宇宙の駅
2015.05.24
福岡山口遠征二日目、午前中は山口県美祢市にある秋芳洞を見て回り、午後からは同県周南市に移動し
て『宇宙の駅』を見に行きます。中国自動車道鹿野ICから一般道に降りますが、カーナビに誘導された先はえ
らい山道。勾配のきつい道路は車幅ギリギリだし、悪天候時は通行止めとか書いてあるんですけど・・・。
そんな山道を冷や汗をかきつつ6~7kmも進んだ頃、ああっ!右手の山の中にUFOが(笑)!あまりに唐
突な光景だったので、ついブレーキを踏んづけてしまいました。確かこのUFO以外にも、色々ある筈なのです
が・・・と車を進めて行くと、今度は左手前方に異様な光景が見えてきました。宇宙ステーション!
うおおおおお、本当に来てしまったぞ・・・と、しばし呆然と見入っていると、あれ?宇宙の駅の前に車が止ま
っていますよ。もしかして先客がいるのか?こんな山奥まで、こんなものを見に?私もですけど。
まあ日曜日ですから、モノ好きな人とバッティングしてしまったのかなあ。出来れば一人で心ゆくまで見たか
ったのですが、距離を取ってあまり接触しない様にすればいいか。
とりあえず駐車スペースを探しますが、この車に横付けするのも憚られたので、もう少し先の方で探してみま
しょう。しかし、宇宙の駅を過ぎたところに停められそうな場所が見当たりません。仕方ない、バックで引き返し
て、さっきの車の隣に停めるとしましょう。
と、ふとバックミラーを見ると、一人のお爺さんが両手を振って誘導してくれています。まるで甲板員による誘
導を受けつつ護衛艦の飛行甲板に着艦しようとするペリパイみたいな気分。しかしこのお爺さん、やけに親切
というかなんというか・・・あれ?もしかして、この宇宙の駅の持ち主の方なのかな?
エンジンをカットして車を降りると、誘導してくれたお爺さんがニコニコ顔で
「ようこそ来られました!」
もしかして、ここの持ち主の方ですか?と尋ねると、果たしてその通りでした。うわあああ、よりによって、ここ
を作った人にお会い出来るとは!この展開は予想外です。お爺さんは私の車をしげしげと眺めて、
「カッコイイ車だねぇー」
見たところ70過ぎ位とお見受けしましたが、分かりやすいスポーツカーでもない私の車を見てカッコイイと感
じる感性の若さ。これはタダ者ではなさそうです。っていうか、背はぴしっと伸びているし顔色はツヤツヤでピン
ク色だし、目にも力が漲っている感じ。なにより、迷彩ズボンと柄シャツを違和感なく着こなしているこの人、や
っぱりただの高齢者とは思えません。
「どうぞ、ご案内しますよ(笑)」
おお、これは恐縮です!駐屯地創立記念行事に遊びに行ったら、駐屯地司令が直々に案内してくれた様な
気分ですね。
宇宙の駅は県道より少し低い場所に広がっていて、『宇宙の駅入り口』という手作りテイスト満点な門が立っ
ていました。よく見ると看板の上部には柄杓を2つ繋げたものがあり、風を受けて『駅』の字がくるくると回転す
る仕組みになっています。残念ながら今日は微風ですが、まるで展開したソーラーセイルに太陽光を受けて
金星への旅を続ける、JAXAの誇る小型ソーラー電力セイル実証機イカロスの様。宇宙時代の先進性をビン
ビンに感じます。もしかしたらこれは、UFO離発着の際の風速観測も兼ねているのかもしれませんね。
まず案内して頂いたのが、巨大な木馬。宇宙ステーションに何故木馬が?と唖然としていると、駅長さん(お
爺さんでは失礼なので以下こう呼称)はやおらその背中にまたがり、前後にぎっこんぎっこんと揺らし始めまし
た。そのあまりの迫力に、撮影する事を忘れて見入ってしまった私(笑)。なんなんだこの駅長さんのバイタリ
ティは・・・。
「どうぞ、乗ってみてください」
と満面の笑顔の駅長さんに勧められ、私もおずおずとその背中に跨ってみます。しかしこれ、馬の背の高さ
が2mぐらいあるので結構怖いですね。恐る恐る前後に揺らしてみると・・・うはっ、なるほどこれは楽しい!気
がつけばバカボンパパよりも年上になってしまった私、山の中で木馬に乗ってはしゃいでおります!
