fellows 〜2nd stage〜
| ・・・・愛が足りないよ・・・大石。 「っももも、もっしもしっ?!」 『ぶっ』 「わ、笑うなよっ!」 『・・・? 英二・・・もしかして泣いてた?』 「・・・」 今さっきまで大泣きだったもんで、声がおかしくなってるのがバレバレだ・・・。 『何かあったのか・・・?』 ええ。大有りですよ・・・。 『英二、どうしたんだ? 何で喋らないんだ』 みんなの視線が痛くて、恥ずかしくて喋れないんですよぉぉぉぉ。 『・・・今、どこに居るんだ』 「・・・うち」 『今から行くから。ちょっと待ってろ。』 えっ、だめじゃん!! 上手いこと言って、今日は来させないようにするはずが・・・ 『じゃ、すぐ行くから、待ってろよ』 「えっ、ちょちょっと大石っ?!」 『ツーッツーッツーッツー』 き、切れた・・・。 「・・・っぶっはっはっはっは!! ほら見ろっ! 大石のやつ、飛んでくるぞっ!」 兄ちゃん笑いすぎ・・・ こんなとき、普段の行いが出るのが恨めしい。大石のやつ、試験前だろっ!! 「ま、予定通り来てくれることになったんだから、いいじゃない。」 ・・・ちっとも良くないよ。 「じゃ、大石君来るまでに、ちゃちゃっと夕飯食べちゃわないと。」 「でもさ、大石君ってスクーター持ってるよねぇ? それなら、結構早く来るんじゃない?」 「それにしたって15分くらいはかかるんじゃねぇの?」 ・・・みんな判ってないよ。大石、絶対10分以内で来るから・・・夕飯食ってる暇ねぇから・・・。 「じゃ、急いで食べなきゃね。英二も食べなさいよ。おなかすいてないの?」 「・・・とてもじゃないけど、食べる気にならないよ。」 「まったく〜。何かあるとすぐ食欲なくすんだから。だからそんなにガリガリなのよ。」 これからここで起こるであろう事を考えると、食事なんかノド通らないって・・・。って言ってたら、 『ピンポーン』 はやっ!! 「はっやー!! ちょっと、電話してから10分経ってないんじゃない?」 「5分くらいじゃね?」 「・・・あんた、普段彼呼び出すとき、どんだけ急がせてんのよ?!」 「・・・・・・。」 「大石君って、いろんな意味ですごいよね・・・。」 『ピンポーン』 「ほら、早く出なさいよ。」 「・・・分かってるよ。とりあえず俺の部屋に上げとくから、テーブル片付いたら呼んで・・・。」 「はいはい。」 俺は観念して、玄関へ向かった。 玄関の扉を開けると、門の外に大石がいた。 「・・・よぉ」 「よぉって、英二。お前どうしたんだよ?目真っ赤じゃないか!」 「あー、うん・・・ちょっと・・・。とりあえず入って。」 「あ、ああ。って、この時間にお邪魔していいのか?夕飯時じゃないのか?」 どんなときでも気遣いを忘れない大石。これから先、どんなことが待ち受けてるか知る由もない・・・。 「うん・・・大丈夫だから、上がって。」 「・・・じゃぁ、お言葉に甘えて。お邪魔します・・・。」 二階の俺の部屋に行くには、みんなが食事をしている部屋の前を通らなければならない・・・。部屋のドアを閉めて来るのをわすれてたことを、激しく後悔した。 「大石君。いらっしゃい。今、お茶入れるからね。」 「いらっしゃ〜いw」 「随分早かったけど、飛んできたんじゃねぇの?(笑)」 「大石、お前、英二を甘やかしすぎだろ・・・。」 「こんな時間に来てもらって、すまないね。ゆっくりしてってくれ。」 「もうっ!!みんなうるさいよっ!!いいから、大石は俺の部屋いっててっ!!お茶もってから行くからっ!」 「あ、ああ・・・。 こんばんは、お邪魔します・・・。」 『みなさん、どうしたんだ?』ってな目で見る大石を押しやって、俺はとりあえずお茶を入れるためにキッチンへ行った。 「大石君、すっごい『きょと〜ん』ってしてたわねぇ(笑)」 「そりゃそうだろ。