Step☆Up 〜1st daytime〜
(担当 響子)





「なぁ、じゃ…聞いたら教えてくれるわけ?
 その…昔のオトコの話、っての。」

部屋の中に響く自分の声は地を這うような低さで。
こんなマジになるのはガキっぽいと思いながらも、
メラメラ沸き起こる嫉妬の炎を消しとどめることが出来ない。

「うっ…///…い、いやぁ…オトコなんて言われると、
 なんか生々しいんだけど。」

「付き合ってたんだろ?」

「付き合ってた、って言っても高校ん時だぞ。
 それも、篠原先生に会う前の、ほんの2ヶ月位…」

「ふぅん…2ヵ月…篠原…」

益々低く剣呑さを帯びた声に、普段は鈍感な山口もさすがに
何かヤバイと思ったらしい。

「あ、あはっ///や、やっぱ1ヶ月ちょっとだったかな〜(汗)。」

「…で、その1ヶ月間、お前とソイツは…どんな関係だったわけ?」

「か、関係って…/////お、おい、なんかめちゃ怖いぞ、その目(汗)。」

「いいから、教えろよ。」

篠原への長年の片思い以外、恋愛経験なんか全くないと
勝手に思いこんでいた愛しい恋人に、
俺より前に触れたヤツがいるかも知れないなんて…
考えたこともなかっただけに、受けたショックは激しかった。
こうなったら、全部聞くまでは収まらねぇ。

「……どこまで行ったんだ?」

「えー?どこまで、って…。
 うーんとぉ…まだ高校生だったしなぁ。
 行った、つっても、せいぜいお互いの家か公園位かな?」

「テメェ…そりゃぁ天然か?それともワザとか?」

「はぁっ?
 なに怒ってんだよ、さっきからっ!!!」

俺の不機嫌は何となく察しながらも、
ヤキモチを焼かれてるなんて思いもしないようで、
理由が検討もつかないらしい山口が逆ギレし始めた。
でも、こればっかりは引くわけにゃいかねー。

「ソイツとは、どこまで進んだのか、つってんだよ!」

青い…青過ぎるぞ、俺(泣)。
なんでもうちょっと余裕のある聞き出し方が出来ねーんだ。
でも、普段はクールだの、無表情だのって言われてる俺が
こと山口のことに関する限り、ポーカーフェイスでなんて到底いられない。

「すすんだ、って……?」

俺の迫力に気圧されたように戸惑う山口に、
ぐいっと詰め寄った。

「だからっ!
 キスとか…それ以上のことをしたか、って聞いてんだよ!」

「キ、キスぅ?誰と誰が?!
 も、も、もしかして私のことかぁ?」

「だって…付き合ってたってことは…さ。
 今時の中坊でもキス位は当たり前だろ?」

「はぁーーーっ?!
 なんで私がアイツと、んなことしてなけりゃなんねーんだ!
 そっ、そんなの…///…お前相手が初めてだっつーのっ!!!」

一気に言った後、自分の叫んだ言葉に真っ赤になったアイツが
可愛すぎて。ヤバイ。
初めてだ、って告白が嬉しすぎて顔が緩んじまいそ。

そんな俺の前で仁王立ちになってた山口が次の瞬間、
急にハッと何かに気付いたように、ジト目で俺を睨め付けて来た。

「…なんだよ?」

さっきの山口の嬉しすぎる告白の余韻で、
ついつい口の端が上がりそうになるのを抑える為に、自然に顔が仏頂面になる。
出来るだけ顔も動かさないように意識したら、妙な横目遣いになっちまった。

「おっ、お前こそっ!
 付き合ったらキス位は当たり前、って、しゃあしゃあとぬかしやがったってこたぁ…
 前に会った女の子とかと…」



「…は?」



思いがけない反撃に、今度は俺が戸惑う番だった。

「ほ、ほらっ!
 狸腹会の襲名披露パーテェの会場の前で偶然会った時…
 お前女連れだったじゃねーか!!!」

あぁ…木下の彼女の紹介で無理やり会わされた子か…、
そんなの今の今まで忘れてたぞ。

「あん時、デートしてただろ!
 なかなか可愛い子だったし…2人っきりであんなとこ歩いてたってことは…。
 そうだったのか!!!」

「なんのことだ?」

「なんのこと、じゃねぇっ!
 お前こそ、キスどころか…それ以上のこと、やってんだるぉーが!!! 
 ふ、ふ、不潔だっ!!
 今だって、そんな色気たっぷりの流し目しやがって!!!
 高校ん時も、女になんか興味ありませーん、って顔しながら
 実は陰じゃ百戦錬磨の遊び人だったんだな!
 そりゃぁ薔薇色の楽しー毎日だったことだるぉーよ!!!」

上目遣いで一気に叫んで、ぷんぷん怒ってる山口。
なぁ、それって…間違いなくヤキモチ、だよな?…勘弁…可愛すぎ…。
思わず、後も先も考えず、ガバッと抱きしめちまった。

「う、うわーーーっ!なにをしゅるっ!!!///
 離せぇぇぇ!!!」

「いやだ。絶対離すもんか。」

「馬鹿馬鹿馬鹿ーーーっ! 
 軟派野郎!
 遊び人ーーーっ!!!
 真っ黒大魔神めぇーーーーっ!!
 離せーーーっ!!!……ひゃうっ!!///」

俺の腕の中でジタバタしてる山口の、真っ赤になってる耳をかぷっと齧ったら、
ビックリしたらしくぴたっと動きを止めた。

「ちょっと落ち着いて、よーくこの耳をかっぽじって聞けよ。
 この際、はっきりきっちり言っとくけどな。
 俺は…好きな女以外、指の一本だって触れたくもねぇ。
 どんだけ言い寄られて来たってその気になんかなるもんか。
 それになんだよ、その真っ黒大魔神って。
 俺は正真正銘…真っ白だよ。」

「…っ…なにを言っ…!…えっ、そ…そうなのか?///」

「当たり前じゃん。
 なぁ…俺もお前もファーストキスの相手がお互いだ、って
 めでたくわかったところで…そろそろそれ以上のことも経験してみていい頃じゃねぇ?」

「そ、そ、それ以上…って?」

「…こーいうコト♪」

ずっと触れたくって堪んなかったなだらかな二つの小山のうちの一つの先に
思いきってツン、と指をあてた瞬間



「ギャァーーーーッ!!!」



勢いと調子に乗ってつい油断しちまってた俺は、
一声雄たけび(?)をあげた山口の、渾身の一撃をくらって声もなく沈んだ。



続く

戻る<<