オーストラリア軍戦闘糧食 メニューE


       さて今回は、オーストラリア軍戦闘糧食、メニュー“E”です。米軍のMRE以外の戦闘糧食を食べるのはこ
      れが初めてなので、実に楽しみ。今回入手したものは2002年製造で賞味期限を2年ばかりオーバーしてい
      ますが、果たしてどの様な戦闘糧食でしょうか。
       MRE二つ分位の大きさの透明なビニール袋に、1日3食分がコンパクトに詰め込まれています。表面には
      “E”と大書きされていて、民間への転売を禁ずとの注意書きが。
       開封すると、中からは大きなタンカラーのレトルトが2つ、その他缶詰や沢山のパッキングされた食品群
      出て来ました。そしてアクセサリーパケットを開けると、さらにコマゴマとしたドリンク調味料輪ゴム
      識別用紙
、さらには洗剤付きのスポンジまで。全部並べると凄い事になってしまいます。うーん、聞きしに勝
      る内容量。大きめの密封チャック付きビニール袋もあり、これでこの膨大な食品群を仕分けするのでしょうか。
       また、一品一品の原材料表示も徹底されていて、A4用紙の両面にびっしりと記入されています。タバスコ
      一つとっても“酢、赤唐辛子、塩”と、実に細かい。それでは実際に食べてみるとしましょう。







【内容】
1:鶏肉と野菜のパスタ  2:ベイクドビーンズ  3:フルーツ缶
4:チーズ缶  5:M&Mチョコ  6:マッシュポテト
7:クリームクラッカー  8:ビスケットジンジャーナッツ
9:ビスケットブリガドーン  10:トマトスープ
11:チョコドリンク  12:ミュズリ・バー(アンザック)
13:ミュズリ・バー(トロピカル)  14:ミュズリ・バー(アプリ
コット&ココナッツ)  15:アクセサリーパケット
                         16:チョコレート×2  17:コンデンスミルク  18:スプーン
                         19:ティッシュ  20:説明書  21:密封ビニール袋


【アクセサリーパケット内容】
1:トロピカルフルーツグレイン  2:スイートチリソース
3:粉末ドリンク(ミックスベリー)  4:粉末ドリンク(トロピカル)  
5:粉末コーヒー×2  6:ティーパック×2  7:ヴェジマイト
8:ブラックベリースプレッド  9:砂糖×8  10:ホットソース
11:スプーン(缶切り・栓抜き付き)  13:キャンディ×2
14:マッチ(防水容器)  15:黒胡椒  16:塩  17:識別紙
18:洗剤付きスポンジ  19:ガム  20:輪ゴム








       まずは朝食から。私は朝からしっかり食べるクチなので、ボリュームがあって消化が良く、なおかつ血糖値
      が上昇しそうなメニューを組み立てます。しかしこの大量の食品群からメニューを選ぶのは大変ですね(笑)。


       レトルトのベイクドビーンズを湯煎にかけている間に、粉末ドリンクのミックスベリーを作ります。内側が
      アルミコーティングされた紙製の小袋を開封すると、粉末が中で湿気て固まっていました。うーん、賞味期限
      切れの上に包装がMREよりもチャチなので、これは仕方ありませんね。とにかく説明書きの通りに湿気た粉
      末を1Lの水に溶かすと、すごく濃いブドウ色になりました。
       飲んでみるとなんちゃってブドウジュースみたいですが、見た目よりもあっさりさっぱりでなかなか美味し
      い。


       次はトロピカルフルーツグレインズを。中からはぶ厚い塩吹き昆布みたいなのが出て来ました。恐る恐る口
      に入れると、確かにフルーツの味がします。固めの寒天フルーツゼリーに粉糖をまぶした様な、爽やかな甘さ
      のお菓子。しかしこれ、なんか昔食べたような気がするなあ…と思ったら、干し柿そっくりでした。
       原材料表示の印刷を見ると、リンゴ・モモ・アプリコットのペーストに甘味料を加えた物の様です。


