ある双子兄弟の異常な夜
SCENE1 前哨戦 

 兵舎の屋上で再会の感動にしばし浸った後、レイフはクリスターを連れて、1人暮らしを始めたばかりのアパートメントに向かった。
 兵舎を出たのだと言ったら、クリスターが羨ましそうな顔をして、早速見に行きたがったからだ。
「大体兵舎なんて、部屋に電話もついてないくらいだし、プライバシーも何もあったもんじゃない。オレ達みたいに甘やかされて育ったら、兵舎暮らしは結構きついよなぁ…将校宿舎なら、また話は違うんだろうけどさ」
 これも先日中古で手に入れたばかりの車の中、隣にクリスターがいると思うと幸せで、レイフはうきうきとよくしゃべった。
「だからさ、クリスターもさっさと兵舎なんか出てこいよ。そんで、早く一緒に暮らそ」
 レイフが住まうファイヤッテビル市のアパートメントまで、車で約15分。呼集がかかればすぐに基地に駆けつけられるだけが利点の古い安アパートメントだが、軍隊生活を始めたばかりの二等兵には、これが精一杯だ。
「まだ引越しの荷物も全部解いてなくて散らかってるけど、我慢してくれよ。まさか、今夜兄貴を連れて帰ることになるなんて、夢にも思ってなかったからさぁ。おまえも飯はもう食ったんだよな…冷蔵庫にジュースとか冷凍のピザとやスナックはあるから、再会の祝杯をあげようぜ」
 ちなみにオルソン兄弟はまだ19才なので、飲酒はご法度である。軍隊は、そういう点でも結構厳しかった。
「クリスターと2人でゆっくり過ごせるのって、ほんとに久しぶりだもんな。オレ、嬉しいよ…」
 その時、レイフははたと気がついた。
(そ、そうだ、今夜はクリスターとオレ、本当に2人きりなんだ。実家にいた頃は、めったになかったシチュエーションだよな…もちろん色んな事を語り明かして過ごすのもいいけど、でも…ずっと離れ離れになってて、やっと会えた、こ…恋人同士なら、やることは他もあるよ…なぁ…?)
 クリスターとは何しろ八カ月ぶりなのだ。先程までは再会の嬉しさが大きすぎて思いつかなかったが、最初の興奮がこうして落ち着いてくると、どうしても意識してしまう。
 誰にも妨げられることなく、クリスターと一緒に過ごすことにできる、初めての夜―。
(うわぁ…どうしよう…)
 脳天から股間までズガンと突き抜けていった衝撃に、ふっとレイフの気が遠くなりかけた、その時、隣の助手席でじっと黙り込んでいたクリスターが思い出したかのように言った。
「ああ、そうだ。レイフ、おまえの家に行く前に、どこかコンビニかドラッグストアに寄ってくれないか?」
「何か買い物あるのか? それなら、ちょっと引き返して基地のPXで買えばいいじゃん。その方が、安いし」
 軍人のみが利用できる基地の売店やスーパーは、市価より断然安くて、薄給の兵士の強い味方なのだ。
「いや…同僚や知り合いと顔を合わせそうな所はちょっとまずいかな。やっぱり、どこかのドラッグストアにしよう」
「?…別にいいけど…」
 クリスターの言葉にちょっと引っかかりを覚えたものの、深く追求することなく、レイフは、家に帰る途中にある、大きなドラッグストアにクリスターを連れていった。
「おっ買いもの〜お買いもの〜っと…」
 テンション急上昇中のレイフは、別に買い物するつもりはなかったのだが、いざ店に入るとクリスターのためにもう少しジュースやスナックを買い足した方がいいような気がして、カートの中に目に付いたジュースのボトルやお気に入りのチョコレート・バーやスナックの袋を放り込んでいった。
 部屋を借りたり中古車を買ったりと色々と物入りの今月は節約しなければいけないのだが、今夜くらい、大目に見よう。
「おーい、クリスター」
 レイフが、途中で見失ったクリスターの姿を探してカートを押しながら店の奥に入っていくと、ある商品棚の前で何やら物色中の兄の姿を見つけた。