しかもよく見ると、木馬の首の部分がちゃんと頸椎状の別パーツに分割されていて、手綱を引くと右に左に
首を振る仕組みになっています。なんとまあ芸の細かい。頸椎パーツは青いゴムホースで連結されていて、こ
の弾力が首の動きを滑らかにしている様です。これ上手く出来ていますね!と感嘆していると、
「馬だからね!ホース!」
と、宇宙ギャグで返されてしまいました(笑)。ダメだ、この人には勝てそうにありません・・・。昨年行った富山
県の日本海食堂のご主人もかなりの人物でしたが、世の中まだまだ凄い人がいるなあ・・・。
次に見せて頂いたのが、巨大な謎の多面体。非常に複雑かつ精密に組み上げられた球体ですが、なんだ
こりゃ。っていうか、これを正確に手作りするって、普通の人の技術じゃない気がするのですが。もしかして建
築とか設計関係の仕事をされているのかな?まさかデススターでも作るつもりなんでしょうか。
「いやあ、サッカーボール見てね、作ろうとひらめいたんですよ」
という拍子抜けな答えが返って来ました。なぜ宇宙でサッカーボール。無重力下では試合にならない気がす
るのですが。っていうか、サッカーボールを見てこれを作ろうと考える人が、世の中に一体何人いるんだろう。
うーん、センスが地球離れしすぎ。
もしかしてこの駅長さん、本当は宇宙人なんじゃないかという疑問がふつふつと湧き上がります。と言う事は
私の車は、宇宙人に認められたって事か・・・。
「今時90年代顔wwwww」
「ボンネットに穴空いてる」
と、今やランエボ乗りにすら笑われる始末の我が愛車ですが、そのデザインセンスは宇宙に通じるレベルっ
て事か。スバルはもっと胸を張っていい・・・。
続いては、『愛愛ブランコ』という謎の施設へ。よく見ると、ブランコを支えるフレームが三角形になっていま
す。ピラミッドパワーを利用しているんでしょうか。それにしても、ブランコに乗るのって何年ぶりだろう・・・あ、
これは耐G訓練に使えますね。NASAの訓練施設にこんなのがあった気がしますよ。
それより看板の下に、『このブランコに乗ると結ばれる』と書いてありますが、これもピラミッドパワーの成せ
る技か・・・。っていうか、もし隣に駅長さんが座ったらどうしようと考えると、気が気ではありませんでした。大
宇宙のスリルとサスペンスを満喫しまくりです。
続いて見せて頂いたのが、巨大な太鼓。これは見学に来る子供に大人気で、なんと横にあるドアを開けれ
ば太鼓の内部にも入れるとの事。まるで宇宙船に搭載された緊急脱出ポッドを思わせます。
それにしても、こんなものまで一人で作ってしまうとは・・・。キャンバス地は皺ひとつなくピシッと張られていて、
外枠は僅かな歪みもない滑らかな真円形。そもそもこの巨大な太鼓を支えている木枠からして、駅長さんによ
る手作りなんですね。
駅長さんはやおらバチを取り出して、ドコドコドコドコと演奏開始。これが驚いた事に、ちゃんと太鼓の音がし
ます。こんなの素人には絶対作れません。凄すぎです!・・・等と、素で感動させられるのもなんか負けたみた
いで悔しい気がしてきたなあ。ちょっとボケてみるか。これはきっと、太鼓に見せかけたUFOとの通信施設で
すね!
