深山第1砲台跡
2017.01.22
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和歌山県に所在する、加太(かだ)地区の戦争遺跡を見て来ました。加太は大阪湾の南側の玄関口の一
つである紀淡海峡(本州と淡路島の間ですね)に面していて、敵艦隊の湾内進入を阻止すべく明治期に建設
された多数の砲台・堡塁群が今も多数残っている、非常に濃いエリアであります。
当初の予定では沖合に浮かぶ友ヶ島に渡って、昨年見る事が出来なかった砲台群を見るつもりだったの
ですが、午後からの天候が怪しいという事で帰りの船便が大幅に前倒しになり、島に居られるのはわずか2
時間程になるとの事。
うーん、気に入った場所ではじっくり腰を据えて見て回りたい私としては、2時間はちょっと短すぎる・・・とい
う訳で急遽予定を変更し、友ヶ島汽船桟橋のすぐ近くにある深山(みやま)砲台と男良谷(おらのたに)砲台、
海軍由良水雷隊深山基地を見に行く予備プランへと変更する事となりました。
加太港から県道65号線を北上し、休暇村紀州加太へと通じる急な坂道に入ります。ぐねぐねした上り道を
しばらく行くと、右手の山際に駐車スペースが見えてきました。あれ?既に車が4台も入ってますよ?人が少
ないこの時期を選んで来たのに、結構見に来る人がいるんだなあ・・・と思ったら、車から釣り道具を抱えた
人が出てきました。ああ、釣りの人もここに車を止めるのか。
手早く準備を整えて、出発。まずはカーブミラーと瀬戸内海国立公園の案内板がある道路際の分岐点を右
に折れて、深山第1砲台跡を目指します。
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緩やかな上り坂は赤レンガが敷き詰められて歩きやすいですが、湿っているのでちょっと滑りそう。道の両
側には、斜めに走る変わった地層がむき出しになっています。時々小鳥のさえずりが聞こえてくるだけの、し
んと静かな山の中。人の気配は殆どありません。
5分ほどで急にひらけた場所に出ました。斜面には屏風状に切り込んだ石壁があり、用途は分かりません
が結構古そう。これも明治期に建設された砲台の名残かな?
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ふと見ると、地下深く掘り込んだ幅1.5m程の階段があり、その先に弾薬支庫がありました。一応周囲は
柵で囲ってありますが、薄暗い時間だったら気付かずに転げ落ちてしまいそう。
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さっそく降りて行くと、へえ、結構深いですね。地表から3m位掘り込んであります。ひんやりとした空気が溜
まっている狭い塹壕の様な地下通路、左右の壁面は古びたレンガ造りで、足音がコツコツと反響します。な
んだか中世ヨーロッパの都市の路地にいるみたいだなあ。
地下通路は『く』の字の下半分を長くした形状で、弾薬支庫は短い直線に面してひとつ、長い直線にみっつ
並んでいます。足元はかなり整備されていて、デコボコや泥濘の類は全くなし。むしろキレイすぎて物足りな
い気すらしますが、遺構をきちんと管理して残すのも大事なことですからねえ。
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一つめの弾薬支庫に入ってみると、あれ?意外と狭いなあ。4m×4m位でしょうか。内部は天井まで総レン
ガ造りで、その表面を薄く塗り固めた漆喰は殆ど剥がれ落ちていますが、奥の方はまだ残っていますね。上
部に通じる換気口らしき穴からは若干の雨だれが見られますが、落ち葉の吹き込みもゴミの不法投棄もな
く、保存状態は極めて良好。
続いては弾薬支庫が3つ並んだ区画へ。いやあ、直接日が当たらないこの薄暗さがいい感じ。こちらは先
程の支庫よりも奥行きがあり、4m×6m位。漆喰の状態も悪くなく、何とも言えない美しさがあります。
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2つ目と3つ目の弾薬支庫は、奥の方で連結していました。1つ目と4つ目はそれぞれ独立した形ですが、
これはどういう使い分けだったんだろう。
古レンガ構造物に静かに囲まれているこの感覚。心がざわざわするのに不思議と落ち着く、一種独特の雰
囲気です。深々と降り積もった時間という冷たい水の中を、ゆったりと泳ぐ魚になった気分。ああこの場所は、
空気でも風でもないひんやりとした何かで満ちている・・・。
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弾薬支庫からの階段を上がると、ここ深山第1砲台に3つある砲座のうちの、1つ目の砲座に出ました。内
部には2つの砲床が眼鏡状に並んでいて、ここに28センチ榴弾砲があったんですね。
丸い砲床は既に腐葉土で埋まっていますが、雑草もなくキレイな状態。くすんだ緑色の苔の美しさまで計算
