◆汐津町線追憶◆ 2005.06.19.
あれからどれくらいの年月が経ったろう?
僕は大学を出てちっぽけだけれど商社に入り、東京でごく普通に幸せな家庭を築いていった。
可愛い我が子に夢中になるあまり、いつしか旅した「海行き電車」の記憶は
徐々に希薄になっていったんだ。
やがて国鉄が消え「昭和」なんて年号もすっかり過去のものになった。
娘があの頃の僕と同じ年頃になり、同じように一人暮らしを始める。
妻と二人の日曜日、広くなってしまった我が家を模様替えがてら掃除していると、
何処からともなく角の取れたダンボール箱が見つかった。
参考書やトンボのメガネみたいなサングラス。箱を開けると、あの頃の煤けた「昭和」が蘇る。
赤茶く変色した写真を、妻がひょいと引っ張り出して
「へぇ、あなたもベルボトムなんて穿いたのね」と、僕の若き姿を指して揶揄した。
傍らには、かの「海行き電車」が憩う。
「学生時代なんて、みんな似たり寄ったりだろ?さすがにカーリーヘアにゃしなかったけどサ」
子育てもひと段落して暇だって持て余すほど。僕は写真を眺めている彼女に提案した。
「どうだい、たまには海でも見に行くか、」
きっと彼女も終着駅の岸壁で、はしだなんとかとクライマックスを口ずさむんだろうな?
そんな場面を想像したら、僕はうっかり笑ってしまった。
ちょっと遠い場所だけれど、来週の今頃、僕等は汐津町線の乗客になるだろう。