「おまえ、何買うつもりなんだよ?」
「ああ、レイフ…丁度よかった。おまえ、どれがいいと思う?」
 そう言って、ごく自然に、さわやかに振り返りながら、クリスターがレイフの眼前につきだしたものは、一瞬普通のバス用品か化粧品と見間違いそうだが、何かが違う。
「えっと、これって…?」
 目をぱちくりさせながら、レイフは率直に聞き返した。
「何だ、知らないのか…? あまり機会がなかったから仕方ないかな…俗に言うラブローション、つまりは性交用の潤滑剤だね」
「えっ…え…?」
 レイフは、顎が外れそうなほどの勢いで口を開いて、クリスターの平然とした顔と、その手にある女の子が好みそうな可愛らしいデザインのボトルとを見比べた。
「そ…っ…どっ…な…に…??」
 そんなもの、一体何に使う気だよ。大体おまえ、オレと同じ年のくせに、いかにも経験豊富なその態度、どこでそんな修行積んできやがったんだ。
 たぶん、レイフは、そんなようなことを言いたかったのだろう。
 言葉にならないレイフの訴えに、しかし、クリスターは、例によって医者のような冷静な声で極めて明確に答えてくれた。
「今夜、おまえの部屋に泊まるなら、どうせ必要になるかと思ってさ。この間は切羽詰まって無茶なことをさせてしまったけど、何もなしじゃ、やっぱりおまえも辛かったろ…? これを使えば楽に性交できるだけじゃなく、色々楽しめて便利なんだよ」
「……」
「それで、僕はグレープフルーツなんか好きだけど、おまえはどのフレーバーが好みだい?」
 レイフは顔を俯け、蚊の鳴くような小さな声で答えた。
「…何でもいい」
 近くに他の客がいなくて幸いだった。なるほど、これでは基地のPXなどでは、買いにくかろう。
「ストロベリーなんかもあるよ? あ、チョコやメイプルシロップ味は? おまえ好きだろう?」
 レイフははからずも、喉に何かが詰まったようにげほっと咳こんでしまった。
「オレ…チョコレートは普通に食べるのがいい…」
「ああ、これ、食べられる材料で作ってあるんだよ。舐めて飲み込んでも大丈夫なものを選ぶから、心配しないでいいよ」
 舐めて…飲み込んで…。色々想像してしまったレイフは、楽しそうに棚にある各種ローションを物色しているクリスターの後ろで頭を抱え、声にならぬ声をあげながらじたばたした。
(ク、クールな顔しやがって、俺よりはるかにやる気満々じゃんか、このむっつり助平め!)
 今にも胸を突き破って飛び出してきそうな勢いでどくどくいっている心臓を押さえながら、レイフは、早くも負けてしまった感を噛みしめていた。
「無難にこんなところでいいかな」
「グレープフルーツとキウィ&ミントね…はぁ…クリスターの好み、覚えとくよ…」
 顔を赤らめ口の中でごにょごにょ言っているレイフには構わず、クリスターは、彼が力なくもたれかかっている大きなカートの中にボトルを放り込んだ。
「一緒に買っておいてくれ」
「って、オレが買うのかっ?!」
「レジに並ぶのは一緒だろ…何だよ、恥ずかしいのか?」
 可哀想なものを見るかのような目で見られたレイフは、むきになって言い返した。
「み、未貫通の処女じゃあるまいし、ラブローションやゴムを買うくらい、何が恥ずかしいものかっ!」
 レーンの近くを通りかかった親子連れがレイフの大声に思わず足を止め、怪訝そうに振り返る。
 双子兄弟はさりげなく親子連れから顔を背け、大きな体を寄せ合いながら、ひっそりと囁き合った。
「…いいから、それ以上何も言わず、普通に買いに行ってくれ」
「了解…」
 何とか買い物を終わらせて、再び車に乗り込み、レイフの自宅アパートメントへと出発した後、2人はほとんど無言だった。