菊丸家勢ぞろいで挨拶だもんよ。」 「しっかし、いつ見ても男前ねぇ。髪型変えてから、ますますイイ男になった感じよね。」 「もうっ!!みんな静かにしててよっ?!大石、変に思うじゃんかっ!」 「でも、これからもっと変に思う状況になるんじゃねぇの?」 「・・・・」 だから、余計、今くらいそっとしといてよ・・・・。 俺は、自然と重くなるため息をつきながら、お茶を持って大石の待つ部屋へ向かった。 「ごめんな、大石・・・。こんな時間にいきなり呼びつけて・・・。」 「いや、そんなことは気にしなくていいんだけど、英二こそどうしたんだ?そんなに泣きはらして、何があったんだ・・・。」 何があったっつか、これから更にあるっつか・・・。 返答に困って項垂れる俺を、何か大変なことがあったのではないかと勘違いした大石が、そっと抱きしめてきた。 「なぁ、英二・・・。本当に何があったんだ・・・。俺には言えない事なのか?」 「違うんだ・・・。」 「違うって、何が・・・?」 「・・・・。」 いっ言えないっ!!家族が雁首そろえて大石を待ってるなんて、とてもじゃないけど言えないよっ!! 「・・・何もなくて、英二がそんなに泣くわけないだろ?俺達、一体何年付き合ってると思ってるんだ?それとも、俺には言いたくないことなのか・・・。」 俺の顔を覗き込む大石の顔が、ちょっと曇った。 違う。こんな顔させたいんじゃないっ!! 「あ、あのさ・・・。」 「ん?」 「あの・・・あのね・・・」 「うん。」 「えっと・・・その・・・さ・・・」 「うん。どうした?」 何度も言いよどむ俺を焦らせるでもなく、穏やかに相槌を打ちつつ背中をなでながら、俺が話し出すのを待ってくれる。昔から変わらない、大石の優しさだ・・・。 「・・・俺達・・・一緒に暮らそうって、話ししてたじゃん?」 「ああ。俺の試験が終わって、英二が学校生活に慣れてきたら、夏を目処に暮らしたいな・・・。」 「そ、それで・・・きっ今日さっ・・・その事をみんなに言おうとして・・・」 俺の背中を撫でる心地よい手の動きが、一瞬止まった。 「・・・英二、反対されたのか?それで、そんなになるまで泣いてたのか・・・?」 「ちっちがうんだっ!」 「・・・?じゃぁ、どうして・・・」 い、言いづらいぃぃぃぃぃ!! 「・・・逆なんだ。」 「逆・・・?何が?」 「・・・・みんな・・・大賛成で・・・」 「えっ・・・?」 「だっだからっ・・・うちの家族全員、俺が大石のとこに・・・よっ・・・よっ・・・」 「・・・よっ・・・?」 「よっよよよ嫁に行くっってっ!!」 多分俺は、かつてないくらい真っ赤な顔になっていたに違いない・・・。いくら事実上そうだっつったって、男の俺が、男の大石のところに嫁に行くって・・・。 「ぶっっ!!」 ・・・笑いやがったよコイツ・・・。 「っっくっっはっはっははは!!さっさすが英二のご家族だっ!!」 腹抱えて笑うかよ・・・。 「・・・笑ってんじゃねぇよっ!!」 「わっ悪いわるいっっ・・・っぷ・・・」 「笑い事じゃねぇんだぞ?!」 「い、いや、まぁ、ほらっ・・・っまっ間違いってわけでもないじゃないか。」 まぁそうなんだけど・・・って、そうじゃなくって!! 「そんな暢気なこと言ってられんのも、今のうちだからなっ?!」 「えっ?なんで?」 「何で?じゃねぇよっ!!これからうちの家族が、大石に直接話ししたいって、そいでさっき電話させられて、なんとか誤魔化して来ないようにしようとしたのに、大石が早とちりして電話切ってすぐ来ちゃうからっ!!」 「あぁ、なるほど。そりゃ大変。」 「ちっとも大変そうに聴こえねぇよっ!!」 「あっははは。大丈夫だよ、英二。」 「何が大丈夫なんだよっ!ちっとも大丈夫じゃねぇよっ!!俺の母ちゃんなんか、大石が大石のご両親に話ししてるのかとか、ぜってー聞くつもりだからっ!!」 