       チョコレートドリンクを作ります。どれ位の量のお湯で粉末を溶かせばいいのか書いてなかったので、取り
      敢えず200mlのお湯で作ってみましたが、ちょっと濃いなあ。もう50mlほど足すと丁度いい味になり
      ました。
       味の方は可も無く不可も無く・・・と言ったところでしょうか。いわゆるフツーのココアです。米軍MRE
      のココアの様な、上品かつ濃厚な味わいには及びませんね。
       このあたりでベイクドビーンズを開封。うん、しっかり温まっています。しかし250gというのはかなり
      のボリュームですね。軽くお茶碗に一杯半位はあります。味付けはほんの少しピリ辛の効いたシンプルなトマ
      ト味
で、けっこうイケます。
       ソースはかなりモッタリと重く、胃袋にズシンときます。今回はメストレーにあけて食べましたが、このレ
      トルトパックは底部が立体裁断になっていて、水平な板の上なら開封したまま立てる事が出来ます。
       また米軍のMRE同様に、レトルトパックの開封切り口が上部と中央部の2か所にあり、底にたまった豆を
      スプーンでかき出すのがラクチンになっていました。
       クリームクラッカーは、こんがりと焼けた6cm四方のものが4枚、割れないように紙箱に入っています。
      そのまま齧ってみるとほんのりとした小麦風味と塩気がありますが、味らしい味は殆どなし。しかしなんでも
      かんでも味がついているというのは結構ツライものがある
ので、これはこれで嬉しいかも。部分的にキツネ色
      にしっかり焼いてあり、乾パンみたいな香ばしさもあります。このクラッカーは、豊富なスプレッド類で食べ
      べてみましょう。

       まずはブラックベリー。どす黒い色合いが何ともワイルドな印象ですが、味はちょっとクセのある甘めのイ
      チゴジャム
です。


       次はコンデンスミルク。うぐぐ、これは甘い・・・まさに練乳そのものです。これが85gと結構な量があ
      り、見ているだけで血糖値が急上昇しそう。鶏卵1個が約60gと考えると、その量の多さがお分かり頂ける
      かと思いますが、これ一本で私の20年分位の練乳摂取量だと思います。
       そしてトリは、そう、あのヴェジマイト!オーストラリア軍レーションを語る上では不可欠な、オーストラ
      リアの国民食
であります。その異様な風味を表現するのは極めて難しく、初めて口にした人は一様に絶句する
      という恐ろしいシロモノ。

       ちょっとドキドキしながらクラッカーの上ににゅるりと押しだすと、見た目はチョコスプレッドみたいです
      ね。しばし躊躇った後、まずはヴェジマイトだけを食べてみましょう。
       うーん・・・何じゃこれは・・・。確かに一言では表現しにくい味です。結構きつい塩気がチョコレートっ
      ぽい見た目を大きく裏切ります。そして何と言うかこの、苦くてクセの無いレバーペーストのような味・・・。


       しかしこれ、お世辞にも美味いとは言えないなあ。噂ではオーストラリアの人達はこのヴェジマイトに対し
      て信仰に近いものを持っているらしく、何にでもこのヴェジマイトを塗りつけて食べるとか。平均的日本人の
      私
としては
       「・・・・・・」
       
としか言えません。
       このヴェジマイト、一説によると原材料は野菜くずで培養した酵母・麦芽エキス・塩らしく、ビタミンやミ
      ネラルが豊富で体にはとてもいいとの事。しかし、うむむ・・・。
       結果的には上記3種類のスプレッドより、ベイクドビーンズのソースをつけた方がクラッカーを美味しく頂
      けました。

       ミュズリ・バー。いわゆるシリアルバーで、3種類入っていたうちアンザックを選びました。オーツ麦をシ
      ロップで固めていて、最初は割とあっさりだなと思いましたが、半分ほど食べた辺りからやっぱり甘味がしん
      どくなってきました


       フルーツ缶で最後を締めます。黄桃洋ナシのダイスカットを粘度の高いシロップに漬けこんだ代物。味は
      市販の缶詰そのまんまですが、缶が無塗装の金属感丸出しなので、なんだか昔の戦闘機みたいだなあ。


       以上、本日の朝食でした。全体的に甘みが中心のメニューとなりましたがボリューム的には申し分なく、食
      後のコーヒーも入らないぐらいにお腹いっぱい。それにしても、ヴェジマイトの異様な味わいが際立つ朝食
      した。
       さて、これで今日1日の戦闘準備は完了。仕事に向かいます。
    




       続いては昼食です。仕事の都合でやや遅めのランチになりましたが、朝からしっかり食べた所為かこの時間
      まで十分に持ちました。


       まずはビスケットジンジャーナッツから。パッケージを開けると、小ぶりなクッキーが4枚出て来ました。
      生姜の刺激的な香りが漂いますが、これがやたらと固い。ガキッと噛み砕くと、生姜の辛みと一緒にかなりの
      甘味が口の中いっぱいに広がります。

