Step☆Up 〜3rd Night〜
(担当 双極子)
ピンポーン
じりじりと待ち望んでいた音が鳴って俺は急いで玄関へ行った。
扉を開けると、朝別れてから今日一日、見たくてたまらなかった愛しい彼女が
変顔して固まっていた。
「よ、よぉ・・・////じゃ、じゃま、すするなっ。」
喉からやっと絞り出したって感じの声が最後には裏返って口ごもる。
どうやらひどく緊張しているらしい。
その様子を見て俺も緊張してきた。
「さ、入れよ。」
出来るだけさりげなさを装って、山口を迎え入れる。
今までに数限りなくここへ上げた事があると言うのに、
初めから泊まりと決まっているせいか、ギクシャクしながら入ってきた山口は
鞄をどさっと降ろすと、居心地悪そうにテーブルの前にちょこんと座る。
寒かったろうとお茶を出し、差し向かいになると目が合って、山口の顔が真っ赤になった。
「ああ、と。今日はいい天気だなっ!」
秋の早い日がとっぷり暮れて、冷たい北風が吹き始めていると言うのに。
「そうだな。」
頓珍漢な話題になんて言っていいかわからなくて、そこで会話が止まる。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・腹、へってないか?」
「そ、そう言えばそうだな。夕飯、喰いにいくか。」
「いや、食料買ってあるから。」
「そっか。」
「作るよ。ちょっと待ってろ。」
「いや!いいっいいよっ!わた、私が作ってやるからおおおお前はすす座ってろっ////」
俺の前から立ち上がるいいきっかけだと思ったのだろう。
山口はすごい勢いで俺を制すとそそくさと台所へ行ってしまった。
「ふぅ・・・」
俺もなぜかちょっとほっとして思わずため息をついた。
緊張するな・・・
山口はしばらく台所でドタバタと音を立てていたが、
やがてハンバーグやサラダ、みそ汁などを作ってを運んできてくれた。
意外なことに、形などは少々悪いが山口が作る料理は結構旨い。
気分を変えようと点けたTVのバラエティ番組のおかげで
食事中は寛いだ空気が流れて、山口も俺もリラックスしてきた。
皿の上のものを綺麗に片付けると、山口がリンゴをむいてくれる。
しゃり・・・
山口の赤い口の中にリンゴが消えていく。
それが妙に色っぽくて、緊張で鳴りを潜めていた情欲がざわりと甦る。
「山口・・・」
呼ぶ声がかすれる。
側ににじり寄って肩を抱くと、山口はびくりと身体を固くした。
「沢田・・・あ、あの・・・」
焦った顔が可愛くて、もう夢中になって押し倒した。
「山口っ、山口っ!」
何度も呼びかけながら口付けを繰り返し、肩に胸に揉み込むように顔を押し付ける。
「沢っ、ま、待て////」
「待てねー。」
ぐいっと前をはだけて夢中になって素肌を弄った。
「あっ、ああっ。沢田、ちょっと、待っ・・・て・・・」
山口は必死に押しとどめようとするけど、止まらねーよ。
ずっと長い間、待たされてたんだ。
激情が奔流のように沸き上がって、俺を押し流す。
もどかしく山口の下着をずらし、本能のままに山口を蹂躙しようとした。
が、いざそのときになって俺ははじめて自分の身体が言うことを聞かないのに気が付いた。
頭にかーっと血が登って、体中ががんがんする位熱くなっているのに
肝心のところが使い物にならない。
なんてことだ。
固く眼を瞑って俺のなすがままになっていた山口が、訝しげな顔をして俺を見た。
「・・・? どうした、沢田・・・」
そして俺の身体の状態に気が付いたのだろう。
山口は傷ついたような顔をした。
「悪りぃ・・・」
バツが悪くて俯いたら、山口は違う意味に取ってしまったようだ。
「ごめん。私、なんかこう言うことって慣れなくてさ・・・
お前が、その・・・その気が失せちゃってもしょうがないよな。
至らなくって、ごめんな。やっぱやだよな、こんなおばさんじゃ・・・」
「違う!お前が悪いなんてことないから!
お前のこと、本気で抱きたいって思ってる!