「そうか・・・。」 「そうだよっ!!」 一人癇癪起こして苛立つ俺を落ち着かせるように、大石の優しい手が再び俺の背中を撫でる。 「大丈夫だよ、英二。ほら、落ち着いて。」 大石の声と手は、俺を落ち着かせる効果絶大。一人いきり立ってた俺も、だんだん落ち着いてきて、『大石なら大丈夫って』気になってきた。 「・・・ほんとに大丈夫?」 すっかり大人しくなって大石の肩口に頭をもたせかけて、頼りない声で問いかける俺に、 「うん。大丈夫だから。英二は何も心配することないよ。」 大石がこう応える。大石がこういうんだから、きっと大丈夫! 「英二〜!片付いたから、大石君と降りておいで〜!」 「・・・っつ」 「ほら、英二。お兄さん呼んでるから、行こう?」 階下からの声に、一瞬身体を強張らせた俺の肩をそっと掴んで、いったん自分から俺を遠ざけた大石は、触れるだけの口付けを落として、俺を促した。 「お茶も入ってるから、早くしろよ〜」 「英二?」 微笑む大石は、いつもの大石だ。大丈夫。俺一人じゃない。 「今降りる!!」 階下に叫んでから、大石の顔を見る。 「よろしく頼むぜ、相棒!!」 わざと懐かしい言い方をして、今度は俺から大石に軽くキス。 「ああ。俺達は青学黄金ペアだもんな、英二(笑)」 そんな俺に、大石も懐かしい返事を返してきた。 さぁ。勝負はこれからだっ!! 紅茶の良い香りがリビングを包む。 と、これだけ聞くと、なんだか午後のティーパーティーのようだが、今は午後8時。菊丸家の末っ子の就職祝いは、当の本人の爆弾発言により慌しく幕を閉じ、大の大人8人が雁首揃えたリビングには、妙な緊張感が漂っていた。 いつも通りにこにこした父ちゃん。いつもどおり飄々とした表情で紅茶を飲む母ちゃん。並んで座る俺と大石を、チラチラ見ながらニヤニヤしている兄ちゃん姉ちゃん’s・・・。大石はといえば、こちらもいつもどおりの微笑みをたたえ、「良い香りですね」などといいながら、暢気に紅茶を飲んでいる。 そんな大石と家族を交互に見ながら、俺は一人でドキドキしていた。心臓が口から飛びでそうなくらい緊張して、イヤな汗が背中を伝う。俺の短い人生の中で、いまだかつてこんなに緊張したことはないだろうってくらいの緊張だった。顔色もそうとう蒼白になっていたのか、隣に座る大石が『大丈夫だから』とでも言うように、ぽんぽんと二度、そっと俺の背中をたたいた。すると、それを合図にしたかのように、父ちゃんが口を開いた。 「大石君、試験前で忙しいだろうに、急に来てもらってすまないね。」 「いえ、大丈夫ですので、お気になさらないでください。」 「まぁ、あまり遅くなってもいけないから、話しをはじめようか。」 い、いよいよかっ!! 緊張が最高潮に達する俺。いつもどおり微笑む大石・・・。おまえ、も少し緊張しろよ・・・。 「さっき英二から聞いたんだけど、大石君は医者にならないのかい?」 ・・・なんでソコから入るんだ? 「はい・・・。」 大石も、ちょっと面食らったような顔で答える。 そりゃそうだ。同居の事についていろいろ聞かれると思ってたんだろうから、自分の進路について聞かれるとは思ってなかったろうな。 「どうしてかって、聞いてもいいかな。」 「・・・詳しい理由はお話できないんですが、もともと医者になるつもりはなかったので。」 「えぇぇぇ?!最初っから医者にならないつもりで、なんで医大なんかに行ったんだ?」 ナイスだ兄ちゃんっ!! 俺が聞きたかったことを、兄ちゃんが代弁。俺も気になるっ!! 「医大に行く事が、両親との約束でしたから・・・。」 ちょっと困ったような笑みを浮かべながら、大石はそう答えた。すると、今度は母ちゃんが口を開いた。 「医者にならないのは、うちの英二が原因というわけではないの?」 「えっと・・・それは、どういう・・・?」 