       うーん、ここまで歯ごたえのある戦闘糧食も珍しい。脳への刺激があっていいかもしれませんが、、辛味も
      甘味もはっきりしすぎで、個人的にはちょっと敬遠したい味
であります・・・。


       次はトマトスープ。説明書きの通りに粉末を400mlの熱湯に溶かし入れます。結構なとろみがあり、体
      が温まりそうですね。この試食は12月の冷え切った倉庫内で行っているので、この暖かさがとてもありがた
      いなあ。
シエラカップからはコンソメの効いたいい香りがします。まずは一口。
       うん、コンソメのコク、トマトの爽やかな酸味が実に美味しい。具のないミネストローネみたいな感じです
      ね。ショートパスタを浮かべて食べてみたいものです。途中から小袋の胡椒を加えると、さらに味が引き締ま
      っていい感じ
になりました。
      
 かなり念入りにかき混ぜたのに粉末が底の方でダマになって固まっていましたが、サンドライドトマトみた
      いな風味になっていて、これも美味しいなあ。
       しかしスープ400mlはやや多すぎます。ほぼ2人分位あるんじゃないかなあ。味自体はとても美味しい
      
ので、小袋二つに分けてくれた方が有り難いですね。


       プロセスドチェダーチーズの缶を、付属の缶きりでキコキコと開けて行きます。中のチーズは真冬のカーワ
      ックスみたいに固く、付属のプラスチックスプーンが今にも折れてしまいそう。味は市販の6Pチーズそのも
      の
でクセもなく食べやすいですが、その分面白味に欠ける味でした。缶自体は小さいですが、チーズ56gは
      見た目以上に食べ応えがあります。


       ミュズリ・バーの2本目はトロピカル味。これも湿った木をへし折る様な、みっしりとした歯応えです。僅
      かにパインココナッツの風味があって甘いですが、朝食べたアンザックよりも後味がさっぱりでけっこうイ
      ケました。


       以上、昼食でした。品数は少ないですが、濃厚で美味しいトマトスープと缶入りチーズで、味も量も十分満
      足。
食後はインスタントコーヒーを作りますが、湯の量がどこにも書いていないので、あてずっぽうに150
      mlのお湯で溶かしてみました。
うーん、私は普段コーヒーをほとんど飲まないので、美味いんだか不味いん
      だかわかりません。
150mlではやや濃いような気がしましたが、こんなものかなあ・・・。




       その後は間食としてチョコレートハードキャンディを。
       チョコレートは小さい割にずっしりと重く、齧ってみるとやたらと固くカキカキした歯応え。味は普通のミ
      ルクチョコで、甘みも苦みもマイルドです。ブラックコーヒーとの相性も良いですね。
       このプラスチック板のごとき硬質な歯応えが、少々の悪環境でもヘタりそうにないタフさを感じさせるとこ
      ろが戦闘糧食らしいなあ。齧るよりも、口の中でゆっくり溶かしながらキャンディみたいに味わう方が良さそ
      うです。
       ハードキャンディはタンジェリンレモン味。レモンの酸味はあまりなく、温州ミカンの様なほのかな甘さ
      あってなかなか美味しいキャンディでした。

    




       さて、夕食の時間です。まずは二つ目の粉末ドリンクトロピカル。朝食で開封したミックスベリーとは違っ
      てこちらは全く湿気ておらず、さらさらのパウダー状。どうやらトロピカルは経年劣化ではなく、包装材の不
      良
だった模様です。


       1Lの水に粉末を溶かすと、実に体に悪そうな強烈な緑色に目が覚める思い。MREのレモンライムビバレ
      ッジもこんな感じでしたが、こちらの方が遥かに蛍光色っぽく、工業廃液的な雰囲気がぷんぷん。大丈夫かな
      あ、これ。
       恐る恐る飲んでみると甘味と酸味のバランスがなかなか良く、見た目の恐ろしさの割には美味しく飲めます。
     
 味はスターフルーツあたりが近いかな?これを炭酸水で作ったら、昔田舎の駄菓子屋で飲んだ瓶入りサイダー
      みたいな味になりそうですね。トロピカルというよりも、ノスタルジックな味わいです。
       次はPOTATO WITH ONION POWDERを開封。中からはやや黄色がかった白い粉末が出て来ました。パッ
      ケージには100mlの水または湯を加える事・・・とありますが、マッシュポテトみたいな物でしょうか。
      試しに粉末をちょっと舐めてみると、味のないパンケーキミックスみたいな味がします。
       とりあえず規定量のお湯を加えますが、粉末があっという間にお湯を吸収してしまうので、慌てて全体をか
      き混ぜます。30秒ほど黙々とかき混ぜてから食べてみると、所々にタマネギの切れっ端みたいなのが混じっ
      たクリーミーさに欠けるマッシュポテトでした。


