしょうか。もちろんこのスジ肉は海中に浮かぶ機雷、そしてカレー全体に広がるツブツブの挽き肉は、
      水中の透明度を下げるプランクトン・・・。
       いささか強引な解釈ではありますが、航路の安全を脅かす水中機雷の処分を行う掃海部隊。ある意味機雷の
      威力と恐ろしさを海自で最も肌で感じている人達
だと言えます。カレーに浮かぶ牛肉の小片が水中機雷に見え
      てしまうなんて私達には笑い話ですが、日々命がけの作業にあたっている彼らにとっては無理のない事なのか
      も。

       週に一度のお楽しみである金曜カレーに入っている牛肉が、憎き水中機雷に見えてしまう・・・いくら特殊
      な仕事内容からくる職業病的発想とは言え、これは実に悲しい話。配食レーンでステンレスの凸凹トレーにカ
      レーを盛って席に着いたあとは、真っ先にこの水中機雷(牛肉)を片付けてしまわねば!という気持ちになる
      のも当然というか、むしろそれが掃海部隊の一員としての本能でもあると思います。
       そしてその後に残るのは、具が一つも残っていないとても残念なカレー。今日のお昼はカレーだぜ♪という
      先程までの浮かれた気持ちはどこへやら。具が一つも無くなった寂しいカレーを、しょんぼり気分でもそもそ
      と食べる乗組員達・・・。
       その様子を調理室の中から見ていた、ぶんごに配属になったばかりの給養員長。
       「まったく、なんでこのフネの連中はどいつもこいつも真っ先に肉だけ食べてしまうんだ?いくら美味しい
      カレーを作っても、そんな食べ方じゃ台無しだろうに・・・ちくしょう、俺のプライドに賭けて、このフネの
      奴等に最後まで笑顔でカレーを食べさせてやる!」

       そう決心した給養員長は、長年かけて築き上げた自分のカレーの再構築作業に着手します。これまでずっと
      王道を征く正当派ビーフカレーを追求してきた給養員長ですが、常識は捨てろ、破壊無くして生まれる創造な
      どありえないのだ・・・!
       そして苦心惨憺の果てに、給養員長は挽き肉以外に具としてのスジ肉が入った飛び道具カレーを完成させま
      した。乗組員が真っ先にスジ肉を食べてしまっても、最後まで美味しさと満足感が持続する様に・・・。

       「この俺が、キーマカレーの中に別の肉を入れちまうなんてなあ・・・確かにカレーとしては邪道かもしれ
      ないが、このぶんごで俺に出来る最高の仕事はこれだ・・・」

       場面は変わって、士官室。給養員長が作り上げた珠玉の掃海母艦ぶんごカレーを前に、満足げに舌鼓を打つ
      艦長以下幹部一同。
       「ふふふ、今度の給養員長はずいぶん早く正解にたどり着いたな・・・」
       ぶんご艦長は満足げに口元を紙ナプキンで拭いながら、給仕役の士官室係に
       「給養員長に伝えてくれ。ぶんごのカレーとして文句なしの合格だ。よくやった」
       ・・・と、そんな一幕が試食中の私の脳内で映像化されました(笑)。キーマカレーにスジ肉を重ねるなん
      て邪道。確かにそうかもしれません。しかし課せられた任務は部隊によって様々であり、正解も決して一つで
      はない
はず。またしても海自カレーに大切な事を教わった気分です。

       ただ、一つだけ気掛かりな事があります。そんなディープ極まりない掃海母艦ぶんごのカレースピリッツを、
      普通の一般市民を対象にしたレトルトカレーで再現していいものでしょうか。何気なく商品を手に取った普通
      の人に、このぶんごカレーの深い部分に隠された掃海部隊の本質を理解してもらえるんだろうか・・・。
       海自についてよく知らない一般市民に受け入れられやすい美味しさと、掃海母艦ぶんごならではのこだわり
      と個性の表現・・・ミリタリーカルチャーとコマーシャリズムというある意味相反する要素と言えますが、そ
      こであえて意地を貫き通したのが、部隊のグランシェフたる給養員長のプライドなのでしょう。
       「給養員長!私には伝わりましたよ!」
       と、呉の方に向かって言いたくなった『掃海母艦ぶんごカレー』でありました。




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