したかのような、まるで一枚の絵画と言って差し支えない風情です。
砲座の周囲を囲んだ赤レンガ壁も程良く古びた美しさですが、あれ?よく見ると、壁面を掘り込んだ形状の
弾薬置き場がありませんね。お陰で砲座というよりも、赤レンガ造りのプールにいるみたい。もしかしたら、砲
座の隅に木造の弾薬置き場でもあったんでしょうか。それとも、壁面の弾薬置き場が設計に盛り込まれたの
は、この深山第一砲台が造られた後の事だったのか。
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砲床の内部には砲台全体の説明板があり、少々汚れてはいるものの非常に分かりやすい内容。当時の
砲台の様子を写した貴重な写真もありました。また放物線を描いて敵艦を砲撃する様子や、砲台が高い位
置に造られた理由も分かりやすくまとめられ、この手の砲台の説明書きとしてはかなりいい出来。
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その脇には、横方向に3つ並んだ砲座を繋ぐ2本のトンネルが。キレイな曲線と直線、古めかしい赤レンガ
鬱蒼たる緑、そして光と影が見事に融合した、遺跡好きとしては惚れ惚れしてしまう光景です。
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砲座間を繋ぐトンネルの内部にも地下に降りて行く弾薬庫がある様で、この複雑な構造は見ていてワクワ
クしてきます。もちろん純粋に地形と動線、安全性を追求した上でこの設計になった筈ですが、いかにも秘密
基地っぽいというか、おっさんの中に眠るオトコノコ魂を揺さぶられる様(笑)。
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光と影をくっきりと際立たせたトンネルは、一段地下にある弾薬庫まで含めたアーチになっているので、トン
ネル幅の割に天井部が低く独特の圧迫感があります。あー、たまらないな、この味わいは。
と、ここで後方から若い女性の声が聞こえてきました。どうやら2~3人はいるようですね。向うの雰囲気を
壊したくありませんし、あまり騒がしくなるのもこちらとしては勘弁なので、彼女達のレーダーの範囲外になる
地下の弾薬庫に降りて行きます。
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薄暗い階段を下りると、トンネルに沿って2つ並んだ弾薬庫の前に出ました。ここも結構深く、地下3mはあ
りそう。建設された当時は、相当大規模な工事だったんだろうなあ。
弾薬庫のある階層から見上げたトンネル内は、古い赤レンガの味わいもあってなんとも荘厳な雰囲気に満
ちています。なんというか、太古の火星に栄えた謎の古代文明の遺跡にいるみたい。
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弾薬庫内には外の明るさが殆ど入らず、真っ暗。ヘッドライトを点灯して内部に入りますが、ん?正面奥の
壁面の上部に四角いコンクリの跡がありますよ。神棚でも祀ってあったのかな?それにしては大きすぎます
が。
一体何なんだろう・・・と近寄ってみると、その足元に吹き込んだ枯れ葉が妙に湿っていますね。ははあ、ど
うやらこれは、地上に通じているスリット状の換気口か。なんでこんな形状なのかはわかりませんが、当時は
上にあった筈の屋根か何かが今はなくなって、雨水や落ち葉が入り込んでいる様です。
弾薬庫の奥から振り返ると、入り口と窓の向こうの白い漆喰壁が鮮やかに浮かんで見えます。じっとその
場に佇んでいると目の前の虚と実が反転し、真っ暗闇の中に白く光るモノリスが3つ立っているみたい。時間
を忘れて見入ってしまいそうな、まるで現実感のない光景です。
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階段を上がってトンネルを抜けると、中央に位置する2つ目の砲座に出ました。こちらも実に保存状態がい
いですね。砲座の中央と背後には周囲の防護壁へ上る事が出来る階段がありますが、これは後で上ってみ
よう。
2つ目のトンネルの下にある弾薬庫へと降りて行きます。構造は先程のものと同じですが、ん?隅の方に
なにか茶色い塊が見えますよ?内壁を割って伸びてきた木の根っこかな?とは言え、弾薬庫周囲はぶ厚い
コンクリートで固められ、そう簡単に木の根っこが入り込めるとは思えないのですが・・・と思いながら近寄っ
て確認すると、うわあああああああああ、茶色いカマドウマの大群でしたあああああ!私は特
にクモやカマドウマが苦手ではありませんが、流石にこれだけの群れはゾッとします。ひえええええ。
この気持ち悪さはご覧頂いている皆様と是非共有したいのですが、私にも良識がありますので、今回はリ
ンクを設定しておきますね。物好きな方だけご覧下さい。
可愛いカマドウマちゃん画像(グロ注意!!)