 今夜のクリスターはもとからあまり多くを話さず、レイフが一方的に調子よく話し続けていたのが、今は妙に緊張して、言葉が出なくなってしまった。
(ううん…き、気まずい…)
 車内に漂う微妙に重苦しい空気を紛らわすために取りあえずカー・ラジオをつけ、後は運転に意識を集中しようとするレイフだったが、ともすれば隣にいるクリスターに視線が行ってしまう。
(髪を切ったせいかな、随分と雰囲気が変わったよ、こいつ…日焼けして、体つきも逞しくなってるし…何つーか、ぐんと男っぽくなった。そのくせ目元のひんやりと賢そうな所は昔のままでさ、このアンバランスな感じが、きっと女達にはたまらないんだろうなぁ…オレだって思うもの、すごくセクシーで色っぽいって…)
 ラジオから流れる曲を聴きながらリズムを取っているのだろう、膝の上をとんとんと指先で軽く叩いていたかと思うと、上げたその手を顎のあたりに添え、目を伏せてじっと物思いに耽っているクリスター。
 その薄く開いた唇を注視しながら、レイフは思わず喉を上下させた。
(畜生、キスしてぇ…)
 ここで襲いかかったりしたら事故を起こすぞとぐっと我慢したレイフだが、本当は今すぐにでもクリスターに触って、兵舎の屋上で交わしたキスの続きをしたかった。その隙なく着こまれた制服の下の体が、前とどんなふうに変わったのか、この手で確かめたい。その熱い肉の中に押し入って、痛いくらいきつく締めつけられたい。
(そうだよ、オレだって男なんだぜ…なのに、おまえは当然のようにオレをやるつもりでさ、ちょっとむかつくよ。そりゃ、おまえにされるのも悪くないどころかすげぇいいんだけど、毎回やられっぱなしになるのは男としてちょっと嫌かも…よし、何事も最初が肝心、今夜はオレが先手を取ってがつんと一発やってやるぞ)
 ドラッグストアの一件で萎えかけた気概を奮い起したレイフは、善は急げとばかり、アクセルを思い切り踏み込んだ。
 勢いで、隣の助手席でぼんやりしていたクリスターが座席に叩きつけられ、うわぁっと叫んだが、この際無視だ。
 制限速度をもしかしたら少し超えていたかもしれない猛スピードで車を走らせ、レイフはついに目的の自宅アパートメントに到着した。
「…無事に着いてよかったよ」
 車から降りながら幾分疲れたように呟くクリスターの声には、皮肉という名の小さな棘がある。
「ごめん、ごめん…つい気持ちが急いちゃってさ。クリスターと早く2人きりになりたかったんだ、オレ…分かるだろ?」
 レイフが照れ臭そうにしながらもストレートに言うと、クリスターは一瞬胸を突かれたように黙り込み、それでもう機嫌を直してくれたらしい、ドラッグストアで買い込んだ荷物を全部持って、部屋まで運んでくれた。
「さあさあ、中に入って、適当にくつろいでくれよ。引越しの荷物もまだ全部解いてないし、散らかってるけど…」
 レイフは、もしかして独り暮らしの部屋に初めて『彼女』を連れてくる男子の気分ってこんなのかなぁとどきどきしながら部屋のドアを開いて、クリスターを招き入れた。
「…本当だね」
 明かりをつけた途端、後ろでクリスターの小さな溜息が洩れる。
「あはは、そういや、今朝うっかり寝坊して、慌てて飛び出してきたからさぁ」
 兵舎暮らしの間は軍隊流の規律の厳しさが私生活にまで及んでいたし、同じ部屋を他人と共有していたこともあって、レイフといえども身の回りは常に整理整頓していたのだが、自由を得るとたちまち気が緩んでしまったようだ。
 改めて眺めてみると、こんな部屋に大切な人を招きたいとは誰も思わないくらいのひどい有様だ。
「あわわ、ごめんよ、取りあえず片づけるから、待ってて…!」
 この惨状を何とかしないことには、いくら愛があってもムードもテンションも上がらない。