「つまり、英二とのことがあるから、医者にならないの?ってことだよ。」 がっ! 兄ちゃん、何いっちゃってんだよ・・・。 「英二とのこと・・・?」 きょとんとした顔で、大石が俺のほうを見る。その目が『英二とのことって・・?』と聞いてくるが、そんなの、いくら家族にわかっちゃったっつっても、俺の口から言えるわけねぇだろがっ!!と、必死で大石にアイコンタクトを送るが、まったくわかってないご様子で・・・。全然黄金ペアじゃねぇよ、こりゃ・・・。っつか、愛があるなら理解しろっ!! 「大石君が、英二とこの先生きていくために、医者になることをやめてしまったんじゃないかと、私と妻は心配しているんだよ。」 あああぁぁぁぁぁああぁぁっ・・・。結局ダイレクトに言っちゃうのね・・・。 「あぁ・・・。そういう事ですか。」 父ちゃんの方に向き直って、綺麗に微笑みながら、大石はきっぱりと否定した。 「いえ。違います。」 「それならいいんだけど、うちのバカ息子の所為で人生棒に振るようなことになりでもしたら、大石君のご両親に顔向けできないからね。」 バカ息子って・・・母ちゃん・・・。 「あははは・・・」 あははは・・・って、大石・・・。否定しとけよな・・・。 「じゃぁ本題に入るけど・・・」 きたっっ!! 「夏から二人で一緒に住みたいって。」 「ええ。菊丸家のお許しが出れば、そうしたいと思っています。」 「じゃぁ、うちの家族が許さないって言ったら、一緒に住まなくてもいいの?」 ね、姉ちゃん!何余計なこと言ってんのっ?! 「ご家族のお許しが出なければ、英二がつらい思いをするでしょうから・・・。そんな思いをさせてまで一緒に暮らそうとは思ってません。」 大石・・・。 「ふむ・・・。そういう大石君のところは、ご両親はこのことを知っているのかな?」 「はい。うちの両親からは許可は得ていますので、大丈夫です。」 「えっ?!大石、いつそんな許可得たんだよ?!」 これには俺もびっくりした。てっきりまだ話してないと思ってたんだけど・・・。 「ん?うちの親には、とっくに言ってるよ?英二のこと。」 「と、とっくにって、いつっ?!」 「高3のときかな。」 「『かな』って・・・。そ、そんな前に言ってたのかよ?!」 「うん。」 うんって・・・。そんな爽やかに言われても・・・。 「大石君は、随分前に決めてたんだね。」 父ちゃんが、感慨深そうに言った。 「ええ。みなさんの前でこういう事を言ってもいいのかどうかわかりませんが、僕自身は、もうずっと以前から英二と生涯連れ添いたいと思っていましたので。」 つ、連れ添うって・・・。俺は一人で真っ赤になってたと思う。 「ヒューッ! さっすが大石。 言うことがいちいち大人だねぇ〜。」 そりゃ兄ちゃんだって、からかいたくなるわな・・・。大石の爽やかさにだまされそうになるが、こいつ今、すっげーことさらっと言ったよな・・・?家族の前でこんなこと言われた俺は、どうすりゃいいんだよ?! 「でも、うちや大石君のご家族、英二本人から反対されたらどうするつもりだったの?」 俺はもちろん、反対なんかするわけないじゃん! 何言ってんだよ、母ちゃん。 「うちの家族だったら、僕自身で説得できる自信がありましたから、心配はしていませんでした。菊丸家のみなさんについては、これは英二にがんばってもらわないとと思ってましたけど(苦笑)。ただ・・・」 そう言って大石は、また俺の方に向き直って続けた。 「英二本人がいやだと言った場合は、これはもうしょうがありません。」 え・・・? 『英二本人がいやだと言った場合は、これはもうしょうがありません。』 なに言ってんの・・・おおいし・・・・? 「なっ、何てこと言ってんだよっっ大石っ!!俺が先に『一緒に居たい』っつったの、忘れたのかよっ?!!」 ちょっと寂しそうに微笑む大石に向かって、俺は怒鳴った。 