護衛艦あまぎりビーフカレー


       さて今回は、『護衛艦あまぎりビーフカレー』です。DD154護衛艦あまぎりは1989年に就役したあ
      さぎり型護衛艦の4番艦。今年で艦齢30年を数えるベテラン艦ではありますが、あさぎり型全8隻に艦齢延
      伸措置予算
が計上され、まだまだ海上防衛の第一線で頑張ってもらわねばならない艦であります。
       ちなみにこの護衛艦あまぎり、2015年に佐世保地方隊にて行われたGC(護衛艦カレー)1グランプリ
      にて見事優勝
に輝いた艦であり、その実績を記念して商品化されたこのカレー。入手して以来試食が楽しみで
      した。
       まずはパッケージから見て行きましょう。シリーズ共通の実に飾り気のないデザインですが、この絶妙な素
      人っぽさ
が商売っ気を感じさせないというか、カレーの製造から商品化、流通、販売までの全てを隊員さんが
      担っているみたいに感じさせるのが面白いなあ。よどみなく商品説明をまくしたてるベテラン営業マンよりも、
      汗をかき言葉に詰まりながらも必死に話している新人営業マンのたどたどしいセールストーク
の方に聞き入っ
      てしまう感じで
しょうか。この効果が最初から意図されたものであったとしたら、相当な腕前を持つデザイナ
      ーの仕事と言えますね。

       箱裏面には、当日コンテストに参加した10部隊全12隻の艦艇画像が紹介され、原材料名や栄養成分表、
      お召し上がり方や注意事項等もきっちりまとめられています。それにしても箱裏のあまぎりの画像、パッケー
      ジ正面と同じ画像を使っているんですね。群青色の海面を白く切り裂いて進むあまぎりを上空から撮影した、
      とてもいい写真です。
       ちなみにこの護衛艦あまぎりビーフカレーは、給養員の牧大介三等海曹による監修との事。この手の仕事は
      曹長クラスのベテラン給養員が担当する事が多いですが、今回はバリバリの若手が監修しています。おそらく
      あまぎり給養員の若手のホープなのでしょう。グランプリ獲得が大きな自信になればいいなあ。

       さて前置きはこれ位にして、さっそく温めたカレーの試食に移ります。ほほう、このどこか懐かしさを感じ
      させる黄色っぽいブラウン
がなかなか印象的。一口食べてみると、まず感じられたのが優しい甘さ、そして
      やかな辛さ
。そこにトマトっぽい酸味が重なって、とかく濃厚に傾きがちな海自カレーらしからぬ爽やかで軽
      やかな味わい
になっています。
       具は角切りのジャガイモニンジン、あとこのぷるぷるしたゼラチンっぽい牛肉はスジ肉かな?スジ肉特有
      のどっしり重厚な味わいは全体の軽やかさに不釣り合いな気がしますが、それが違和感なく見事に溶け込んで
      いる
のが驚きです。軽妙な味わいなのに旨味はどっしり。それでいて重さは微塵も感じさせない・・・役者で
      言えば、釣りバカ日誌でスーさん役を務めた三國連太郎を彷彿とさせますね。

       それにしてもこの、微かに感じられる不思議なあとくちはなんなんだろう?福神漬けの汁っぽい気がします
      が・・・いや、もしかしてたくあんの漬け汁かな?全体の黄色っぽい色合いがたくあんを連想させたのかもし
      れませんが、うーん・・・舌先に神経を集中させて食べれば食べる程、微かにたくあんっぽい発酵臭が口の中
      に残る気がします。
       という訳で箱裏の原材料表示を確認しますが、んん~、たくあんの漬け汁は書いてないですね。どうやらま
      た私の勘違いだった様です(笑)。ちなみに着色料としてクチナシが記載されてありましたが、クチナシと言
      えば市販のたくあん漬けに使われる黄色いスパイス。やっぱりこの黄色っぽさはあえて演出したものの様です。
      見るからに濃厚そうなダークブラウンのカレーが居並んだGC1グランプリ当日、この軽やかそうなあまぎり
      カレー
はさぞかし目を引いたでしょうね。
       他の材料ではももピュレりんごピュレが爽やかな甘酸っぱさを演出し、生クリームウスターソースが旨
      味に奥行を与えた模様。爽やかに軽く、しかし物足りなさは感じさせず・・・見事な着地を決めて見せた牧大
      介三等海曹の、してやったりな笑顔が思い浮かびます。

       例によって、ここで少し妄想の翼を広げてみましょう(笑)。艦齢延伸措置の為の改修工事予算が下り、ま
      だまだ現役で頑張る護衛艦あまぎりですが、そう遠くないうちに最新鋭艦に押し出される形でお役御免となる
      のでしょう。
       あまぎりの退役を見届けて、海上自衛官としてのキャリアを終えたベテラン曹長、もとい元曹長。第二の職
      場にもようやく慣れて来た今日この頃ですが、お昼にカレーを食べるたびに思い出すのは、やはり護衛艦あま
      ぎり時代の奮闘努力悪戦苦闘の毎日・・・。
       「再就職後もあちこちでカレーを食べたけど、あまぎりのカレーを超えるカレーにはなかなか出会えないも
      んだなあ。たしか牧とか言ったっけ、あの若い給養員が作る時は特に美味かったけど、あいつ今も配属先の艦
      でいい仕事してるんだろうなあ・・・」

       新しく生まれた艦には新しいカレー。そしてあまぎりのカレーは、今は遠く思い出の彼方・・・。
       護衛艦あまぎりはまだまだ現役バリバリなのに、そんな少し切ない気分になってしまったのは、やはりこの
      レトロっぽい黄色の所為でしょう。

       それにしてもカレーの隠し味にたくあんの漬け汁というのは、なかなか面白いアイデアな気がします。私の
      勘違いから生まれた発想ですが、スパイスの効いたカレーと白ご飯の間をつなぐという意味で、かなりの効果
      を発揮してくれそう。これはぜひ一度試してみねば。
       ベテラン艦が積み重ねて来た味わいを若手給養員が磨き抜き、それが私の新たなイマジネーションを刺激す
      る・・・こうして金曜カレーは海自という枠を大きく飛び越え、広く受け継がれていくんですね。実に納得の
      いった護衛艦あまぎりビーフカレーでありました。




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