 レイフは笑ってごまかしながら、床に落ちた上着やパジャマを手早く拾い上げ、リビングのテレビ前のソファを占拠している洗濯物の山を抱えて、取りあえず目につかないクローゼットの中に押し込んだ。
「レイフ、これは何だい…?」
 何かしら非難がましい、どんよりと低い声がしたのに慌てて後ろを振り返ると、クリスターが薄汚れた靴下を指先で嫌そうにつまみ上げていた。
「そ、それは…3日前に履いた靴下」
 レイフは脇の下に汗がにじむのを覚えながら、クリスターの手から汚れた靴下をひったくった。
「…昨日の夜洗濯した時、片方だけ見つからないからどこに行ったんだろうと思ってたんだ、ありがとうよっ」
 猫のように綺麗好きのクリスターは、嘆かわしげに首を振った。
「おまえ、そもそも1人暮らしには向かないんじゃないか…?」
「そ、そう思うなら、早くここに越してきて、おまえがオレを管理してくれればいいじゃん。どうせオレは、クリスターなしじゃ駄目なんだからっ」
 レイフがむっと膨れながら甘ったれた口調で文句を言うと、クリスターはまんざらでもなさそうな顔をした。
「ふふ、そうだねぇ…」
 レイフの言葉がツボだったのか、下向きになりかかっクリスターの機嫌は、危うい所で持ち直したようだ。
(よかった…初めはどうなることかと焦ったけど、ちょっとずつ、いい雰囲気になってきたぞ)
 何を言うにも、八ヵ月も会えなかった兄弟、いや恋人同士が初めて2人きりで過ごす記念すべき夜なのだ。多少の祖語には、目をつむろう。
「兄貴、これ、こないだ買ったばかりのパジャマだから、よかったら使えよ」
「ああ、ありがとう」
 夏場は下着だけで寝てしまうことも多いレイフだが、クリスターは暑かろうが寒かろうが寝る時はきちんとパジャマ派だ。まあ、今夜に限っては、クリスターといえどもパジャマはいらないかもしれないが…。
(シャワーを浴びた後のクリスターにバスローブ着せて、それをオレが脱がせたりしちゃったら、楽しそうだなぁ…そんなもの面倒くさくて普段は使わないけど、1枚くらい買っときゃよかった)
 しばらくジュースや軽食をつまみながらくつろいだ後、さりげなく―それとも見え見えだったろうか―クリスターに先にシャワーを勧め、いそいそと寝室の片づけをしながら、レイフはまた余計なことを考えていた。
(シーツは昨日換えたばっかだから大丈夫だよな…どうせ、後で洗わなきゃいけないだろうし…ウッ、げほっ…ええっと、買ったローションは取りあえずサイドテーブルの上に置いときゃいいかな…?)
 簡単な掃除が終わると、クリスターが戻ってくるまで手持ち無沙汰なので、レイフはベッドの端に腰かけて、ラブローションのボトルを興味津々引っくり返して眺めたり、蓋を開けてくんくん匂いをかいだりしてみた。
(オレはこっちの、キウィとミントの香りの方が好きかな―)
 どれ触感を確かめようと手の平に中身を出しかけた時、いきなりドアが開いて、バスタオルを腰に巻いたクリスターが入ってきた。
「レイフ、シャワー終わったよ…あれ…?」
 ローションのボトルを手に気まずそうに固まっている弟を見下ろしながら、クリスターはさすがにちょっと困ったように、指先で頬のあたりを引っ掻いた。
「ほ、ほんとに食べられるのかなって思って…!」
 冷や汗を吹きだしながら苦しい言い訳をするレイフを哀れと思ったのか、クリスターは優しく微笑んで、汗びっしょりの彼の手からボトルをそっと取り上げた。
「おまえも早くシャワーを浴びてこいよ。舐めておいしいかどうかは、後で一緒に試せばいい…そうだろ…?」
「う…うん…うんっ…!」
 シャワーを浴びる前からもう早のぼせた気分になりながら、レイフは転がるように寝室を飛び出し、バス・ルームに駆け込んだ。
(クリスター、クリスター、クリスター…畜生、愛してるぞーっ!!)