さらに続くのは、象。象ですよ、象。タイ語で言えばチャーン!イクラちゃんかよ!これが隣にある小屋と同
じぐらいの大きさで、ほぼ実寸大といってもいいサイズ。右足を軽く曲げて、今にもドスドス歩き始めそうなのが
キュートだなあ。
このメタリックな輝きを放つスペース象ですが、内部に仕込まれたワイヤーを操作すると、ぱおーんとばかり
に長い鼻と首を持ち上げるギミックになっていました。なんという芸の細かさ。私も操作させて貰いましたが、鼻
がくるりんと丸まった瞬間に、思わず口に出してしまいましたよ。ぱおーん。
それにしてもこの駅長さん、どうやら小さな子供達を喜ばせたい一心でこの宇宙の駅を作っているみたいで
す。人里離れた山奥にあるこの宇宙遊園地で大喜びする子供達を見てニコニコするのが、目下のところの駅
長さんの楽しみであり、生き甲斐なのでしょうか。
てっきりラエリアンとかアダムスキー系の、ちょっと色々アレな人の誇大妄想大爆発的な作品群を期待して
やってきた私としては、その動機の純粋さが眩しくて微妙にやりにくいなあ。とは言え、こりゃ子供は喜ぶでしょ
うねえ。いや、私も喜んでますが。
そしていよいよこの宇宙の駅の主役格、UFOへの搭乗です。周囲に張り巡らされたロープを跨ぎ、駅長さん
と草むらをかき分けつつ近づいて行きますが、間近で見るとこれがものすごい迫力。高さは10m、直径は5m
ぐらいあるんですけど・・・。これを一人で作られたんですか?と驚きつつ質問すると、
「いやまあ、リフトとか色々使ったんですけどね(笑)」
と、涼しい顔で返す駅長さん。という訳で、山口県の山中深くにて、ぎらぎらと輝くUFOに人生初の搭乗です。
「あのね、こないだ乗った時は中にハチが住み着いていたから、気をつけて下さいね」
と駅長さん。底部に4機設置された噴射口の中央部にあるハッチを開けて中に入ると、うはあ、こうなってた
のか。驚くべき事にUFOは木製で、沢山の木材が幾何学的に複雑に組み合わさって強度を保っている様で
す。本当にこれを、たった一人で作ったのか・・・。一体何者なんだこの人は。
UFO内部は全周に丸窓が取り付けられ、実に採光がよく宇宙人もニッコリです。しかしこの丸窓、よく見たら
なんかプラスチックの洗面器っぽいんですけど・・・。恐らくたまたまプラスチック洗面器にそっくりに見える宇宙
素材ですね。ちなみにUFO内部は禁煙でした。まあ木製ですし。ここで駅長さんが、
「あ、やっぱりハチいるわ。危ないから逃げましょう!」
と言う訳で、折角搭乗を果たせたUFOから慌てて退散。うーん、残念。
「いやあ、どっかから来ちゃうんですよね、ハチ」
と、苦労して作り上げたUFOをハチに乗っ取られても、どこ吹く風の駅長さん。つくづくナイスガイ過ぎます。
っていうか、ハチが勝手に入りこんでくるUFOというのも、大概な気がするのですが・・・。機密性とか、大丈夫
なのかなあ。
よく見るとUFOの傍には小さな木馬があり、これがウルトラマンカラー(笑)。ダメだ、ごく短時間に機関銃の
如く突っ込みを入れ過ぎて、もはや残弾数ゼロです。まさかこの私が、こんなお爺さん相手に真正面からの突
っ込みで力負けさせられるとは・・・。
あとこの、原っぱの奥の方にある足場はなんでしょう。恐らく建設中の新たな施設だと思われますが、もう普
通に一戸建て住宅を作っているとしか思えない規模です。駅長さんに尋ねると、
「ハッハッハッハッ、何が出来るかは内緒ですよ!」
ちなみに2~3年後の完成を予定しているとの事。それは楽しみです。もう少し近くまで寄って見てみようと思
いましたが、
「あ、それ以上近寄らない方がいいですよ!その辺りはヘビが出ますんで・・・」
なるほど、この山の中ならマムシぐらいは出そうですね。今は産卵前の時期でヘビも気が立っているので、う
かつに藪の中に踏み込まない方がよさそう。
ちなみに今回は駅長さんと一緒だったので、ロープを越えて特別に近くまで寄って見せてもらえましたが、普
段UFOの周囲は立ち入り禁止。こんな山の中で毒ヘビにでも噛まれたら、洒落になりませんからね。