「忘れてなんかいないよ、英二。でも・・・。」 「ふっふざけんなっっ!!」 大石に最後まで言わせないうちに、思いっきり大石の頬を張り倒す。 「ちょっ、え、英二っ!なんてことするのっ?!」 「おまえなぁっ!!俺の気持を疑ってんのかっ?!おっ俺が、そんな簡単に、お前のことイヤになるとでも言うのかよっ?!!」 俺は、大石がそんな風に思ってたって知って、ものすごいショックを受けた。悲しいのを通り越して、くやしかった。俺たちが過ごしてきた日々を・・・二人で一緒に歩んできたと思ってた事を・・・・・・これからも二人で一緒に生きて行こうと決心し合った思いを・・・。他の誰からでもない大石本人の口から、それを否定するような事を聞かされるなんてっっ!! 確かに俺は、気分屋で気まぐれかもしれない。でも、何に対してもそうなんじゃないってことは、大石が一番良く理解してくれてると思ってた・・・。だから俺たちずーっと一緒にペア組んでられたんじゃねぇの?ずっと一緒に居られたんじゃねぇのかよっ!! 悔しさのあまり、せっかく止まってた涙腺が、また大崩壊した。ほんと、今日はよく泣いてるよな・・・。ここ数年分、一気に泣いてんじゃねぇか・・? 菊丸家のリビングは、末っ子の大激怒に、ただ一人を除いて皆呆然としている。そんな中、この騒動の元凶である大石が、俺の涙を親指でぬぐうように頬に手を伸ばしながら、のんびりした声で言った。 「あぁ、英二・・・。また、そんなに泣いて・・・。せっかく泣き止んでたのに、目、腫れ上がっちゃうだろ?」 「うわ・・・。大石、この状況でそのセリフかよ・・・。」 兄ちゃん・・・何、感心してんだよ・・・。 「だっ・・・、誰の所為だと思ってんだよっ!!おまえの所為だろっ?! こ、このっ・・・腐れタマゴがっ!!」 いつもなら嬉しい大石の伸ばされた手を、思いっきり払って言った。 「ぶっ!!」 「腐れ・・・って、ひどいな、英二・・・。」 こまったなぁってな感じで、苦笑してる大石。家族は肩を震わせながら、必死に笑いをこらえてる。 「ひっ・・・ひどいのは、おまえの方だろがっ!!」 「っま、まぁ・・・英二、おっ落ちついて・・・っぶっ・・・」 何とかとりなそうとしてくれてるのはわかるけど、笑いながら言うなよ父ちゃん・・・。 「っ・・・こ、これが落ち着いていられるかっ!!おっ・・・俺の気持を、疑われてるんだぞっ?!そっそんな気持でっ・・・こっこれから一緒になんか・・・いっいら・・・いられないっ・・・。」 「お、大石君・・・え、英二はっ・・・こう言ってるけど・・・?」 うちの家族って、なんで俺が、こう、真剣になればなるほど、爆笑してくんだ・・・・・。 「・・・なあ、英二。」 「なっなんだよっ!!」 ここでろくでもないことをまた言うようなら、もう一発お見舞しちゃるっ!!ってな感じに毛を逆立ててる俺に、やっぱり穏やかな笑みを浮かべながら、大石が言った。 「何か誤解してるみたいだけど・・・」 「何が誤解なんだよっっ」 「んー。あのさ・・・俺は英二の気持を疑ったことなんか、一度もないよ?」 「はぁ?!今さっき、そういっただろうがよっっ?!忘れたとは言わせねぇぞっ!!ここにいる家族全員、がっつり聞いてたんだからなっ?!」 「英二、俺の言うこと、最後までちゃんと聞いて?」 「俺はいつだって、おまえの言うこと、ちゃんと聞いてるよっ!!」 「ぇー・・・。そりゃウソでしょ・・・。」 「うんうん。間違いなく、いっつも聞いてないと思うな・・・。」 姉ちゃん達うるさいっ!! 「うん。じゃぁ、もう一回言うから、ちゃんと聞いてて?」 「・・・大石、お前、そうやって英二を甘やかしてるのか・・・。見事だ・・・。」 兄ちゃんもうるさいっ!! 「あのね。俺と一緒に暮らすことを英二がいやだって言うかも知れないと言ったのは、英二の気持ちが変わるとかじゃなくて・・・たとえば、ご家族に反対された時とかの事だよ?」 