 レイフは、ボディソープを普段の倍量、体中で泡だてて、気合いをこめてごしごしと洗いまくった。特に、後で使う所は前も後ろも念入りに…今夜はがんがん攻めるつもりでいたことなど忘れるくらい、今の彼は浮足立っている。
「クリスター、お待たせ…」
 洗いすぎてひりひりする股間を気にしながら、バスタオル一枚で部屋に駆け戻ったレイフは、開いたドアの前ではっと息を飲んで立ちすくんだ。
「ああ、待ちくたびれたよ、レイフ…早くおいで」
 低く落とされたルーム・ライトが柔らかな陰影を描くベッドの中には、裸になったクリスターがいて、少し眠そうな顔をこちらに傾けながら、誘うようにこちらに手を伸ばしてくる。
「あ…う、うん…」
 意表を突かれ、頭の中が真っ白になってしまったレイフは素直に頷いて、ふらふらとベッドに近づいていった。
「わっ…」
 すかさずクリスターの手が伸びてきて、腰に巻いていたバスタオルをさっとはぎ取ってしまうと、怯む彼の腕を掴んで、ベッドの中に強引に引きずり込んでしまう。
(とにかく最初に相手をビビらせた方が勝ちっていうクリスターの戦略、えっちでも通用するんだ…)
 フットボールをやっていた時のクリスターの口癖をふと思い出して苦笑しながら、レイフはのしかかってきたしなやかで逞しい体に腕を巻き付けて、ぎゅっと抱きしめた。
「何、レイフ…?」
「いや、おまえから主導権を奪うには、オレ、まだまだ修行が足りないなぁって…」
「おやおや、おまえ、僕に勝てるつもりでいたわけかい…へえ、生意気に、僕をやりたいって?」
「何だよ、その言いぐさ…オレだって、その気になれば、いつだってクリスターをやれるんだぜ? 甘く見て油断してるとさ、襲っちまうぞ…?」
 クリスターは面白そうに片眉をはね上げて、レイフの顔をじっと覗き込みながら、腰に響くような艶のある低い声で囁いた。
「そういうことも、そのうちあるかもしれないね…でも、いいかい、今は、この僕がおまえをやるんだ」
 静かだが有無を言わさぬ口調で宣言されて、レイフは不満そうに鼻を鳴らしたものの、ぞわぞわとした変な感じが早くも腰にたまってきたのを覚えたので、ここはおとなしく負けてやることにした。
「ちぇっ…仕方ねぇな…」
 レイフが降参したのを見計らって、クリスターはその唇にちゅっとキスをした。
「何笑ってやがるんだよっ」
「だって、嬉しくて…おまえをこうして抱きしめられることが、僕にとって、何にも代えがたい幸せだから…」
 クリスターにしては珍しくもストレートな言葉にレイフは絶句し、強く心を揺り動かされて、じわりと涙ぐんだ。
「オ、オレもだよ、クリスター…おまえとこうしていられるだけで、もう…」
 言いかけた唇に、クリスターの唇が再び重ねられる。
 今度は、先程のキスよりもずっと深く激しい。
 唇を割って、かなりの熱を持った舌がレイフの舌に絡みつき、深く吸おうとする。その激しさに、クリスターがどれだけ寂しかったのか、この温もりにずっと飢えていたのか、レイフにも痛いほど分かった。
(大丈夫、二度と離れない…オレは死ぬまでおまえを離さないよ…)
 レイフは、クリスターの想いに応えるよう熱心に、彼の唇を吸い、その体に手を這わせ、2人の間で生じた熱を更にかき立てようとする。
 執拗に擦り合わせる濡れた唇の合間から洩れた吐息が重なり合い、ひとつに溶けていった。


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