次に見せてもらったのが、これ。道路脇からの傾斜を利用した滑り台です。これはやはり、UFOを射出する
為のカタパルト的なものでしょうか。
「あ、その滑り台は使用禁止にしてるんですよ。木材がささくれ立ってきましたし、たまに鳥のフンがついてま
すし(笑)」
ちなみにその滑り台の脇には、宇宙の駅全体を見渡せる展望台がありました。航空基地で言う管制塔に当
たる施設です。強度の問題で、残念ながら一度に3名までしか登る事は出来ませんが、この高さから眺めると
建設途中のドーナッツ型宇宙ステーションの全貌がよく見えます。これはやはり、『2001年宇宙の旅』にイン
スパイアされたのかなあ。美しく青きドナウの穏やかな旋律が聴こえて来る様です。
ちなみにこの管制塔・・・もとい展望台の下部は休憩スペースになっていて、対面式のベンチシートが用意さ
れています。ハワイかどこかの火山島らしき絵や壁掛け時計もあり、その傍らには虫よけスプレーも完備。素
晴らしいホスピタリティと言わざるを得ません。テーブルにはらくがき帳があり、雨風に晒されても大丈夫な様、
防水バッグに入れられているのも気が効いています。
と言う訳で、私もらくがき帳に記帳。何気なしに他の書き込みを見て行くと、訪れた子供達の楽しそうな様子
の中に、ちらほらと地元マスコミや取材らしき人達のものが混じっています。へー、山口では結構有名なんで
しょうか。
あと、さっきから気になっていたこれは一体・・・。木材とトタン板で作られた小屋が、思いっきりひっくり返って
います。にもかかわらず、内部の棚や椅子はちゃんと地面と平行になってるし・・・。なんかもう、見ているだけ
で平衡感覚が狂いそう。宇宙酔い体験コーナーってやつでしょうか。
「あ、それはですね、最初はちゃんと真っ直ぐ建っていたんですけど、あそこにUFOが墜落した衝撃でひっく
り返った・・・って設定なんですよ」
へ?UFOが墜落?駅長さんが指した方向へ歩いて行くと、うわあああああ、UFOが、UFOが墜落して地面
に突き刺さってる(笑)!これは凄い!運輸省はこの事故を確認してるのか?
ちなみに墜落したUFOの向こうには、ロケットが突っ立っていました。うーん、12~3mはありますよ。あれ
も一人で立てたのか・・・なんという高齢者パワー・・・。
駅長さんはこのあと所用があるので、そろそろ戻らないといけないとの事。
「ゆっくり見て行ってくださいよ(笑)」
と、缶入りのお茶を御馳走になってしまいました。畳みかけて来る感動で、丁度喉が渇いていたところ。有難
く頂きます。そして駅長さんは、インプレッサスポーツワゴンを駆って山道を颯爽と走り去って行きました。いや
ー、凄い人だったなあ。発想力、行動力、体力、いずれをとっても日本の高齢者の鑑としか言いようがありま
せん。これからもこつこつと一人でこの宇宙の駅を作り続けるんでしょうけど、心から応援したいですね。私も
あんなカッコイイ爺さんになりたいものです。
あ、しまった。当サイトへの掲載許可を貰うのを忘れていました。まあ、マスコミや新聞の取材を受けている
みたいなので、問題ないかなあ。他にも沢山お話を伺いたかったのですが、それはまた次回のお楽しみにし
ておきましょう。
その後は、最初に見つけた少し離れたところにあるUFOを見に行きます。駅長さんはアレはもう古くなって
るから・・・と笑っておられましたが、なかなかどうしてこちらも立派なもの。ぜひ中に入ってみたかったのですが、
立ち入り禁止でした。心残りですが、道路脇からの撮影だけにとどめておきましょう。
最後は道路脇に自生していたクサイチゴを採集して、宇宙の駅を後にします。次来る時は、どんな風になっ
ているのかな?
無理すればその日のうちに大阪に戻る事もできましたが、折角なのでその夜は山陽自動車道のPAにて車
中泊。寝袋の中でバーボンを舐めつつ、非常に内容が濃かったこの2日間を振り返ります。ああ、これぞ遠
征車中泊の醍醐味ですね(笑)。
翌朝は早くに出発し、合計1366㎞を走破して無事自宅に帰りつきました。
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