陸上自衛隊相浦駐屯地水陸機動団CURRY
さて今回は、『陸上自衛隊相浦駐屯地水陸機動団CURRY』です。水陸機動団とは敵により制圧された島
嶼部への上陸及び奪還、確保を目的として長崎県の相浦(あいのうら)駐屯地に新編された即応部隊で、第一
空挺団や特殊作戦群と居並ぶ陸自の精鋭部隊の一つ。いわば日本版海兵隊と言えます。
その水陸機動団の名を頂いて商品化されたこのカレーですが、陸自っぽい迷彩柄に彩られたパッケージには
水陸機動団を象徴する装備品である水陸両用車AAV7がレイアウトされ、波しぶきをたてつつ今まさに上陸
するところ。
その上には黒いゴムボートによる水路潜入を試みる水陸機動団隊員の姿と、ローターを垂直に引き起こした
オスプレイがいます。どれも離島への上陸、有事の即応体制に不可欠な装備品ですが、なんかオスプレイ君だ
けが至って呑気そうに見えるのがちょっと気掛かり。まあこういう形状なので仕方ありませんが、しっかり頼
むよ・・・という気分になりますね(笑)。
箱裏面には水陸機動団についての簡潔な説明が書かれ、砂浜に上陸したAAV7やゴムボートの上陸部隊、
着艦態勢に入るオスプレイの画像もレイアウトされていて、非常に水陸機動団らしいデザインとなっています。
しかしここで気になったのが、『なにゆえこのカレーが水陸機動団の名を頂いているか』という事。せめて
部隊が所在する長崎県の特産品を使っているとか地元商工会が音頭を取って商品化したとか、駐屯地食堂で出
しているカレーを忠実に再現したとか給養員長の監修とお墨付きをもらったとか、そういう水陸機動団との関
連性に説得力があれば存在感も増すと思うのですが、外箱のどこを見てもなにも書いてないんですよねえ。ん
ん~、なんか嫌な予感がするなあ・・・。
そんな私をさらに不安にさせたのが、白いレトルトパックに印刷された『陸自カレー』の文字。え?相浦カ
レーとか水陸機動団カレーじゃないの?どうしてこんな、他の駐屯地のカレーとして売り出すことも出来そう
な曖昧な表記になっているんだろう。
これはまさか、例の黒にんにくカレーシリーズと同様に『商品名が違うだけで中身は全部一緒カレーシリー
ズ』なのではあるまいか・・・そんなもやもやした気分のままレトルトを温め、ご飯を盛ったお皿にあけます。
ほほう、オレンジがかった明るめのブラウンですね。ジャガイモとニンジンのカットも結構な大きさで、レト
ルトにしてはかなり頑張ってくれた感じ。
一口食べてみると、まず感じられたのが野菜の穏やかな甘さとジューシーさ。スパイスの刺激や辛味はごく
穏やかで、ズドンとくる旨味よりも軽やかな食べやすさを追求した方向性が伺えます。正直もう少し濃厚な食
べ応えに振っても良かった気がしますが、軽やかな口当たりの中にも乳製品っぽいコクが感じられ、物足りな
さはありません。爽やかで優しい草食系イケメン俳優の様な個性を感じます。
それにしても、任務の過酷さという意味では第一空挺団や特殊作戦群に匹敵する水陸機動団のカレーがこん
な爽やかテイストだったのが意外ですが、よくよく考えてみれば陸の部隊でありながら海自よりもよほど泳ぐ
機会が多そうな水陸機動団。重装備で潮を被りながらの猛訓練のあとにありつける食事なら、これぐらいさっ
ぱり軽く甘口なカレーの方が食べやすいのかもしれません。
対照的に、いったん出港すると運動らしい運動に縁が無くなる海自艦艇乗組のカレーがどんどん重く濃くな
っている・・・というのが面白いところ。イメージとしては真逆なんですよね(笑)。例えるなら海のカレー
はヘビー級、陸のカレーはバンタム級といった感じ。そもそも、陸の隊員さんって基本細マッチョだよなあ。
極限まで高効率を追求した肉体というか。むしろ海の隊員さんの方がガッチリ型が多い気がします。
具はゴロゴロのジャガイモとニンジン以外に、結構大きめの牛肉が入っています。30×40mmと、そこ
そこ大きなサイズが2切れ。見た目の美味しさも十分合格点であります。それにしてもこの牛肉、不思議と甘
い香りがする様な・・・。まるで牛肉の下味として、りんごやもものピュレに漬け込んだ様。このカレー全体
に漂う軽やかな風味を一層際立たせている感じですね。
相浦駐屯地や水陸機動団との関連性のアピールに弱さはあるものの、まあこういうライトなカレーも美味し
いなあ・・・と食べていましたが、この明るいブラウン、カットされた野菜の大きさ・・・なんかどこかで見
た様な気が。
またしても急速に膨らんでくる嫌な予感を振り払いつつ、過去に味わった自衛隊レトルトカレーを脳内検索
していくと・・・あ、あれです、『よこすか海軍カレー(黄)』!カレーの味も色も具の大きさもそっくりで
す。随分前に一度食べたきりのカレーなのではっきりと断定はできませんが、これってまさかパッケージが違
うだけの同一商品では・・・。
なんというか、担当した事件の犯人の手口が、以前逮捕した犯人と全く同じだった時のベテラン刑事の気分。
「まさか、まさかあいつがまた・・・?いや、奴はもう出所して足を洗って、今はかわいい嫁さんも子供も
いて立派な堅気としてやり直している筈。でもこの手口の鮮やかさはあいつ以外には・・・いや、まさかそん
な事がある訳が・・・」
そんなもやもやした気分を抱えながら、『よこすか海軍カレー(黄)』の空箱を押入れの奥から引っ張り出
して、まるで現場に残された指紋を照合する様に箱裏に記載された原材料表示を確認します。
野菜(たまねぎ、じゃがいも、にんじん)、牛肉・・・と、ここまでは完全に一致していて絶望感に囚われ
ましたが、幸いそこから先は全く違っており、『よこすか海軍カレー(黄)』と『陸上自衛隊相浦駐屯地水陸
機動団CURRY』は、よく似てはいますが全くの別物とはっきりしました。ああ、よかった・・・私の思い
違いだった様です。
とは言え、一瞬でも疑ってしまった水陸機動団CURRYには本当に申し訳ない事をしてしまいました。本
物は本物としてきちんと評価したいという信念に基づいているとは言え、時々自分の疑り深さが嫌になります。
「自分が信じていたものまで疑っちまう・・・つくづく因果な稼業ですね、デカってやつは・・・」
と、屋台のおでん屋で苦いコップ酒をあおりながら、同じくノンキャリア叩き上げの副署長に愚痴を聞いて
もらっているベテラン刑事の気分にさせられた試食でありました・・・。
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