       ビスケットの袋を開封。中からはちょっと砕けたビスケットが3枚出て来ました。パッケージにはブリガド
      ーンショートブレッド
と書いてあります。何のことやらと思いつつ食べてみると、甘みを抑えたバニラ風味の
      クッキー
でした。
       水分が少ないサクサクした歯触りは、そばボウロに近い感じ。何がブリガで何がドーンなのか分からない
      まに食べてしまいました。


       さて、ここで湯煎にかけたメインのCHICKEN,PASTA&VEGETABLEを取り出します。
      肉と野菜のパスタ
でいいのかな?開封してメストレーにあけると、八宝菜風のシチューが出て来ました。トマ
      トソース風のパスタを予想していたので意外だなあ。見たところ一口大の鶏肉、コーン、ニンジン、セロリが、
      とろみのついた白濁したソースに絡まっていますが、取り敢えず一口。
       うーん、見た目の通り、八宝菜を薄口にした様な・・・。味はあるのかないのか分からない程度で、決して
      不味くはないものの、何かが決定的に足りない味・・・。これがアメリカで言う“チャプスイ”って奴なのかな
      あ。
       ここでアクセサリーパケットからタバスコの小袋を出してかけてみると、茫洋とした曖昧な味に一本芯が入
      り、ぐっと締まった味になりました。
       それにしても、一体どこにパスタがあるんでしょう?よくみると所々に片栗粉が溶けきらずダマになった様
      な塊
がありますが、もしかしてこれがパスタ?これなら入ってない方が遥かにマシだなあ。もっとも賞味期限
      を2年オーバー
しているので、これで評価するのはちょっと酷かも。期限内ならもうちょっとパスタらしかっ
      たかもしれません。


       半分ほど食べた所でタバスコが無くなってしまったので、今度は小袋のブラックペッパーの残りを投入した
      所、これが大正解。かなり美味しくなりました。粗挽き黒胡椒の刺激的な香りがこの手のレーションにつきも
      のの
レトルト臭を見事に消し去って、実にワイルドな味わいに変化しています。鶏肉も歯触りと味を残してい
      るので、メインデッシュとして十分な力量を保っています。
       マッシュポテトはジャガイモを潰して戻しただけのシンプルなシロモノですが、他の料理を上手く引き立て
      ています。ご飯文化圏の日本人にとってはありがたい一品ですね。クッキーやクラッカーではどうしても風味
      が勝ち過ぎて、お米の代わりは務まりません。
一袋の量を半分にして、これを3食分入れてほしいなあ。
       三本目のミュズリ・バーアプリコット&lココナッツ。今日食べた3本の中では、これが一番食べやすかっ
      たです。期限内だともっと美味しいんだろうなあ。


       最後は紅茶で締めます。二重包装のパッケージを開けると、ティーパックが一つ出て来ました。これをお湯
      に入れますが、特にどうという事もない味。これなら米軍のMREに入っている民生品のリプトンティーパッ
      クの方が美味しい
なあ。砂糖の代わりにブラックベリースプレッドを入れてロシアンティーにしたら、ちょっ
      と美味しくなりました。

       以上、オーストラリア軍戦闘糧食の試食を終わります。世界中から多くの民族が移住し、それぞれがそれぞ
      れの食文化を持ち込むため、独自の味がないと言われるオーストラリアですが、戦闘糧食にもそれが色濃く反
      映されていました。オーストラリア独自の味を探そうとしてもどれもこれもどこかで食べたような味ばかりで、
      ちょっと肩すかしをくらったような気分ですね。
       ちなみに今回試食した分には含まれませんでしたが、過去には調味料として醤油のパックや、日本の偉大な
      発明品である
インスタントラーメンなんかも採用されていたとか。
       その国に合わせて変にアレンジされてしまった日本食(米軍のMREのビーフテリヤキや、ドイツ軍のTyp
      Vの豆腐と野菜のシチューなど)も面白いですが、余計な手を加えず他国の食文化をそのまんま取り込んでし
      まう大胆さ
が、戦闘糧食という視点から見たオーストラリア食文化のキモなのかもしれません。
       しかしヴェジマイトには正直参ってしまいました(笑)。ある意味この存在こそがオーストラリアらしい在
      り方なのかもしれません。




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