ざっと見て2~300匹はいますが、何でまたこんな所に集合しているんだろう。カマドウマって、巣を作って
集団生活してましたっけ?寒さをよけて集まったにしては群れがまばらですし、水場やエサ場でもなさそうで
すが・・・。
何らかの意図と目的の為に集まっているに違いありませんが、となるとカマドウマの間に会話とかコミュニ
ケーションが成り立っているのかなあ。中には私みたいなカマドウマがいて、
「なあなあお前ら、おっぱいとおしりだったらどっちが好き?」
とか不用意な発言をして、そこから部隊を二分する大論争に発展したりしているのかも。おしり派人類代表
として、その会議に参加したい気分であります。
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階段を上がり3つ目の砲座に出ます。こちらは奥の赤レンガ壁が崩壊してしまい、砲床の一つは土砂に完
全に飲み込まれています。その跡に大きな木が生えているので、相当以前に崩れてしまった様ですね。
かろうじて崩壊を免れた階段を上って防御壁の上部に出てみると、おお、目の前には地ノ島と沖ノ島が浮
かび、その向こうには淡路島が。紀淡海峡の絶景が広がっていました。それにしても、大阪湾や神戸港の入
口に巨大な淡路島が立ちふさがり、その隙間を埋めるように友ヶ島や鳴門の渦潮があるとか、まさに天然の
要塞そのものな地形なんですねえ。
1889年から始まった由良要塞建設計画。その15年後に始まる日露戦争を見据え、ロシア艦隊の進入を
阻止すべく造られたこの要塞ですが、果たして当時のバルチック艦隊が大阪湾に入ろうとしていたら、果たし
てどうなっていたのやら・・・。
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そんな事を考えていると、沖ノ島と淡路島の間を通過する一隻の輸送船が見えました。この砲台からあの
位置を通るであろう敵艦を迎え撃つ、か・・・。目と鼻の先の距離に見えますが、あの小さな目標に直径わず
か28センチの砲弾を命中させるとか、当時は奇跡でしかなかった気もします。
防御壁上の広場は現在休憩広場になっていて、木陰には木造のベンチやテーブルが。気候のいい時期に
ここでお弁当を広げたら、さぞかし気分がいいだろうなあ。現実は現実で色々キナくさくはありますが、この場
所でこうして佇んでいると、当時の兵隊さん達に100年後のこの場所は平和を絵に描いた様な休憩広場に
なるんですよ、と教えてあげたい気がします。太平洋戦争終結までこの砲台は実際に使われる事はなく、多
分この場所で命を落とした兵隊さんもいなかったと思いますが、しばし黙祷。
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そういう意味では、もっとたくさんの人にこの砲台跡広場を訪れて貰いたいですね。人が少ない方がいいと
か、遺跡好きの勝手な言い分だったかもなあ。
そんな場所に相応しく、斜面には可憐なスイセンの花の群れが咲き誇っていますが、木製の柵が腐食して
あちこちで崩れ落ちていて、危ない事この上なし。殆ど崖といっていい斜面なので、あまり近寄らない方がよ
さそう。
ふと地面を見ると、落ち葉の中に真新しいグレーチングのフタが。この真下は弾薬庫。なるほど、これが先
程の換気スリットに繋がってるんですね。恐らく後から整備し直されたものと思われます。
一旦砲座に降りて、今度は背後の山側に通じる階段を上がってみます。砲座群全体を背後から回り込む
山道があり、これは恐らく陣地の警戒の為の通り道だったのでしょう。
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砲座の背後をぐるりと回り込み、一番奥の土砂に埋まった砲座を見降ろす場所に出ると、足元の地面に大
きな円形のコンクリ構造物の基礎を発見。位置的に見て、これが観測所かな。普通のタコツボ状の塹壕では
なく、ほとんどトーチカと言ってもいい規模です。上には恐らくドーム状の屋根があったと思われますが、既に
崩壊してしまったのかな?見てみたかったなあ。
そこから左手に向けて、下りの尾根道が続いていました。ここを進めば、海岸沿いにある男良谷砲台跡と
由良水雷隊深山基地跡に行きつける筈。深山第一砲台は十分堪能したので、続いてはそちらに向かいます。
男良谷砲台跡・海軍由良水雷隊深山基地跡・深山第2砲台跡に続く
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