Step☆Up 〜3rd daytime〜
(担当 響子)





「やいやいやい!慎の字ぃ。
 わかってるんだるぉうなぁ、
 お嬢に指一本でも触れてみやがれ!
 どーなるか…。」

出勤する山口を一家総出で見送った後、それぞれが持ち場に戻って行った。
俺も大学に行こうと荷物をまとめに戻った部屋に後からついてきた京さんが
さっきから隣でうるさくてかなわない。
しばらく無視してたけど、ふと手をとめて、京さんの方に向き直り
にこり、とわざと作った無邪気な笑顔で問いかけた。

「…どーなるのさ?」

「そっ、そりゃぁ…お前ぇ…」

「ね、山口が『イイ』って言っても、ダメなわけ?」

「おっお嬢は///、そんなこと言われるはずがねぇっ!!!」

「ふぅーん。じゃ、いいや。
 山口がダメ、って言ったら指一本触れない。
 でも……」

「で、でも何だよっ!」

「イイって言ったら…京さんがなんて言おうが遠慮しねぇから。
 男と男の約束、ってことで…いいよな?」

「……」

「なっ!!!」

「………くっそぉー!わかったよ!!!
 お嬢が…もしもそうおっしゃったら……俺も漢だ!何も言わねぇっ!!! 
 後は煮るなと焼くなと…どうとでもしやがるぇ!!!
 だけど…だけど…泣かすんじゃねぇぞ!!!
 大事に大事に…ぐふっ…泣かさねぇように…ぐぐっ…
 優しくしやがるぇよ!!!」

「とーぜん」

「ち、ちくしょー!!!
 今晩、お嬢を守りにお前ぇの家に行きてぇぜ!!!」

「冗談は顔だけにしといてくれよ。」

「ぐふーーーっ!おっ…俺の可愛い可愛い…お嬢ぉぉぉー!!!
『イヤ』って言うんですぜぇぇぇ!!!
『ダメ』って…『キライ』って言うんですぜぇぇぇぇ!!!
 慎の字のばかやろぉぉぉぉ!!!
 お前の母ちゃん、出べそぉぉぉぉぉーーーー!!!!!」

湧き上がる涙をこらえるように両手で女みたいに押さえて
子供みたいな悪態をつきながら部屋を飛び出した京さんをため息と共に見送った。
悪ぃけどさ、おっさんがどんだけ泣いても…誰がなんて言っても…
本気になった俺を止められるのは山口だけ、だから。



「それじゃ、失礼します。」

そう、玄関先で声をかけると、奥からぞろぞろ出てきたテツさんやミノルさんが
明後日の方向を見ながら

「慎さん、なんだったら今日もこっちに泊まってもいいんですぜ。」

「そうそう。今夜は松坂牛のすき焼きと、鯛や平目の刺身に
 伊勢海老のグラタンにしようかって思ってるんで。」

なんて言ってきた。
山口と二人っきりにさせない為に、豪華なメニューで釣ろうたってそうはいかない。

「ありがとうございます。
 また、今度お願いします。」

がっかり、とやっぱり、を混ぜこぜにした顔で固まる2人に
にっこり微笑んで、もう一度頭を下げて玄関を出ようとした俺を引きとめるように
奥から声がかかった。

「あー…沢田くん。」

「はい。」

思いきり無垢な笑顔で振り返った俺に戸惑ったように、組長さんが口篭った。

「あー…そのぉ…なんだ。
 久美子のヤツは、夜になると怖ぇ夢をみてつい暴れたりすることもあるんで…
 遊びに行かせて貰っても、夜は帰して貰った方がいいかと……。」

まるで子供のお泊り会の誘いを断る言い訳みたいなことを、
柄にもなくボソボソと呟いた組長さんに、最上級の笑顔で答えた。

「あ、その点は大丈夫です。 
 一昨日はおとなしく寝てましたから。」

そう応えた俺に、今度は組長さんが唖然とした顔で固まった。
あ、そうか一昨日俺の家に泊まったのは、ナイショだったっけ、って気付いたけど。
まぁ、いいか。
固まったままの組長さんにも、にっこりともう一度微笑んで頭を下げて
今度こそ玄関を出た。


門に向かおうとする俺に勝手に並んできた富士が
いやらしい目つきでニタニタ笑いながら、肘(前足)で脇を突付いて来た。

「慎さんよぉ。いよいよ今日…ってかい?」

「うるさい」

「奥じゃ若頭が号泣してるし、玄関じゃまだお三方が固まったままですぜ。」

「そっか。」

「誰がなんと言おうともう止まらねぇ、
 準備万端、発射準備オッケーってヤツですかい?」

「黙っとけ。」

「優しく優しーく、するんですぜ。
 なんならアッシが手取り足取り…」

「……(ゴツン!)」

一発拳骨をかまして、おとなしくなった隙に門から出ようとしたら、
のっぽさん帽をかぶった工藤が不自然に箒を動かしながら立っていた。
(その姿をみてレレレのおじさんを連想しても仕方ないだろう。)

「お帰りデスカ?」(レレレのレー)

「あぁ」

「けっ!
 次に来る時ゃ、塩まかれる覚悟で来いよ!!!
 この家の大事な大事なお嬢に手ぇ出すヤツは…」

「…。」

あくまでも律儀に道を掃きながら、いつまでも付いてきてぶつぶつ言いそうな工藤を、
じろり、と一睨みで黙らせて、ようやく立ち止まったヤツをおいて俺は駅への道を急いだ。
こんな日は、大学なんて行く気分じゃねぇけど、どうしても出なきゃなんねー講義があるから仕方ない。
それだけ出て、とっとと帰って…山口を待とうっと。