え・・・? 「英二が俺と暮らしたくないっていうんじゃなく、何か他の理由があれば、もしかしたら英二がいやだって言う可能性もないとは言い切れないからね・・・。そうなったら俺は、無理強いしてまで一緒には暮らせないってことだよ。」 ・・・・えーっと・・・。 「だから、英二の気持を信じてないわけじゃないから。ね?そんなに泣かないで・・・。」 再び伸びてきた大石の手を、俺は今度は振り払わなかった。 「なんだ。やっぱ英二の早とちりかよ。」 「大石君、こんなんやめといたほうがいいんじゃねぇの?」 「どうしてですか?」 「だって、コイツの早とちりでいちいちひっぱたかれたり怒られたり拗ねられたりしたんじゃ、大石君のほうがイヤになるんじゃね?」 「そうそう。英二がイヤって言わなくても、大石君のほうからオコトワリされるんじゃない?英二。」 「・・・・・・・・。」 な、何も言い返せないっ!っつか、今回のは完全に俺が悪い・・・。いくら特別な状況で緊張してたからって、俺が・・・俺のほうが大石の気持を信じられなかったってことになるよ・・・。ど、どうしよう・・・。ほんとに姉ちゃんの言うとおりに、大石、俺のことイヤになったりしたら・・・。 「こら、英二。俺を信用しろよ?」 大石の指では拭いきれないほどの涙が再び頬を伝う。 「ごっご・・め・・・っ・・・おいし・・・。」 「ほら、そんなに泣くなって。この状況で、ちょっと緊張しちゃってただけだよな?大丈夫だから。ちゃんと判ってるから。」 「お・・いし・・・。」 やっぱり大石は判ってるんだ・・・。俺が緊張してたことも、大石の言うことちゃんと聞かなくて誤解したことも、俺が大石のことをずっと思ってるってことも、大石の気持も信じてないわけじゃないってことも・・・。 「お兄さん達も、そんなこと言わないでください。僕が英二をいやになることなんて、絶対ありえませんから。」 「ぜ、絶対って・・・大石君・・・。」 「それこそこの先、何があるかわからないわよ?」 「でも絶対なんです。」 大石はきっぱりと言った。 「英二がどんなに早とちりでも、ささいなことで拗ねても怒っても・・・それこそ、万が一英二が僕に愛想をつかすようなことがあったとしても、僕の方から英二をイヤになったりすることはありえませんよ。」 恥ずかしげもなくにっこり微笑みながら言う大石に、菊丸家は絶句だ。 「あー、えいじ・・・。お前、やっぱり大石君とこ行くしかねぇな・・・。」 「う、うん・・・。あたしもそう思うわ・・・。」 「こんな仏様みたいな人、どこ探したっていねぇぞ・・・。」 「うちの彼氏にも、この現場を見せたかった・・・。」 好き勝手なことを言う兄ちゃん姉ちゃん達だったが、俺も本当にそう思う。こんな俺を理解して、なおかつ認めて受け入れてくれるのは、家族以外に大石しかいないよ・・・。 「おーいし・・・っ」 「な?だから、もう泣くな。明日、学校に挨拶に行くって言ってたろ?ちゃんと冷やさないと、真っ赤な目で行くことになっちゃうから、な?」 「・・・う、うん。」 俺たちのやりとりを遠巻きに眺めてた菊丸家一同は、何故か一様に顔を赤らめてる。まぁ、あとから思えば、かなり赤面モノの、こっぱずかしいやり取りだったかもしれない。不二あたりがいたら「家族の前で、何バカップルぶり発揮しちゃってんの?ほんと恥ずかしいよね、君達って!」とか言いそう・・・。 「ふぅ。本当にわが息子の事ながらお恥ずかしい限りだけど、大石くん、本当に英二でいいのかい?」 最後の確認とばかりに、父ちゃんが大石に聞いた。 「英二じゃなきゃ駄目なんです。」 あまりにきっぱりと答える大石に、菊丸家一同、再び絶句。 「えーっと・・・、英二。大石君はこういってるけど、お前はどうなんだ?」 