ただ、ちょっと、緊張しすぎたみたいだ・・・」
「・・・・」
「悪りぃ。ほんと、俺情けねぇ・・・」
山口ははだけた服をそのままに、俺を胸に抱きしめてぽんぽんと頭を撫でてくれた。
俺は段々落ち着いてきて、それと同時に身体の熱もゆっくり引いてきた。
「はぁ。」
大きく息をはいて気合いを入れると、俺は山口の服を整えてやった。
「ごめんな。」
そう言うと、山口はううんとかぶりを振って、笑ってくれた。
「・・・・」
「・・・・」
「あー・・・もう寝るか。」
「そうだな。寝る前に風呂貰っていいか?」
「もちろん。用意してやるから入ってこいよ。」
「ああ、サンキュ。」
ふたりで交代に風呂を使い、パジャマに着替える。
「山口、ベッド使えよ。」
「ありがと。沢田はどうするんだ?」
「俺は床で寝るよ。布団あるし。」
「そっか・・・?一緒にベッド使ってもいいんじゃないか。」
「・・・いいのか?」
「当たり前だろ////」
「ん、じゃあそうするな。」
緊張してきっと眠れないと思っていたのに、明かりを消してベッドへ入ると、
いつもは感じるとことのない温もりがあって、
その居心地の良さに俺はゆったりとした気分になってきた。
山口も同じ気持ちなのだろう、側に横たわる身体は、柔らかく寛いで息も穏やかだ。
「なんか、安心する・・・」
「ん、そうだな。」
「・・・・」
「・・・・」
「な、腕枕してもいい?」
「え?してくれるってこと?////」
「ん、ほらここに来て。」
「えっと、こうか?痛くないか?」
「ん、大丈夫。そのまま俺の腕の中にいて。」
「////」
すり寄ってきてくれた山口の身体は、温かで柔らかで。
触り心地は懐かしささえ感じるほどに気持ちよく、肌に馴染んだ。
「・・・・」
「・・・・」
「落ち着くな・・・」
「うん、落ち着く。」
「・・・・」
「・・・・」
「なぁ・・・」
「なんだ?」
「本当に俺だけ?」
「何が?」
「お前にこんなことしたの、本当に俺だけ・・・か?」
昨日のあの男のことが気になって、俺は聞いてみた。
「ばーか、当たり前じゃないか////」
事もなげに言う山口に安心して、腕の中の身体を抱き寄せると
額にそっと唇を落とした。
「あ・・・」
艶っぽい声が漏れて、照れたのか山口が俺の胸にすり寄ってきた。
そのまま静かに唇を重ねる。
啄むようなキスを離すと、山口の腕がぎゅっと俺に巻き付いた。
「お前だけ、だから。」
「ん・・・」
「こんなこと、するのも。それから、さ、さっきみたいなこと許すのも////
お前だから、なんだからな。判れよ・・・////」
思いもかけない山口の言葉に俺は深く感動してた。
こんな嬉しい言葉を言ってくれるなんて。
思わず身を起こして、しっかり身体を重ねて抱きしめた。
「山口・・・大好きだ。大好きだから、お前に触れるんだ。」
そう言って、堪らずにもう一度口付ける。今度はさっきより深く・・・
「沢田。私も・・大好きだから・・・しい・・」
「え?」
「大好きだから、触れて欲しいよ・・・」
耳元で囁かれて、ぞくりとした。
「俺も、触れたい・・・」
気持ちのままに腕に力を込めると、山口の身体は柔らかくしなって
俺の胸にすっぽりと収まった。
先ほど、頭に血が上っていたときには感じなかった熱がふわりと沸き上がっていた。
「あ・・・////」
俺の身体の変化に気が付いた山口が声をあげる。
俺はあわてて腰を引いた。
「ごめん・・・嫌だよな。」
離れようとしたら、ぎゅっと襟を掴まれた。
「いい・・・」
「え?」
「このまま・・・いい・・よ・・・」
「ほんと?こんな俺、軽蔑しねぇ?」
「するわけないじゃないか。」
「ありがと・・・」
心からの感謝を口に上せて、俺は山口に覆いかぶさると首筋に口付けた。
山口・・・心から愛しい。
はじめて触れる山口の身体は、すごく刺激的で、すごく蠱惑的で、すごく綺麗だった。
どこもかしこも愛おしくて、自分のものに出来るのが嬉しくて仕方なかった。
熱い吐息も甘い嬌声も、痛みに歪めた眉も、みんな俺のものだ。
はじめて結ばれたこの夜のことを俺はきっと忘れないだろう。
俺の側に安心したように眠る山口の裸の肩に毛布をかけてやりながら、
俺はゆったりと安らいで、眠りに落ちていった。
おやすみ山口、素晴らしい贈り物をありがとう。
一生大切にするからな。