・:*:・゜'★,。・:*:・゜'☆





いつもより早く登校すると、藤山先生が嬉しそうに高めの声で
鼻の穴を膨らませて近づいて来た。

「山口センセ♪どうだった?」

「どう、って…?」

きょとんとして応えると、さっきまでの楽しげな顔は一転して、
眉をぐっと顰め、ドスのきいた声で囁いてきた。


「週末、ヤったのか、ヤってないのか…ハッキリ言えってのよ!」


こ、こわっ!!!(汗)

「や、や、やっ…///・・・て…ません…けど…」

「はぁーっ?!!
 あれだけ言っといたのに、ヤってないの?!」

「えっと…色々事情もありまして…///」

「事情なんて言ってられると思ってんの?
 知らないわよぉ。突然まっぱだ…」

「で、でも!!!
 今日…泊まりに行く約束をしました…から…///」

「あらーん♪
 それを早く言いなさいよぉ。
 ヤる気マンマンねっ!!!いい度胸だわっ。
 うふふっ、じゃ今日は早帰りね♪協力するわぁぁぁん。
 なんでも言ってねぇーん。」

「は、はい…。アリガトウゴザイマス」


お尻をふりふり、去って行く藤山先生を見送っていたら
後ろからまた声がかかった。

「うぉっほん。」

げ、猿渡教頭だ。

「山口先生、今日はお早い出勤で。やる気ですね?」

「はいっ!!
 やる気マンマンでっす!!」

思わず気をつけをして、赤面した。

「それはなかなか珍しい…いえ、いい心がけですね。
 では、今日の放課後、来年度の進路指導の打ち合わせをしますから。」

「えっ…あのぉ今日は…。」

「なんですか?やる気なんじゃないんですか?」

どうしたもんかと口篭る私に向かって、ぐぐっと詰め寄ろうとした猿渡教頭に
遠くからソプラノが響いた。

「教頭センセ〜! 
 残念ですけど山口センセは今日はダメですわー。」

「なんですと!
 生徒の進路よりも大事なことがあると言うのですか!?」

「えっと…///あのぉ…///」

「ほら、教頭も覚えておいででしょ。
 東大に行った沢田君が、将来について色々悩んでいるらしくって
 ぜひ恩師に相談したい、って言ってるんですってぇ。」

「な、なんですと!」

「白金からせっかく入った大学を中退なんてことになったら…ねぇ?」

「ノ、ノーっ!!!(汗)
 そっ、それはいけません!山口先生!
 来年の進路よりは、今日の東大です!!!
 なんとしてでも、白金からの東大生を守るのです!!
 いいですね?!!!」

「はい…」

興奮のあまり唾をとばしながら力説する教頭に頷いて、
更に向こうで「ばっちオッケー?!」とウィンクしている藤山先生を横目に
すごすごと出席簿を抱えて、ホームルームを行う為に教室に行った。



・:*:・゜'★,。・:*:・゜'☆



気を抜くと、この週末のバタバタを思い出して、
そして今夜のことで頭がいっぱいになりそうになるのを必死で振り払って
疲労困憊しながら過ごしてようやく昼休みになった。

屋上にヨタヨタと上がって、給水塔に登って寝転んで空を見上げてると
下から声がかかった。

「ヤンクミ、いるんだろ?」

「おっ、雑賀か!どうした?」

そう応えている間に雑賀もあがって来て、寝転がってる私を見下ろした。

「どうしたもこうしたもあるかよ。
 お前の方だろ、そりゃ。」

「へっ?」

「気付いてねぇのかよ。
 ホームルームでも、授業中でも、急に黙ったかと思ったら真っ赤になって
 頭ぶんぶん振って。
 その度に頭の上の空気を混ぜるみたいに手を振りやがって。
 ありゃなんかの儀式か?」

「へぇっ?私、そんなことしてたか?!」

「はぁ…無意識かよ。」

「面目ない///。」

「その上、急に黙ったかと思うと
『何も考えずに体ごとぶつかるんだ、久美子!』とか
『女は度胸だ!!!』とか、ブツブツ言って。
 なんだよ?
 今日、お前ん家で出入りでもあるのか?」

「い、いや、そんなものはねぇけど…///」

「じゃ『危機をチャンスに生かすんだ!』ってのはなんなんだ?」

「それは貞そ…いや、いや、いや!!///
 ほんっとに大丈夫だからっ!!!」

「隠すなよ。
 なんなら付いて行ってやってもいいぜ。……暇だし…///…さ。。
 俺らだって、ちょっと位なら力になれるかもしれねぇし。」

「つ、ついて…そ、それはちょっと…(汗)
 気持ちは有難ぇけど…お前らの力を借りられるようなことじゃ…
 …ねぇ///…かな…、と…///。」

「(ムッ)
 俺らには何にも出来ねぇって言うのかよ!」

「いや!お前らは本当にいいヤツだ!
 だ、だけど、今回のことはお前らにゃどうしようもねぇって言うか…///
 私が根性決めるしかねぇんだ。気持ちは有難ぇけどな。」

「…ちゃんと他に助けてくれるヤツがいるってか?」

「はぁ?」

「ふん、どうせ沢田さんに助けて貰えるんだろ。
 悪かったね、余計なお世話で。」

「しゃ、しゃ、しゃわだぁ?!!!」

「もーいいや。
 ともかく午後からはそのキテレツな言動にだけは気をつけろよ。
 皆、驚くを通り越して怯えたり心配してるから。じゃーな。」

それだけ言って、雑賀はとっとと屋上のドアを開けて出て行った。
なんか心配してくれてたかと思うと急に不機嫌になっちまって。
ヘンなヤツだなぁ…。
いや、私も大概ヘンな言動をしてたらしいし人のことは言えねーか。。
沢田の家に行くまでは、気をつけようっと…(汗)。




>>続く

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