「おっおれは・・・さっき・・も・・・いったように・・・っ」 「ああ、わかったわかった。もういいから、お前、さっさと泣き止んで、目、冷やしとけ。」 まだ泣き止む事ができずまともに喋れない俺に、兄ちゃんがこう言った。 「とりあえず、今日の目的だった、大石君がご家族のご了承を得てるかどうかは分かったから、うちとしてはもうこれ以上、何かを聞く必要は無いわね。」 「そうだね。今までのやり取りを見せてもらったら、もう何も言うこともないだろう。」 「っじゃじゃあ・・・おっ俺、おっおおいしと・・・いっしょに・・・」 「ああ。一緒に住んでもいいよ。」 「おおいし・・・っ!!」 俺は、嬉しさのあまり、家族の前だってのを忘れて、ついいつもの癖で大石に抱きついてしまった。 「え、えいじっ?!」 この話し合い(?)の間中冷静だった大石は、そんな俺の大胆な行動に面食らってる。 「大石君。英二のこと、よろしくお願いします。」 父ちゃんが大石に向かって、頭を下げている。まるで、娘を嫁にやる父親そのものだ。なんか違くないか・・・?一応あなたの息子なんですけど、俺・・・。 「あ、そ、そんな、頭なんか下げないでくださいっ!」 ここへ来て、大石がはじめて動揺してる。 「ちょっ・・・ほら、英二からも、言って!」 あわてて俺を引き剥がそうとするが、そんなのに負ける俺じゃない。俺は今、最高に嬉しいんだから! おろおろする大石に構わず、ますますぎゅーぎゅーと抱きつく。 「えいじ〜っっ!!」 「ヤダ。父ちゃんからも言われたんだから、大石、俺のことちゃんとよろしくしろよな?」 「それはもちろん! って、そうじゃなくって・・・。」 「ほんと、大石君、英二に甘すぎよね〜w」 「そうだぞ、大石。たまにはがっつり言ってやらないと、英二のことだからどこまでもつけあがるぞ?」 「なんだよそれ〜?! 俺がいつ、つけあがったんだよ!!」 「いつもじゃないの?」 「いつもじゃねぇの?」 「・・・・・・」 「なんでそこで黙るんだよ、おおいしっ!!!」 「英二〜。ほら、機嫌直して、な?」 あのあと俺と大石の二人は、大爆笑している菊丸家一同を尻目に、とりあえず俺の部屋に上がってきた。 「なあ、英二ぃ〜。」 そして大石は、すっかりヘソを曲げた俺のご機嫌を必死に取っている。 実は俺、大石が俺の機嫌を取るときのちょっとなさけない顔が、かなり好きだったりする。だから、ほんとはもう機嫌が直ってても、ついつい大石のその表情見たさにいつまでもぐずってるフリをしてしまう。でも、そこは大石も慣れたもんで『本当は俺の機嫌は直ってるんだけど直ってないフリをしているだけ』だってことなんか、すっかりお見通し。それでも、あえて俺の楽しみに付き合ってくれてんだ。まあ、一種のコミュニケーションかな(笑) さて。情けない大石も堪能したし、そろそろ許してやるか。 「反省してるか・・・?」 「海より深く反省してます。」 言うことが微妙に古いぞ、大石・・・。 「わかった。許してやるから・・・」 そう言って、いつものようにちょっと顔を上げて、大石に向き直る。二人の仲直りの合図だ。 「仰せのままに。」 いつものように微笑む大石は、俺の肩に手を置いて、二人の距離を近づける。そして、今まさに仲直りが完了しようかという、その瞬間・・・ 「英二〜!もう、遅いから、今日は大石君に泊ってってもらいなさいって、父さんが・・・って、あら・・・ごめんごめん。ノックするの、忘れてたわ〜。 気にしないで、つ・づ・け・て♪」 そういって、突然乱入してきた姉ちゃんは、ニヤニヤしながら部屋のドアを閉めて出て行った。と思ったら、 「あ、終わったら声かけてねw」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 続きなんかできるかっっ!!!! END |